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アンロック・ゲフュール  作者: RynG
Chapter2 幻想の侵略者
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幻想の侵略者(4)

 勝負を制した数分後、肩で息をしながら御造が立ち上がる。

 加減した低温に蝕まれている御造の霊体は満足に刀も振れない状態なのに執念だけで残った熱を再稼働させ、再び攻撃する。

 

「認め、られ、るか。

 畜生の、撲滅だけを願い、奴らを超える研鑽を積んだ、俺が。

 畜生を従えた、少女に、敵わぬ、など・・・・・・」

 

 かじかんだ霊体から出せる攻撃は余りにも弱弱しく、剣の柄だけで撃ち落とせた。

 手元から零れ、刀を滑落(かっらく)させた御造はステゴロで襲ってくるが最早、老人にも劣る機敏だった為、これもあっという間に鎮圧させる。

 

『雌雄は決したのだ。潔く降伏を認めろ』

 

 ウィンドノートの威圧を受けても御造の戦意は薄れない。

 

「諦め、るものか。

 俺が倒れれば、滅星が、畜生に翻弄された、者達の、帰る場所が無くなる。

 丹精込めた作物、親しき者を奪われ、畜生を許せぬ部下の星として、導、く為に、かくなる上は」

 

 そういうと御造は自身の体内に蓄えていた蒼電をフルパワーで帯電させながら大きく腕を広げ始めた。

 ま、まさか自爆でもする気なの!? だとしたら急いで止めなきゃ!!

 と走ったけど咆哮と共に周囲を焦がし尽くす蒼電を纏った御造に近付く事など出来なかった。

 

「エッセンゼーレよ。我が身を供物とし、真なる、力を、解放せよ」

 

 御造の霊体が徐々に浮き始め、遠のいていく。

 サファイアクイーンが御造の意思に答えて吸収しようとしてるんだ。

 大きな電池をロボットに差し込む様に御造を吸収したらあいつは格段に強化されて清華さんと緋袁さんでも倒すのが危ぶまれる。急いで応援に向かおう。

 

 

 御造の相手を北里達に任せ、宝石の形骸の眼前に立ちはだかった清華と緋袁。

 吸吞湖月の地底で対峙した時と打って変わり強力な一撃を受けるだけで体を構成するサファイアの大部分が崩れる危機に陥っているこの形骸に見下す余裕など残っていない。

 宝石の形骸は没落した貴族が醜い命乞いを求める様な金切り声をあげるが今も栄遠の銀峰のトップに立つ清華とかつて隣に並んでいた緋袁は怯まない。

 

「んじゃ、始めるか」

 

「ええ」

 

 形骸に隠された過去を覗き見ても二人に躊躇いは無い。抱く信念は大事な故郷を護る責務と形骸に刺すとどめは優しくしようとする僅かばかりの慈悲だけだった。

 短い頷きで形骸へ走った緋袁にサファイアのナイフとスピニング・メデューズを(けしか)けるが息の合った連携で清華が成長させた樹木でスピニング・メデューズを全て無力化。

 分厚い枝も大半の石片を防ぐ傘となり、緋袁の下まで辿り着いた石片は僅かになったがそれも彼の力強い棍棒の一振りで粉々に砕かれた。

 規格外の形骸でも捉え切れない速度で滅多打ち可能な近距離まで接近した緋袁は北里が共有してくれた形骸のコアが確認された場所、スカートを模した下半身の中心部を最大の力で振り抜けるフォームに突入している。

 

「悪ぃな。お前が形骸である以上、家族を守る為に成敗させて貰うぞ」

 

 緋袁の打撃が自身の宝石を対処できるのは投擲のナイフで実証済み。

 弱点であり自分が形を保てる生命線のコアを破壊されてたまるかと形骸は硬質の腕を咄嗟に(かざ)す。

 本来ならば如何なる得物も拒む強固な宝石は防御した後、全壊は免れたが薄いひびが右腕を刻んでいる。

 前例のない事態を目撃した形骸の怒りは秘匿の鉱柱を揺らす程に最高潮に達していた。

 

「貴方の力を以てしても一撃での破壊は厳しいですか」

 

「今のは分厚いとこで防御された。

 けど損傷具合を見るに二、三回叩けばいけそうだ」

 

 怒りの影響で崩落した荷物を払いのけながら緋袁は再び猛攻を開始する。

 がむしゃらに反撃を試みる形骸だが悉く清華の操る植物に阻害され、緋袁が的確に破壊。

 高名を轟かせたかつての盟友達の連携は当時より劣っているが宝石の形骸を圧倒するには充分過ぎる強さを備えていた。

 防御に使った自慢の両腕も短時間で脆弱と化し長くは保てない。

 清華と緋袁視点で見ればチェックメイトである。

 

