6.甘すぎる最強王子様にどうしたら良いですか?
「エルガディア令嬢ようこそお越し下さいました。」
馬車を降りようとすると、すでにそこには1人の騎士様?がエスコートするために私に左手を差し出してくれた。
「私は王国魔法師団副団長を務めておりますユージス・バチスと申します。
本日はサーディン殿下より命を受けエルガディア令嬢をお迎えに参りました。」
馬車からエスコートしてもらいユージスと向き合った。
漆黒の黒髪に燃えるような赤い色味のグラデーションの髪色は、耳に隠れるか隠れないか程度に短くカットされていて、
ぱっちりとした二重に濃紺の瞳はより瞳の大きさを際立たせ、爽やかさと温かい陽だまりの様な雰囲気まで醸し出している好青年だ。
7年前に王国魔法師団の副団長に抜擢され、表になかなか現れない団長の伝令を行い団員をまとめ上げるエリート中のエリートである!
なんと27歳という若さで未だ独身だという。
背丈は180㎝は軽く超えているのではないだろうか。
向き合っている状態では顔を上げないとお顔を拝見することができない。
(侯爵としてだけでも優良物件なのに、とんでもないハイスペックで高嶺過ぎて皆様求婚できないのかしら?)
こんな素敵な方の上に立つ団長様や第1王子様は一体どんな方なのだろう・・・
きっと間違いなく覚醒者を従えることができるほどの強者に違いない。
ついうっかりユージスの顔をまじまじと見つめてしまっていたことに気づきさっと視線をそらし、気を取り直して挨拶するため私は背筋を伸ばした。
「まぁバチス侯爵様のご活躍は私いつも拝聴しておりますわ。私はルーシア・エルガディアと申します。
【覚醒者】様にエスコートいただけるだなんて大変光栄でございます。
どうぞよろしくお願いいいたしますわ。」
淑女らしく気品の笑みを浮かべてカーテシーを終え、スっと右手を差し出した。
ユージスは爽やかな微笑を返し、私の手を取って王宮内へとエスコートしてくれた。
一緒に王宮に訪れたお父様とお母様はどうやら王族への謁見の儀まで他のところで待機するようだ。
王宮内はすでにデビュタント・ボールに参加する純白のドレスに身を纏ったレディで楽し気な会話が聞こえてくるが、
私とユージスを見つけるとコソコソと会話をしながら皆不躾な視線でこちらの様子を伺っているようだ。
(まぁ!!婚約解消されてまだ1月もたっていないというのに・・今度はバチス侯爵様に色目でも使っていらっしゃるの?!!)
(【覚醒者】だからってバチス侯爵様に言い寄ったのではなくって?)
(エルガディア令嬢は婚約者に捨てられたから、バチス侯爵様が憐れんでお手を貸していらっしゃるだけですわ!!)
皆好き勝手言ってくれるものだと呆れつつも、卒業式も似たようなものだったので何事もないかのように私は案内されるまま歩みを進める。
しばらく歩みを進めると、ある客室の前に案内された。
「第1王子殿下。エルガディア令嬢をお連れいたしました。」
「入りなさい」
ドアをノックしてユージスが声をかけると、美しい少し低音の男性の声が返事を返した。
「失礼いたします。」
一声かけて入室すると、私は入ってすぐのドアの前で思わず硬直してしまった。
(天使?!!!・・・・天使様がいらっしゃるわ!!!」
入室しておくの来客用のソファから立ち上がって待っていたのは、ふわっとした白髪の人間とは思えない美しい青年だった。
あまりの美しさに絶句どころか体まで固まってしまい身動きできない。
(人ってあんまりにも驚くと思考が停止してしまうのかしら!)
ハッと我に返るも神々しすぎて歩みを進められず立ちすくんでしまった。
「どうしたのかな?さぁ。こちらへどうぞ。」
第1王子殿下は私をこちらに来るようお声がけ下さった。
(動くのよ私の身体!!殿下をお待たせすることなんて出来ないわっっ!!)
