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 今、私は脅されている…––––

 よりにもよって、ブライトンの生徒に。

 

 エヴァリーはこうやって人を操ろうとする人間が心底嫌いだ。人の弱みを握って、エヴァリーに抗う力が無いと分かっていて、お前をどうにだって出来ると言う……––––エヴァリーの頭に中に、過去の嫌な記憶が蘇ってくる。

 

 

 こんな思いはもうしたく無い––…そう思って死ぬ程勉強してパーベル・アビーに来た。誰もエヴァリーの事を知らない場所に。

 

 

 

 

「好きにしたら良い……。バラしたければ、バラせば良いっ––!」

 こんなに感情が昂ったのはいつぶりかエヴァリーには分からない。怒りが湧くと、目には涙が溜まる。

 

 

 馬鹿にすんなっ––!泣いて堪るかっ!とエヴァリーはそのままくるりと体を反転させて、フェンシングの練習場へ急いで戻る。

 

 後ろからアイゼイアが何か言っているが、自分の鼓動が煩くて聞こえはしない。

 

 

 

 エヴァリーが戻ると、オースティンはその顔を見てギョッとした。

「エヴァリー?」

 

「ごめん、先帰る。リリアンをお願いっ…オースティン、絶対リリアンから離れないで」

 それだけ言うと荷物を掴んでエヴァリーはすぐにその場を離れようとする。

 

「––待てって!」

 オースティンは慌てて立ち上がって、エヴァリーの腕を掴んだ。

 

 オースティンはエヴァリーの体が正面にくる様に回り込み、背を屈めてその顔を覗き込む。

 

「…どうした?何された?」

 

「何もっ」

 

「じゃあなんで泣いてんだよ」

 

 

 

 側から見れば顔を真っ赤にして取り乱す男子生徒を宥める男友達、にしか見えないだろう。

 

 オースティンはハンカチを取り出すと、エヴァリーの目を優しく拭う。

 

「誰に会った?…何を言われた?」

 オースティンがそう尋ねるが、エヴァリーはただ小さく首を振った。

 

「大丈夫。ハンカチ、洗って返す。リリアンをお願い」

 エヴァリーはそう言ってハンカチを受け取ると、情けなくもメソメソ泣きながらバスに飛び乗った。

 

 

 

 部屋に戻って落ち着くと、なぜ泣いたのか自分でもエヴァリーは分からなくなる。

 子供じゃあるまいし…情けない…––と自己嫌悪にもなった。

 

 そして今後ブライトンの悪魔にエヴァリーの密やかな楽しみの内容をバラされたら…––と考えると足が震える。

 啖呵を切った割に、心中は穏やかなものでは無かった。

 

 なんだか、とても疲れた…とエヴァリーは無意識に本を探すが、勿論お目当ての物は無い。

 

 エヴァリーは溜め息を吐くと、ベッドに寝転びすぐに眠りに落ちた。

 

 

 

 次の日起きると、リリアンは目覚めたエヴァリーを酷く心配した。

 何かあったのか聞かれたが、リリアンを困らせるのは本意では無いので、大丈夫だとエヴァリーは言う。

 

 

 放課後オースティンと合流したら、もうブライトンには行かなくて良いとぶっきらぼうに言い放たれた。

「なんで…」

 エヴァリーは顔を俯いてオースティンにそう尋ねる。

 

「リリも案外大丈夫そうだし、部長からもブライトンの先生達に良くしてもらってるから揉める心配無さそうだって」

 

 

「じゃあなんでオースティンは行くの?」

 エヴァリーの言葉に、オースティンは途端に不機嫌そうな顔で、溜め息を吐く。

 

「…エメレンスが来いって。親とかにもせっつかれてんだよ」

 

 なんで?––と聞きたかったが、エヴァリーはそれを堪える。オースティンの機嫌の悪さを見るに、聞いて良いか分からなかったからだ。リリアンはきっと知ってるんだろうな…––そう思い、エヴァリーはまた少し胸がジリジリと痛む。

 

 

 

「分かった…」

 

 エヴァリーはそう言うと、部屋へ戻る。

 

 とりあえず勉強でもしてみたが、一向に身が入らない。時計ばかり見て、エヴァリーの集中は途切れてしまう。

 

 リリアンもオースティンも、エヴァリーを心配してくれている。

 それが分かるのに、どうしてこうも胸がジリジリするのか…

 

〝仲間外れ…?〟そんな風に考えたくはないが、どこからかそんな声が聞こえて来る気がした。

 

 


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