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アンロック・ゲフュール  作者: RynG
Chapter4 破壊司る牛魔人
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破壊司る牛魔人(4)

 空中から浴びせた鋭い一撃のお返しに全力の一撃を浴びせると宣言したタウラス。

 大剣を手放している奴は大きく息を吸い込み、膨らんだ胸に取り込んだ大気を得体の知れない力に変えて溜め込んでいる。


「な、何あれ!?

 発動を阻止したくても近付く事すら出来ない……!!」


 真正面から殴られる気迫と風圧に気圧されながら私が聞くとウィンドノートが推測する。


『恐らくアンブルート・タウラスが中に宿している破壊衝動を鋭い台風の様な風圧へと実体化させているのであろう』


「はぁ!? 体内で台風くらいやばいの生み出してんの!?」


『あくまで比喩だ。実際の威力は天災が可愛く見えるレベル。

 偏った死生観を他人に押し付ける傲慢さを持つが奴も霊獣の端くれ。

 あの芸当、攻撃の最終形態ではあるだろうが一度きりの大技という訳でも無さそうだ』


『察しガ良いナァ、犬っころ』


 力を貯め続けるタウラスが不敵に笑う。


『こいつは俺の中でも高威力を誇る切り札って奴だが、ちょいと無理すりゃ即座に連発も出来るンだぜ?

 さァ、受け止められるもんなら受け止めてみろ!! 無理なら甘美に崩れ去りな!!』


 体内で濃縮された凌駕の欲望はさながら充填されたレーザー砲。

 自分一人が死闘を乗り越え、生きて立ち、価値を示す為にタウラスは自身の持つ最強の技の名前を溜めて叫んだ。


破壊の凱歌(ブレイク・シャウト)!!』


 それは本人にとってはメガホンでハウリングを伴いながら拡声するかの如く発した破壊の為の咆哮。

 けど矛先にいる私達は眩い光に包まれて構えるべき攻撃の全貌を見る事は出来ず、気付けば死闘の舞台になっていた神殿の屋根や床だけじゃなく周囲の街の背景さえも抉り取られた惨状の空間の中で倒れていた。


『へ、平気か……?  キタザト……』


「うっ…… ぐっ。なんとか……」


 ウィンドノートが死力を賭して防御を固めてくれた状態でも今みたいな服も体もボロボロな致命傷になってるのに、連発なんてされたら二度目の命日も迎えられないくらい霊体が粉々に吹き飛んでたと思う。

 あの技、戦いを制する為なんて域を超えてる。下手したら大陸一つすら地図から抹消出来るんじゃないかな。

 危険を察知して咄嗟に防御した剣に振動越しで すら両腕を骨折させそうなくらい重い一撃がのしかかる。


『やっぱりナ。力を合わせた強ぇてめぇらならあの一撃にも耐えると思ってたぜ』


「全然、気を緩めさせてくれないね……!!」


『完膚無きまで叩きのめす為なら、追い打ちは当たり前の行為だろォ!?』


 大剣の重圧を払い除けたのも束の間、ほとんど大剣だけを使っていたタウラスが剣よりも破壊力のある危険な肉体を用いた殴打を解禁して避けるだけで手一杯の乱舞の様な近接攻撃を繰り出す。


『さァ、ファイナルラウンドとシャレこもうぜェ!!

 この最高に滾る闘いを制し、生きる価値と資格を示すのは俺だ!!』



 北里達がタウラスの下に向かってから三時間以上は経過しようとしている。

 破壊の凱歌(ブレイク・シャウト)によって神殿と周辺の景観が一瞬で崩壊した時、外にも緊張と不安が張り詰める。

 社用車に乗り込ませ、心身をチェックし、タウラスが交渉の為に確保していた漂流者達も含めた対象全員の保護を終えたUNdeadの面々と外部から派遣された四臣の二人も常軌を逸した破壊を目撃したり音で聞いた以上、タウラスとの死闘に身を投じる北里達に対する心痛を抑えきれなくなる。