「・・恐れ入りますわ」
動揺で硬直する体を心で奮い立たせ冷静を装おうと、
少々上ずる声音でなんとか微笑みを作り挨拶できる位置までたどり着いた。
近くで拝見する第1王子殿下は、
ユージスと同じくらいの背丈なのに、
美しい白髪と美しく長い白いまつげで儚い美しさを感じる。
それなのに輝くような金色の宝石のような瞳、
ずっと通った鼻筋、ほんのり赤みを感じる薄い唇は、
まさに天使の様なご尊顔である。
そして美しい少し低音のお声も、何故か少し
懐かしさを感じる温かさを感じてしまい、
天国に召されるのではないかとさえ錯覚しそうである。
あまりの神々しさに第1王子殿下のお顔を凝視していた私は、
また我に返ると再度姿勢を整えた。
「サーディーン・メルリド第一王子殿下に拝謁する機会をいただき、大変光栄でございます。
私はルーシア・エルガディオと申します。以後お見知りおきを。」
このご尊顔を前に無事にカーテシーをやり遂げたわ!!完璧ね!!)
達成感でいっぱいの私は心の中で何度も両手を挙げて自分を褒め讃えた。
「そんなにかしこまらないで。さぁ頭を上げて?
こんなに美しいルーの姿を見ることができる日がくるなんて、
俺は本当に嬉しくて堪らないよ」
(????!)
(ルーですって?!私を知っているの?!どうゆうこと?!)
思わずがばっと不躾に頭を上げると、まじまじとまた彼を見つめてしまう。
(誰なの???こんな美青年に会っているなら絶対!絶対忘れるはずないわ!!でも・・・でも・・・なんでだろう・・)
「あの・・・殿下・・お尋ねしたいことがあるのですが・・・よろしいでしょうか。」
「どうぞ?」
恐る恐る第1王子殿下を見上げると、彼は微笑んで応えた。
(!!!!!)
(知っている・・・・私はこの方の微笑みを知っているわ・・・)
「ディーンお兄ちゃん・・・ですか?」
尋ねた瞬間目の前が暗くなった。
美しい白のテールコートは金の刺繍の装飾が第一王子殿下の魅力を最大に引き出しているのだが・・
その胸元に私は突然抱きしめられたのだ。
時が止まったかの様な錯覚を覚えるほど、私は身じろぎできずに抱きしめられるがままである。
「きっと・・・きっと気づいてくれると思っていたよ。
でもこんなにうれしい気持ちになるなんて・・・
あぁ・・・ルー最高だよ・・大好きだ!!愛してる」
私が固まっている間も第1王子殿下は気にも留めず、
ぎゅうぎゅうと私を抱きしめながら愛を囁く。
「ほ・・・本当にディーンお兄ちゃんだったのですか?!し・・信じられない・・」
確かにあの微笑を見てディーンお兄ちゃんだ!と感じた。
でも彼は髪の毛は茶色かったし、前髪も長くて瞳の色も見えなかった。
声は確かに懐かしく感じたけど・・外見が・・・
この外見の美しさをどうやってあそこまで隠せたのだろうか。
(一体どうやってその美しい外見を隠していたの?!)
(なんで王子様だったの?!)
(なんでここにいるの?!)
(なんで?だんで????)
聞きたいことは沢山あるはずなのに、驚きすぎて(何で?)しか思い浮かばない。
「ルーごめんね。俺に聞きたいこといっぱいあるよね。
・・でも今はあまり時間がないんだよね。
もうすぐ謁見の儀もあるし、その後も・・・ね。
まずは座って話さないか。」
ぎゅっと抱きしめていた体を、ディーンお兄ちゃんはゆっくりと体を離した。
私の右手をそっと掴んで引き寄せると、
エスコートして私をソファに腰掛けさせて、
その横に一緒に座ると彼は話を始めた。
「湖で再開した後、何度も会いに行きたいと思ったのだよ。
話したいことが沢山あったからね・・
でも俺の立場を周りに知らしめないとならなかったし、
王命も使わせたからね。
エスコート権をもぎ取るためにかなり奮闘したんだよ?
