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ブレイゾーブ   作者: なうかん
第一章 冒険者
8/16

8 隠蔽

 ウィルとユースがルバイ村に向かっているころ、例の死体がギルドの横にある小屋に運び込まれた。

 運んできた冒険者達がギルドに報酬を受け取りに行き、小屋にはギルド支部長グンニと副ギルド支部長レクソン、そして死体となったレンツだけが残った。


「レクソン、どう思う」

「首や顔を何度も強く引っ掻いていますね。あの槍使いが拾った冒険者章はこの時落としたものでしょうか。………でもこの程度で死ぬわけがありません。それに冒険者票が見つかった場所と死体が見つかった場所には少し距離があります。これが死因ではないでしょう。食糧も共に見つかってるので餓死でもありません。毒物を食した可能性もありますが、食糧が残ってるのにわざわざそんな危険を犯すとも思えません」

「うーむ……」


 その死体には首の引っ掻き傷以外目立った外傷はなかった。今のところ行方不明事件の手がかりはこの死体だけである、ルインズのギルド支部としてはなんとしてもこのレンツの死体から情報を手に入れなければならなかった。


「とりあえず解剖してみるか」

「はい」

 

「グンニさんちょっと見てください」

「どうした」

「胃の中が空っぽです。餓死、でしょうか」

「なぜ持ってた食い物を食っとらんのだ」

「うわっ、なんだこれ。腸には何か詰まってます。透明で……動いてます!」

「なにっ!?」


 突然、その透明なものがレンツの体から飛び出し、床に落ちた。


「なんだこれは、六十年近く生きてるがこんなのは初めて見るぞ」

「私も初めて見ました。レンツが顔とか首を掻いていたのはこれが顔に張り付いて、口から侵入したからでしょうか?」

「ふむ、そうかもしれんな」

「そうだとすると、なぜ冒険者票が落ちていた場所とレンツが見つかった場所が離れていたんでしょうか。襲われてすぐ死んだ訳ではない?」

「うーむ……おそらくこいつが体内に入った後もしばらくレンツは生きていたんだ。あいつは責任感の強い冒険者だったからな。未知の生物を腹に宿したまま街には帰れないと思ったのかもしれん。排泄するか吐き出すまでは森で過ごすつもりだったのではないかな」


  二人はこの未知の生命体が床でゆっくりと動いているのを見ながら話した。


「こいつはさっきからモゾモゾしてどこに行こうとしてるんだ」

「はっ!!  もしや排水口!」

「いかん! レクソン、斬れ!」

 レクソンは元冒険者で凄腕の剣士である。グンニの指示が小屋に響いた瞬間、透明な生物は真っ二つになっていた。

 しかしその生き物は二つになってなお排水口目指して這い進んだ。

「〈火球(ファイアボール)〉!」

グンニの放った〈火球〉が二つのうちの一つを焼いたが、もう一つは排水口にたどり着きグレーチングの網をすり抜けて下水道に落ちていった。

「まずいことになった」

「下水道でネズミなんかに食われて死んだり、は、ないですかね」

「レンツの腹の中にいた奴だぞ。食われてもどうにもならんだろう。このままでは……………」

「………あの生物を見たのは私たちだけです」

「なに?」

「もし、あれがギルドの小屋から流出したとバレれば我々の首が飛びます………。しかし、この部屋には私たちしかいません、黙っていれば………」

「そうか………いや、しかし………うーん……分かった。そうしよう。もう一匹はどうなってる」

「グンニさんの魔法が当たったやつは液体状になってますよ。おそらく死んでいます」

「よし、その液体は排水口に流そう。……火は効くんだな」

「私の剣は効いていませんでしたね」

「ああ、切っても死なない生物か………戦う奴によっては厄介な相手だな。小屋の排水口には蓋をしておこう」

「レンツの死因はどうしますか」

「腹には何も入ってなかった、餓死だ。催眠にかかったか幻覚を見せられたかで携行してた食糧も食えなかかった。そういうことにする」

「分かりました」



――――――――



 "愛の槍"は毎日貢献度の高い依頼をこなした。おかげで二人ともあと少しで銅級に上がるための試験が受けられそうなところまで来ていた。


「なぁウィル、知ってるか?最近街で不審死が増えてるらしいぜ。傷とかが一切無いらしい」

「マジか!じゃあなんで死んだんだ」

「それが分からないから不審死なんだよ」

「ふーん、怖いな」


そんな話をしながら依頼のあった場所まで行って貢献度を稼いだ。


 

 ある日、下水道から透明の新生物が発見され、今までの不審死がこの生物のせいだと分かってルインズ中がパニックに陥った。謎の生物はスライムと名付けられ、ギルドは緊急でスライムの研究を進めた。


 それから数日が経ってギルドの掲示板に三日後に下水道で行われるスライムの大規模討伐の告知が貼られた。"愛の槍"はこれに参加することに決め、受付でマイアにそれを伝えると明日スライムの講習会が行われるのでそれに参加するようにと言われた。

 講習会で言われたのは、スライムには斬撃は効かず、魔法も火属性以外はまるで効果が無いということ、そして触れられるほど近くで魔法を行使すると魔力を吸われて魔法が発動しないということであった。


 ウィルとユースは下水道に入るために松明と分厚い布のマスクを用意した。


 大規模討伐の日になり、ウィルは槍も刀も宿に置いて腰にはナイフだけをぶら下げてギルドまで行った。

 参加する冒険者のほとんどが同じようなスタイルだったが松明を持ってる冒険者は少なかった。

 討伐の指揮は【銀 Ⅱ 】の冒険者ゴルテスが執ることになった。ゴルテスはルインズのクラン"天馬の翼(ペガサスウィング)"所属のパーティ"竜の剣(ドラゴンソード)"のリーダーである。"竜の剣"メンバーも参加しているようだ。


 下水道の入り口で騎士団と合流した。今回の討伐は騎士団とも協力して行うらしい。

ウィルがバスタを探していると向こうが先に見つけたようでこちらにやってきた。


「よおバスタ、久しぶり」

「久しぶりだな、ウィル。お前も参加するんだな」

「ああ、貢献度がかなりデカくてね」

「ふーん、俺たちはそんなの無いんだけどなあ」

「騎士団は大変か?」

「まあ、大変だけど楽しいぜ」

「そうか、それは良かった。あっそうだ、こいつはユース、俺のパーティのリーダーだ」

「バスタ君、でしたよね。初めまして、"愛の槍"でリーダーをやってるユースって言います。どうぞよろしく」

「"愛の槍"……ふーん。俺はウィルの同郷だ。お互い歳も近そうだし堅苦しいのは無しにしようぜ」

「分かった、ありがとう。今日はお互い頑張ろうね」

「ああ、そうだな。じゃあ俺は戻るから、また今度3人で飯でも食いに行こうぜ」

 そう言うとバスタは走って隊列に戻って行った。

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