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アンロック・ゲフュール  作者: RynG
Chapter3 羨望の海王
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羨望の海王(1)

「皆の尽力によってリコルト諸島に平穏を取り戻す第一歩を踏み出せた。本当にご苦労」

 

 メンリルホールから秘密兵器を持ち帰り、軍事基地に戻った私達をクラジさんが労ってくれた。

 秘密兵器の正体は私の身長と同じくらいの大きさをした鉄の塊にしか見えない人の手では持ち帰るのが厳しそうな槍なんだけど兵器から使用権を認められた人魚 (クラジさんかフィオナちゃん) が手を翳すと手元を離れた風船くらいの軽さでびっくりするくらい簡単に浮遊し、持ち運ぶのに苦労しなかった。

 

「で、こいつは一体何なんだ?」

 

 兵器を見つめるタクトさんの疑問にクラジさんが厳粛に答えた。

 

「嚙み砕いて言うならば電流を用いた拘束機具でありそれ自体に攻撃性能は無い。

 中の仕組みには素行不良な少年が道を踏み外さないよう親身に寄り添い続けた熱き情熱を持った若き警官の信念が組み込まれていると言われているが、俺も含め人魚族全員が真相を知らない」

 

 正体不明の兵器といえどメランアヴニール討伐の力になってくれるのは間違い無い。

 全ての準備を終えた今、これからの一番の問題は・・・・・・

 

「後はメランアヴニールの位置の特定ですが、もうこの海域から離れてますよね・・・・・・」

 

 リコルト諸島やシュトラール号の襲撃から相当経っている現況、フィオナちゃんの言う通り世界の掌握を目指すメランアヴニールが近場にいる可能性は殆ど無いだろう。

 奴の欲望が実現する前に繋がる証拠も特定に役立つ技能も無しでがむしゃらに近辺を探したって阻止出来ない。

 まだ姿を確認していないのにメランアヴニールの勝ち誇った嘲笑が浮かびそうになってるとウィンドノートが注目を集めた。

 

『案ずる必要は無い。奴の痕跡なら俺の鼻が掴んでいる』

 

 へ? 有り得ないくらい悩みがあっという間に解消されたんだが?

 一体どういう事かと聞くと相棒は論理的に語り始める。

 

『まず、パラスティアを襲いメンリルホールを牛耳っていたエッセンゼーレ共はメランアヴニールの義体から引き離された一部で産み出された存在である事。

 この前提を覚えているか?』

 

 私も含めて全員が頷く。

 自分の操り人形みたいに遠隔へ派遣でき、やられても自身の義体に還元して情報収集も可能なその特性を活かしてシュトラール号の構造を隅々まで把握し、全ての客室にエッセンゼーレを出現させた恐ろしい所業は記憶に新しい。

 

「世界の掌握を目指すメランアヴニールは大言壮語の存在では無かった。

 規格外の能力。頭領に相応しき知識の活用と冷淡な判断力。更には目障りな障害に邪魔されぬようエッセンゼーレに僅かな自分の匂いすら残さない徹底された足取りの処理まで完璧だった」

 

 霊獣の力でどんなに些細な断片からでも事件に繋がる道筋を嗅ぎ付けるウィンドノートに言わしめる用心深い奴から彼はどうやって手掛かりを得たのか。

 鍵となったのは沢山のエッセンゼーレの物量だったと彼は言う。

 

「シュトラール号、パラスティアの襲撃にメンリルホールの占領。

 確実な成功の為とはいえ、流石に部下を出撃させ過ぎたのが奴の唯一の失態だ。

 お陰で朧気だった奴の臭いの輪郭を記憶し、辛うじて奴の足取りを特定した。今すぐにでも引導を渡せるぞ」

 

 待ちに待った吉報を聞いてクラジさんは力強く宣言する。

 

「よし。全員、今すぐ出立するぞ!!」

 

 

 ウィンドノートの嗅覚を頼りに進む海流の強い道の景観は荒れ果てていた。

 貝や珊瑚が自生していた巨大な岩は瓦礫の山に変わり、メランアヴニールが通った後の白い砂に覆われた地表が焦土に塗られ、冷やし切れない燃えカスが海中に漂う道中は連発されたミサイルが通り過ぎたのかと思う程に抉り取られていた。

 "昏海王の血脈" と名付けられたメランアヴニールが蹂躙した学校に通う人魚の行楽地としても人気が高いかつての沈没船型博物館に繋がる道の跡は奴が残した配下によって無秩序に整備され、侵入者を阻む半ばダンジョンの様な妨害を用意していた。

 陸地が燃え盛り、足を使った移動が出来ないから移動手段はパラスティアに向かう時同様、アトラクション感覚で海中を遊泳するのだがわざと倒壊寸前にしておいた石柱を仕掛けていたり黒いエイのエッセンゼーレや沈没残滓を運ぶスカルシップの群れが襲ってきたりと厳しい時間稼ぎをしてくる。

 簡単に進めなくなってきてるけど逆に言えばメランアヴニールに確実に近付いてる証だよね。

 

「皆、気張れ!!

 平穏を奪い壊された我々人魚の怒りを奴に思い知らせるのだ!!」

 

「エクソスバレーの命運は私達の手に委ねられてると言っても過言ではありません。

 今こそ、地上からやって来た皆さんにマーメイドレンジャーの威信を示す時です」

 

 クラジさんとフィオナちゃんの激励が卑劣な妨害を掻き分ける活力に変わる。

 熾烈な道中を無心で潜り抜けていくと私達は開けた場所へと出る。

 そこは沈没船型博物館が建つ広場。ウィンドノートの嗅覚に基づいた探知によるとメランアヴニールがいる位置までは残り半分らしいのでここは中継地点って感じだね。

 エッセンゼーレもいないし軽くストレッチでもしたいところだ。

 

『・・・・・・ちっ、やはり休息など与えてはくれぬか』

 

 ウィンドノートが顔をしかめると同時に巨大な影が私達の頭上を暗く覆い豪速で通り過ぎる。

 あの蛇の様に細長いフォルムにうねりを加えながら空を飛ぶ様な遊泳の仕方。

 シュトラール号のデッキで対峙し、圧倒的な力の差を見せ付けてくれた見覚えしかない奴は矮小な存在を見下しながら悠々と降り立つ。

 

『困ったのぅ。

 せっかく生かしてやった命をメランアヴニール殿に楯突く事で粗末にしようとするとはのぉ』

 

 数時間ぶりだね。龍に良く似た水流の義体を持つメランアヴニールの部下、豪丸。

 

 羨望の海王(1) (終)

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