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アンロック・ゲフュール  作者: RynG
Chapter3 羨望の海王
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珊瑚礁での共闘(2)

 エクソスバレーの滅亡を阻止する為、何より困っている人魚達を手助けする為にメランアヴニールとの戦いに身を投じた私達はマーメイドレンジャーに捕まり、濃く染まっていく青の深域へ向かって行く。

 今はフィオナちゃんの右腕に掴まってスカイダイビングしてるような体勢でいるんだけどウィンドノートの言う通り、彼女の泳ぎは本当に凄い。

 速度は体感的に緩いジェットコースターみたいだけど私が乗りやすい態勢を作りながらも正しいフォームを維持し続けてるから不快な振動も殆ど感じず乗り物酔いも伴わない快適さだ。

 でもメランアヴニールとの戦いに向かう以上、無音の行進が海本来の美しさを眺めるだけの優雅な海中散歩となる訳も無くタクトさんがいち早く察知する。

 

「敵さんのお出ましだ」

 

 群れを成して暗流から現れたのはUNdeadのデータベースにも記載されていなかった全身が黒いエイの義体を持つ遊撃隊。

 多分、逃げたフィオナちゃん達を追跡する為にメランアヴニールが派遣した下っ端集団ってところかな。

 幸い、強さはそこまでだったからみんなそれぞれの武器を呼び出し迎撃の姿勢を取るとグレールエッジを飛ばしたり電気を纏った機械で沈めたり連携の取れた槍術で複数体、殲滅させたりしてエッセンゼーレ達の頭数を減らしていく中、フィオナちゃんも空いた左手に虚空から取り出した槍をエッセンゼーレ達に向ける。

 

「海を脅かす影に制裁の光を」

 

 個々の技量よりも連携の戦法を大事にするマーメイドレンジャー達の槍術も見事だけど最年少ながら彼らの上に立ち続け手本を示し続けるフィオナちゃんの実力はそれ以上だった。

 アニメの魔法少女の可憐な杖みたいな黄色とピンクの大人びた装飾を纏うアヤボラの槍を使った洗練の動きは海流の妨害や泳ぎに慣れていない私を抱えているハンデを感じさせない程に流麗で力強い。

 敵を滅する槍には地獄に送り込まれた善人を救う為に垂らされた蜘蛛の糸の様に水中から差し込まれる一筋の光のような淡い光量を宿し、穂先の軌道はさながら天の川を擬似的に生み出してるかのように煌めく。

 マーメイドレンジャー達と協力して敵を蹴散らしても人魚達から得た絶望の収穫量を自慢するように増援がまだまだやって来る。

 フィオナちゃんは未だに衰えないエッセンゼーレの軍勢を崩す為に旗手が軍の戦意を高揚させるかの如く槍を掲げる。

 

千波(せんぱ)先導の星明りプルミエール・エトワール

 

 槍から放たれた輝きは味方の私達に聖母の祝福の様な温かさを、影たるエッセンゼーレには太陽を間近で浴びた様な強烈な熱波を齎した。

 光による恩恵と天罰の分配を済ませ、フィオナちゃんは同乗する私に前持って伝えた。

 

「少し飛ばします。キタザトさん、しっかり腕を掴んでくださいね。

 闇を斬り裂く琴の清音(リラ・ソヌリィ)

 

 私が頷き、フィオナちゃんの腕に力を込めると技が発動し彼女の身体能力が一時的に強化されて泳ぎの速度が上昇し比例して槍を振るう動きも迅速になる。

 私が付いてくのに精一杯なペースになったフィオナちゃんは槍を琴の爪に対局するエッセンゼーレを絃に見立てて楽章を奏でるように的確に撃破し敵の勢力を削いでいく。

 自ら前に立ち活路を開いて仲間を支え導く勇姿は物理的に仲間達の士気を奮い立たせ、身体能力に持っている武器の切れ味まで上げてくれる。

 力の湧く威光を賜った全員でバッサバッサと敵を切り倒しながら更に底へ進むと暗流に満ちていた風景が晴れ渡り、リコルト諸島の海底都市の一つ、パラスティアの影が見えてきた。

 珊瑚礁の上に築かれた色鮮やかな景観や貝殻の建物達が織り成していたであろう小規模ながらも綺麗な街並みはエッセンゼーレの襲撃によって建物が半壊し灰が舞いエッセンゼーレが闊歩する赤い地獄に変貌している。

 我が物顔で侵略を進めるエッセンゼーレを倒しながら街に降り立つと二度目の命日を押し付けられた人魚達の血痕と身に着けていたであろう衣服が散乱していてここで起きた惨劇が生々しく感じられた。

