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アンロック・ゲフュール  作者: RynG
Chapter2 幻想の侵略者
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雷霆切り裂く狼煙(3)

 頑丈に並んだ建物。

 清流が溜まった水源池。

 それらを支える台地。

 閑雅の里の全てが等間隔の激震に呑まれる。

 戦いに慣れていない村人が忍者の呼びかけに従って避難行動を取る緊急事態だけど私達にとっては失敗出来ない開戦の合図である。

 着信の届いたスマホをスピーカーモードにして清華さんと緋袁さんと繋げると私達は急いで合流しやすい閑雅の里の中心に戻り始める。

 

『貴方が望まなかった最悪の想定が当たってしまいましたね、緋袁。

 やはり形骸は自由を遮ったこの里をしっかり記憶していて御造 桃八に共有していましたね』

 

『なっちまったもんは仕方ねぇ。ハスキー、場所は分かるか?』

 

『現在進行形で追尾を続けている。

 合流次第、案内しよう』

 

 閑雅の里から五キロ離れた自然領域でウィンドノートは立ち止まった。

 相変わらず私の視界には開けた植物の群生地にしか見えないが相棒はもうカモフラージュしている御造とサファイアクイーンを見据えているんだろう。

 その証拠に見えないサファイアクイーンの行動がこちらに不利を強要させる物だと一瞬で察知するとすぐに軍神の如き命令を下す。

 

『直線上の電撃が来るぞ。守りを固めろ』

 

「はっ!? ど、どっから攻撃くんだよ!?」

 

 この場にいるみんなが内心、響彌さんの様に戸惑うけど清華さんが注目を集める一声をあげる。

 

「全員、私の近くへ。

 碧櫓、助力を」

 

「はっ」

 

 急いで清華さんの傍に寄ると彼女の杖で急成長したヤヒサの枝と碧櫓さんの大剣から解放した守りが合体し堅牢なドームとなって私達を包む。

 まるで金属を加工するような聞き慣れない甲高い音を奏でながら磨り減っていく一枚岩だが長時間持続する高火力の見えない攻撃を必死に受け止め、最後まで凌ぎ切ってみせてくれた。

 心を安静させる間も無く焦げ付いた盾を解除する前にウィンドノートが迷いなく次の行動を指南する。

 

『まずは奴の隠れ蓑を剥がすとしよう。

 緋袁殿、あの木々の間を潜り抜けるように棍棒を投げる事は可能か?』

 

「早速俺の力を必要とするか?

 良いぜ。大船に乗った気でいろ」

 

 棍棒の両端に光を宿らせ投擲準備を終えた緋袁さんを確認した後、茨が萎れて私達の隙を晒すと同時に力を込めやすいフォームを完璧に再現し投げ出された棍棒はどんどん速度を取り入れ、ウィンドノートの注文通り木々の間を綺麗に通り抜けて行く。

 すると宝石の割れる轟音とサファイアクイーンの悲鳴が鳴り響き、蒼電が途切れた脇腹の一部分からエクソスバレーに満ちる弱い光が入り込みずっと透明だった御造とサファイアクイーンを暴き出した。

 

「待ち伏せか。畜生にしては随分と知恵の回った事を・・・・・・」

 

 透明化を剥がされ更にご機嫌斜めな御造。

 さっきの投擲でGPSもサファイアクイーンの体内に入れられたしもう私達の目を欺く事なんて出来ない。

 もう御造に逃げ道なんてどこにもないんだから。

 

「ようやく馬脚を現したね!! サメノキ地方を脅かす俗悪たる人間と形骸め!!」

 

「我が同朋を徒に傷付け殺害した暴虐。半端な報いで済ませられると思わない事だ」

 

「うちの家族にあんなもてなしを振る舞ってくれたんだ。たっぷり礼はさせてもらうぜ?」

 

