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アンロック・ゲフュール  作者: RynG
Chapter4 破壊司る牛魔人
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魂魄行軍(2)

 途中で子供を保護していた藤波さんと合流し、公園エリアの私達も行軍開始。

 UNdeadのウルディア支部で戦闘業務を行う藤波さんの戦法は手に持つショートソードから状況に合わせて使いたい異なる四つの戦闘スタイルを様々な能力を持つ極彩色の光を放つ遠距離技、 "虹霓輪舞曲(こうげいろんど)" の発動をトリガーに切り替えていくテクニカルな感じだ。

 横に広く斬り払い、敵を蝕む冷気の塊である青色を中心とした色遣いのオーロラを作る虹霓輪舞曲の技の一つ、フロストヴェールでパストスラッシュウルフ達を蹴散らした今の形態は寒色の絢霜(けんそう)

 剣先には隣に並んで戦う仲間にも分かりやすいようエッセンゼーレも魅了する冷気の様な水色の淡い光を宿している。

 氷と剣だけなら私と同じではあるけどフィギュアの回転を取り入れた動きで剣を振るい持続力の高い冷気を仕掛けたりと絶えず連撃を繰り出す事を意識し率先して攻める私の戦い方とは違い、藤波さんのこの形態は一時的に上昇する防御力と敵の攻撃を受け止める抗拒力を活かしたカウンターを中心とする守り重視のスタイルとなるから備えて待つ姿勢を強要されるのだ。

 

「ひぇぇ、また来たぁ!!」

 

「大丈夫!!」

 

 テーブルに所狭しと置かれた沢山のご馳走を狙ってまたパストスラッシュウルフの群れが成人の霊体に襲いかかって来ても藤波さんは慌てない。

 フィギュア時代の振り付けや引退してから楽しみ始めたダンスのステップなどを取り入れたしなやかな動きで敵と霊体の間に迅速に割り込んでは横への薙ぎ払いを中心とする範囲攻撃でオオカミの頭部に似た部分を氷漬けにしながら両断する。

 しかし近距離の多数の相手向けに開発された寒色の絢霜では空中から襲撃する相手や瀕死の敵に対する徹底的な一撃が届かないので、そこは私のグレールエッジで狙撃したりバームネージュの急成長の反動を利用して貫き巨大な氷樹で攻撃を受け止めたりする。

 

「ありがと、翠ちゃん!!」

 

「あっ・・・・・・

 いえ、大丈夫です」

 

 憧れの選手から名前を呼んで貰い一瞬、自我を失いかけた。

 気を引き締めろ、私。今、仕事中なんだから。

 

『キタザト、周辺の安全は確保された。

 ゆっくり次の地点に進んで行け』

 

「オッケー」

 

 公園の施設同士を繋げる勾配のきつい坂の道路を進むと駐車場に着くまでの最初の中継点とも言える一つ目の公園に着く。

 突出した点はポーンの形をした細長い建物達の合間に雲梯(うんてい)やネットを使った遊具などで障害物競走の様な道を作り、終点に巨大な滑り台が待つ大きなアスレチック。

 本来の現世なら子供と大人が体を思いっきり動かし楽しむはずの設備は絶対に通るはずの極上の霊体に思いを馳せて涎を垂らすエッセンゼーレ達によって約束の相手を待つ公園のベンチ程度の扱いをされている。

 軍勢を構成しているのは遊具から飛び出たパストスラッシュウルフだけでは無い。

 貨物車が襲われた時に相手した甘噛みのウルバットもこちらを見つければ一斉に飛びかかり、獲物に牙を突き立てようと大きな口を開ける。

 嗜虐の衝動に駆られ本能のままに繰り出す波濤の攻撃は社員さんの銃で怯ませ、私や藤波さんで殲滅する。

 

「皆さん!! 決して私達の傍を離れてはいけませんよ!!」

 

 道路の時よりも激しく押し寄せるエッセンゼーレの攻撃に避難誘導にも熱が入っていく。

 そして上空から襲撃する敵の傾向に合わせて藤波さんも虹霓輪舞曲の技の一つを発動し、別の戦闘スタイルに変化する。

 