「おいおいおいおい、あれどう見たってやべーだろ!? もう我慢出来ねぇ!!」


 いてもたってもいられなくなったタクトを腕を掴んで阻止したのはエマだった。


「タクト、シューイチの指示に背く気!?」


「仲間が危機に瀕してんのに手をこまねいてろってか!?」


 フェリティアが静かに諭す。


「……現状は人質が無知な漂流者からキタザトさん達に変わっただけ。

 無理に介入すれば彼女達を危険に晒す」


 状況は好転していない。

 神殿内では未だ北里達との雌雄を決したいタウラスが邪魔が入らないよう場を緊迫で支配している。

 そこに例外は無く、如何なる事情を掲げても他者の侵入は許可されない。

 無益な犠牲以外にも起こりうる掟を破った際の予測をウィリアムが告げる。


「アンブルート・タウラスは死闘を妨害した相手を容赦無く即座に叩き潰すはずです。

 助けに来てくれた相手が倒れたら、自暴自棄になりかねません」


 ヘルも無邪気に賛同する。


「仕事に慣れたとはいえ、スイ達はまだ甘ちゃんだもんね〜

  絶対引きずるでしょ」


 お互い自己犠牲以外の死に耐えられない者同士。

 目の前で救援者が殺されたら間違いなく罪悪感に駆られる。

 そうなれば戦闘において必要な冷静さを失ってしまい、彼らに窮地を招きかねない。

 だからこそ、おいそれと助けに入る事は出来ないのである。


「……くそっ!!」


 タクトの認められない怒りが石造りの街並みの郊外を撫でる。

 そんな彼を見ながら口を開いたのは意外も意外、救援でやって来た外部の獣人、碧櫓だった。


「何を焦っている? アレイフ様。

 その態度を見るに貴方が考える北里様は頼りない印象があると見受ける」


「そりゃそうだろ、碧櫓さん。

 お前さんは知らないだろうが、アイツらはまだUNdeadの仲間になってから約六ヶ月半だ。

 いくら仕事や環境にも馴染んで、規格外の実績を上げても先輩(おれたち)から見れば不安の残る大事な仲間なんだよ。

 取り返しつかなくなる前になんとかする義務が」


「私の知る北里 翠とウィンドノートは護られるような気弱な存在では無い」


 碧櫓の隣に立っていた白波は目を丸くした。

 少し前まで統主の言い付けに従い、人間を信用していなかった男から出る言葉では無かったからだ。


「失礼を承知で申すが、貴方は彼女達に対して少々憂慮し過ぎのように感じる。

 人の身でありながら智略を駆使し、真摯な話術で数多の獣人の心を開かせた北里様と神の如き力と育んだ勇猛で悪しき敵に立ち向かったウィンドノート様。

 孤立無援に近しい未開の地に迷い込んだにも関わらず、二人は力を合わせ、開拓し、サメノキ地方を侵食していた問題や蝕んでいた闇を切除した。

 それだけの力を持つ彼らを何故、信頼出来ない?」


「随分、高く買ってらっしゃるのですね。碧櫓様」


「実力を正当に評価しただけだ」


 説得力のある理論を受けても腑に落ちないタクトの前で碧櫓と白波が会話を続ける。

 北里達との共闘を経て、認識が変わった碧櫓の言葉は桐葉の共感を呼ぶ。


「タクトさん。君の気持ちも共感出来るが、救援を提供出来ない以上、今は北里さん達が危機を打開する事を祈ろう」


 桐葉は確信してるかのように続きを言った。


「大丈夫さ、僕達が手塩にかけて育てた大事な仲間なんだ。簡単にやられたりしないよ。

 それに北里さんには、まだ可能性(・・・)が秘められてると思ってるんだ」



『あァ…… 愉しいなァ。てめぇらもそうだろ?』


「薄気味、悪い、笑顔を浮かべながら決め付けないでよ……

 この状況を楽しんでるのはあんただけ……」


 ボロボロの身体を剣で支えながら、タウラスの無駄な問答に付き合う。

 今の状態は剣を振るだけで手一杯の危険な状態。技を打てる体力も気力もすっからかんだ。

 ここからどうやって逆転すれば良いのか見当つかない。

 そんな疲弊を抱えた私達を尻目にタウラスは不思議そうに疑問をぶつける。


「何で嬉しそうじゃねぇんダ?

