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アンロック・ゲフュール  作者: RynG
Chapter4 破壊司る牛魔人
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破壊司る牛魔人(2)

「ウィンドノートのバカ……!! なんで何も言わずに……!!」

 

 藤波さんと一緒に急に飛び出したウィンドノートを追って、タウラスが待ち構える神殿に向かう。

 相棒が傍にいない以上、いつものように空を飛んで移動する事は出来ないので、使っている手段は免許を持つ藤波さんが運転する社用バイクだ。

 淡い白と水色を基調とする一般的なバイクよりも派手目なデザイン。

 機能は特別製だけあって大きな荷台や自然領域の劣悪な環境とエッセンゼーレの猛攻に耐えられる耐久性も標準装備されてるし、数秒で100kmの速度も出せるエンジン付き。

 おまけに振動や音だって全く感じさせない。

 

「もう、なんで勝手に一人で行っちゃうんだよ!?」

 

 家の破片が散らばる凸凹した悪路と疎らに残ってるエッセンゼーレを押し切るバイクを運転しながら、藤波さんが考えを言い始める。

 

「かなり思い詰めてる感じだったよね。それだけ翠ちゃんを守りたいって意志の現れかも」

 

「でも、その為に選択した決断が……」

 

 続きを言おうとした時、藤波さんが遮った。

 

「止める為に今、こうして追いかけてるんでしょ?」

 

「……はい」

 

 決意を宿した返事の後、思い返す。

 ウィンドノートは霊獣と呼ばれる強力な存在。そんな彼と契約を結び、力を得られたのは異世界への転生や転移ファンタジー系のライトノベルのテンプレートになぞらえて言うならチート級の能力を授かったような物だろう。

 確かに神の意思にも等しい彼の自由自在の風や本人の長年、磨き上げた冷静な判断力や観察力には何度も助けられたし、戦場で命を預けるには贅沢過ぎる戦友なのは間違いない。

 でも私達の間には、それ以上の絆がある。

 一緒に色んな景色を見て、一緒に様々な人と交流して、一緒に美味しい物を食べて、一緒に興味深い知見も得て、一緒に夜遅くまで喋りこんじゃったりもして……

 私達はただ使い使われるだけの仕事仲間じゃない。

 最早、家族(・・)同然の存在だ。

 日常にいないと違和感と虚無すら感じる大切な仲間なんだ。

 どっちかが犠牲になる、なんて取捨選択は論外。

 生きるも死ぬも一緒じゃなきゃ本当の意味で一蓮托生なんて胸を張って言える訳が無い。

 

「ウィンドノートを無情に切り捨てたりも犠牲にもさせない。必ず一緒に帰ります」

 

 私の顔を見て、藤波さんはヘルメット越しでも分かる柔らかな微笑みを携えて注意する。

 

「飛ばすよ。しっかり掴まってね」

 

 

 ウィンドノートは視線だけを使い、神殿内でタウラスと静かで激しい対峙を繰り広げている。

 闘争を求む牛頭人身の霊獣は初の邂逅を果たした貨物車の護衛、先程の魂魄行軍で風のサポートや情報分析、支援に徹底し、戦う術など無いはずの頭だけのハスキーの言葉を受け、面白おかしそうな対応を見せる。

 

『ハッ、てめぇだけで俺の相手が事足りるだト!?

 確かに俺はてめぇが来ても良いとハ言ったけどよォ……

 攻撃も迷いとの決別も出来ねぇキタザトに頼りっきりのひっつき虫が俺と渡り合えルと本気で妄信してやがんのか?』

 

 ウィンドノートは少しドキリとした。

 確かにようやっと見つけたかけがえの無い相棒を喪いたくないと思い立った勢いでここまで乗り込んだが、彼自身はまだ命を賭す覚悟が固まっていない。

 その原因は恐らく、 "二度目の命日" が直結してるのだろう。

 ウィンドノートの前身である現世のレギンは師匠であり一番の戦友を目の前で亡くし、その怒りで敵国の兵を蹴散らしながら猛進した結果、数多の銃弾を身に受け、軍人として誇らしき死を迎えた。

 その時の死は命が尽きる一般的な物であり、老夫婦と過ごした穏やかな時間、友と一緒に戦場を駆けた激動の日々も抱えながら逝く事が出来た。

 だがここはエクソスバレー。

 あの世や冥界と同じ魂の終着点で死を迎えても現世に転生する事も天国や地獄に送られる訳でもない。

 馴染み深い言語、自分の名前、打ち込んでいた趣味や仕事に関する知識や技術以外の生前とエクソスバレーも含めた記憶や思い出を抹消された状態で蘇る。その摂理は霊獣でさえ逃れられない。

