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アンロック・ゲフュール  作者: RynG
Chapter2 幻想の侵略者
38/87

黄金山の大将(5)

 サメノキ地方の存亡を賭けたサファイアクイーンとの対決に備え、強力な装甲を貫通する切り札になるかもしれないかつての英雄、緋袁に協力を取り付けつつ栄遠の銀峰への攻撃を止めさせる為、私達は清算しきれない罪を犯した罪人とそれに至るまでの経緯と思想に共鳴した狂人が集まる自然領域、暴雨の囚獄を訪れた。

 しかし罪人の烙印を押し安泰の輪廻から追放したにも関わらず勝手に押しかけ都合良く扱き使おうとする清華さんの態度に苛立ちを覚えた黄金山の大将こと大罪人緋袁は即座に拒否した。

 義侠心に訴えかける力説でも魅力的な報酬でも靡かなかった彼を説得させる最後の方法として清華さんが選択したのは一対一の決闘。その相手として緋袁自らが指名したのは私とウィンドノートだった。

 特注のスペースで毎日鍛え、継続させている栄遠の銀峰を築いた元英雄の肩書きに恥じない力と故郷を奪った人間に対する憎悪を惜しみなくぶつけ終始ペースを握られ続ける私達だったが反逆の糸口は見つけられた。だからこそ強気に言い放つ。

 

「次の一撃で知って戴きます。本来、人間が持つ誠実と愛情を。

 霊体への奉仕を生業とするUNdeadを代表しあなたが抱えた苦しみも全て解放します」

 

 ウィンドノートの風も氷剣から発する冷気も最大まで出力を上げ、文字通りの決死の一撃を放つ構えと一緒に示した挑発を受けて久々に戦闘が齎す快楽が全身に滾った緋袁は思い切り口角を上げる。

 

「面白ぇ、かかってこい!!」

 

 思いっきり地面を蹴り、一瞬で緋袁に近付くと持ち味のスピードと手数の多さを利用した連撃を叩き込む。

 氷晶と高熱の光。

 温度も戦法も相反する衝突が起きる度、眩い火花がホールの中央で明滅し戦いがエスカレートしている事態を物語っている。

 寒暖を繰り返し成長した氷柱の様に鋭く研ぎ澄ませた攻撃は全部、緋袁の冷静な対処によって墜落されるけど撃ち合い中で動きの少ない今、ようやく彼の動きの癖を確信する事が出来た。

 それは左足(・・)だ。

 ウィンドノートの力を借りてアニメのコマ送りみたいに止まった残像を攻撃が飛んでくる左半身を中心に長時間観察した結果、無双の怪力を生み出す緋袁のメカニズムも見えてきた。

 緋袁の攻撃が剣で受け止める度に刀身を震撼させ受け手の体力を摩耗させる程のパワーを生み出せるのは弛まぬ鍛錬で身に付けた筋力とエクソスバレーによって具現化する気迫も一因だけどその根幹は左足を主軸にした回転にあるんだ。

