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アンロック・ゲフュール  作者: RynG
Chapter3 羨望の海王
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栄華への出航(3)

 リラックスした熟睡を経て目が覚めた後、身体を伸ばす。

 時間は朝の六時と完全に現世でランニングする為の習慣が染み付いた早さで二度寝も検討する時間帯だったけど、折角の特別な休暇だし夜とは違う光景を見に行こうかな。

 同室のクッションの上で丸まって寝ているウィンドノートと入り口付近のベッドで毛布を放り出して寝ているタクトさんを起こさないよう静かに部屋を出て、事前にいつでも開放されてると聞いている地上三階に出る。

 流石に大小様々なプールの水と楽しい仕掛けは一旦、休止中なのでデッキには吹く風とシュトラール号がゆっくりと海を掻き分ける心地良い自然の音だけが周囲を満たしていて、眠りから覚めたばかりの私や先客をゆっくり覚醒の手助けを施してくれる。

 そして待ち望んだ光景が訪れる。

 徐々に昇っていく太陽擬きが海を橙色に染め上げ、夜と切り替わるエクソスバレーでは稀有な瞬間。

 この海域限定でしか見られない懐かしき朝焼けである。

 

「綺麗・・・・・・」

 

 現世では何度も見たはずなのに変動しない空模様と人工の昼夜に慣れてしまったせいか僅かに疲れの残った霊体に染み込む美しさと完璧な彩度に思わず感慨の言葉を漏らしてしまう。

 今日もアクティブな休暇を楽しむ気分を作ったところで予定を思い返す。

 この後、朝食を食べ終える頃にシュトラール号は遊園地の様な規模と迫力を誇る人工の宝島 ”ミニドラド” に停泊しリアルシューティングゲームで遊べるんだって。創作のプロであるタクトさんに味わうべきクオリティって言わしめる程だからかなり期待出来る。

 ミニドラドを目一杯楽しんだ後は少し遅い時間に真珠の様に美しい純白の水上都市、 "パテレーナタウン" で残りを楽しみ今日は終わりって流れだったな。

 っと、いつまでも朝日を眺めている訳にもいかない。客室に戻って出かける準備をしなくちゃ。

 

 

 瑞々しいフルーツサラダにクリーミーなスープ、焼き立てパンと一緒にじゃがいものガレットやベーコンエッグのプレートの朝食を食べ終え、船を降りると海賊の遺産をテーマにした巨大な自然と木製の飾り付けに覆われた島が眼前に現れる。

 大学の研究者達が募った島の探検ツアーに参加した(てい)を徹底する動きやすい私服のスタッフから専用の玩具の銃を受け取ってゲート前で待っていると彼らを統率している責任者であろうカウボーイハットの大柄な男性がゲートの上に立ち、堂々と腕を広げる。

 

「やぁやぁやぁ、君達がキャプテンアンドリューの遺産に惹かれて参加してくれた客人達だね。

 私の名前はミゲル。大学教授として生徒達に講義をする傍ら海賊伝承を追い求めている。

 まずは今回の招集に応じてくれてありがとう。

 私のゼミ生から銃は貰ってるかな? 安全には十分配慮しているがこの島は危険が少ない訳では無いからね」

 

『何故、乗客の安全が確証されていないのにイベントを開催するんだ?』

 

「しっ。演出の為に大袈裟に言ってるだけだよ」

 

 アトラクションの導入は黎海(れいかい)を駆け巡った海賊達の歴史を語るって名目で世界観から現在地の島の説明で始まりキャラクターに扮していないスタッフからイベントの詳細を聞き終わったら宝探し開始の合図であるゲートが開き、参加者がスタッフの指示に従って進んでいく。

 シューティングゲームのルールは五つのステージをクリアするってシンプルな内容。

 ゲートに入ってすぐ待っているのは島の中とは思えない程、精巧に再現された辺境の村をイメージした小規模の建物と車の駐車場。

 駐車場にはミゲル教授と一緒に海賊の遺産探しをしてるゼミ生の人が車で待機していて四人ずつ乗るように促される。

 この運転手が今回、私達のグループで宝探し全般の案内と進行を務めるスタッフに当たる訳だが振る舞いや言葉遣いなんかも一人一人違うので毎回、新鮮なガイドを受ける事が出来るとの事。

 今回、私のグループを担当してくれるのは金髪をポニーテールにまとめた活発なギャルの女性だ。髪の色は違うけど雰囲気とかメイクに華美が見受けられないから現世のクラスメイト、清水さんに少し似ている。

 

「はぁ~い、今日は参加してくれてありがとうございます。皆さんのガイドを務めるキャサリンでーす。よろしくどうぞ。

 皆さんは幸運に恵まれてますよ。キャプテンアンドリューが荒波を潜り抜けて見つけた財宝を比較的、安全な状況で間近で見れちゃうんですからね。

 貴重な経験を全力で楽しむ準備は宜しいですか?」

 

