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ブレイゾーブ   作者: なうかん
第一章 冒険者
3/16

3 ギルド

 一月ほどして、リーナはイルケブに戻った。ウィルがリーナに想いを告げることはなかった。


 リーナがイルケブに戻ってウィルの生活には色が無くなったように思えた。

しかし祖父バジュートがある日

「本格的な訓練に移る」

と言ってからはそんなことを気にしていられないほどキツい毎日が始まった。


 毎日続けていた朝のランニングが砂袋を背負ったランニングに変わり、地稽古は木刀で打ち合っていたのが真剣に変わった。ウィルが剣でバジュートは槍の時もあった。さらには魔法も使い出した。

 バジュートは純粋な魔族であり、ウィルをも上回る魔力量を持っている。そのためウィルは午前中のバジュートとの戦いでほとんどの魔力を使い切ってしまう。

 しかし午後は魔法の道場で稽古だ。せっかく手に入れた道場で一番強い男の称号をウィルは手放したくはなかった。


 魔力をできるだけ使わずに相手を倒すのはかなり難しい。敵の撃ってきた魔法は午前の訓練ですでにボロボロになっている身体を捩り足を動かして避け、自分が撃つ魔法は外しても相殺されてもいけない。そんな極限の戦いの中でウィルは称号を維持し続けた。


 しかしウィルの一日はそれでは終わらない。家に帰ると暗い中、祖父に連れられ村外れまで行き、目隠しをつけられる。そうして〈探知〉も使えないウィルは祖父の木刀を避けなければいけなかった。音だけが頼りだ。さらにはその状態で木刀での地稽古もした。

 それが終わると今度はバジュードが使う魔法を予測させられた。例えば〈探知〉は特有の嗜好性を与えられた魔力が使用者から流れ出て魔力がこもった物に当たるとそれを使用者に知らせる。そういう魔法によるそれぞれの独特な波長を感知して見分ける訓練である。ウィルは〈火球〉以外の魔法は使えないが魔力を感知できないわけではない。

 しかし当然そんなものが最初からわかるはずもなかった。言い当てることができなければ、元王国騎士団の全速力の魔法がウィルに飛んでくる。火に服を焼かれ、水で流され、尖った石が体を掠めた。



――――――――



 そんな日々が五年続き、ウィルもついに13歳になった。最近は〈身体強化〉を使っているバジュートとも打ち合えるようになり、魔法もかなりの精度で発動前に見分けられるようになり、目を閉じていてもある程度バジュートの剣が避けられるようになった。そして道場では、もはや他の門下生では全く相手にならなくなりウィルの相手は基本的にシフル先生になっていた。

 この五年の間にリーナがカイゼルという男と結婚した。カイゼルは、リーナが修行に行っていた道場の師範の息子のようだ。それを聞いた日は、動きが悪いと言われバジュートにボコボコにされた。


 ある日、バジュートが倒れた。それからは午前の訓練はウィル1人ですることになった。倒れてすぐの頃は時々、訓練を見にきていたが次第に体調が悪くなり、ベッドから出られなくなった。そしてウィルに〈千鳥〉と呼んでいた十文字槍を渡して死んだ。

 バジュートの十文字槍は柄も金属でできていてウィルには重かった。それでもウィルは毎日この槍を振るった。



――――――――



 ウィルは16歳になった。この年の冬が終わるとウィルは冒険者になるためにウィスプ村を出てルインズに向かった。肩には十文字槍を担いでいた。


 

「冒険者の登録をしたいんですが」

ウィルはルインズのギルドで美人な受付嬢に話しかけた。

「字は書けますか?」

「書けます」

「では、名前と生まれ年と出身地をこの用紙にお書きください。登録料は250レタになります」


ウィスプ村には他の村と比べて字が書ける人が多かった。ウィルの家には騎士だった祖父と祖父から字を習った父がいた。そしてバスタの父親が騎士団を引退した後、村で字と剣を教えていた。そのおかげでこの国では珍しくウィスプ村のウィルと同世代の子供達は皆字が書けた。


「これでいいですか?」

「ウィスプ村のウィル・オーブさん、2338年生まれということは16歳ですね。はい、大丈夫です。少しお待ちください」

 ウィルは祖父バジュードが王都の騎士団で中隊長に任命された時に当時の騎士団長から苗字を持つように言われ、魔族の古い英雄から取って定めたと言うオーブ姓を名乗った。受付嬢は奥の部屋に先程の用紙を持って行き、しばらくして戻ってきた。

「ではギルドの基本的なルールについて説明します。冒険者ランクは鉄、銅、銀、金でそれぞれに星1から3までのランクがあり、それぞれの色に応じた冒険者票が渡されます。魔獣の討伐や商人の護衛などの依頼を受けると報酬とは別に貢献度が加算されてランクが上がっていきます。ただし、金属が変わる時には審査があります。原則、冒険者は犯罪や戦争が絡まない限りは自由な立場ですが、ギルドの要請に理由なく逆らったりした場合には貢献度が下がることもあります。あっ、あとは依頼とは関係なく迷宮に潜って手に入れた素材などもギルドは買い取りますが貢献度は基本的には上がりません」

「なるほど。わかりました」

「では後ほど冒険者票ができたらお呼び致しますのでギルド内でお待ちください」


ギルド内には街にある店と比べて少々割高ではあったが酒場があった。ウィルは手前の方にあった椅子の一つに座って呼ばれるのを待った。しばらくするとウィルの名が呼ばれた。ウィルは念願の【鉄 Ⅰ 】の冒険者票を手に入れた。冒険者票は楕円型で端の方に穴が空いており、そこに紐が通してある。ウィルはそれを首から下げた。

 依頼が貼られる掲示板には何枚かの依頼書が貼ってあった。ウィルはホーンラビットの毛皮採取の依頼を選んだ。


 ルインズの近くの草原でホーンラビットを探すと簡単に見つけられた。槍で叩くとすぐに死んだ。三匹狩って毛皮を剥いだ。肉は自分のものにした。


 ギルドに帰ると酒場ではたくさんの冒険者が酒を飲んで大声で話していた。ウィルはホーンラビットの報酬を受け取って宿に帰った。宿の亭主に兎肉を渡して料理してもらった。初めて冒険者として狩った獲物は今までに食べたホーンラビットの中で一番美味しかった。

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