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ブレイゾーブ   作者: なうかん
第一章 冒険者
2/16

2 友達

 翌日からウィルの対人の相手はリーナが多くなった。今の道場にリーナと魔法を撃ち合えるものはやはりウィル以外にはいなかったからだ。そしてウィルはもう初戦のような負け方はしなくなり、ほぼ互角に魔法を撃ち合うようになった。


 ある日曜日の朝、ウィルは母にルインズの街までお使いを頼まれた。今、ルインズには隊商が来ていて面白い商品をたくさん売っているのだそうだ。ウィルも気に入ったものがあったら買っていいと言われた。

ルインズには冒険者ギルドもある。ウィルはウキウキして家から駆け出した。

 ウィスプ村からルインズに向かう道に出る頃にはウィルは走り疲れて歩きだした。


「はぁはぁ。おい、そんなに走ってどこいくんだよ」

「お、バスタ。追いかけてきたのか?」

「ウィルがそんなに走ってたら気になるじゃねぇか」


昔はウィルに水をかけていたバスタと取り巻きのヤベモ、グーデも今では稽古の後に一緒に道草を食ったり、日曜日に遊んだりするような仲になっていた。


「今日はグーデとヤベモはいないのか」

「俺は家からウィルが村の外に走っていくのを見て追いかけたからな、二人は別だ。まだ寝てたりするんじゃないか」

「そっか。俺、今からルインズに行くんだよ。せっかく追いかけてきたのに残念だな。」

「ルインズか、行商人が来てるんだっけ。あんま村じゃ見ないからなぁ。俺も行くよ」

「え、大丈夫なのか。勝手に行って……」

「大丈夫、大丈夫。金なら持ってるし」

「そうか……まぁいいけど」

ウィルとバスタは並んでルインズまでの道を歩いた。歩きながらいろいろなことを話していた。

「リーナさん綺麗だよなぁ」不意にバスタがつぶやいた。

「ウィルはずるいぜ。リーナさんとばっかり稽古してよぉ。 お前、リーナさんのこと好きだろ」

「な、そんなことねぇよ」

「俺はわかってるぜ。ウィルは俺との稽古では遠慮なく顔面に全速力火球してくるのに、リーナさんとやる時は顔は狙わねーし火球もなんかちょっと優しそうだ」

「…………それはお前が弱いからだろ」

「言い訳になってねぇぞ。図星だろ」

「うるせぇ。なんでもいいだろ」

「ハハッ。二人には黙っててやるよ。でもウィル、リーナさんイルケブに恋人いるらしいぜ」

「えっ?! うそつけ。そんなはずねぇよ」

「そんなはずねぇってなんだよ。エリスが聞いたらしいぜ。女子会ってやつで」


 エリスはバスタの妹で、最近道場にも通い出した。


「第一、ウィルとリーナさんだと歳が離れすぎだ」

「……年は関係ないだろ。もう良いだろリーナさんのことは。ルインズ見えてきたぞ」

「おぉ、やっぱでかいなぁ。久しぶりのルインズだぜ。まず飯食おうぜ」


 ルインズの街では門に衛兵が立っていたが二人は子供なので簡単に入れてくれた。ウィルとバスタは門の近くでいい匂いを撒き散らしていた食堂に入って腹一杯食べた。

 その後二人はルインズの冒険者ギルドに赴いた。

 広いギルドの中で、何人かの冒険者が談笑しつつドアを開けた子供に目をやった。


「クリッド、お前の子か?」

「ちげぇよ。知らなぇガキだ。人探してる風でもねぇし、田舎のガキだろ」

「脅して追い出すか?」

「やめろよ大人げない」


「おい、邪魔だ退けガキども」

「ひっっ」

 ドアのところでギルドの中を眺めていたウィルたちは突然後ろから怒鳴られて急いで退散した。


「おお、久しぶりだな、迷宮にこもってたんだってな。戦果はどうだい」

「おおクリッド、もうバッチリよ。今夜は一杯奢るぜ」

「そんなによかったのか。最高だな、〈森の美女亭〉行こうぜ」

「んな高いとこは行かねぇよ。アホかぁ」


 先ほどのガキのことなどすぐに忘れてギルドにはいつもの空気が流れる。


「はぁはぁ、冒険者怖えぇ」

「バスタはやっぱり弱虫だな」

「ウィルもめっちゃ逃げてたじゃねぇか」

「グーデとヤベモに言うなよ、あとリーナさんにも」

「言わねぇよ。俺も逃げてるしな」

「よし。逃げたのは二人の秘密な。男の約束だ」

「おう。もう市場行こうぜ。お前アニーおばさんのお使いあるんだろ」

「そうだった」


ウィルは母に頼まれていた高い茶葉を買った。

残りのお金は好きにしていいとのことだったのでバスタと再び市場を見て回った。

「おいウィル、これ鏡って言うんだぜ。この前エリスが買ってもらってたんだよ。女子は鏡が好きらしいぜ。俺は魔法の杖の方がよっぽど好きだけどなあ」

「すごいな、鏡。綺麗に俺が写ってるよ。ちゃんと見ると俺の目ってちょっと赤いんだな」


「鏡二つも買うのか?」

「一つはお母さんにあげようと思ってね」

「アニーおばさんか。もうひとつは自分で使うのか? 女子っぽい模様ついてるぞ、それ。

あっ、お前もしかしてリーナさんにあげるつもりか? でも多分持ってるぞリーナさんは。イルケブで修行してるんだぜ、あそこはここよりでかい街だぞ。絶対もう持ってるって」

「うるせぇ。贈り物は気持ちが大事なんだよ」

「そうかなあ? まぁいいや帰ろうぜ。俺は新しい杖が買えたから満足だ。ウィルは杖は良いのか?」

「俺は杖は良いや。〈火球〉は杖使うほど精密な魔法じゃないからなあ。それにもうお金がない」

「全部、鏡に使ったのか!? すごいなお前」


二人は日没ギリギリになってウィスプ村に帰り着いた。

ウィルが鏡を渡すと母はとても喜んだ。バスタは誰にも何も告げずに村を出たので心配した親に結構怒られたらしい。


翌日、稽古の後にウィルはリーナに鏡を渡した。

「わぁ、きれいな手鏡。本当にくれるの。ありがとう、大事に使うね」リーナは嬉しそうに受け取った。

ウィルは有頂天になって家に帰った。


 三日後、ウィルがルインズの冒険者ギルドで冒険者に怒鳴られて走って逃げたことが噂になっていた。

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