 けどマーメイドレンジャーのリーダーであるクラジさんを筆頭に優秀な戦士達の活躍のお陰で潰えていない命は少なくない。

 助けた人魚はウィンドノートの癒しの風を与えマーメイドレンジャーのメンバーに蒼白の恩寵へ送って貰う事にして本隊の私達は重要な役目を果たしに行こう。

 

「まずは激戦の中心で一人で凌いでいるクラジさんと合流しなければ。

 ですが、どうやって彼の居場所を探せばいいのでしょうか」

 

 小規模といえどもパラスティアの街は演劇やコンサートに使われる泡の様な造形のドームもビル群もある立派な都市だ。全員で手分けしたって見つかるか分からない広さの領土である。

 でも都合良く遙か遠方から発された音まで拾え聞き分けられるウィンドノートの霊獣の耳がピクっと立った。

 

『激しく多勢の敵と撃ち合う鉄の音を感知した。

 きっとマーメイドレンジャーのリーダーが戦っているはずだ』

 

 話によるとクラジさんはメランアヴニールの襲撃から休み無く戦ってるそうだ。

 いつ倒れたっておかしくない緊迫感を持ってウィンドノートの案内に従って辿り着いたのは豪勢な台地。

 台地が元から持つ高貴な美しさを損なわないように建てられ、パラスティア一番の観光地であるドームに繋がる立地に建ちSNS映えもしそうな純白の大橋だった建造物は所々で盛火が噴き上がる戦場になっており、満身創痍のメンバーや影に還る前のエッセンゼーレがそこら中に倒れていた。

 その中心、一部分に軽い鎧を身に着けただけの筋肉質の上裸を惜しげも無く見せる男性の人魚が海に残る最後の灯火を護る為、銀色の髪で編んだ凛々しい髪型と共にアラフラオオニシの巨大な槍と間欠泉の様な高圧力の水を振り回し、悪しき有象無象を駆逐する。

 傍からだとエッセンゼーレ達を圧倒してるように見えるけど激しく揺れ動く肩やフラフラの体幹から疲労が簡単に察せられる。

 だからこそフィオナちゃんは冷静さを欠いて即座に駆けだしたのだろう。

 

「クラジさん!!」

 

『待て、考え無しに疾走しては』

 

 今すぐにでも援助しようと向かったフィオナちゃんはウィンドノートの警告を最後まで聞かず阻むアビスマーマン達を蹴散らして橋に突入した。

 けどクラジさんを消耗させ限界寸前まで持ち込んでいるエッセンゼーレ達を邪魔するなと巨大な影が強烈な打撃と共に降り注いだ。

 クレーン車と同じ規模の大きさを持つ茹だったカニの義体のエッセンゼーレは聞くに堪えない威嚇と共に汚染された貝殻や鉱石をぐちゃぐちゃに混ぜたような謎の液体を豪腕に絡ませていく。

 突然の巨大エッセンゼーレの出現に不意を突かれて反応が遅れているフィオナちゃんに向けて、エッセンゼーレがハンマーみたいな丸まった先端の鋏を地面に叩き付けると鮮烈な光が周囲を襲い時間差で爆発した。

 直撃すれば霊体は四散、余波だけでも纏わりつく燃焼が身を蝕む重症を負う。

 

「フィオナ!!」

 

 クラジさんが一瞬、爆発の方向を見やるけど押し寄せるエッセンゼーレの応戦によって心配の許可は却下される。

 けどフィオナちゃんの事に関しては問題無い。

 

「大丈夫か? 心配なのは分かるが先走んなよ。

 戦闘もセッションも誰か一人が走りすぎたら崩れるぜ」

 

 割って入ったタクトさんが如何なる氷炎にも対応可能な超合金の武器で防御した事でフィオナちゃんに爆発のダメージが及ぶ事は無かった。

 私達も合流に成功したところでクラジさんとの合流の番人を務める目の前のカニ野郎と対峙する。

 

「な、なんですかこいつは・・・・・・

 海にこんな個体は見た事ありません」

 

 少し後退るフィオナちゃんに向けてタクトさんが簡単に説明してくれる。

 

「知らなくても無理ねぇよ。

 こいつは本来、陸に生息するエッセンゼーレだからな」

 

 " ボンブウェア・マウンテンクラブ "

 UNdeadのデータベースにも登録されているこいつは砂漠や火山などの身体を蒸発させそうな熱に満ちた自然領域に多く生息するエッセンゼーレだが、こいつは十中八九、メランアヴニールが召喚した奴だろうな。

 仕事で何度か交戦した経験に基づいて説明すると強さは中の下と言ったところ。けど真正面で戦えば討伐難易度が跳ね上がる相手。

 厄介なポイントが殴る事に特化した腕とさっきも出していた黒い液体。

 液体の正体はカニ味噌の如くぎっしり義体に詰まった石油。

 これと鋏から放出される発火性の胞子と殴った際に発生する熱波を組み合わせれば拳から爆弾級の爆裂を連発出来るって訳だ。

 しかも厄介なのは自らが発した熱で倒れないようクールダウンが必要かと思いきや熱が蓄積する度に義体の動きが強化される特性のせいでオーバーヒートという概念がこいつには無い事だね。

