5.絶対にもう諦めない【サーディンside】
『ディーン!!!聞いて!!!直ぐ聞いて!今聞いてぇぇぇぇっ!』
突然大きな声が背後から聞こえてきた。
「・・・お前たちすまない。急用が入った。話はまた後でしよう。また連絡を入れる。」
そう突然話を切り上げると、いつものことのように部下たちは何も言わず、一礼して部屋を退出した。
(この声はアシュか?)
俺は心で問いかける。
『そうだよ♪アシュだよ!久しぶりだね!元気してた?』
(挨拶は良い。いきなりどうした?ルーに何かあったのか?)
姿は見えないが、俺の周りから聞こえてくる声は【妖精】で間違いない。
俺はメルリド王国に第1王子として生を受けた。
誰もが喜ぶ嫡子である俺を、周りは手放しでは喜ぶことはできなかった。
生まれたばかりの赤ん坊だった俺は、真っ白な頭髪をしていたからだ。
白髪で生まれる国民はだれ1人としていない。
唯一いるとするならば、王家から生まれた全妖精の祝福をうけた愛し子のみだ。
文献には全妖精の愛し子ではなく【全覚醒者】と記されているらしい。
それはとんでもない事だったらしい。
【全覚醒者】とは、全ての属性を使いこなすことができ、魔力に愛されている証なのだから。
私が特殊魔法を行使すれば王国全てを覆いつくす特殊魔法壁を展開することができる。
王国1つ消すことだって特殊魔法で簡単だろう。
妖精は魔力が多いものを愛する。
全精霊に愛される覚醒者は当たり前だが研ぎ澄まされた膨大な魔力を有しているのだ。
だからこそできる特殊魔法なのだ。
それ故に、白髪の王子は次代の王と確約されるほど誰もが認めざる負えない存在だった。
しかし、そううまくはいかないのだ。
必ず妬む者は存在する。人間とは本当に汚い。
父上はそのことがわかっていた。
だからこそ公にせず、すぐに私を最強の護衛で守らせた。
万が一私が暴走すればこの国すら危ういのだから。
王宮の外れにある小さな要塞の様な屋敷で、母上と引き離されて乳母と次女たちと、護衛たちに守られ暮らしていた。
昔から王家に白髪の王子が生まれた時の為に作られていたのだ。
最初は問題なかったが、長くは続かなかった。
俺が5歳の頃、母上が第2王子を出産したらしい。
弟の名前はクリシス・メルリド。
母上は俺を大切にしてくれていると思っていた。
生まれてからすぐ母上とは引き離されてしまったが、きっと変わらず大切に思ってくれていると乳母は教えてくれていたから。
でもそんなことはなかった。
母上はどうやらずっとそばにいてすくすく育つクリシスの方がかわいくなってしまったのだろう。
ありえないことに母が・・俺に暗殺者を差し向けてきたのだ。
俺の周りにいる妖精たちは屋敷で過ごす俺に様々な情報を与えてくれた。
母上がクリシスだけが我が子なのだと周りに話していたことも・・
クリシスこそが次代の王に相応しい!と側近に話していたことも・・
母上が暗殺者を使って俺を殺そうとしたことも・・・
全て知っている。
俺のこの能力は確かに優れた魔力とそのスキルにあるのだと思う。
だがそれだけではない。
恐らくこれは覚醒者についての文献には知らされていないことだが、
覚醒者だけが【妖精】の声を聞くことができ、意思疎通が可能となる。
属性者はその属性の妖精と会話ができるようになるが、俺は全ての属性の妖精と意思疎通ができるのだ。
俺には・・・
他のものが知ることができない情報であっても、国中にいる妖精たちの情報網のおかげで網羅できている。
妖精を通して【覚醒者】と俺は連絡を取り合うことも可能だ。
しかしこのことは【覚醒者】以外誰も知らない。
知ることはないのだ。
【妖精は覚醒者を愛する】