 つまりウィンドノートが二度目の命日を迎えれば、北里やフィアレスの存在と彼女達と一緒に過ごした日々も強制的に忘却されるのだ。

 そんな恐怖を抱えた未熟な内心を見透かされるも、ウィンドノートは表情を凛々しく立て直す。

 

『俺を侮り過ぎるなと警告はしよう。

 ……これでも、娯楽には分類されない血腥(ちなまぐさ)い真の戦いを貴様より経験し、乗り越えて来たのだ』

 

『口だけじゃねェ事を願うばかりだナ』

 

 張り詰めた緊張感に満ちた静謐な空間の中、彼の視線は北里を誘き寄せる餌に使われた人質に向けられる。

 その中の一人、タウラスに顔面を殴られ、鼻と口から出血している少年に目が留まった。

 

『……おい、約束が違うではないか』

 

 タウラスは気だるそうに反応すると、北里とウィンドノートが自分の再戦に応じた際、人質全員を無事に返す約束を思い出す。

 

『アぁ?

 ……あァ、こいつか。俺に億さず勇敢に立ち向かった褒美を与えただけだ』

 

 タウラスが指を鳴らすと少年に霊獣の加護が施され、最初から存在していなかったように彼の傷がすぐに塞がる。

 

『初めて使っタぜ、目の前の対象一人を死以外から立ち直らせる癒しの施しなんてヨォ。

 霊獣は例外なく持ってる力だが、俺は相手を叩きのめす事にしか興味なかったカラなぁ。

 おら、これで良いんだろ?』

 

 傷付けた行為に対する謝罪が発せられなかった事に不本意そうだが、霊獣が共通して持つ癒しの施しの効力を身を持って把握しているウィンドノートは溜め息をついてタウラスの約束が果たされた事を承認した。

 目の前の相手が鼻息を荒らげて待ちかねている態度を横目にウィンドノートは人質全員を浮遊させて移動させられ、如何なる脅威も受け付けない風を纏わせて引き取った後、外へと送り出す。

 邪魔者が居なくなったのを確認するとタウラスは待ちかねていた闘争を始めようと無骨な大剣を虚空から取り出し、剣先を地面に打ち付けて大きな音と振動を生み出す。

 

『ようやくお楽しミの時間だナぁ。

 ……退屈させんジャねぇぞォ!?』

 

 享楽の牙を剥き出した後、タウラスが一瞬で走り出し、ウィンドノートに向けて大剣を振り下ろす。

 ウィンドノートは体を一瞬で風に変えて霧が消えるかのように難を逃れるが、空ぶった大剣は床を伝って神殿内を激しく揺らし着弾点に巨大な亀裂を刻んだ。

 

 (相変わらず桁違いの速度と威力だな……)

 

 同じ霊獣なのにここまで能力の差が顕著に現れるか。

 ウィンドノートが元軍人らしく対等に渡りつつ自分の中だけで敵の鋭く重厚な一撃を冷静に分析する間もなく、水平に切り払った大剣が再び迫る。

 

『Blahh!!』

 

 無鉄砲に振るった剣では無い。

 タウラスが秘める野性の直感でウィンドノートが現れた場所を背中越しに正確に察知したうえで攻撃するという神業を見せたのだ。

 タウラス自身が磨いた怪力と技術に加え、大剣のリーチの長さも相まって剣先は一瞬でウィンドノートの頬を捉えていた。

 すぐさまウィンドノートは宙を翻し攻撃を躱す。

 攻撃的能力は備わっていないウィンドノートが今、取れる反撃はタウラスが粉砕した神殿の建材の一部を風で浮かせながら石礫のように飛ばす事だけ。

 しかしその速度はメジャーリーグで活躍するプロのピッチャーのストレートに更に累乗させたような魔球。当たれば貫通するしどんな武器よりも殺傷力の高い鋭利を宿す。

 常人ならば認識も出来ないその投擲物はタウラスの大剣だけで全部無効化される。

 

『つまんネぇ殺意だな。てめぇ、勝つ気あんのか?

 俺は勝利の欲望に滾らねぇ奴を痛ぶる嗜好ハねぇんだヨ』

 

 不満気にぼやくタウラスにウィンドノートが一瞬で接近。

 頭部を振り上げ、回るコマの要領で連続して攻撃を繰り出すもののタウラスへの手応えは全く感じない。

 

『臆してんのかァ、てめぇ!?』

 

 太い腕の一振だけでウィンドノートを払い除けるタウラス。

 もう二度と他者を傷付けたくない。

 そんな宿願に沿って顕現されたウィンドノートの霊体は、唯一動物らしさが残った頭部だけで出来ており、素の破壊力はほぼ皆無、風で形成した刃や竜巻も物の切断に使える程度。

 彼に相手に物理的なダメージを与える手段はなかった。

 