「そろそろ幕引きだ」

 

 致命傷を晒す一撃が寸前に迫る危機の時、形骸に御造の声が響く。

 

「エッセンゼーレよ。我が身を供物とし、真なる、力を、解放せよ」

 

 形骸に身を委ねれば霊体が無事である保証は無い。

 それでも課せられた試練を乗り越え互いの使命を遂行する為に覚悟を固めた命令を形骸は速攻で実行した。

 蒼電を最大出力まで解放した御造を体内に取り込むと託された彼の力が迸り、ボロボロだった形骸の義体を保護し、弱点を剥がしにかかった緋袁に一時的な撤退を強要させるだけでなく、欠片に変わる寸前だった形骸の義体を修復してくれる。

 

「大丈夫ですか? 緋袁」

 

「やべぇぞ。こいつ、突拍子もなく力を強めやがった。

 与えたダメージをチャラにしただけじゃなく丈夫さも身に纏う電気も一層、磨きがかかってやがる」

 

 生まれ変わったように義体を新調した形骸は品格を体現したドレス姿から軽量の鎧を身に纏った美しい戦士になり、今まで召喚した部下と自身の強固さにかまけた過信を脱ぎ捨て闘志に満ち溢れてるようにも見受けられる。

 緋袁の推測通り、怪力の籠った一撃を直撃させてもひびは入らず蒼電を滾らせたサファイアのナイフと拳はあらゆる場所に焼痕を残しながら対峙する二人を追い詰めていく。

 

「清華さん!! 緋袁さん!!」

 

 御造との戦いを終えた北里達がウィンドノートの神風で形骸の攻撃を捻じ曲げながら慌てて介入してくる。

 何か事情を知っていそうなので二人は勝負の顛末と同時に尋ねる事にした。

 

「勝利はしたんですけど・・・・・・

 御造が最後の力を振り絞って、あの形骸に吞み込まれたんです」

 

「合点がいったぜ。道理で急激に力が上昇するわけだ」

 

 エクソスバレーで強さを決める基準は霊体が宿す揺るぎない心持ち。

 守護、蹂躙、憤怒、矜持といった積極的な意思と覚悟が手に持つ得物に力を与え敵を打ち倒す助勢となる。

 故郷を奪った者たちへの復讐という共通の気迫を持つ御造と形骸が一体化すれば合算した個々の能力は跳ね上がり、ウィンドノートを憑依した北里をも超える戦力を誇るだろう。

 吸収の利害は戦力の増強だけではない。言葉を話せる御造と同調した結果、彼の声と共に拙い憎悪を撒き散らす事が出来るようになったのだ。

 

『ウガァァァァァァァァ!! 殺ス!! 消ス!!

 畜生ニ滅ビヲォォォォォォォ!!』

 

 雷鳴が響き渡るかの如き迫力で叫んだけたたましい咆哮は蒼電の威力を高めるだけでなく一行の霊体に小程度の電撃と合体で得た形骸の力の片鱗を植え付け、仄かな焦げ臭さも付着させた。

 余波だけで内部に熱烈な刺激を流す威力に強めた蒼電を纏う本体と攻撃の数々は直接、得物で触れられない制約を課し、一行に余裕のある距離での防御と回避を強要させる。

 しかし命を賭した強大な力が無際限に続く道理は無く、限界を超えて出力し続ければ二度と蘇生が叶わなくなる程、霊体が消滅してしまう。

 

「鎮まりなさい。

 これ以上、死力を尽くして私達を殺しても貴方達を捕らえる憎しみからは逃れられません」

 

『憎キ畜生ヲ滅ボセルナラ、生無キ身体ナド惜シクナイ!! 偉ソウ二指図スルナ!!』

 

 樹木での拘束を試みた清華だが、蒼電で全て灰に変わってしまう。

 青白い輝きと共に威圧を放つ形骸は続けて怒りを発する。

 

『心ヲ蹂躙シタ側ハ例外ナク罪ノ自覚ナド芽生エナイ!!

 ダカラコソ窮地二立タセ同等ノ痛ミト苦シミヲ味合ワセ自覚サセナケレバナラナイ!!