だから覚醒者が危険にさらされないように、自分たちの情報や、特殊魔法の詳細は隠すように覚醒者たち覚醒後すぐに教え込むのだという。
おかげで何も知らない悪意を持った連中は、次から次に暗殺者を俺の元に送り込んでくるわけだ。
俺にとって暗殺者は何人やってこようが敵じゃない。
だが俺は考えが甘かった。
昔から俺の使用人たちは真面目に仕事をしてくれていたし、俺も懐いていたから疑うことをしていなかった。
いや。疑いたくなかったというのが正しい。
毎日昼夜問わず暗殺者に狙われれば人が信じられなくだってなる。
最後の心の砦のようなものだった。
だが俺には気づけないとんでもないことを謀られた。
妖精たちも気づけないような微弱な魔力抑制剤を、毎日毎日俺に盛っていた使用人がいたのだ。
そして暗殺者に襲われた際、その暗殺者はその魔力抑制剤の効果を急激にあげる水魔法をかけてきた。
その時の俺はまだ剣技をそこまで真剣に学んでいなかったので魔力に頼り切っていた。
そこをつかれてしまい、気づけば暗殺者に囲まれ深傷を負ってしまった。
妖精たちの機転のおかげで、なんとか移動魔法を使いルウェラ湖には辿り着けたが、魔力もほとんど失い俺は意識を手放した。
ーーーー
「ーーーーちゃん大丈夫かなぁ?ーーしないとーーで」
「・・・?・・・ここは?」
(どのくらい気を失っていたんだろう?)
(もう昼頃なのだろうか?)
昨日の夜から暗殺者と死闘を繰り広げ、深傷を負ってルウェラ湖には朝方に確かたどり着いたはずだが、森林の中なのに汗が滲むような暑さも感じる…
瞼をそっと開けると目の前には大きな大きな瞳と目が合った。
「えっ?!君誰?!」
顔が目の前にあるので飛び起きるわけにもいかず、声だけで大きな瞳の少女に牽制した。
「よかったー!助かって良かったね!お兄ちゃん!」
「そうだっ!!俺は確か深手を負って・・何故体が軽いんだ?!」
少女の言葉に俺は自分の状況を思い出し体中の傷を確認しようとした。
『ルー良かったね!もう大丈夫みたいよ!』
(?!!)
「そうなんだね!よかったー!」
(どうゆうことだ?!アシュの声がこの少女には聞こえているのか?!)
アシュに問いただしたかったが敵か味方かもわからない。
味方だと思っている者たちからの裏切りを受けたばかりの俺は、この善良そうな少女に手放しで自分が【覚醒者】だということは知られるわけにはいかないと思った。
静かに少女を観察すると彼女の頭髪は、淡いピンクと空色の様なグラデーションの美しい髪の毛をなびかせていた。
恐らく【覚醒者】で間違いないだろうと確信はしたが、手放しでは喜べない。
【覚醒者】は俺のように汚い人間たちによって狙われて義認暗鬼になっている可能性が高いからだ。
妖精と意思疎通ができると打ち明けたとしても背中を預けるに値するほどの味方になってくれるかもわからないのだ。
アシュはそれを察してなのか、俺の心の声には話しかけてこない。
(アシュ俺のことを考えてくれているのであればまだこの少女には俺のことは伝えないでくれ。返事は不要だ)
やはり俺の心の声にアシュは返事を返さないのでわかってくれたのだろう。
(さすがに昨日の今日だからな・・)
「君が俺を助けてくれたのかい?」
俺はにっこりと微笑を浮かべて少女に話しかけてみた。
「うん。そうみたいなの!本当に助かってよかったね!お兄ちゃん!」
にっこりと天使のような愛らしい笑顔で少女は返事を返してくれた。
(なんて癒されるんだろう・・・・)
「・・っえ?!!」
思わず自分の気持ちに驚いた俺は、ハッと右手で口元に抑えた。
(俺はたった一瞬でこの少女に気持ちを絆されたのか?!)