本当はアシュに会いに行けない伝言だけでも頼もうかと思ったけど・・・
アシュのことはちゃんと俺の口から伝えていなかったから頼まなかった。」
(知らしめる?王命を使わせる??)
不穏な言葉に少し身構えつつもこちらも黙ってはいられない。
「エスコート権?!アシュ?!どうゆうことですか?!何からお伺いしたらよろしいのでしょうか」
「やだな・・・かしこまられると悲しくなってしまうよ・・
でもそうだね・・・最初から話すとかなり長くなってしまいそうなんだ。
もう時間も残されていないしね。
だからこれだけは伝えたかったんだ。」
私の両手をきゅっと優しく両手で包み込み、私の瞳を見つめながら彼は話を続ける。
「再開したあの日、君に求婚した言葉も思いも
全て俺の気持ちなんだ。
決して偽りはないと断言できる。
今から驚かせるようなことが起こるけれど・・・
俺に寄り添って一緒にいてくれないだろうか。
ルーが受け入れてくれるなら絶対に絶対に離さない。
他の誰にも奪われたくないんだ。
エスコートできる権利を奪い合いになることがわかっていたから
王命を使わせてだって俺が勝ち取ったんだ。」
ディーンお兄ちゃんの表情はとても真剣で、
きっと会えなかった数週間の間で様々な問題に
向き合ってくれていたのだろうと察することができる。
「ディーンお兄ちゃん・・私も・・
私もお兄ちゃんと一緒にいたい。
本当は今日だって・・王子様が・・
ディーンお兄ちゃんだと思わなかったから逃げ出したかった・・・
でも・・・王命だって・・・
だから・・・ディーンお兄ちゃんごめんねって・・
うぅ・・」
「っ!!ルー泣かないでっ。苦しませてごめんよ・・・
俺がちゃんと自分の正体を伝えていれば、
こんなに苦しめずに済んだのに・・
本当にごめん・・
王命を使ってでも絶対にルーをエスコートしたかったんだ。」
私の涙に慌てたディーンお兄ちゃんは、
焦ってまたぎゅーっと抱きしめてから私の額に口づけを落とした。
「落ち着いたらちゃんと全部話すからね。
そうしたらもう何も隠し事はしないよ。」
優しく甘い声音で抱きしめられて幸せな気持ちでいっぱいになった。
「ネックレスとイヤリング・・・ちゃんと身に着けてきてくれたんだね♡」
あの王命の手紙が届いたとき時間差で届いたネックレスとイヤリング。
シンプルな装飾ではあるが、いくつもの透き通る美しい宝石に囲まれた金色にも見える黄色の美しいトップの宝石は、
彼の瞳の色と同じに見える。
当日身に着けてきてほしいとメッセージが添えられていたから私は身に着けてきたのだが、
彼が私のためだけに用意したのだろうということが伝わってくる。
ディーンお兄ちゃんは、うっとりした声音で抱きしめながらイヤリングにもそっと口づけた。
口付けられたのはイヤリングなのに、
耳にかかる彼の吐息と甘い声音に私の胸の鼓動は
どっくんどっくんと聞いたこともないような音を立てる。
自分の胸の音がしっかりと感じて恥ずかしくて堪らない。
「ディーンお兄ちゃん・・・あ・・甘すぎて・・
私死んでしまいそう・・です・・」
溜まらず息も絶え絶えにそう告げる。
(再会してからのディーンお兄ちゃんの愛情表現が甘すぎてつらいっ!!悶え死ぬょ!!)
「死なないで?・・・困ったな・・・
もっと甘やかして大切にしたいのに」
彼はクスクスと笑いながらも甘い言葉は止まらない。
(・・・あ・・・ダメですわ・・・
これは私の命がいくつあっても足りない・・
デビュタントが終わるまで私は生きていられるのかしら・・・)
「そろそろ時間だろうからまた後で・・・ね♡
待っているよ」
真剣に悩み始めた頃、名残惜しそうに抱きしめていた身体から離れると
すっと立ち上がり私の左手を優しく掴んで引き寄せてくれた。
ディーンお兄ちゃんはチュッと口づけを落とし、
ユージスに私のエスコートを任せて送り出された。