 ボクサーが足を使って体全体を捻じり拳を打ち込むように最低限の動きで反動を付けて威力を高める。

 単純な動きのようにも聞こえるけど定着させるまでに何時間もかかる鍛錬を平然とやり遂げた事。それが獣人の中で右に出る者がいないパワーを生み出した秘訣。

 それと緋袁は攻撃以外にも大半の動きで左足を使う傾向にあった。

 防御で踏ん張る時も回避で踏み出す最初の足も左足。通常の構えの時点で重心は左足に乗せ脱力させた右足はまるで庇われるように一歩引いた位置に置いていた。

 それが選手の分析と愛猫ルミの細かな仕草を見逃さないよう身に付けた観察力で見抜いた緋袁の特徴。

 私達が攻めに転じる為に考えたのはこの動きを利用し動揺を誘うこと。

 チャンスは次の攻撃だ。

 緋袁が再び左足を使った強力な一撃を叩き込もうとする時、主軸に不意を突き僅かな隙を顕にした短時間で出来るだけ重い一撃を与える。

 幾ら武に優れた緋袁といえども突然、自分の体の癖を見抜かれ狙われれば多少は動きが崩れるはず。

 戦いを積み重ねた熟練者相手に小手先の技術が通用するかは怪しいがいついかなる時も確実な成功を実らせる為の厳しい鍛錬はヘルちゃんと一緒にやった。肉体一つで国一つ横断するマラソンに似た鍛錬は今、思い出しても血反吐が込み上がりそうなくらい過酷だったけどおかげで状況想定とその後の連携は感覚として染み込んでいる。

 通す隙を僅かにでも大きくこじ開ける為に脳が擦り切れる程に集中し何度も受けて慣れた攻撃の軌道を少しでも外側に逸らす。

 力量差で負けている以上、こっちは急所を撃ち抜く正確さと多少無理な体勢が効く柔軟で迎え撃つ。

 けど捻りを加えていなくても緋袁の一撃は変動を促されてもやわに流されはせず棍棒がふわりと浮いた瞬間をそのまま攻撃に流用される事も多かった。

 

「中々粘るみてぇだがそろそろ限界だろ?」

 

「なっ・・・・・・ まだまだ行けますから!!」

 

 今までと違う攻撃の対処をした事で緋袁が画策を企んでいるのかと疑心に満ちた目をしていたけど勝機がこれしか無い以上、勘繰られても続行するしかない。

 未だに堅牢な体勢を崩せず緋袁の独壇場が続き、打開の展開が見えずに悶々とする中、時計を横目で見た緋袁がつまらなそうに頭を搔いた。

 

「お前との戦いも存外悪くないが、そろそろ終いにしねぇとな」

 

 長く続く戦いを夢を見てるように楽しむ緋袁だったけど襲撃の準備があるからと次の一撃で幕を閉じようとする。

 ここを凌げなければ私達の負け。栄遠の銀峰は捕まった仲間と奪われた幸せを取り戻す囚人の暴虐に呑まれてしまう。

 絶体絶命のピンチにも見えるけどこれはチャンスとも言える。

 手早く終結させる全力を注いだとどめなら防御をかなぐり捨て必ず狙える隙が出来る。決めるならここしか無い。

 光が凝縮された棍棒を構え直した緋袁の風格は神の光背みたいに神々しく嵐の様に他を寄せつけない威圧を纏った鬼神。その状態から叩き込むのは光塵衝破の最終奥義、光塵衝破 金龍吼(こんりゅうこう)

 光塵衝破の真髄を余すことなく見せつけた殴打の形式で私を追い立てると最後に天地を創造し直す最大火力の光塵衝破 覇山を繰り出す。

 ウィンドノートの憑依とヘルちゃんとの鍛錬で磨いたフットワークを駆使して回避する度、打撃の最終地点にいた石材は亀裂が走りもう元の形状が分からなくなる程に粉々になる始末から本当に半殺しで済むのか疑い始めてきた。

 次々と打撃を躱す中、絶対に失敗出来ない待ち侘びた好機がついに訪れた。

 

『キタザト、覇山を右に流せ!!』

 

 ウィンドノートの指示通りに打撃を弾くと緋袁の左足を狙える隙が出来た。

 氷剣を石材に突き立て固定された柄を掴んだまま左足に蹴りを加えると反動を付ける最中だった緋袁は予想通り、僅かに体勢を崩しこちらに反撃する機会を一瞬提供してくれた。

 

「・・・・・・嘘だろ」

 

 蹴り終えると同時に剣を抜き終え、時を止められた様に無防備な緋袁に対して繊細に剣を素早く切り結んだ。

 敵の身体に刻まれた複数の小さな凍傷は空振りの攻撃の後、獣が肉を喰いちぎるような痛みになり反撃を与える所謂カウンター技。

 

