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ブレイゾーブ   作者: なうかん
第一章 冒険者
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7 魔狼

 次の日、ウィルとユースは魔狼(ワーグ)の討伐に向かった。被害があったのはルインズの西方、ルバイ村。ルインズからは少し距離があり、二人にとって初めての泊まりがけの依頼となる。とは言っても野営ではなくルバイ村で宿が用意されるのでそうキツイものでもない。


 ルインズから出て西に歩いていると森の方から冒険者と思しき遺体を乗せた大八車がやってきた。ウィルとユースは道の端によって手を合わせた。遺体には布が掛けてあったが息が詰まるような臭いからして死んですぐという訳ではなさそうだった。大八車を運んでいる冒険者も顔に布を巻いていたがそれでも苦しそうだ。

 いつもは楽しく話しながら討伐に向かっていたウィルとユースもこの日はなんとなく口を開くのが躊躇われた。冒険者に死や危険は付きものというのはウィルもユースも知っている、ギルドで時々見ていた冒険者が死んだと聞くこともあった。しかし今、死というものをその目で見ると、話で聞くのとは違うなんとも言えない圧迫感が雰囲気を重くした。

 春の暖かい陽光が二人の空気など意にも介さず、雲ひとつない空から燦々と降り注いでいた。

 

 昼になり、腰を下ろして軽食を取っている時ユースが口を開いた。


「なぁ、ウィルは死ぬなよ」

「分からねぇよ。冒険者なんだからな。でも死んだ後あの森に放置されるのは嫌だな……」

「………さっきの人はソロで森に入ってたのかな」

「仲間もすぐには死体を回収できないほどの危機に襲われたとか」

「そういえばあの死体。あそこまで腐敗した状態で回収されるのはおかしくないかな。普通その場で埋葬したり火葬したりするだろ」

「……なんだったんだろうな」


 再び歩き出した二人はいつものように話をしながら歩いた。


 ルバイ村に着いた時には日没も近くこの日は討伐はせず用意された宿に泊まった。狼の遠吠えがどこからか聞こえる。


 翌朝、装備を整えて山を登った。二人とも昨日の遠吠えを聞いていたのでその方角を目指して歩いていた。少し行くと大きな狼の糞を見つけた。もう魔狼の縄張りに入っている。

 普通、魔狼の群れは人に近づかない、人の怖さを知っているからだ。しかし一匹狼となった魔狼は違う。一匹狼にはニ種類いる、弱いために群れに貢献出来ず追放された者と強く生まれ、人を避ける方針に馴染めずに群れを飛び出して自分の力で生きていく者、魔狼の冒険者とでも言うべき存在だろうか。

 果たしてここの魔狼はどちらであるかは分からない。しかし先ほど見た糞はかなりの大きさだった。


 ウィルはユースが〈探知〉を発動させて周囲を探っているのを感じていた。槍を握りしめる手に汗が滲んだ。

 突然ユースが叫んだ。

「来る!!」


 その声と同時に、今まで葉音ひとつしなかった茂みから青みがかった黒をした巨体がぬっと二人の前に姿を現した。頭の位置がウィルの腰よりも高い。

 

 体を晒しているのは自身の表れであろう。こいつは冒険者だ。こいつの魂は戦いを欲して、ついには群れから飛び出し自分の力を示そうとしている。魔狼の堂々とした態度と青い目の力強さがウィルにそう感じさせた。


 ユースが〈石弾〉を放った。それが戦闘開始の合図となった。魔狼は〈石弾〉を余裕を持って避けつつウィルに向かって駆けてくる。右から左へと横薙ぎに振るった十文字槍の穂先が魔狼の顔を捉えた。しかし十文字槍の鎌は立っていた、鎌さえ横向きであれば仕留められたであろう一撃は魔狼を少し飛ばして突撃を止めることしかできなかった。

 立ち止まった魔狼に五発の〈石弾〉が降り注ぐ。回避しようと駆け出した魔狼に二つの尖った石塊が着弾し突き刺さったが、血を流してなお魔狼の勢いは衰えない。突き出された槍を避けてウィルに迫った。鎌が魔狼の左側を切り裂いたが、この四本足の冒険者は切り裂かれる肉も気にせずに槍を突き出した二本足の冒険者の左肩に噛み付いた。噛みつかれると同時に魔狼の巨体がぶつかってウィルは押し倒された。


「ウィル!!!!!」


ユースが叫んでこちらに走りながら〈石弾〉を乱発した。焦って撃った魔法はほとんど当たらず、何発か掠っただけでは魔狼は気にしない。

 魔狼の牙は分厚い肩当てを貫通して肉に食い込んでいる。ウィルは痛みに顔をしかめつつ腰から解体用のナイフを抜き放ち、目の前にある喉に突き刺して掻き切った。大量の血が吹き出してウィルを濡らした。何秒か経って魔狼の足から力が抜け、その体重がウィルにのしかかった。

 寝返りを打って魔狼の下から出ようとしたが牙が肩当てに突き刺さったままで上手くいかなかった。ウィルは左の肩当てを外し、ユースにも引っ張ってもらって魔狼の下から這い出した。

 ユースは何度もウィルの肩に〈回復〉をかけた。幸い骨にまではダメージを受けていなかった。

 

 二人は魔狼を解体し、毛皮を剥がして山を下りた。頭は肩当てから外さなかった。


 その日の夜はルバイ村の村長の家で宴会が行われた。村人たちに戦いの様子を聞かれ、ウィルは迫力たっぷりに語った。村長が魔狼の頭付きの肩当てを欲しがったので全身の鎧一式が買えそうな値段をふっかけたが、あっさり払われたので売ってやった。


 次の日、ルバイ村を出てルインズに帰還した。帰り道、ユースと話し合ってパーティを組むことにした。パーティリーダーはユースになった。


 ギルドでユースがパーティの登録をして、ウィルもサインをした。ユースが登録用紙に書いたパーティ名は "愛の槍" 。後から聞いて、変な名前だとウィルは思ったが既に登録は済んでしまっている。

 兎にも角にも、これから二人は"愛の槍"として活動することになった。

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