 (……奴の言う通り、俺は戦う力を放棄したうえ、まだ過去も思い出も手放す覚悟が出来ていない未熟者だ。

 それでも北里を生かしたい。フィアレスとも違うやっと巡り会えた唯一の友を護りたい。心からの願いに偽りは無い)

 

「な、なんだ!?」

 

 一方、神殿の外ではウィンドノートの風によって出入口まで護送され、藤波に保護されていた人質の者達が神殿を震撼させる強力な嵐に目を丸くする。

 数分前の状況や馴染み深い普通と違う風の質感に北里の焦燥と不安が更に募る。

 

「ウィンドノート……」

 

「ちなみに翠ちゃん。臆したなら今なら引き返せるけど、どうする?」

 

 意地悪に聞かれた藤波の質問に北里は首を振った。

 かつてラブポーションの凶刃を阻み、北里を窮地から救った分厚い渦巻く風は、武器と霊体を使ったタウラスとの駆け引きの末、散乱した神殿の残骸を巻き上げながら更に勢いを増す。

 その大きさはタウラスを呑み込める程に成長するが、自分の身の丈を超える嵐を目にしても彼は微動だにせず寧ろ、期待外れかと言わんばかりの落胆を見せる。

 

『見掛け倒しだな。

 馬鹿でかく守護一辺倒の意思しか感じられねぇ』

 

 大剣を握っていないタウラスの左手が振り払われると嵐は発動者諸共、塵のように霧散される。

 振り終えた腕は未だに殺意を見せないウィンドノートと闘争を侮辱された怒りで震えていた。

 

『これは死闘だぞ?

 どちらかがくたばるか立っているかを明確にさせなきゃ終幕は来ねぇんだ。

 血に塗れながら人を凌駕する快感を経験しているというのに何故、愉しめない!? 心が躍動しない!?』

 

 守護の嵐と共に吹き飛ばされたウィンドノートは顔を振りながら唸る。

 

『……こんな残虐な愉悦に、喜びを見出した事など一度も無い。

 戦争で初めて命を奪って以来、俺の心には罪悪感と闘争への忌避が滞留している。

 戦いに爽快も達成も無い。残るのは悲惨な虚無だけだ』

 

『……反吐が出る程の甘チャンだな。

 奪うのも喪うのも怖ぇから、てめぇはそうやって全てに目を背けて逃げていくのか?』

 

『……』

 

『ま、そう望むなら結構だ。

 てめぇが無価値な奴だって事はよーく分かったからよ。

 とっとと死ね、すぐに何も考えずに過ごせる場所に送ってやる』

 

 タウラスの大剣がゆっくりと持ち上がる。

 確実にウィンドノートを両断出来る位置まで調整された構えは、敗者に確実に死を与えられる処刑の刃。

 痛みなく首をはねる事も急所から逸れた真正面でも身を焼き尽くすような深手で相手の動きを鈍らせる事も出来るタウラスの強力な技の一つだ。

 

『|サン・スプレッド・カンターレ《散れる喜びを歌え》。

 心配すんな、痛みは一瞬だ。

 ……つまんねぇ闘争だったが約束だからな。てめぇの敗北を見届けた後は大人しく帰る』

 

 凄まじい速度で大剣が真っ直ぐ振り下ろされ、冷たく煌めく刃先はウィンドノートを捉えていた。

 タウラスの技量や周囲の阻害といった何らかのハプニングで大剣がズレるといったラッキーは期待出来ない。

 ウィンドノートは今の内に本人には届かない最後の別れを考えていく。

 

 (キタザト…… 奴との約束は代わりに果たした。元気でいろよ)

 

 次に目が覚めた時、空白の自分となりUNdeadの面々、北里とも彼らと過ごした日々とも永遠の別れとなる事に恐怖が湧き上がる。

 だが、かつての戦友のように誰かを護りながら死ねる。

 同じ立場になれた事に、彼は少しだけ誇らしい気持ちが浮かんでくる。

 ゆっくりと(まぶた)を閉じようとしたその時だった。

 霊体を両断するはずだった大剣の軌道がずれ、石材の破裂音を奏でながらウィンドノートが倒れる横の床に突き刺さる。

 振り下ろす大剣を妨害する物もタウラスが慈悲をくれた訳でも無いと思っていたウィンドノートに外れた原因は予測が付かない。

 だが、大剣を見れば何が起きたのかはすぐに分かった。

 着弾した大剣の一部から慣れ親しんだ霜と冷気が付着していたからだ。

 

『……中々、ドラマチックな参上じゃネェか』

 

 タウラスと同時に部屋の出入口を見ると氷剣を構えた勇敢な少女、北里 翠がそこにいた。

 

 破壊司る牛魔人(2) (終)

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