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 服を脱ぎ、暖かいシャワーを浴びると酷い臭いが消えていって気持ちが良い。

 

 エヴァリーはおずおずと、しかし図々しくボディソープとシャンプーをお借りした。

 ––アイゼイアはいつも纏う香りと一緒だ…––爽やかで、香水のような上品な香りが湯気に乗ってシャワー室に立ち込める。

 

 高級そうだ…––私には縁が無い…––そう思いながらも、エヴァリーはその香りに浸る。

 

 体を洗い流すと、タオルで水滴を拭い、バスローブを身に付けた。

 

 幸い下の下着は無事で、心底ホッとした。

 残りの衣類を洗面台に水を貯めて洗う。 臭いが少しでもマシになるように–––

 

 

 エヴァリーが衣類を洗っていると、遠慮がちなノック音がした。

「大丈夫…?」

 アイゼイアだ。

 

「大丈夫ですよ。洗面台使いたいですか?もう出ますね」

 

「いや、気にしなくて良い。ゆっくり使って」

 

「先輩、ハンカチは買って返しますね。 臭いが取れるか分からないので、捨てちゃいますけど良いですか?」

 

「返さなくて良いし…気にしなくて良いよ、そんな事」

 アイゼイアはどこか呆れたような、やるせ無い声を出している。

 

 

 

「エヴァ……本当にすまない」

 アイゼイアのか細い声が、悲し気にエヴァリーに届いた。

 

「先輩がバケツを投げた訳ではありません。先輩が悪く無いのに、謝らないで下さい」

 エヴァリーは努めて軽い調子で返す。

 アイゼイアは悪く無い、気にされるのはこちらが気まずい––その思いからだ。

 

「ブライトンの生徒がやった事だ。

 僕もブライトン生だ、謝って済む事じゃ無いが。謝らせてくれ、本当にすまなかった」

 

 んー……とエヴァリーは暫し黙り込む。

 自分より落ち込んでる人が居ると、自分はこれ以上落ち込めない。

 

 エヴァリーは大方洗い終えた服を渡されていたビニール袋に入れて、アイゼイアのジャージに袖を通す。胸は絶壁なので心配はしてなかったが、大きめのジャージなら胸元は全く気にならない。

 エヴァリーは勢い良くドアを開けた。

 

 

「……アイゼイア先輩、顔色が悪いですよ」

 エヴァリーが見たアイゼイアは、怒ってるのか悲しんでいるのか分からない、予想よりも深刻そうな表情だった。

 

「悪くもなるさ」

 それだけ言うと、アイゼイアは濡れたバスタオルとバスローブをエヴァリーの手から掴み取る。

 

「エヴァは、怒ってないの?なんでそんなに冷静でいられる?」

 

 なんで……––––

 

 そう尋ねられると、浮かぶのはエヴァリーの生まれ育った家と家族だ。

 

 幾ら怒っても仕方が無い事が世界中には沢山ある。

 

 誰かに感情を揺さぶられるだけ、悲しんだり怒ったりする事は無駄なのだ。

 逃げるか忘れる……––それに尽きる。

 

 

 

「怒っても、もうどうにもならないので…」

 エヴァリーはそう言って目を伏せた。

 

「僕は、ブライトンのクソッタレが君にした事を許さない。怒ってるよ、とてもね」

 アイゼイアの声は、確かにそれを裏付けるように怒気をを含んでいた。

 

 

 ブライトンは、ブライトンだ–––

 オースティンの言葉がエヴァリーの頭の中に繰り返される。

 確かに、悪意を持ってエヴァリーに汚水をぶっかけきたブライトン……

 

 

 

 でも、今目の前に居るブライトンは、良い奴に見えるよ、オースティン…–––

 悪魔の皮を被った、善人に––––

 

 

 


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