 他種族ヲ踏ミ躙ルダケノ、罪悪感ガ欠落シタ全テノ畜生二等シク死ヲ、報復の鉄槌ヲォォ!!』

 

 更に強めた蒼電が振りかざす剛腕に力を与える。

 命中すれば重度の麻痺でも灰燼すらも残るか不明の天変地異を齎す重撃。

 それでも恐れず真っ向から立ち向かう者がいた。

 無言で攻撃を受け止めた緋袁である。

 既に霊体の内部が尋常ではない熱に侵食されながらも鍛えた肉体と根気だけで耐え抜き、決して一歩も引き下がらない。

 

「・・・・・・踏み躙ってんのはてめぇだろ。

 過去の経験から過剰な恐怖が頭から離れないのは共感出来る。俺も未だに克服出来てねぇからな。

 だが気に入らねぇのは固執した価値観だけで全ての奴に当て嵌めて判別してる事だ!!」

 

 緋袁は今の形骸に過去の自分を投影していた。

 だからこそ、その後の言葉は自然と溢れていた。

 

「そこにいる北里は仲間と開拓した故郷を奪った俺が嫌いな人間だ。

 だから初めてあいつと会った時、憎い人間達と照らし合わせて完膚無きまで叩きのめそうとしたがあいつは違った。

 当事者じゃねぇのに自分の事のように深刻に考え、頭を下げてくれた度量を見て、俺は未熟さを痛感し省みる事が出来た。

 人間に属するだけで悪い奴だと決め付けて後先考えずに行動したせいで栄遠の銀峰の信頼を落とし、白猫達に何度も頭を下げさせた行いは愚行だと今ならはっきり言える。

 てめぇもまだ引き下がれる最中に胸に手を当てて振り返ってみろよ。今の自分の行いは本当に正しいのか、故郷を奪った奴らと同じじゃねぇのかってよ」

 

『我ラノ正義ヲ愚弄スルカァァ!!

 人ニ害ナス畜生ヲ排除スル正義ニ何ヲ恥ジル必要ガアル!?』

 

「ちっ、考えを改めねぇか。

 だったらぶん殴って目覚めさせるしかねぇな!!」


『今ニモ燃エ尽キソウナ、ソノ霊体デカ?』


 意気込む緋袁だが最大出力の剛腕を受け止める彼の霊体は限界を迎えようとしている。

 しかし受け止めていた力が分散される感覚に気付かされ隣を見やると同じ立場で形骸の腕を押し退ける碧櫓と響彌がそこにいた。

 

「・・・・・・何してんだ、お前ら?」

 

「本気で更生に取り組む囚人の手助けだ」

 

「早く行け!!

 俺ら二人でも長くは持たねぇんだからよ!!」

 

 三人が防御を受け持ったおかげで地雷原の様に危険だった蒼電はある程度の痛みを我慢すれば歩ける威力に緩和された。

 好機を逃さず北里達を引き連れた緋袁を形骸も黙って見ている訳では無い。

 サファイアのナイフを投擲し、腕から転落させようと妨害してくるがそれらは白波と雪菜が自慢の刃で斬った。

 

「道は我々が確保します」

 

「美味しいとこ、しっかり持ってってよね〜」

 

 投擲が無駄だと分かると腕に止まった虫を叩き潰すように固めた拳を発射する。

 それを阻止したのは招蘭の扇だった。

 

「あんたは彩の意志も背負ってるんだ。

 こんな所で立ち止まるなんて許さないから」

 

「わーってるよ。文句は後でたっぷり聞いてやる」

 

 数多の援助を借り、形骸のコアが潜む付近まで辿り着いた二人。

 まずは閑雅の里で託された爆竹をウィンドノートの風でコントロールしながら投げ、宝石の耐久値を削る。

 何発か投げ、ひびが入った部分を緋袁が叩けば一発で宝石を剥がし、強力な電磁波に覆われているコアを晒した。

 ここまでお膳立てすれば後は北里達の仕事。

 近付けず遠隔の攻撃手段を持たない緋袁に変わってコアを破壊する為、爆竹とグレールエッジを叩き込もうとするが形骸も黙って許容はしない。

 

『コア、ダケハ、破壊サセナイ!!』

 

 大振りな動きを加え、北里の撃墜に全力を注ぐ形骸だが急速に生えた樹木で動きを封じられた。

 

「お願いします。サメノキ地方の未来を貴方達の手で紡いでください」

 

 急所を固定し続ける清華の拘束が枯れる前に北里は全ての爆竹をぶつけ、過剰な爆撃によって脆くなったコアに無数の氷の刃を向ける。


「"踊れ、氷刃"」

 

 ウィンドノートの風に押された氷刃が一斉に突き刺さり、心臓を破壊された形骸が断末魔を響かせた。

 義体を保てなくなった形骸は薄い欠片となって飛び散っていき抱えた怒りと共に見えない影に還っていく。

 毒素が抜けた後に残っていたのは微かに息のある御造と混じりけのない輝きを持つ美しいサファイアであった。

 

 幻想の侵略者(4) (終)

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