「暖色の(ほむら)、ガルプフレイム」

 

 彼女が剣を振り上げて地面から巨大な炎の上昇気流が立ち昇らせると一直線に飛び込んで来たエッセンゼーレの義体を焼き尽くし、暖色の焔に切り変わった証として重心を低くした力の入りやすい姿勢を取り、剣先には篝火の様な逞しい赤と黄が混じった光が宿る。

 この形態の藤波さんは正に "剛力" 。

 氷の如き堅固な防御特化から打って変わり、難局を打破する力に満ち溢れた火光の剣は剣を振った衝撃波だけで周りの大木、岩壁、公園の施設一部を巻き込みながらエッセンゼーレ達を両断し、小手先の遠距離攻撃ではビクともしない突破力も兼ね備えている。

 けど力に増強した分、守りも速度も落ち別の動きに移行するまで少し時間がかかっているから今回は後隙を潰すフォローに入る。

 エッセンゼーレの勢力を粗方削っていると滑り台の上から他の奴とは桁違いの巨体と王者の風格を持つパストスラッシュウルフが颯爽と降りてくる。

 人を余裕で見下す大きさのオオカミに戦う術を持たない漂流者は勿論、厳しい鍛錬を積んでいる社員さんですら少し威圧されている。

 そんな強大な存在に立ち向かう前に藤波さんが一言。

 

「私が打つ球に合わせて」

 

「はい」

 

 切羽詰まった状況だけど普段と違うメンバー、環境で戦えて楽しいとも感じ取れる微笑みを残す藤波さん。

 そういえばこの人の選手時代からのモットーは "苦難の時こそ楽しめ" だっけ。

 昔から不運に付き纏われて数々のハプニングで思い通りに進まなかったり周りも巻き込む大事件に遭遇して迷惑をかけた事もあったけど、それでも前を向き続けられたのは小さい頃から藤波さんのパフォーマンスと生き様を見てきたからだ。

 戦闘中にこんな事を思い出すなんて私にも少し余裕が生まれたのかな。

 

「明色の光輝、万度祓(まんどばらい)日輪(にちりん)

 

 勢いを付けた剣を横に振ってゆっくり邁進する巨大なシャボン玉みたいな球体を発動させると藤波さんの戦闘スタイルがまた変化する。

 剣先に黄と白と若干の緑が混じった神々しい光が宿る明色の光輝は状態異常を付与で撹乱しながら戦う虹霓輪舞曲の中でも少し異質な形態である。

 藤波さんが放った球体を盾にしながらボスに接近していくと目障りな飛来物を破壊しようと口から刃の様に鋭い風の渦を吐き出す。

 軽い切り傷だけで儚く割れた球体は隠された本領を発揮する。

 攻撃を受け切るだけでなく破裂する事であらゆる凶禍や万魔を祓う高濃度の光が敵対するエッセンゼーレ達だけに降りかかり、眩暈(めまい)を付与する。

 眩暈に陥り視界を奪われたエッセンゼーレ達はまともに動けなくなる他、同士討ちすらも引き起こす。

 万度祓日輪で頻繁に援護して貰いながら半壊した群れの中に突撃し、進路を妨害する雑魚を蹴散らしたらボスの下へ向かう。

 斬撃、カウンター、鍔迫り合い、氷と光と風が入り交じる壮絶な戦いの応酬の後、私達のグループは窮地を乗り切った。

 一時的な安全を確保出来たので行軍は一旦中断。社員さんから休憩を宣言された後、ベンチに座った私の隣に藤波さんがショートソードを腰のホルダーに帯刀しゆっくりと腰を下ろした。

 

「ふぅ。初っ端からハードだよね」

 

「出来れば、もうボス格の相手はしたくないですね・・・・・・」

 