衝撃が強く思わず体が硬直してしまったが、俺は【この少女を知りたい】そう感じた。
俺は初めて人に興味を持った瞬間だった。
「俺はディーン!ディーンと呼んでくれないかな?君のことはなんて呼んだら良いかな?」
「ディーンお兄ちゃんよろしくね!私はルーシア!ルーシア・エルガディオだよ!ルーってみんな呼んでるよ♪」
「ルーよろしくね♪俺と遊んでくれる?」
「うんっ!遊ぼうっ♪」
俺にすぐに懐いてくれるかわいい少女。
彼女は水の妖精のアシュに愛されているのだから水魔法使いなのだろう。だから俺を救うことができた。
(命の恩人だな・・・)
それからのルーとの毎日はあっとゆう間だった。
1週間もなかったが、毎日湖で待ち合わせて朝から遊んだ。
バスケットに料理を用意してもらってきたらしくいつも木陰で食事もとった。
野生動物・・・うさぎだったかな?と追いかけっこをしようと言い出した時はルーがこっそり強化魔法まで使うからついつい本気で俺も魔法を使って相手をしてしまった。
(悔しそうに唇を尖らせたルーかわいかったな・・)
5歳年は離れているようだが、俺も少年のように遊んでしまった。
同じ【覚醒者】だからこそ気兼ねなく力を使うことができえる。
人を殺すことじゃなく、楽しむために使う魔力はなんて心地よいのだろうか・・
(離れがたいな・・・)
俺はあっとゆう間にルーの魅力に囚われてしまっていた。
「ルー。ルーが成人したら俺のお嫁さんになってくれない?」
「うんっ!ルーはディーンお兄ちゃんのお嫁さんだね!」
にこにこ微笑むルーがかわいい!!
でも・・・まだ10歳の少女に俺は衝動に任せて求婚してしまったのだ。
あの瞬間は本当に幸せだった。
母上に殺されそうになったことも、味方だと思っていた使用人に毒を盛られたことも、何もかも忘れて手放しで喜べるほどに嬉しかったから気づいていなかった。
出遅れていたことに・・・
また明日会えると思っていた。
でも翌日湖にルーの姿はなかった・・・俺の元にアシュが来てくれるまでずっと待っていた。
『ディーン・・・ルーは婚約者が決まってしまうかもしれない・・
ルーのパパが言ってたの・・ルーを守るために婚約者決めないとって!!
覚醒した日にパパがもうどこかに相談しに行ったから相手は決まっているかもしれない・・」
「なんだと?!なぜもっと早く教えてくれなかったんだ!!」
アシュの言葉に体の芯から冷たくなり、目の前が暗くなり気を失いかけた自分を奮い立たせる
『ごめんね・・・まさかこんなすぐい大事になると思わなかったんだよ・・』
申し訳なさそうな声が聞こえてくる。
(アシュに八つ当たりなんて俺は馬鹿だな・・・・)
『ディーン・・・・』
「・・・アシュ・・俺が今から動いたとしてもきっと間に合わない・・
恐らくルーが領地に戻ったら、すぐに婚約は決まるのだろう。
俺が父上に話しをしに行ったとしても、今俺の状況はまだ悪すぎて、婚約者の座を勝ち取ること
は難しい・・・
だから俺は影からルーを見守るよ・・あの子が幸せになれるなら・・・・
俺は身を引いても・・・・構わないんだ・・・・」
強気に言いたかったのに声を振り絞るのが精いっぱいで・・言葉にできた俺は・・・頑張ったと思う。
たった1週間のひと時が、俺にとっては人生最高なひと時だった・・
(生まれて初めて感じたんだ・・・幸せだって・・笑顔になれたんだ・・)
『ディーン・・・』
(本当は身を引きたくない・・ルーをさらって今すぐ二人で違う国に逃げてしまいたい・・
でもそこに幸せはあるのか?