 雪菜さんと碧櫓さん、緋袁さんに続いてみんなも武器を取り出し睨み続ける一時の優位。

 気に食わないというより詰め寄られた焦燥が見える舌打ちを残した御造は戦闘する意思を見せずサファイアクイーンの肩から降りようとしない。

 

「貴様らと戯れる暇など無いのに・・・・・・」

 

 この反応・・・・・・

 やっぱり緋袁さんの推測通り、吸吞湖月で受けた鉄骨の大ダメージとレーザーの発射による反動で深手を負ってるサファイアクイーンを戦闘で失いたくないんだ。

 サファイアクイーンの元気な状態を見るに、RPGで言うなら恐らく全回復したからボスの所に向かいたいのに道中の雑魚に道を阻まれて消耗するのが嫌って感じかな。

 

「露骨に不機嫌を表現しなくてもいいじゃん。

 どんだけ急用でも知り合い相手には軽い挨拶をするくらいの余裕は持ち合わせるべきじゃん?」

 

「貴様ら毛むくじゃらと親交を築くなど二度目の命日以上に御免だ。

 俺の視界から消えなければ欠落が今、この場になるぞ」

 

「へぇ、面白い大見得切るじゃん。

 やれるもんならやってみろっつーの!!」

 

 招蘭さんの明るくも彩さんをぞんざいに扱われた怒りも混じった煽りと拘束用に呼び寄せた茨で取り敢えず御造の気を引くことが出来た。

 茨はようやく応戦した御造によって細切れにされたけどその隙に乗じて響彌さんの拳が眼前に打ち込まれる。

 単調なフットワークで躱しても雪菜さんと私の交差する剣、清華さんが使役する茨が絶え間なく御造に這い寄るが蒼電の斬撃を飛ばして遠くの茨を焼却したり対複数戦用の堅実な立ち回りで決して囲まれないよう位置関係を調整して少ない手数で叩き落していく。

 碧櫓さんの重撃と招蘭さんの軽やかな搦手も交えた荒波の様な横槍を加えても不動を貫く態度からこの人は自分一人でも獣人世界を蹂躙出来る実力を持ってるんだと改めて実感した。

 サファイアクイーンを従えてるのも効率が良いから以外に理由は無いんだろう。

 武器達の激突が休止し張り詰めた閑静が辺りを包んだ時、清華さんが問いかける。

 

「一体何が貴方を駆り立てるのですか?

 貴方が心の内に燃やし続ける動物への憎悪の火種はなんですか?」

 

 御造は切っ先を緩めずに静かに煮えたぎる怒りを少しだけ込めた。

 

「・・・・・・畜生は俺の、いや、村のみんなに訪れるはずだった幸福な未来を無差別に強引に奪った。

 だから俺も同じ手段で奪い血で償わせる。それだけだ」

 

 ふぅん・・・・・・ 復讐か。

 大事な人達の命が無下に扱われたら怒るのは当然だ。その怒りを赤の他人である私達が汲んで同情する事など出来ない。

 それでもこれだけは断言出来る。目的の為にかつて受けた仕打ちに倣って無関係な動物を巻き込むなんて絶対駄目だ。

 これ以上、被害者を生ませない為にも御造自身が負う傷が深くならないように獣人に贖罪の血を流させないといけない使命と衝動に支配されたこの人は止めなきゃ。

 

「けっ、はたメーワクな奴だぜ」

 

 やれやれと首を降る響彌さんをキツく睨んだ御造。

 でも耳を傾ける態度は ”傍迷惑” の真意を探ろうと必死になっていた。

 

「大事な人を殺した奴にキレるのは分かる。俺だってかーちゃんとか四臣のみんなが誰かに殺されたらって考えりゃ腹立って来るからな。

 でもお前が殺そうとしてる奴にだってお前と同じでなにかあった時、助けてやりたい。仇を討ちたいって思える奴らが誰にだって一人は近くにいる。

 もしお前がそいつらに同じ思いをさせたくねーってんなら残酷な連鎖の一部になってんじゃねーよ」

 

「畜生が俺の存在意義を否定するか・・・・・・」

 