 ガイドのお姉さんの呼び掛けに同乗の子供達が元気に答えた後、車はエンジンの猛りを上げて全速力を披露してくれた。

 街を抜けると第一ステージであろうジャングルが眼前に広がる。

 ジャングルらしく植物が密集し湧き水も点在した緑の世界だがぬかるんだ悪路だったり所々に草丈の低い植物が生えた岩肌といった乾燥部分も見えるので完全な肥沃の地では無いみたい。

 匂いや環境音なんかも現地に赴いたり生きてた頃に実際住んでた人からの監修も受けたりしてるからか本格的に再現されていて作り物の世界である事を忘れてしまう。

 

「おっとっと、かなり車体が揺れますね。

 皆さん振り落とされないように決して車外から身を乗り出さないようお願い致しま〜す。

 ・・・・・・ってやっぱりジャングルは虫多いですね〜

 虫除けスプレーを撒きますね。これは結構効果高いんですよ〜」

 

 半自動走行の車の上でガイドのお姉さんが霧状の白い液体を吹き掛けた瞬間、スプレーの臭いに刺激を受けた巨大な蜂達が羽音を強め木々の隙間から襲い掛かってくる。

 

『何処から出現した!?

 常に索敵し続けていたはずなのに敵を察知出来んとは・・・・・・』

 

「落ち着いて。これ、ホログラムだから怪我の心配もいらないよ。

 多分、ガイドのお姉さんが殺虫剤撒く時に点灯するようにプログラムされてるんだと思う」

 

 ゲームに不慣れなウィンドノートに軽く説明してる合間に慌てたお姉さんから事前に配布された銃を使って撃墜するよう懇願される。

 一度、友達に誘われてゲームセンターに置いてあったライド型のシューティングゲームをやった事があるけどこっちは銃の照準を自由に四方に動かせる分、ヒット判定が厳しめだし加減の無い振動が容赦無く集中を阻害してくるから思ったより難しい。楽しい没入型ゲームでありながら意外と射撃訓練にも向いているね。

 銃と息を合わせたアクションで虫達に襲われたジャングルから始まり鉱石を纏った甲殻類が多数住む水の洞窟、巨大な鳥に追跡され続ける岩山、海に敗れた亡霊が死に引き込む海域を抜けた私達は遂に最終ステージ、船の墓場に辿り着いた。

 船の残骸と財宝が見渡す限りに覆いつくす浅瀬の様なフィールドの中央で鎮座する立派な海賊船。あれこそキャプテンアンドリューが遺したお宝で間違いないだろう。

 船上に上がるとお姉さんが目の色を変えて水を掬うように金貨や宝石の数々を眺める。

 

「おぉ~!! 見てください皆さん!! どこもかしこも金ばっかり!! やはり伝説は本当だったんですね!!」

 

 無断でよそ様の家に入ってる以上、すぐに帰してくれるわけもなく財宝の中から埋もれていた骨の怪物が私達の前に立ちはだかる。

 立派な海賊の出で立ちの怪物が身に着けている赤のコートと黒いズボンは幾多の荒波に揉まれたせいで裾がボロボロになっていて命懸けの生前を逞しく生き抜いた事が窺える。

 

『吾輩はキャプテンアンドリュー。全ての黎海を駆け巡った男。

 宝を求めし命知らず共よ!! 吾輩の宝を欲するならば力ずくで奪って見せろ!!』

 

 アンドリューが二刀を抜き怨嗟の雄叫びをあげる。

 ラスボスらしい演出で気分が上がったところで私は銃を構える。

 

 

「そうか。

 あの世界を思う存分満喫出来たのなら俺も勧めた甲斐がある」


「はい!! とっても楽しかったです!!」

 

『たまにはゲームとやらも悪くないな。

 本社に戻った時、世話係のゴーストに尋ねてみるか』

 

「言っとくけど普通のテレビゲームはここまでの迫力は無いからね」

 

 シュトラール号に戻った後、わざわざ迎えに来てくれたタクトさんと一緒にポーチドエッグまで載った贅沢なローストビーフ丼で少し遅いお昼ご飯をいただいた私達は全てのステージをクリアした記念に貰ったメダルを眺めながら冷めやらないゲームの興奮を思い返す。

 圧倒的な世界観の中で銃を片手に波乱万丈の冒険に出かけるおよそ一時間半の非日常体験はどんな客層にも素晴らしい思い出を提供してくれる新感覚の娯楽で高評価を得続ける理由も身をもって体感した。

 シュトラール号が次に向かうパテレーナタウンにも俄然、期待が湧き上がってくる。

 

「スイ、この後時間はあるか?

 良けりゃダーツの相手になってくれよ」

 

「良いですね。

 私、ダーツするのは初めて」

 

 そう言いかけた途端、如何なる事態にも脅かされないはずの船体が揺れ動く。

 

 栄華への出航(3) (終)

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