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ブレイゾーブ   作者: なうかん
第一章 冒険者
11/16

11 ルインズ迷宮

 ウィルが自身の秘密を打ち明けた次の日、"愛の槍"は初めてルインズ迷宮に入った。

 迷宮は暗く、二人はそれぞれ〈点光〉と〈火球〉を使った。

 

「ここがルインズ迷宮一階層か。洞窟みたいだね」

「迷路になってるらしいから地図を失くしたらかなり危ないかもな。今日は日帰りで一階層を巡回してみよう」

「了解、リーダー」


 洞窟のような通路を進むと途中横穴が空いていることがある。この中には部屋があり、魔獣がいる。


「ウィル、横穴だ。魔獣もいるぞ」

「入るか?」

「もちろん」

「よし」


ウィルはそう言うと槍を構えて穴に侵入する。ウィルが部屋に入ると大きな黒いものが飛んできた。この部屋にいた魔獣は大蝙蝠だ。大蝙蝠は森にも夜になれば出現することがある。たいして強くはない。ウィルは槍でその羽を切り裂き、首を切断してとどめを刺した。


「おお! こいつも小さいけど魔石持ってるぞ、ウィル」

「そのサイズだといくらになるんだ?」

「一個で100レタくらいかな」

「安いな」

「まあ、農夫でも狩れる魔獣だからな。魔石が取れるってだけでもありがたいよ。地上で殺してもこいつから得られるものはないんだからさ」


 迷宮に住まう魔獣は迷宮の奥から漂う大量の魔力を吸収し、体内で魔力が結晶化して魔石を作り出す。魔石からは少しずつ魔力が出るので魔道具の材料や冒険者の魔力回復の道具として使われる。


「なあ、ウィル。そういえばお前〈点光〉使えないって言ってたけど使ってるじゃないか」

「え? ああ、これ。これは小さい〈火球〉なんだ」

「は? どうして〈火球〉が〈点光〉みたいに人を追尾してんだよ、〈火球〉は直線にしか飛べないはずだろ。と言うか〈点光〉以外のほとんどの魔法は直線にしか飛べないはずだ。魔法を曲げるってのは魔法研究者の永遠の夢なんだぞ。どうやってるんだ」

「そう言われてもなあ、小さい頃からこうだったんだよ」


 ウィルは小さな〈火球〉を自分の周りでクルクル飛ばして見せた。


「ウィル、これはマジで凄いことだぜ。普通の大きさの〈火球〉でもできるのか?」

「いや、したことはないな」

「やってみろよ」

「分かった」


ウィルの出した〈火球〉は曲がらずに直進して部屋の壁に当たって消えた。


「普通のサイズだと無理みたいだな」

「小さいので出来るなら大きくしても出来るはずだ、練習しようぜ。それで曲げられるようになったら研究させてくれよ」

「分かった」


 二人は一階層で五匹の大蝙蝠とどこから入り込んだかは分からないが一匹のゴブリンを殺し、この日の探索を終わりにした。ゴブリンからは魔石は取れなかった。

二人は大蝙蝠がいた部屋の一つで〈火球〉を曲げる訓練をした。

 最初は小さい〈火球〉を動かして少しずつ大きくしていく。しかし一定以上大きくなると少ししか曲がらなくなる、通常サイズでは全くと言っていいほど曲がらない。

 ウィルが何発も〈火球〉を撃ちまくって練習するのをユースは〈探知〉を使って魔力の流れをじっくりと観察している。


結局この日は一発も通常サイズの〈火球〉が曲がることなく迷宮を出た。外は完全に夜になっていた。

ウィルはかなり魔力を使っていたので宿で飯を食うと倒れるように寝た。


次の日は二階層に挑戦することにした。

 ルインズ迷宮では魔獣も階段を移動出来るため明確な区切りというものは存在しないが、深ければ深いほど魔力濃度が濃くなるため魔獣も強くなるのだ。そのためウィルたちは魔力を消耗していた昨日は一階層のみの探索に留めた。


二人は一階層では魔獣と戦わず、地図に書いてある二階層への階段まで行った。

 二階層はほとんど一階層との違いがなかった。出てくる魔獣も大蝙蝠で、確かに強くなってはいたが"愛の槍"にはまだまだ余裕の相手だった。


 早々に五匹の大蝙蝠から魔石を取り、後の時間は〈火球〉の練習に費やした。

 この日は最後の方になって、何発かの〈火球〉がほんの少し曲がるようになった。ユースもウィルの曲がる〈火球〉を見ながら自分も何か掴めたような気がすると言って〈火球〉を撃っていたがまったく曲がらなかった。


 次の日、"愛の槍"は三階層を探索した。三階層からは大蝙蝠が少ななくなり岩蜘蛛という魔獣が多くなる。岩蜘蛛は腹部以外ほとんど刃を通さないうえ、火に対しても強い耐性を持つため、ウィルは十文字槍ではなくメイスを持って迷宮に入った。

最初に入った部屋には魔獣がいないように見えた。しかしユースが〈探知〉を使い、壁に張り付いて岩に擬態している岩蜘蛛を見つけた。


「ウィル、あの壁だ」

「おお、本当だ。見た目じゃなかなか気づかないな」


 ウィルが近づくと岩蜘蛛は足音が聞こえたのかモソモソと動き始めた。それを見てウィルは走って行きメイスを叩き込んだ。岩のような肌の一部が崩れ落ちたが本体に傷をつけるには至らない。岩蜘蛛はウィルをすり抜けユースの方へ走り出した。

ユースは杖を使って丸い〈石弾〉を作り、まっすぐ向かってくる岩蜘蛛に勢いよくぶつけて頭を潰した。頭を潰され岩蜘蛛は死んだ。


岩蜘蛛の解体は困難を極めた。

まずメイスで表面の岩を砕かなければいつもの解体ナイフが使えない。何度も何度もメイスを振り下ろして砕いた岩の肌は大した素材にもならず金にならない。唯一、魔石だけは200レタとサイズにしては割高で売れる。

 しかしその程度ではこの重労働の対価としては足りない。三匹を倒して魔石を回収した頃にはウィルの腕はパンパンだった。

 ユースもウィルの腕が限界なことに気づいてこの日の探索はここで終わった。

 その後、いつものように訓練をしようとしたが三階層の部屋は少し狭かったので二階層に上がって〈火球〉を曲げる訓練をした。


 岩蜘蛛解体の疲れであまり長くはできなかったがこの日撃った〈火球〉は半分以上が曲がった。

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