6 大鬼
ウィルとユースはギルドで待ち合わせ、大鬼の討伐依頼を受けた。
鬼やゴブリンは武器を使い、簡単な服を着るだけの知能がある。中には森の中で集落を形成している者もいると言う。しかし鬼やゴブリンは人間の村を襲い人を食うため、その討伐依頼に付く貢献度はかなり高い。
2人が大鬼の被害が出たという村の近くを捜索していると林の中からが大鬼が棍棒を持って出てきた。黒く筋肉質な身体で腰には布を巻いている。
現れた大鬼にユースが〈石弾〉を打ち込んだ。命中した石は貫通こそしなかったが大鬼にかなりの傷をつけた。大鬼が怒ってこちらに向かって走り出したのでウィルも大鬼に向かって走り大鬼が棍棒を振り上げる前に十文字槍で喉を突き刺した。お互いに走っていた勢いは消えず十文字槍の鎌によって大鬼の首は胴体から離れた。
2人は被害のあった村に大鬼の死体を預け、討伐証明部位の二本の角を回収した後、ルインズに帰った。
「なんか、あっさり倒せたな」帰り道でユースが言った。
「人型は弱点が分かりやすくていい。首をやっちまえばほとんど倒せる」
「でも、あのサイズの鬼は魔法じゃ一発で倒せないな」
「ユースの魔法はかなり削ってたぜ。何発か撃てば倒せてただろ」
「近寄られなければな………ウィルみたいな前衛がいないと魔法使いは難しいんだよ」
話しているとルインズまであっという間に着いた。その後はギルドで報酬をもらって山分けした。ウィルは今回の貢献度で【鉄 Ⅲ 】に昇級となった。
2人は初の共同依頼の成功とウィルの【鉄 Ⅲ 】昇級を祝って小さな宴会をした。2人は今後も時々一緒に討伐しようと話し合った。
次の日、ここのところ毎日働いていたウィルは休養を取ることにした。武器屋に槍を預けて手入れしてもらい、ギルドの酒場で昼から飲んだ。酒場には数人の冒険者が居た。待ち合わせをしている人も居たが、しっかりと飲んでいる人も居た。そんなギルド酒場の様子を眺めながら飲んでいると昼から飲んでいる冒険者の1人がウィルに話しかけてきた。
「よお、若いの。最近いい感じらしいじゃねぇか。いつもの槍はどうしたんだ?」
「槍は置いてきました。今日は休養日にしようと思いまして」
「おお、休養は大事だぜ。俺くらいの歳になると体が満足に動かなくなってくるからな、そうなってからじゃあ遅いんだ。休みはしっかりとらねぇと。あっわりぃ名乗ってなかったな。俺はクリッドだ。この街は結構長いからよ、なんかあったら俺に言えよ」
「クリッドさん!?ありがとうございます。僕はウィルって言います、よろしくお願いします」
ウィルはこの街のベテラン冒険者にも認知されるようになっていた。他の新人たちより少し早くルインズにやってきたことや早めの昇級スピードが主な理由だったが、十文字槍という少し珍しい武器もその一因となっていた。
ギルドに馴染んでくるとパーティやクランの勧誘が増える。ギルド酒場で飲んでいると結構頻繁に勧誘される。しかしウィルはルインズで経験を積んだ後は別の街に移りたいと考えていたので、どの勧誘も断った。中には有名なクランの勧誘もあったので少し勿体無いような気もした。
先ほどのクリッドも"迷宮探検隊"と言う有名クランのリーダーである。メンバー全員が【銅 Ⅲ 】以上で構成されているというルインズで最も強いクランの一つだ。名前はクリッドがまだ10代の頃に作ったパーティの名前がそのまま運用されているという話である。みな、子供っぽい名前だと思ってはいるが口には出さない。古参のクランメンバーがクリッドに文句を言うことはあるらしいがクリッドは気に入っているようで変えようとはしないそうだ。
その後も何人かの勧誘を断っているとユースが仕事を終えてギルドに戻ってきて、酒場にいるウィルに気づいて隣に座った。
「だいぶ飲んでるね。今日は休みか?」
「ああ、昼から飲んでたよ」
「じゃあ俺も飲むか」
ウィルとユースは遅くまで飲んだ。ユースにもちょくちょく勧誘が来ていたが断っていた。
「なあユース、お前前衛が必要なんだろ。どっかのパーティ入ればいいんじゃねぇのか。なんで断ってるんだ」
「いやぁ、俺はまたウィルと一緒に討伐したいからよ、まだパーティはいいや」
ウィルはユースとならパーティを組んでもいいと思った。
そのあと、2人はまた明後日に共同討伐することを約束した。
翌日、ウィルは頭痛と吐き気のする体で武器屋から十文字槍を受け取ってギルドへ行った。休んで体がキツくなるのでは意味が無いと思い次の休みからは酒を飲まないことを決めた。
掲示板には黒の大鬼の依頼がまた貼ってあったので今度は1人で受けてみることにした。
遭遇したらまずは〈火球〉で牽制し槍を振って喉を掻き切ると大鬼は悶えて死んだ。今回は近くに村もなかったので角を取った後、死体を燃やした。
ギルドに帰って報酬を受け取った後、酒を飲まずに寝た。