表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アンロック・ゲフュール  作者: RynG
Chapter2 幻想の侵略者
46/88

雷霆切り裂く狼煙(2)

 さて、作戦会議でまとまった結論はこんな感じ。

 御造の蒼電を使って周りの背景に溶け込みながら侵攻するサファイアクイーンはどれだけ走り回って注視しても見つけるのは難しい。

 そもそもアフリカ大陸よりちょっと大きい面積を誇る全域を歩いて探せは無理があるって。

 家主の人がサメノキ地方全体の地図を貸してくれたから初めて全容を見たけど、かなり広いんだよ? ここ。赤外線ゴーグルで見通せた緋袁さんでもウィンドノートの心眼でもそこまでカバーする事は出来ない。

 そこで緋袁さんが提供した案が今いる閑雅の里で待ち伏せして迎撃する最中、逃げられても追跡出来るようGPSを体内に埋め込む。

 決着にまでもつれ込まないのは戦闘の激化によって家族同然の閑雅の里を巻き込まないようにする緋袁さんの優しさもあるんだけど、そもそも彼は難しいと思ってるみたい。

 

「なんでだよ!?

 俺達四臣に雪菜とかーちゃん、加えて力自慢のお前までいるんだから袋叩きでボコボコにすりゃ余裕だろうよ!?」

 

 短絡的思考の響彌さんに溜め息を零す緋袁さん。

 説明の為に焦点を当てたのはサファイアクイーンが放つ破壊光線だった。

 

「生きとし生ける全てを一瞬で焼き焦がすレーザーを撃って、あの形骸が消耗せずにいられると思うか?

 俺の勘になるがあれだけの威力を込められるならありゃ確実に反動を喰らってる。無闇に打てば暴発して形骸自身が消滅するぞ。

 奴もそれは承知してるだろう。だからこそ長引く戦闘に形骸を巻き込みたくは無いはずだ」

 

「・・・・・・じゃあ、ミツクリって奴は貴重な兵器を簡単に手放さないように侵攻の際に取る行動をより慎重に選択してるって事?」

 

 招蘭さんと同じ予測をしていた緋袁さんは恐らくなと相槌する。

 ウィンドノートが見せてくれた彼の視界に映っていたサファイアクイーンには碧櫓さん、白波さんと協力して負わせた致命傷が完全に治療出来ずに残っていた。

 僅かに存在を保ててるあの状態で無闇に連発すれば崩壊は一瞬だろう。撃つタイミングはより慎重に吟味しないといけない。

 もし、余計なダメージを受けたりでもしたら御造は撤退に舵を切るかもしれないから決着は難しいって言ったんだね。

 御造なら私達全員を相手にしても撤退するだけの数秒の隙を一瞬で作れるのは彩さんを殺した際に披露してるし、確実に倒すのは出来ないと考えるべきだ。

 

「失敗の許されねぇ一か八かの決行だ。

 奴にレーザーを撃たせたら俺達諸共この里は綺麗さっぱり消えるし、GPSが埋め込めなきゃ奴の足取りを追う術を手に入れる機会はほぼ無期限に遠のく。

 このチャンスをしくじりゃもう奴の居場所は掴めねぇぞ」

 

「では戦闘時の連携も綿密に確認しましょう」

 

 って感じに清華さんと緋袁さんの元二大栄遠の銀峰の上役コンビが中心になって戦闘での役割や連携を組み立てたりして作戦会議は終わり、暫く手持ち無沙汰な時間が出来た。

 他のみんなも自分達の手が及ばなかった人工領域の視察に赴き、この場は一時的な解散になったので私達も閑雅の里を見て回るついでに打開策に繋がりそうなヒントを得ようと忍者教室の先生から聞いたサファイアクイーンと戦った人達に話を聞いてみる事にした。

 軽井沢や富良野なんかの有名な避暑地を思わせる快適な気候と色遣いが暖かい灯篭の明かりに包まれた緑の地を進み、まず向かったのは人の住む集落の奥にある緩やかな滝壷。

 ここには確か釣りに勤しむ中年男性がいるって聞いているんだけどどこだろ?

 

『キタザト、あの御仁じゃないか?