「唸れ、氷傷。 "シャープネス・バイト"」

 

 フィギュアの氷上で踊る時、美しく見せるには全ての空間を活かした滑らかな動きが必要である。

 その経験を基に上空から俯瞰するように空間を見渡し攻撃を受け流す方向を即座に判断し振りを踊るように、早くでも緻密に剣を振るう。

 そうして相手を一瞬、無防備に変えたところで犀利な冷刃で返す攻防一体の技は緋袁の鍛えられた肉体に霜を積もらせ急激な体温の低下により膝を突かせた。

 

「へっ、中々良い一撃じゃねぇか」

 

 そう笑う緋袁には余裕が窺える。やっぱり辛うじて入れた一撃じゃ元英雄を倒す事など出来なかっ・・・・・・

 やばい、もう身体が負荷に耐えきれなくなっている。踏み倒し過ぎた多額の借金を払わされるように疲労が押し寄せてきた私の霊体はその場で倒れ込み強制的に瞼を閉ざされた。

 

 

 統主と四臣の二人が囲んで心配する気絶中の人間が現れても気晴らしの遊び程度の喧嘩を続行する程、緋袁も無常な獣人では無い。

 衰弱を晒す者に追い打ちをかけるなど卑劣な人間のやる事と同じだ。それに勇猛果敢に迫る相手を真正面で叩き潰し強者の悦楽を感じるのが緋袁にとっての喧嘩の美学である以上、燃え尽きた相手を痛ぶったって楽しくもなんともない。

 皮膚の下に痛く残る冷感を撫でながら緋袁は楽しかった生前をふと思い返す。北里の反撃が宣言通り、緋袁の心を解放したからなのか随分奥にしまったはずの風化したあの頃が鮮明に頭の中を巡っていく。

 冒頭で映し出されたのは豊かに溢れた山の自然と熱く沸き立つ白い湯気。

 まだ恐れ知らずの無邪気な猿だった頃、誰よりも強い群れのボスとして従えていた仲間が大胆に水溜まりに手を付けすぐさま引っ込めた場面から思い出した音声が流れ始める。

 

『あっち!! なんだよこの水!? 本当に入れんのか親分?』

 

『そのままじゃあちーぞ。こいつに持って来た湧き水を入れるんだ』

 

 緋袁が縄張りの巡回中に偶然発見した熱い水溜まりに木の実の殻ですくった湧き水を次々注ぐと侵入を拒んでいた湯の温度は中和され好きな菓子を贈られた様に表情が円やかになった。

 そっと手を入れれば緋袁の目論み通り熱湯は獣の肉体を解す程よい心地になっていた。

 

「いい加減だ。よっと」

 

 獣にとって熱は脅威である。

 幾ばくか冷めたとは言えまだ温度の下がりきっていない水に何の躊躇いもなく全身を委ねる大胆な行為を行った緋袁を仲間達が慌てて止めようとする。

 

『ま、待てって親分!! そんなあっちい所に入ったら火傷しちま』

 

 仲間の心配とは裏腹に緋袁から漏れ出たのは全身が脱力し気持ちのよさそうな快感の声である。

 顔は火照って赤く染まっているのに緋袁は何故か嬉しそうだった。

 

『お前らも入れよ。すげー気持ちいいぞ』

 

 群れの中で一番強い緋袁にしか味わえない癒しなのではと疑う仲間達だったが彼の強さを信じついていくと誓った以上、躊躇い続ける訳にはいかない。

 意を決して湯に飛びこむと湧き水で調節された極楽の水温が身体を柔らかく包み込み、忽ち縄張り争いの日々で溜まった重荷と疲労を預かってくれる。

 今まで味わったことの無い刺激的な癒しに群れの全員が虜になった。

 

『なんだこれ!? めっちゃいいな、親分!!』

 

『だろ? 明日から毎日ここに通うぞ』

 

