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ブレイゾーブ   作者: なうかん
第一章 冒険者
13/16

13 盗賊

 朝になり、エルデンの町から出て昨日と同じ並びで歩いた。道の舗装が昨日の道と比べると雑なものになっており、馬車がガタゴトと音を立てて進んだ。


 出発前にブライトが今日行く道は盗賊が多いと言っていたので皆、緊張した様子だった。レオニスも昨日より口数が減っている。

 道路の脇が林に変わった辺りからずっとブライトとアメリアが〈探知〉を使っているのがウィルには分かった。


「いるぞ!」

 突然、ブライトが叫んだ。それと同時にアメリアとブライトはそれぞれ大剣と杖を抜いて御者と馬を守る構えを取り、ウィルは十文字槍を握り直した。

 ブライトの声がして、1秒もしないうちに木陰から〈火球〉と矢が御者と馬めがけて飛んできたが、ブライトは一度に十発以上の魔法撃ち、アメリアは目にも止まらぬ速さで大剣を振るいそのほとんどを防いだ。ウィルも槍を振るって馬に飛んでくる矢を払った。


 矢が止まると前方の林から盗賊が十人現れた。全員手には剣を持っている。馬車の前にいる"蒼鱗"の二人は魔法使いだ。剣を持った盗賊に接近されると危ない。ウィルがそう思い、前に出ようとしたとき御者台からアメリアが飛び降りた。

「リュネットと馬を守って」

アメリアはウィルとレオニスにそう言うと、地面を蹴って黒い髪をなびかせながら前の馬車を飛び越え、盗賊たちの中へ躍り込む。アメリアが大剣を振るうたびに盗賊たちの悲鳴があがった。ブライトは敵中にいるアメリアをうまく避けつつ光の矢で盗賊を倒していく。ウィルが今まで見たことのない魔法だ。


 しかし前の様子ばかり伺うほどの余裕はウィルたちにもなかった。両脇の林から盗賊が二人ずつ出てくるのを見て、ウィルは左、レオニスは右に即座に対応した。

左側の林から出てきた盗賊は一人は剣をもう一人は杖を持っている。

 

 ウィルは手前にいる剣を持った盗賊に全速の〈火球〉を撃った。

盗賊は左手を前に突き出し魔法で相殺しようとしたが間に合わず、ウィルの〈火球〉が顔面に直撃した。

「ウィル!!!」

後ろにいた盗賊が、たった今顔に〈火球〉をくらい倒れた盗賊をそう呼んだ。

「ウィル、大丈夫か」

杖を冒険者のウィルに向けて構えつつ、盗賊のウィルに声をかけ続ける。しかし倒れたウィルは〈火球〉によって顔が爛れ、喉が焼けて既に事切れている。


それに気がついた盗賊は怒りに燃えた目でウィルを睨み、魔法を放とうとした。そうはさせまいとウィルが突進して槍を突き出すと盗賊は避けきれずに喉を貫かれ死んだ。レオニスも問題なく盗賊二人を切り捨てた。

 前からも戦闘の音はしない。"蒼鱗"は十人をあっという間に片付けたらしい。

馬車の後ろで大きな音がして、全ての戦闘が終わった。


 ブライトの指示でウィル達は盗賊の死体を道の端に運んだ。

 盗賊団は馬車の前で十人、馬車と馬車の間で四人、そして後ろで一人が倒されていた。本来ならもっとしっかり囲んだ状態で襲うつもりだったがブライトに早く発見されたためにそれが出来なかったのだ。

 

 後方に回り込んでいた盗賊は十五歳ほどの獣人の男の子だった。おそらく囲む作戦が失敗し、盗賊達の中で最も機動力のあったこの子供の獣人が急いで後ろに回ったのだところで、リリィの〈雷撃〉に撃ち抜かれたのだろう。


 獣人は基本、奴隷身分だ。

 ウィルを含むサンフィリア王国の国民のほとんどが信仰しているソレイオス教の聖典に獣人は神に生み出された人としての記述がない。そのために魔族以上に強い差別に晒され生まれながらに奴隷の身となるが、この獣人の子は鎖のついた首輪ではなく盗賊団の仲間と同じように盗んだネックレスやブレスレットをつけている。

 どこでこの盗賊団と巡り会ったのかは分からないが、人より筋肉量が多い獣人は盗賊団の中で活躍し、自由民としての立場を手に入れたのだろうか。世間的には悪である盗賊も、獣人のような不遇の身の上の者にとっては唯一の人として生きることのできる道だったのかもしれない。

 

 生まれて初めて人を殺したウィルは、この獣人の遺体を運びながらそんなことを考えた。

 しかし一方で、昔憧れた魔法使いのように、たった一発の魔法で敵を屠った手応えが心の奥でじんわり膨らんでいく。

 魔獣と比べて、人間はなんと遅く、脆く、倒しやすいのだろうか。

 ウィルはウィルを殺した時の感覚が忘れられなかった。


 馬車を襲った盗賊達はこの辺りではその構成員の多さから有名な盗賊団だったらしく、近くのナブの町に報告すると報奨金が支払われることとなった。その後も盗賊団関連でブライトとダグラスが状況の説明などに時間を取られたので、まだ昼ではあったが今日は予定していた町までは行かずナブに泊まることになった。

 

 ウィルはユースと"蒼鱗"のノアとヴィクターの四人でナブを見て回った。そこまで大きくはない町だったがたくさんの屋台が並び活気に満ちていた。

 昼ごはんに屋台で串焼きとパンを買い、四人で食べた。

 途中、アメリアとリュネットが一緒に歩いているのを見かけた。楽しそうにはしゃぐアメリアは先ほど盗賊を切り倒していた時とは別人のようだ。

 エドワードは馬が好きなようで、ずっと馬の世話をしていた。

 

 "花園"は夕飯までずっと宿の部屋で過ごしたらしい……。


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