 切り立った岩の上に座っている小柄な者だ』

 

 ウィンドノートが指す方には飛び込みに使えそうな岩の先端にじっと座り続け釣り糸を池の中に垂らす狸の獣人がいる。

 首の動きからもしかして眠ってるんじゃないかと思ったけど、目が覚めるまで待ってられないし心苦しいが起こす事にした。

 

「あの〜 すみません・・・・・・」

 

 恐る恐る肩を揺らそうとした時だった。

 彼の身体は霧となって霧散し私の首に小刀が突き付けられる。

 いつでもすぐに動けるように常に研磨し続けるあまりにも迅速な動きを入社してから戦闘を学び始めた未熟者の私に見切れるはずも無く、あっという間に動きを制限された。

 付き纏う不運が齎した厄介事だとしても来訪の度にこんな扱いを受けてたら心身が保てないよ。

 彼にとって誰にも公にしていない取っておきの釣りスポットに訪問して来た不審者に釣り人は眼鏡の奥の一重の目に眼光を宿らせる。

 

「入口からの気配を察知し、分身を用意してみれば・・・・・・

 お主、拙者に何の用だ?」

 

 入口からって、ひょっとして草を掻き分けた微かな音から私の存在を察知してデコイを用意してたの!?

 これがサファイアクイーンを撃退させた忍者の力か、恐るべしだね。

 って感心してる場合じゃない!!

 このままじゃ本当に怪しい奴って誤解される!!

 

「お、落ち着いてください!!

 私はUNdead所属の北里 翠という者です!!

 宝石の形骸を撃退した時のお話を聞かせて欲しいだけで、命を狙うつもりも釣りの邪魔をする気もありません!!」

 

 背後にいる釣り人にUNdeadの社員証を見せると彼はハッとして続けてこう聞く。

 

「お主が先生の通達の者ならば霊獣はどこにいる?」

 

『俺がその霊獣だ』

 

 風を一体化させ姿を見せた相棒。

 頭部しか無いシベリアンハスキーって特異な造形であっても釣り人はすぐに納得はせず、注意深く観察し前世を動物として過ごしたからこそ判別出来る他のシベリアンハスキーには無い格別な凛々しさを見た時、拘束が緩んでいった。

 

「拙者は霧の忍術に長けてる故、それらを用いた偽造も視野に入れたがお主は紛うことなき霊獣であった。

 人間の少女も含め、不躾なもてなしにご容赦願いたい」

 

「お気になさらず。これぐらい警戒しないと隠れ里を守れませんもんね」

 

 ふ、不運のせいで危うく二度目の命日を迎えるところだった・・・・・・

 表情も鬼気迫ってたしちょっと怖かったぞ。

 なんとか対等に話が出来るようになったところでサファイアクイーンの事を聞くと釣り人は再び釣り糸を垂らし静かに語り始める。

 

「忘れはしない、あれは十三年前の時だ。

 世にも珍妙な姿をした宝石の形骸はどこからともなく現れ、玉座に鎮座するが如く近辺に陣取っては気の向くまま自然を破壊していた。

 幸いこの里は既に絡繰りとカモフラージュが確立していた故、形骸に存在は覚られなかったがこのまま放置すれば悪影響が出ると思い、拙者も含めた里の上位忍者である我らは撃退をしたのだ」

 

 まぁ、単純に迷惑だしふとした攻撃で里に流れ弾が当たる可能性も考慮すれば放置は厳しいか。

 あいつが閑雅の里近辺に執着を示しているのはコンビニで買い物しないのに入り口で屯してたのを注意されて追い返された逆ギレ的な感じかな。

 

「交戦時の拙者の所感だが恐らくこの地方で最も強い部類の形骸と見て良いだろう。

 普通であれば戦を仕掛けてはならぬ支配者、遭遇したならば逃走を優先すべき絶対強者。

 他の言葉では奴を形容するには役不足である程に」

 

 サファイアクイーンって研修時代にプカク峰で遭遇したニパスを掌握する氷神と同じ様な階級だったのか。

 碧櫓さんと白波さんが吸呑湖月であいつと戦っていたのも兵士達が戦っていた雑魚のエッセンゼーレが急に強くなったからその原因の調査をしていた訳だし普通のエッセンゼーレとは一線を画す個体だったのはもっと早く気付けたかもしれない。

