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 ダンスパーティ当日、リリアン達よりも先にエヴァリーはブライトンに向かって諸々の雑用をこなした。

 

 白いシャツに瞳の色に合うようなシックなネイビーの細めのタイ、そして濃いグレーの上下のスーツだ。

 

 エヴァリーがスーツで現れると、女生徒達は悲鳴を上げて喜んで、男子生徒達は顔を引き攣らせた。

 

 ––そうだよね、皆上から下までピカピカに磨き上げて素敵なドレスを着た女の子ばかりだもん。

 

 だが、エヴァリーに合うドレスは中々見つけられるものでも無い。髪も前髪が伸びた黒髪のショートカット、アレンジの仕様も無かった。

 

 

 

「エヴァ」

 そろそろリリアン達が到着する頃だと時計を見上げたエヴァリーを、エヴァ、と呼ぶブライトン生は1人しか居ない。

 

「アイゼイア先輩」

 振り返ると、そこには御伽話から飛び出したように美しいアイゼイアとユウリが居た。

 

 アイゼイアは光沢のある明るいネイビーのスーツに、グレーのベスト、そして空のように真っ青なタイを締めて、ポケットには同じようなチーフを入れている。

 そしてユウリも鮮やかでクリスタルが美しい青いドレスを纏い、色を合わせたカップルコーディネートだった。

 やはり、2人はダンスのパートナーだったらしい。

 

 

「お二人とも、よくお似合いです。とても素敵ですね」

 エヴァリーがにっこりと笑みを浮かべてそう声を掛ける。

 

〝ほらね〟エヴァリーの耳元にゾワっとするような声が微かに聞こえた。

 

 またこれだ……エヴァリーは一瞬だけ困惑した顔をするがそれをすぐに誤魔化して笑みを浮かべ直す。

 

 

「なぜ、エヴァはスーツなの…?」

 アイゼイアが呆れたような顔でエヴァリーにそう言った。

 

「体に合うものが中々売ってないので。スーツの方が動きやすいですし、まともに参加するイベントは今回が初めてなんです」

 エヴァリーは自分の格好に改めて目を遣る。

 

 ブライトンの生徒は皆テーラーで仕立ててもらうのだろう。男子生徒サイズやデザインは皆ばっちり決めている。

 

「…だからって––」

 

「とてもよく似合っているエヴァリー。 私もドレスよりはパンツスタイルが好きなんだ。君ほど着こなせないけど」

 アイゼイアを遮って、ユリアはなんだか目を輝かせてエヴァリーにそう言った。

 

 

 

「アイゼイアッ!と…エヴァン?」

 そこに一際胸囲の大きな男が現れる。

 

「…あっ、オースティンの……––」

 エヴァリーには名前が思い出せないが、オースティンの兄らしい人物だった。

 

 

「なんだ、エヴァン一人か?よく似合ってるが、君は随分線が細いな。オーより細い。もっと食え」

 エメレンスがエヴァリーの肩をバシバシと叩くが、エヴァリーは愛想笑いしか出来ない。

 ––名前、なんだっけ?とエヴァリーは記憶を呼び起こしてみる。

 

 

 

「……エヴァン、リリアンはもう来るのか?」

 エメレンスがグッとエヴァリーに近づき、小声でそう尋ねる。

 

「ああ、はい、多分…」

 そうエヴァリーが返すとエメレンスは途端に頬を染め、何やら気合いを入れるようにスーツの襟を直した。

 

「…エム、踊る相手も居ないのに随分気合が入ってるな」

 アイゼイアが呆れた視線をエメレンスに送る。

 

「俺は、会場で踊って下さいと言うんだ。 誘うチャンスが中々無かったからな」

 そう言うエメレンスのタイとチーフは、品の良いモスグリーンだ。リリアンの瞳の色……––––

 

 

「大のあがり症がよく言う。赤くなっている内にダンスが終わらないように、早めに誘う事だ」

 ユウリも揶揄うようにエメレンスを見た。

 

 エヴァリーはなんだか面倒臭そうな事が起きそうだな、と思い、エメレンスから視線を外す。

 

 

「じゃあ会場でな、エヴァン!アイゼイアと会長も、良い夜をっ!」

 そう言ってエメレンスは人混みに消えていった。

 

 

「……エヴァ、エヴァのパートナーは?もしかしてオースティンがドレスを?」

 アイゼイアは口だけ笑みを浮かべて、エヴァにそう尋ねる。

 

「オースティンのパートナーはリリアンです。あの二人はいつもイベント事はペアなので」

 

「……じゃあ君はどうするんだ?」

 ユウリが目をパチパチとさせてエヴァリーを見る。

 

「仕事が終われば二人に合流して、適当に美味しいものを食べて早めに帰ります」

 あっけらかんと話すエヴァリーに、アイゼイアとユウリは目を見開いてお互いを見遣る。

 

「あっ……」

 エヴァリーが時計に目をやると、次の仕事の時間だった。

 

「すみません、もう行かないとっ。お二人とも本当に素敵です、良い夜を」

 エヴァリーはそう言ってそそくさとその場を離れた。

 

 

 


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