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ある世紀末のモデル

作者: 紫音

ある研究機関の実験室でミスが起こった。実験室でミスを起こしてしまった佐々木は焦った。


やっべマジやべぇ


非常ボタンを押し、どうにかなんねぇかなぁと思ったがどうにもならず、実験室にいた佐々木をはじめとする10名はその場でゾンビとなった。1人、瞬間的に逃げた者がいたが、あえなくその者もゾンビとなった。


救いだったのは実験室が密閉されていたこと。ダクト等を通って感染するかと思いきや、非常ボタンのお陰で密閉された。

研究施設の所長、山口はこれを自分の指示で適切な処置をしたと大々的にマスコミに報じた。しかし、世間もマスコミも、そもそもゾンビウィルスの研究の存在自体を知らず、どういうことかと山口を叩きまくった。

実は政府の命を受け研究をしていた事まで喋ってしまい、更に叩かれ、1ヶ月前に嫁に不倫していることがバレて冷え込んだ夫婦関係をこれで挽回出来ると自分の株を上げる筈が更に下がってしまった山口は自棄になって研究施設に籠城。やだなぁと思いながら自決することも嫌。ともなって山口もあえてゾンビウィルスに感染しゾンビとなった。


山口の会見を受け次にマスコミが向かったのは政府である。

どこの省庁の管轄か問われた政府はたらい回しに責任転嫁。結果、政府の特務機関であり全て山口に一任されていたと公式に発表。しかしそれでは世間やマスコミは収まらず、また、野党もここぞとばかりに与党政府を責任追及。総理の竹山が会見を開いたのは事故から一週間後だった。


「え~、まずはじめに、政府としましては、この度の件、誠に遺憾と思っておりここに山口及び研究施設に代わり謝罪申し上げることを発表致します。」


あえて研究施設の山口の責任であると言わんばかりの会見に、魂胆が見え見えで、更に政府は叩かれた。

通常であれば野党がここで退陣要求をするものだが、政権交代したところでここのところの物価高騰問題、それに伴う経済安定策等課題は山積みでそれらも考えなければならず、それに加えて今回の件もあり、このタイミングで政権交代はないなと考えた野党は、与党に罵声や責任追及はするものの政権交代をしようとまでは行かず、それがまた野党側の問題となった。

与党も野党も責任転嫁ばかりで政治は壊滅的に機能しなくなり、与野党高官達は山積する問題に嫌気がさし、かといって辞任、自決することは嫌がり、結果皆ゾンビとなった。


政治が機能を失い、行き場を失った怒りは各々に飛び火。世間はマスコミを、マスコミは専門家を、専門家は今となっては機能を失った政府を責めた。

責めたところでその政府が機能していないので専門家の中にもゾンビウィルスに関しての知識を有した者が叩かれた。

特務機関の存在は知っていたのか?そもそもゾンビウィルスの研究は必要だったのか?これ以上広がらないのか?特効薬はないのか?等、連日マスコミに引っ張りだことなり、最初のうちは陽の目を見ない研究で我々も陽の目を見ないと思っていた専門家はウハウハ陽気で取材やコメンテーターなど引き受けたが、何を陽気にしているのだ、どうにかしろと責任追及が及ぶと嫌気がさしてきた。しかし、自決することは嫌なので遂に専門家の中にもゾンビウィルスにあえて感染し闇落ちする者が現れた。

そうなるとマスコミはちゃんと報道しろと世間に叩かれるので、誰でもいいからゾンビウィルスに関しての知識人達を呼ぶようになった。

知識人とは言え、科学者などの専門家ではなく、ゾンビ映画の映画監督、ゾンビ小説の小説家、ゾンビ漫画の漫画家等が招かれた。中にはゾンビのコスプレイヤーも呼ばれた。

映画監督や漫画家、小説家等はある程度の知識を有していたが、回を重ねれば重ねる程その知識の希薄さを露呈した。嫌になってまたゾンビになった。


この時点で、研究施設の中は満員御礼。許容量を越えていた。

工事関係者が集まりとにかくゾンビになった人間達を隔離しようと高い塀を作った。しかしそれでは中の様子が見えなく逆に不安であるということで、一次的にフェンスになった。しかし、やはりフェンスでは強度の問題が有るため、水槽に用いられるとんでもなく分厚い強化ガラスを作ることになった。

それまでの期間、ゾンビに近づかないようマスコミ各社から通達があった。


毎朝新聞の武田は、新聞に掲載するのでフェンス越しにゾンビを撮ってこいという上からの命令に従い、恐る恐るフェンスに近づいた。

すると、武田の存在に気づいたゾンビ達は一斉に武田の方向へ向かってヨロヨロと歩いてきた。恐怖のあまりカメラを向け連写機能を使いさっさと物陰に隠れた。人影が見えなくなるとゾンビ達はまた方々に散っていった。


武田は被写体の確認をした。怖かったとはいえ手ぶれが激しいなと思いながらも、何か使えるものがあればそれで終わろうと思っていた。

その時、武田はあることに気づいた。

被写体のゾンビ達がモデルのようにポージングしているように見えたのだった。


これは一体?


よく見ると、ブレている他の写真もどうやらポージングしているのだった。


...試してみるか...


武田は再度恐る恐るフェンスに近づいていった。ゾンビ達がヨロヨロと歩いてくる。カメラを構える。すると、まるでダルマさんが転んだの遊びのように、ゾンビ達はカメラを向けた時だけその場に立ち止まり各々ポージングするのだった。


翌日の毎朝新聞は飛ぶように売れた。マスコミ各社もこれを取り上げ、武田は一躍スーパースターのように扱われた。

その後、カメラを向けると止まるゾンビとして外国メディアも取り上げ、連日のようにフェンス前にはカメラを持った一般人までもが訪れるようになった。

フェンス前に立ちポージングするゾンビ達と一緒に写真を撮ることが一時的にブームとなったが、1人の男性が、カメラを向ける前にフェンス前に立ちゾンビに食われる事例が発生した。この事例が起こらぬようにと、定点カメラで撮影した場合どうなるかの実験が行われた。すると、ゾンビ達はこぞってカメラ前に立ちポージングするのだった。

かくして、フェンス前には常に定点カメラが何個も設置され、その様子はリアルタイムで配信される等した。外国からもメディアや観光客が訪れ一躍観光地となった。


1年後。

研究施設は改修工事がなされ、水族館や博物館のようにゾンビ館という新たなジャンルが確立された。カメラを向ければ大人しく危害が加わらない事から、鼻っ柱の強い普通のモデルを雇うより安いということもあり、ゾンビモデルという新たなジャンルも生まれていた。当然各国からの観光客も増加。日本の不景気は解消された。

今後、ゾンビは更に商用化され、日本を支える産業の一躍を担うだろうと期待されている。。

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