 旱魃(かんばつ)によってフィオナちゃん達の故郷である海が壊れるのを防ぐ為にも長期戦には絶対、持ち込みたくない。

 本来の火力を考えれば橋が全壊したっておかしくないのだが、恐らく今のは挨拶程度に打ってるからひびが入るだけで済んでいてカニ野郎は相当、舐めプしてるんだと思う。

 大した推察力も無いのに敵を弱い獲物と見定めてどうやって遊ぶかしか考えてない実にエッセンゼーレらしい慢心だ。

 

「フィオナ。お前さんがエッセンゼーレに使った光を掲げる奴、まだ使えるよな?

 そいつを開戦の合図としてスイ達はいつも通りに頼むぞ」

 

 タクトさんの指示が投入された。

 海に生きる者達にとって天敵である乾燥を司る初見の敵にフィオナちゃんは心配を表すけど自信満々に答えて見せる。

 

「了解です。

 心配はいらないよ、フィオナちゃん。私達は対処に慣れてるから。

 だから支援をお願い出来ないかな」

 

『うむ、命が穏やかに過ごす領域で暴れる無法者に灸を据えるとしよう』

 

 下手すれば傲慢と思われても仕方無い自信を押し出しちゃったけど勢いもあってか信頼してくれたフィオナちゃんが槍に祈りを込める。

 

千波(せんぱ)先導の星明りプルミエール・エトワール

 

 光で力を分けて貰ったらカニ野郎に接近開始。

 今度は容赦無く木っ端微塵にしようと石油を充填しながら鋏を振り回してくるのでアイシクルロードで懐に潜り込み、ウィンドノートの風で俊敏に運んだグレールエッジを鋏の先端に向けて放つ。

 研修先で偶然、遭遇したニパスを掌握する氷神の牙で鍛造された究極の冷刃はボンブウェア・マウンテンクラブよりも格上の存在の力が宿っている。

 当たった鋏は寒冷に対する抵抗を無視してカチコチに凍り、鋏に付着する胞子と殴った際に発生する熱波を封じた。

 生存の本能で凍結を解除しようとカニ野郎は石油をかけ、そこに着火して溶かそうと試みるけど私の剣から発せられる冷気は氷として固体になっても冷めやらない。

 液体の石油が鋏の先端を覆う氷に触れれば忽ち氷の仲間入りを果たし、自慢の鉄槌は自分でも振り下ろせない重量に増していく。

 そうしてカニ野郎の義体が着火源の石油に塗れたら、着火の役割を担うタクトさんの番だ。

 

1st(ファースト)チューニング、ボルテージレイズ。

 良い陽動をありがとな、スイ達」

 

 タクトさんのフェローチェは既に最大出力。

 体の動きが鈍った一瞬が現れたところで、タクトさんの強力な一撃が炸裂する。

 

2nd(セカンド)チューニング、鳴動閃裂」

 

 高威力の電力を纏った鈍重な一撃がカニ野郎の巨大な義体に命中し、表面を覆う石油が引火して大爆発が発生する。

 自分が大好きな熱でやられるなど想定していなかったであろうカニ野郎はあっという間に灰になり、活動を停止。ゆっくりと影に還っていきいっちょ上がりっと。

 

「見事な手際と実力だ。

 お前たちが陸でエッセンゼーレと奮闘する慈善活動をしている話、嘘ではないようだな」

 

 ボンブウェア・マウンテンクラブが倒れると同時にマーメイドレンジャーのメンバーが介入に成功出来たから、あっという間に向こうの雑魚達を片付け終えた人魚達を代表してさっきまでエッセンゼーレ達と孤軍奮闘していた男性がこちらに話しかけて来た。

 疲労が溜まってる銀髪の男性をウィンドノートが回復させた後、彼はメンバーの肩から離れ、立ち直る。

 

「地上から到来した救世主よ、助太刀への感謝も兼ねて改めて自己紹介させてくれ。

 俺はクラジ・エッジウェーブ。

 マーメイドレンジャーのリーダーとして人魚族の安全、そしてこの海全てを護る責務を負っている」

 

「おたくらの話は聞いてるぜ。

 俺らもメランアヴニールのせいで折角の休暇を台無しにされたんだ。喜んで討伐に協力させて貰うぜ」

 

「かたじけない」

 

 タクトさんとクラジさんによる大人達の話は少々、堅苦しく進んでいく。

 

 珊瑚礁での共闘(2) (終)

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