 倒しきれなかった忍者の皆さんに代わって私達がサファイアクイーンを対処するには事前に使えそうな情報を知る事だけだ。

 

「今から私達、強大なそいつと戦おうと思っています。

 些細な事でも構いません。あの形骸と戦って気付いた点などはありませんか?」

 

 微細な気配だけで見事、釣り上げた釣り人は釣果を籠に入れながら私に託す。

 

「我らが撃退に成功した一因の一つに爆竹(・・)がある。

 奴の義体は如何なる武器も弾く盾その物であるが過剰な衝撃や爆撃は通用したのだ。

 爆竹は今も拙者が肌身離さず持っている故、お主に何個か譲ろう。有効活用するが良い」

 

「ありがとうございます」

 

 釣り人にお礼を告げて次にやって来たのは里内で唯一の飲食店である居酒屋さん。

 上質な炭と色んな料理の美味しそうな匂いが漂う店内は常連さんの豪快な笑い声で満たされていてそこに交流を隔てる種族の垣根は存在してなかった。

 

「え!? 君、人間!?

 純粋な人間なんて幻だと思ってたよ」

 

「どうだい? この出会いを祝して一緒に飲まない?

 あっ、これお酒じゃないよ。乳酸菌飲料だからね」

 

 人間の私が入店しても彼らは嫌な顔、一つもせず寧ろ一緒の席で飲まないかと誘われて鼠の獣人の女の子がいなかったら断るのが大変だったよ。

 

「おじさん、無理強いは駄目って何度も言ってるでしょ?

 はい。注文してた酢の物」

 

「おぉっ!! たことわかめの酢の物!!

 甘さと出汁の効いた酢とこの食感が堪らないんだよ!!」

 

 弾けんばかりの笑顔と元気を振り撒きピンクのエプロンを揺らす私と同年代の容姿をしたこの子こそかつてサファイアクイーンを撃退した上位忍者の一人。

 朗らかに接する態度は本当の少女その物でかつて抗戦すらも避けるべきと言われた脅威を退けた強者とは思えない。

 

「お客さん、今ならほぼ席空いてますから好きな所へどうぞ」


「あ、今回は別の用件で」


 UNdeadの社員証を見せ、サファイアクイーンに関する目的で来たと分かると看板娘は通達の内容を果たそうと淑やかな笑顔で案内してくれた。


「特別席にご案内します」


 夜の縁側なんて現世でも体験した事ない空間に招かれ暫しリラックスしていると看板娘が小さな氷入りのお冷を持ってきてくれた。

 ウィンドノートが創った物とは違う心地良い風が吹き通る中、看板娘が隣に座る。


「先生から聞いてるよ。宝石の形骸に立ち向かう為に情報を集めてるんだって?」


 暴雨の囚獄にも流れる清水が生み出した天然の高級飲料を一口含んでフレンドリーに接する彼女の話術でも固い緊張を薄める。

 いくら歳の近い見た目であっても大層な肩書きを事前に知っていては頭の片隅で意識してしまうんだから。


「些細な事でも構いません。戦って気付いた事などありませんか?」


 少しサファイアクイーンとの戦いを想起した後、看板娘は気付いた事を教えてくれた。


「そういえば爆竹で身体の一部を剥がした時、コアが見えたよ。

 多分、あれが形骸の心臓部分じゃないかな」

 

 コア!? 心臓部分!?

 思ってたより核心を突いたヒントを提示されさっきの釣り人が釣り上げた魚みたいに私も食い付いちゃった。

 

「それって奴のどこにありました!?」

 

「ス、スカート部分の中心に覆われてたけどすぐに手の届く物じゃないよ。

 強力な電磁波を発してて近付く事も出来なかったし」

 

 それだけ厳重に防護しているならサファイアクイーンにとって触れられたくない部位なのは間違いない。

 お陰で緋袁さんに攻撃をお願いする時の指針が固まった。

 これ以上、お仕事の邪魔をする訳にもいかないしお礼を告げて去ろうとした時、タイミングを見計らった様に閑雅の里に激震が走る。

 

 雷霆切り裂く狼煙(2) (終)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