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「エヴァ?」
その声の人を、エヴァリーは知っている。聞こえないふりをすれば良いのに、エヴァリーはわざわざ反応して顔を上げてしまった。
恥ずかしさに顔を赤らめ、逃げ出したいと歪める、その顔を––––
「エヴァ…?何が––」
近づくアイゼイアの目から隠すように、オースティンは素早くジャケットを脱ぎ、エヴァリーの肩に掛けた。
「前、閉めて」
オースティンがエヴァリーの耳元で小さくそう言うと、エヴァリーもジャケットをぐっと前に引き寄せる。
「エヴァ、帰ろう」
オースティンがエヴァリーの肩を抱き、その場を後にしようとする。
「ちょっと待って」
アイゼイアは一瞬困惑した顔を浮かべるとオースティンを手で制し、ユウリを呼ぶ。
ユウリが直ぐにエヴァリーに近づくと、ユウリは事情をすぐに察した。
「エヴァリーを着替えさせないと。こっっちへ…」
ユウリはオースティンに目配せし、軽く肩を抱くとエヴァリーを促す。
エヴァリーは何も言えず、ただユウリに従った。
「大丈夫か?すまない、こういう時周りに気遣いが出来ない連中って多く居るんだ、ブライトンには」
ユウリは自らもブライトン生、しかも生徒会長にも関わらず自虐的にそう溢す。
「いえ、こういう時は皆、羽目を外しますから」
まぁ前回の事は丸っ切り悪意だけど…エヴァリーはバケツから汚水を掛けられた事を思い出す。
––ブライトンに来ると水難の相が出るのだろうか……
まるで、ここには居てはいけない…とでも言われてる風に、歓迎されていないのをエヴァリーはひしひしと感じた。
––だが幸か不幸か今回はブドウジュースの様なので、前回よりは大分お優しい…
「エヴァリーは背が高いからな…。演劇部の衣装部屋なら合うものもあるはずだ」
ユウリはそう言って職員室から鍵を借りて衣装部屋に向かう。
着いた先には、所狭しとあらゆる衣装が掛けられた広い部屋だった。
これか、いやこれなら…?とユウリはなんだか嬉しそうにドレスを選ぶ。
次々にそれらしいドレスを選ぶが、どれも舞台用なだけあって派手なものが多い。
「これなら…」
何着も衣装を出した後のユウリの目が一際輝いた。
そこにはシルバーのスパンコールが煌めく、グレーのキャミソールタイプのドレスがあった。長さはかなり長いが、エヴァリーには丁度良い。カップ付きなので、下着の心配もしなくて良さそうだ。
「これなら良さそうだね。今タオルを持ってくるから待ってて」
ユウリはそう言ってハイヒールをツカツカ鳴らしながら、部屋を出た。
––こんなドレス、着たこと無いし…着方も分からない…とエヴァリーは呆気に取られる。
これではドレスだけ浮くのでは無いか…––?いっそこのままで居る方が、ドレスを着るよりも目立たないかもしれない…と不安にさえ思い始めた。
タオルとバニティバックを手にしたユウリが、またツカツカとハイヒールを楽しそうに鳴らして部屋に戻ってくる。
「さぁ、変身の時間だ」
ユウリは麗しい笑みを浮かべて、エヴァリーに向かってそう言った。