6 フルーツは甘(あま)けりゃいいってもんじゃない
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顔をあげると、もう目の前にベビーたちや汽車のすがたはなかった。さえずりのようなベビーたちの声はずいぶん小さくなっていて、なんだか幻めいて聞こえる。
声の聞こえてくるほうに、けだるげに顔を向けると、黄緑にかがやく小高い丘につくられたトンネルの中に、ベビー電車が吸い込まれていくところだった。
ライムはとぼとぼと公園内の幅広い遊歩道を、うつむきかげんで歩きだした。
「へん、みんな、あんなにあまやかされて……、ろくなフルーツにならないぞっ」とぶつぶつ独り言をいう。
「フルーツは甘けりゃいいってもんじゃないんだ」
と語気も荒く続ける。
「おれっちみたいなすっぱいのが、フルーツのなかのフルーツってもんだぜっ!」
ついにはこぶしを握り締めて叫ぶように言う。
近くにいたひとたちは、おどろいて、あわてて顔をそむけたり、あからさまに大きく道をよけたりする。
そんな様子にきづいた様子もなく、ライムは、なかばやけくそみたいに大きく手をふりながら、大股で歩き続けた。
そのうち、前のほうから、軽やかで楽し気な音楽が聞こえてきた。立ち止まって耳をすます。音楽に身を浸したら少しは気分が変わるかもしれない。足をはやめて、音のするほうへ向かった。
なおも進んでいくと、前方からざわめきがきこえてきて、おおぜいの人が集まっているのがみえた。中央に大きな噴水がある広場だった。
ひとだかりが広場を囲んでいる。はしのほうでは、バイオリンやクラリネット、フルートなどを手にした西洋梨やマロンなどの楽団がテンポよく、かつ優雅な音楽を奏でている。
吹きあがる噴水の色は、うすい緑になったり、オレンジになったり、紫色になったりした。それにつれて、においもメロン、オレンジ、グレープ……と変わっていく。噴水のいきおいは音楽のトーンにあわせて、いきおいよく高くふきあがったり、おだやかになったりした。
「なんだ、なんだ? 」
ライムはさらに近づいていった。