 響彌さんの言う通りだ。

 自分を正当化させるような大層な動機を掲げて殺人を実行出来た果てで待つのは取り返しのつかない失意に満ちた後悔だけ。

 そんな暗闇に囚われていては本来歩むはずだった道から外れ前を向けず幸せを見失ってしまう。

 って力説しても生きてる間の半分以上を動物への復讐に費やしたこの人に完全に通用しなかったけど多少の心情の変化はあったらしい。

 自分の積み重ねた過去を否定し惑わせようとする私達を今すぐ消そうとサファイアクイーンに起動を命じた。

 

「ここ一帯諸共、こいつらを殺せ」

 

 いつでもすぐに動ける私達相手に大技を仕掛ける判断を誤った今がチャンス。

 釣り人から託された爆竹をウィンドノートにパスして突風でサファイアクイーンに投げつけた際、ボロボロになった部分に緋袁さんの追撃が入り奴の半身に更においそれとレーザーを撃ちにくいダメージを与えた。

 サファイアクイーンにダメージを与えられ動揺した御造に対応するのは今回の作戦で致命傷を与える役割を任せられた白波さん。

 相棒の美恵を走らせ軌道を引いてもらい、すぐさま刀を抜いて鞘に納めると手心を加えた斬撃が御造の左腕に痛みを走らせ、戦意を放棄させる。

 

「これに懲りたら、これ以上の愚行は重ねぬ事です」

 

 白波さんに見下されるように警告された御造に諦める様子は無く痛みに耐えながら刀をしまうとサファイアクイーンに乗りこちらに今まで以上の憎しみを向ける。

 

「この畜生共・・・・・・

 次に相まみえた時は、即座に殺す・・・・・・」

 

 イリュージョンみたいに巨体のサファイアクイーンと一緒にその場で姿を消した御造。なるほど、こんな一瞬で蒼電を身に纏わせられるんだ。

 ウィンドノート曰く、離陸したってことらしいので撤退したようだ。

 吸吞湖月前の砦と彩さんの成功体験と私達に向けた恨みを見る感じ、諦めてはいないだろうし傷を癒したら再び蹂躙を再開するだろう。

 正々堂々とはかけ離れているけど、あれだけ実力の離れた奴を相手するには完治される前にどうにか追い打ちをかけたいところ。

 

「GPSの追跡によると奴はここから西の方に向かったようだ。

 全員、体力は温存出来てるだろうしこのまま突撃するぞ」

 

 緋袁さんの提案を断る人はおらず各々のペースでケリをつける為の舞台に向かっていく。

 その途中で清華さんが栄遠の銀峰の統主として私達の隣に立つ。

 

「メデルセ鉱脈を護っただけなのに獣人の国に迷い込み、二つの派閥のいざこざに巻き込まれ、この地方の命運も託される。

 厄介な問題に巻き込んでしまった事、今この場で謝罪させてください」


「清華さんが気にする事じゃありません。困ってる人を見かけて自ら首を突っ込んだのは私の方ですから」


「流石は霊体の奉仕を信条とするUNdead社員ですね」


 この一週間、振り返れば濃密な出来事に満ちていたな。

 ただメデルセ鉱脈に不法侵入した御造を追いかけただけで別世界に迷い込んでウィンドノート以外の動物と会話して問題を解決する。

 少し驚いたけど私にとっては人間も動物も変わらないって再認識出来た良い機会だし、仕事のスキルアップに繋がる経験にもなった。

 なんだか別れの間際みたいになってるけどウィンドノートが訂正してくれる。


『謝礼を伝えるにはまだ早い時間だろう。

 形骸は完全に消滅していないし、俺達は御造 桃八を拘束出来ていない』

 

「そうですね。サメノキ地方の脅威を完全に消し去るまでは感慨の言葉は控えましょう。

 最後までよろしくお願い致しますね。北里 翠さん、ウィンドノートさん」

 

 雷霆切り裂く狼煙(3) (終)

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