たぶん最後の天体観測
天体観測はいいですよね……。しかし、私はしたことないです。天体観測に憧れがあります。いつか本物の星がたくさんある夜空をこの目で見たいものです。
十二月二十四日と二十五日の境目に、この地球は終わる。空から隕石が降ってくるという、典型的な滅亡のパターンだ。その事実を知っているのは、十二月十七日現在、おそらく僕しかいない。おかげで世界はいつも通りのままだ。
「おっす、今日は何の夢を見た?」
背後から声がした。振り返るとそこには、頭の所々に溶け残った雪を乗せた六花がいた。
「いや、今日は特に。というか、行く意味ある? 星、絶対に見れないって」
日も既に沈んでいると思わしき頃、僕と六花が待ち合わせをしたのは星を見るためだ。しかし、雪は今も降り続けており、星を隠している。
「いや、分かんないよ? 君は夢を見ていない……つまり、未来がどうなるかなんて、誰にも予想できないんだ。君にもね」
六花はニヤリと笑った。
僕は予知夢を見る。夢で起きたことは現実でも起きる。地球滅亡のことを知ったのも、夢で見たからだ。予知夢を見ることは六花以外誰も知らないし、信じないだろう。
「まあ、でも、もし今日星がみえなかったら……。また見に行けばいいよ。そうだ、十二月二十五日はどう? いや、その日は予定があるのかな?」
六花の提案は普通の人なら良いアイディアだと思うかもしれない。だが、僕にとっては現実へとずるずると引き戻す言葉だった。
十二月二十五日にはもう、六花も僕も死んでいる。その時が来れば二度と星は見られない。しかし、六花はその事実を知らない。僕が教えてないからだ。何も知らずに未来について話せるのが一番幸せだ。
「もし、その時既に世界が消えてなくなっていたら?」
言わなくても良いことを言ってしまったと、僕が気付いたのがその一秒後である。六花は空を少し見て、こう言った。
「もちろん、星は見えなくなるけど……。でも、その時まで楽しく過ごせると思う。最後の最後には絶望しか感じなくなるかもしれないし、もっと早く星をみていたらって、後悔もするかもしれない。それでも、きっと死ぬまで楽しいよ」
「……そうか」
「そうだよ。それに、未来なんて誰にも分からないし。君は例外かもしれないけど、もしかしたら予知夢が外れることもあるかもよ? 未来なんて予測不可能だから、あんまり考えずに自分の気分で行動を決めても良いかも。そうしたら、死ぬ間際でも私はあの時点では最善だったと思えるかもしれない。そうなったら、死ぬ瞬間まで幸せだな、と思う。だから、たとえ明日が地球最後の日でも、私は君を天体観測に誘うよ。……まあ、今日星が見えなかったらだけど」
六花には未来が分からない。しかし、自分なりに後悔しないようにしているのだ。
「……まあ、そろそろ星、見に行こうか。今は雪で見られないかもしれないけど、意外とすぐ晴れるかも!」
六花はそう言い、目的地まで歩いた。
「ああ。……でも、天気予報では夜が明けるまでずっと降るぞ?」
「まあまあ」
六花は楽観的なところがあり、後先考えないところがある。それでトラブルを招くことも多々あるのだが、結局いい方向に収束していく。物事を何とかする才能があるのかもしれない。色々と考えて動けなくなる僕にとって、六花は憧れの人物と言える。そんな彼女がなんとかなると言うのだから、それに懸けてもいいだろう。降り積もる雪を踏みしめながら、六花の後を追った。
驚くことにその数時間後、雪は止み、眩いほどの星が現れた。俺も天気予報も未来を予測出来なかった。一方、六花は満面の笑みでピースをしていた。