 虚空から社員さんに貰った自販機のジュースが引き出され手渡される。

 藤波さんとお揃いのどこにでも売ってそうな青色のパッケージのスポドリ缶だけど藤波さんから貰ったって情報補正だけで私にとっては黄金にも勝る価値が生まれた。

 

 (・・・・・・ちょっとだけ大事に握り締めよ)

 

 缶の開ける音が弾け、藤波さんが一口喉に流すと私に気さくに話しかけてくれる。

 

「翠ちゃんって入社してどれくらい経つの?」

 

「ご、五ヶ月です」

 

「え、そんな短い月日であそこまでキレッキレに動けるの? 凄いなぁ。

 私も翠ちゃんもフィギュアしてたし、やっぱりスポーツを経験していた方がエッセンゼーレとの戦いも有利なのかな」

 

「ど、どうでしょう?

 うちのメンバーの中には現職の画家やミュージシャンもいますし、一概には、断定出来ないかと。

 それに私の場合は霊獣の力があるので」

 

「ねぇ、霊獣の子ってどんな子?」

 

「真面目で融通が効かないけど尋常じゃない責任感を持つ頼れる強い相棒ですよ。

 私には勿体無いほどの」

 

 そうポツリと呟いた最後の一言に反応した藤波さんは穏やかな目を保ちつつ内心を見透かした言葉を投げかける。

 

「もしかして自分には不釣り合いだと思ってる?」

 

 

 真面目で融通が効かなくて悪かったな。

 上空からタレンザ石塔街全域を偵察、状況分析と伝達をする俺、ウィンドノートは相棒が日頃から抱いていた所感にツッコむ。

 一時的な休息に入った公園エリアならば暫し心配はいらないだろう。

 さて、次は大橋エリアを覗くとしよう。

 街を繋げる海峡の橋の上ではクレイストン殿とアレイフ殿が漂流者達の防波堤になるように双剣携えしスカルウォリアー達と交戦している。

 

3rd(サード)チューニング、サウザンドノイズ!!」

 

 アレイフ殿が蓄電したギターケースの形をした打撃特化の機巧、フェローチェを橋の上に叩き付けると雷の衝撃波が地を伝い、双剣携えしスカルウォリアー達を呑み込み骨に戦士の鎧装と二刀を被せただけの義体を灰燼に変える。

 

「へっ、一昨日来やが」

 

 まだ生き残っていた双剣携えしスカルウォリアーがアレイフ殿の背後に奇襲を仕掛ける。

 彼は迎撃の構えを取るが地面を擦った摩擦熱を纏う槍の一撃、クレイストン殿の魂の一筆(ブレイズ・ハート)によって撃沈した。

 

「油断しないでよ」

 

「悪ぃ、助かった」

 

「そんなに慢心してるから遅刻癖も直らないんじゃないの?」

 

「あぁー・・・・・・

 ほ、ほら。まだ敵いるぞ!! 集中しろよ、エマ!!」

 

「あ、こら!! 気を逸らすなタクト!!」

 

 彼らの眼前には未だ絶えぬエッセンゼーレの軍勢が押し寄せる。

 クレイストン殿は画用紙に絵の具を一滴落とすように小規模の空間に閉じ込め核熱を浴びせる範囲攻撃、点格子の緋赤(ドリッピング・ボム)で、アレイフ殿は2ndチューニング、鳴動閃裂や先程と同じサウザンドノイズなど広範囲の一掃に向いた技で殲滅していく。

 無駄の無い熟練の動きに言葉を交わさずとも互いの意思を汲み取った連携。流石はUNdeadの先輩達だ。

 

『二人共。

 この大橋に沸くエッセンゼーレは徐々に衰退傾向にある。

 もうひと踏ん張り頼む』

 

「了解、こっちはまだまだ余裕だよ!!」

 

「そろそろライブもフィナーレか。最後はもっと派手にかましてやるか!!」

 

 あれだけ派手に爆発と火花を散らしたのにクレイストン殿とアレイフ殿は涼しい顔をしている。

 この調子ならば大橋エリアの救護が一足早く終わりそうだ。

 

 魂魄行軍(2) (終)

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