 雑魚を叩き潰して一時の快楽を得るのとは違う、人生全てを賭けて挑む大一番の死闘なんだぜ?

 ヒリつく緊迫も蝕む苦痛もひっくるめて楽しまねぇと勿体ねぇだロ?」


 タウラスの破壊によって大胆に屋内を晒された神殿に隔絶の廃聖堂で見かけたパンクデビルの亜種のエッセンゼーレが入り込む。

 エッセンゼーレは倒すべき敵であるのは間違いないけど、むやみやたらに倒すべきでは無い。

 敵意を示さず、霊体を襲っていない内は無視しても構わないと思う。

 こいつの場合は人間っぽく行動を例えるなら手に持つギターを鳴らし、その音に合わせて鼻歌を口ずさみながら散歩していたような無害その物だ。

 しかし、タウラスは家の中に侵入した虫を叩き潰すかのように無言で容赦なくエッセンゼーレを元の影に還した。


『……チッ、邪魔が紛れるようになってきヤがった。

 俺としては神聖にも近いこの死闘をまだ楽しみてェのによォ』


 凄く口惜しそうな怒りを示すタウラスは大剣を構え直して、決着に向けた態勢を取る。


『このまま続けたら集中力を逸らす小蝿だけじゃなく、痺れを切らしたてめぇらの仲間も乱入して来そうだ。

 ……次に隙を見せたら、殺す。そして俺が生きる権利を手にする』


 さっき、たまたま戦場を横切ったエッセンゼーレは戦いの邪魔になるってだけで倒された。

 先輩達や碧櫓さん、白波さんが救援に割り込めば邪魔ってだけじゃなく大事な死闘を侮辱された怒りも相まって速攻で殺される。

 最悪な妄想が現実になる前に私は急いで姿勢を正し、脳内でウィンドノートと密談する。


「なんか画期的な作戦とか無い?」


『そんなすぐに思い付くか。

 互いに出来る事が限られている限界に近い状態なのだぞ……』


 それもそうか……

 ウィンドノートは私を護る為に霊獣の加護を展開して破壊の凱歌(ブレイク・シャウト)の直撃を浴びたうえ、私よりも先に戦ってるから消耗が激しいのは当然だ。


「こんな窮地の時こそ、行き当たりばったりは避けたいのに……」


 確実な勝利を手にしようとタウラスが急速に接近し、重い一撃を振り下ろす。

 避ける暇がなく最後の力を振り絞った防御をした結果、遠くに吹き飛ばされたうえ、更に体力を削られた。

 余裕の無い身体を引きずって攻撃を躱し、自暴自棄気味の斬撃を振っていくが、頭を小突かれた程度のダメージしか負っていないタウラスには全く通じなかった。

 そして最大の危機が迫る。

 攻撃の回避と同時に私達の死角に一瞬で回り込んだタウラスは無言で、しかも対処しにくいフェイント混じりの殺意の刃を振り下ろしていた。

 このまま戦局を変える転機や発見が無いと私達は本当に終わり。

 せめてもの抵抗として剣をかざそうとした時だった。


『……へぇ?』


「……!?」


 タウラスが興味深そうに見つめる先には間に合わないと思ったはずの剣がタウラスの大剣を受け止め、しかも霊獣の力にも押されずに不動を保っている。

 けど私も状況を全く呑み込めていない。

 だってこれは自ら起こした行動じゃなくて、無意識の内に勝手に進行していたからだ。


『キタザト。剣を握っている右手を見ろ』


 ウィンドノートに促されて握られている(・・・・・・)かのような温かさを感じる自分の右手を見てみる。


「え?な、なにこれ……?」


 そこにあったのは明らかにエクソスバレーの物とは違う青白い光が宿り、力を分け与える摩訶不思議な現象が発動していた。


 破壊司る牛魔人(4) (終)

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