5 西の森
バスタは騎士団試験に合格し、ルインズの騎士団宿舎で暮らすようになり、ウィルはいくつかの依頼をこなして【鉄 Ⅱ 】に昇級した。
ある日、ウィルが依頼を終えてギルド酒場のカウンターで飲んでいると1人の金髪の男が話しかけてきた。
「隣いいか? 俺はユース。【鉄 Ⅱ 】の魔法使いだ」
「もちろん。俺はウィル、俺も【鉄 Ⅱ 】だ」
「ウィルか、よろしくな」
「ああ。同じ【鉄 Ⅱ】同士、仲良くしよう」
「俺はヘリオンの町からルインズまで出てきたんだ。ウィルはどこからなんだ」
「俺はウィスプ村出身だ」
「ウィスプ村か。ヘリオンにウィスプ村から薬師が来てたぜ。風邪のときはいつもその人の薬飲んでたなあ。たしか……バーリさんだったかな」
「おお! それは俺の父さんだ」
「ええ!? マジか!!」
「ああ。びっくりだ」
「なぁウィル、今度一緒に討伐しようぜ。俺は明日用事があるからよ明後日はどうだ」
「いいぜ、楽しそうだ」
「よし、じゃあ明後日共同討伐をしよう」
「ああ、そうしよう」
ウィルとユースは酒を飲みながら明後日の計画やそれぞれの故郷について語り合った。
翌日、ウィルは二日酔いの頭痛に苦しめられながら宿を出た。向かったのはルインズの西の森。ここは少し前に数人の冒険者が行方不明になって調査依頼が出されていた。何組か銅級と銀級のパーティが調査をしたが結局何も見つからず、その後の被害がなかったので、依頼書は未だに掲示板の端に貼られているが、誰もこの依頼を受けなくなり気にしなくなった。
ウィルはこの依頼の貢献度に惹かれて受けようとしたがランクのせいで受けられなかったことがあった。しかし何か見つけてしまえばランクなどは関係なく発見者にはある程度、報酬と貢献度が与えられるはずだ。そう考えてウィルは時々西の森に入っては独自に調査をしていた。
この日も今まで調査していない所を見てまわった。調査を始めて3時間ほど経ったところでウィルは【銅 Ⅰ 】の冒険者票を発見した。その銅で出来た冒険者票にはレンツと言う名前と【銅 Ⅰ 】を示す星が一つ、そしてルインズのギルドで発行されたことを示す記号が刻印されていた。ウィルは他にも何か落ちていないか周辺を探し、何も発見できなかったので道標に道中の木にナイフで傷を付けつつ急いでギルドに戻った。
ギルドの受付にマイアがいたのでウィルはマイアに西の森で冒険者票を発見した事を話した。マイアは慌てて奥に走って行って先輩受付嬢のエレナさんを呼んできた。マイアはエレナに言われてギルドの2階に走って行った。
ウィルはエレナにギルドの二階にある部屋まで連れて行かれ、ソファに座ってしばらく待つように言われた。1分ほどでドアから、がっしりした男が入ってきてウィルの向かいのソファに座った。ウィルとその男の間には膝ほどの高さの机が置いてあった。
「【鉄 Ⅱ 】のウィル君だね。私はルインズのギルド支部長のグンニだ。西の森で行方不明になってる冒険者の冒険者票を見つけたそうだね」
「ええ、おそらく。これです」
ウィルは冒険者票をグンニに渡した。
「レンツか。たしかに西の森で行方不明になった冒険者の一人だ。どこで見つけたか教えてくれ」
「見つけた場所まで案内できます」
その時誰かがコンコンとドアを叩いた。
「レクソンです。準備できました」
「いいタイミングだ。レクソン入ってこい。
ウィル君、レクソンはここの副支部長だ。見つけた場所まで彼を案内してくれ」
「分かりました」
レクソンは身長が高く背中には大剣を背負っていた。
ウィルはレクソンを連れて木につけた道標を辿って、発見場所まで行った。
そしてその場所までのより確かな道標として木に色のついた布を巻きつつギルドまで帰った。
帰り道でレクソンがウィルに尋ねた。
「君はなぜあんなところに行っていたんだ」
「調査依頼が出た時から行方不明者の事が気になってて、時々西の森で捜索をしてたんです」
「………ウィル君は鉄級の冒険者だろう。この森は鉄級には手に負えない魔獣が出る。調査依頼や迷宮立ち入りにランクの制限があるのは冒険者を守るための措置なんだ、危険なことは控えて欲しいな。君も行方不明者の一人になってた可能性があったんだよ」
「すみません」
「控えて欲しいとは言ったけど今回の事は助かったよ。何も進展がなくて諦めかけていたんだ。冒険者票が森に落ちてたって事は冒険者本人もまだ森にいる可能性が高いね。生存は絶望的だろうけど………。君には後ほど報酬を払って貢献度を増やしておくよ。昇格したくて無謀なことをしたんだろ?」
「……はい。すみません」
「次も貢献度が貰えるとは思わないことだね。自分に出来る確実な依頼を受けなさい。火熊討伐なんかいいんじゃないか。弱いのに貢献度が高い」
「………そうですね。そうします」
ウィルはギルドで報酬を受け取った、今回の貢献度のおかげでもう少しで【鉄 Ⅲ 】に昇級できそうだ。
宿に帰ってから、ウィルは翌日の共同討伐の準備を進めた。魔法が一つしか使えないことは出来れば他人にはバレたくない。弱みを晒すのは冒険者にとっては命取りなのだ。〈回復〉くらいなら使えない人は多い、しかし〈水球〉も出来ないとなると話は変わってくる。
冒険者の中にはほとんど犯罪者のような奴もいる。身を守るには弱みも自分の技も出来るだけ隠すべきなのだ。ユースは父のことを知っていたし、酒も入っていたのでつい共同討伐を受けてしまった。でもユースは信頼できそうな気もする。それにユースは魔法使いを名乗っていた、それならばウィルが魔法を使う展開にはならない可能性が高い。
とりあえず明日はお試しの共同討伐だからな、今後も一緒にするかどうかは明日次第だ。ウィルはそう思いながら眠りについた。




