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「魔法なんて、もう1000年も前に消えちゃったじゃない。…呪文も無し、魔法陣も無し。ただ触れただけでそうなるなら…魔法より強力ね」
リリアンはそう言いながら、エヴァリーの体にペタペタと手で触れてみる。
そんな事をしても、何にもならないが、エヴァリーは純粋に嬉しいのでそのままリリアンの好きにさせた。
「…いや、呪いだろ」
オースティンは引き攣った顔でじっとエヴァリーを見る。
休日、寄宿学校からバスに乗って30分程のレンガが美しい大きな街で、3人はベンチに腰掛けお茶を飲んでいる。
パーベル・アビーの生徒の大半は、休日になるとこの街へ遊びにやってくる。
入学してもう3年…緑が美しくて気候が気持ちの良いこの日に、エヴァリーはなんだか今まで誰にも言えなかった秘密を2人に教えたくなった。
––一体、何故だろう……
最高に楽しくて、とても居心地が良いこの時に、エヴァリーの口は信じてもらえないであろうこの能力を告げた。
意外だったのは、リリアンもオースティンもその話を直ぐに信じたことだ。
この3年、年相応の青春らしい会話が無かったわけじゃ無い。
だけどリリアンはフェンシングの他にアーチェリーまで始めて、色恋には余り興味が無く、恋の話と言えば、リリアンが振った男子生徒の話ばかり。
エヴァリーが期待する甘酸っぱさなど無く、いつも爽快にリリアンは毎日を過ごしている。
オースティンもとてもモテたが、どこかふらっとしていて掴みどころが無く、どうやら好きとか嫌いとかそんな話は自分からするタイプでは無いらしい。
なので、敢えてこちらがその話を振る事も無い。
ともあれ2人は学校の人気者で、所詮ヒエラルキー上位の人間だ。
エヴァリーと言えば目こそ紫がかった青色だが、黒髪のショートカットでどちらかと言うと少年らしい風貌で、オースティンと男の子らしい服装でいれば先生でさえ男子生徒達と見間違える。
背も、女子の中では一際高かった。
そして、女性らしさという凹凸は平面に近い。
学校の催し物も、エヴァリーは出来る限り避けた。目立つのは好きじゃ無いし、女子生徒に男子生徒と間違えられてキャーキャー追いかけられるのも面倒だった。
そして、男子とペアになる事は一際注意を払って避けた。もし相手を好きになったら……いや、エヴァリーの気持ちとは関係無い。
外見に反して恋に恋している乙女とは違うとそこは意地を張りたい…–––
そんな訳で、ダンスパーティーだとか他校との交流会は勿論スカした態度で欠席だ。
似合うドレスなんてそもそも無い。
サイズを探すのがまた一苦労だ。
だったらと男物のスーツも考えたが、女子生徒のスーツは不可だと聞いた時から在校中は参加する機会は無いと諦めた。
エヴァリーが不参加だとリリアンとオースティンは丁度よくペアになる。
これ幸い、と2人は気楽な様子で行事には一緒にペアで出掛けていた。
見送りはいつもエヴァリーだ。
でも、もしかして––––
いやあるいは…–––まさか…自分が鈍いだけで、2人はそうなのかもしれない…––とやんわりエヴァリーがそれぞれ2人に聞いてみても、2人は顔を引き攣らせて、あり得ない…としか言わない。
「とんだ恋愛脳だな」
「本当乙女ね、見かけによらず」
と余りに勘繰るので、エヴァリーは額にデコピンを何度か喰らった。
でも、それはそれで萌えそうなポイントがあるので、恋愛小説好きの空想癖がある身としては、2人はそういうものだとエヴァリーは受け入れる。
いつ何時何が起こるか分からない、それが恋だと本にも書いてあった。
もし現実に2人がそうなったら…エヴァリーは小躍りして祝福する用意は勿論ある。