今まで家族に愛されて周りに大切にされてきたから、ルーの笑顔は輝いていたんだ。
あの天使のような笑顔が俺のせいで陰ることになったら・・・俺は俺自身を許せない!!)
「アシュ・・・俺は例えルーと一緒になれなくてもルーを見守りたい。
何かあれば助けになりたい。
だから何かあったらすぐ俺に報告してほしい・・・頼めるか?アシュ」
俺は見えないアシュに向かって声に出して切実に頼み込んだ
『・・・わかったよディーン。あなたのあの子を想ってくれる気持ちが嬉しい。
任せて。何かあったら必ず報告に行くからね!!』
『-----ン!!ディーン!!!聞いてー!!!
過去振り返ってる場合じゃないんだってばー!!』
「っ!・・す・・すまない」
『いきなり過去に意識飛んじゃうんだから勘弁してよ!!
今はそれどころじゃないんだよー!!』
俺の心を見透かすアシュに慌てて思わず声に出して謝罪してしまった
(そんなに慌てるほどの何かがあったのか?)
『そうだよ!!今日あの子の卒業式前の婚約者とのお茶会があったんだけど、
その場にはあの子のお姉ちゃんまでいてさ!
二人に子供ができたから婚約解消してくれってさっき言われたところなんだよ!!!』
「なんだって?!!ルーは?!ルーは大丈夫なのか??!」
『全然大丈夫じゃないよ・・・好きだったわけじゃないみたいだけど・・
二人に裏切られたっていう気持ちがね・・・かなり強いみたいなんだよ・・・
言葉にしなくても、心の中がめちゃくちゃなくらい荒れまくってる・・
あんまりにも心配だったから、湖に行くように勧めたのよ。
あの場所なら愛し子たちにとっては普通の人間より癒しの効果を多く受け取ることができるからさ・・』
「そうだな・・確かに湖ならルーの気持ちにわずかばかりでも支えになるだろう。
よし!今ルーは湖にいるんだな?湖についてからどのくらいたつかわかるか?」
『え?・・・・・どうだろう??・・・・2時間は立ってないとは思うんだけど・・・
心配でなかなか離れられなくってさ』
(・・・もう陽もかなり沈みかけてきている・・
早くしなければタウンハウスに戻ってしまうかもしれない・・)
「ユージスにだけ連絡したらすぐ向かう!!
万が一にも俺が着くまでに戻らないよう最悪引き留めておいてくれ!!」
『了解!先に行ってるね!』
(・・・俺も急ごう・・)
近くにいた火の精霊ロイを呼び出し伝令を伝えた。
俺はあの悪夢のようなルーとの別れから、人を信じなくなった。
側近であろうと使用人だろうと関係ない。
ルーを守れるように剣技を極め、翌年には魔法剣を極め隠れることをやめることにした。。
父上には実力を認めさせて、外出時の髪型と瞳の色で【ディーン】として王国魔法師団長になった。
このことを知るのは俺と父上とユージスだけなはずだ。
ユージス・バチス侯爵は王国唯一の火の【覚醒者】であり、
俺が魔法師団長に就任し後で副師団長に任命した。
俺を最初は疑っていたが、実力と【覚醒者】の威厳でユージスの信頼を勝ち得た。
今では俺の右腕だ。
火の妖精を通じて連絡も取りあえるので、基本部下への指示は全てユージスに任せている。
(万が一に俺を裏切るようなことがあっても俺はもう油断しない。
返り討ちにするだけだ)
(もし本当にルーが婚約解消されるのなら・・・今の俺なら・・・婚約者になれる!)
(俺は絶対に・・・もう諦めない!!!)
ほの暗い炎を纏い俺は覚悟を決めて移動魔法で湖に向かった。