4. 北の魔の森で神獣フェンリルと初対面です
大変遅くなり申し訳ございません。
つ、続きです。
「ちょっ、無理です無理っ!私一人で浄化なんて無理、」
「無理ではない。そなたには可能だ」
私の拒否に神様の声が被せられる。
「神の子たるそなたの持つ力は我と同じ神力。我ほどとは申さぬが、瘴気の源を浄化する程度の神力は備わっている」
「……」
「それはそなた自身、分かっているであろう?浄化の方法もな」
「……」
……その通りです、分かっています。今の私には力があり、神様のような浄化も出来ると。
「実を言うと、今回は少々時が経ち過ぎているのだ。四隅にある魔素の大森林は、どこも瘴気が濃くなり過ぎてしまっている。森の管理者たる神獣たちですら弱ってしまった。森から溢れ出る瘴気が人間たちが住まう地まで届き、その影響も出始めている。とにかく急がねばならない。分かるな?」
神様の言葉と共に、私の脳裏にある映像が映し出された。
まるで上空から映したような景色は、深緑の木々がみっちりと生い茂った大きな森林だ。
それがズームアップされていき、最端部分が大きく映る。
その一帯だけ、木々が葉を落とし枯れ立っていて、赤茶けた土が剥き出しとなっている。
なによりその一帯は禍々しい黒煙よなうなモヤに覆われていて、あまりよく見えない。
でも、でも何か、見える。禍々しい中にも、清廉な、白い、何か。
「見えるな。そこが北隅の瘴気溜まり、我が眷属たる神獣フェンリルが守りし魔の大森林だ」
じゃあ、あの白いのは、神獣フェンリル。
「リラシナよ、まずはフェンリルを回復させよ。あやつと共にあの森を浄化し瘴気を消滅させるのだ」
出来る、だろうか?……私に。
「出来る。では飛ばす」
「……!……」
では飛ばす、って! もうちょっと考える時間を!てか、躊躇くらいさせてよ!
そんな文句を言う間などもちろん無く。
神様の言葉を聞き取ったと同時、私はもうそこに居た。
北隅の瘴気溜まり、禍々しいモヤに囲まれている、白き神獣――フェンリルの目の前に。
ど、どうしよう……どうしたらいい?
目の前のフェンリル――すんごく大きな白い狼みたいな?――は、木の根元に横たわっていてぐったりとしている。
一瞬、もう死んでいるのでは!と思ったけど、私の身じろぎに反応してちょっとだけ耳が動いた。
良かった、生きてる。
と、とりあえず、まずは声掛けしてみよう、かな?
「あのう……」
「……」
「あの、聞こえますか?というか、大丈夫ですか?」
「……」
「……大丈夫じゃないですよね……」
「……」
横たわるフェンリルの前にしゃがみ込んで声をかけてみるも、返事はない。
そもそも神獣とはいえ見た目巨大狼なフェンリルが話せるのかって疑問もあるけど、神様百科事典によると神獣と神とは意思疎通が出来るらしいので、私だって出来る……はず。
ならばこれは、声も出せないほど弱っているということだろう。
ええーと、これはいったいどうするかな。だいたい、私一人でこの膨大な広さの森を浄化するってどうするの。
あ、そういえば、神様はなんて言ってたっけ?
”まずはフェンリルを回復させよ”
そうだ、そう言ってた。
よし。それじゃあまずは、このフェンリルを回復させましょう。
原理も何も分からないけど、神様が授けてくれた知識で、やり様は分かるのだ。
「とりあえず、貴方を回復させますね――そりゃっ!」
フェンリルに向けて両腕を突き出し、ふと思いついた呪文”アナタヲカイフクシマース”を脳内で唱える。
するとググっと体の中から神力がこみ上げて来たので――掛け声と共に一気にそれを放出させた。
「……!……」
おおー出来た出来た。
光ってるよ、フェンリル君。
私の回復の力にまるっと包まれて、眩しく光っている。
す、凄いな。これが神力なのか。
これを私がやったのか……うん、ちょっと自分でも驚くわ。
どれくらい経ったかな?5分?10分?案外もっと短い時間かも知れない。
フェンリルを包んでいた光が落ち着いて、その体が再び見えるようになる。
ぐったりと横たわっていた体を起こして、はっきりとこっちを見ている。
どう、かな?
上手くいったのかな?
ちゃんと回復出来たのかな?なんなら、もう一発でも二発でもいけるけど。
「……十分だ」
「あ、しゃべった!」
「……」
ごめんなさい、つい。そんな、睨まないでくださいよ。
「……おまえ、誰だ」
「え?……あ、あのですね、」
「新しい神か。代替わりしたのか」
「え?いえ、違いますけ、」
「来るのおっせーんだよ、殺す気か」
「え、ええーと、その、」
ちょっと神様。
神獣って神の眷属、言うなれば忠実なる下僕、なんじゃないの?
神様百科事典にはそう記されていますけど。
こちらのフェンリル君、なんか態度悪いし、怒ってますけど――。