 学の無い獣だった当時は”温泉”という名前があった事すら知らなかったが当時の緋袁には秘密基地を見つけた様な得も言われぬ興奮と充足感に満ちていた。

 ここは切り立った崖、行進を阻む木の枝と連続した坂に恵まれた過酷な立地だ。脆弱な人間は勿論、他の動物にだって立ち入れない。正真正銘、緋袁達だけの特別な場所である。

 それから緋袁達の生活は熾烈な戦いを生き抜く度、温泉に立ち寄り疲れを癒す毎日になった。

 

『こんな奴ら目じゃ無いっしょ、親分!?』

 

『当たり前だ。けど油断はすんなよ。

 二度と俺達に手を出そうと思えないくらい、徹底的に叩きのめしてやれ』

 

 

『おらおら!! 今日は戦果が山盛りだ!!

 蜜入りの林檎に甘酸っぱい葡萄、大ぶりの柿も遠慮せずに食えよ!!』

 

 仲間の背中に命を預け奮闘し温泉に浸かりながら獲得した食事を食べたり他愛も無い話で盛り上がる。

 代わり映えは無いが最高に愉快な毎日。死ぬまでずっと続くと群れ全体が本気で思っていた。

 巨大な重機が山を蹂躙するまでは。

 

『これはたまげた。

 こんな所に温泉があるなんて。しかも泉質も上等だ』

 

『良かったですね、柳澤さん。

 これで温泉宿が建てられ過疎化したこの地域に活気を呼び戻せますよ』

 

 柳澤と呼ばれた老人の周りには年代も服装も違う男女がいたが緋袁の記憶に色濃く残っていたのはダウンジャケットを着た人間が持っていた細長い銃。動物にとって恐怖の象徴である猟銃だった。

 

『な、なんで人間が来てやがる?

 ここは俺達しか来れない厳しい場所じゃなかったのか?』

 

『きっと馬鹿でかいあの機械だ。あれに乗って超えて来やがったんだ』

 

 岩陰で様子を窺いながら慌てふためく仲間達に緋袁は勢いよく鼓舞する。

 

『お前らなんだその様は?

 道具がなきゃなんもできねぇ人間に何故怯えてやがる?

 いつも通りに力と知恵を使えば俺達に敵はねぇ。分かったら迎撃の準備だ』

 

 どうせ大した事ない、他の動物と繰り広げる縄張り争いと変わらないと高を括った猿の群れは勝ち目の無い無謀な戦とは露知らず突っ込んでいった。

 

『ん? なんだか動物の鳴き声が聞こえてきませんか?』

 

 柳澤の感じた違和感に若い男性が答える。

 

『あぁ、この山は凶暴で血気盛んな猿の住処ですからね。

 けど安心してください。そのために猟友会の方々もお呼びしましたから』

 

 人間達の前に躍り出た緋袁達は口々に温泉から手を引くようこれ以上ない怒りを込めた警告を発していく。

 

『この水たまりは俺達の大切な場所だ。

 俺達が先に見つけ長年大事にしてきた大切な場所を浅薄なてめぇらの勝手な都合で横取りすんじゃねぇ』

 

 仲間も呼応して叫ぶものの人間にとっては言語化不可能な耳障りな雑音でしか無い。

 故に一言も心に響かずただ煙たがられるだけである。

 

『はぁ・・・・・・ウキウキ喧しいな。

 今後、観光地として躍進した時、お客の安全の為にも駆除しましょうや』

 

『それは流石にやり過ぎでは・・・・・・?』

 

 柳澤が控えめに懸念を示しても猟師は優しすぎる彼に対して首を振りながらため息をつくだけだ。

 

『今、ここで殺しとかないとこいつら絶対襲いますよ。どうせこの山、丸々解体するんですし追い出しても追い出さなくても死ぬ事に変わりやしませんよ』

 

 無慈悲に一発、また一発。縄張り争いで猛威を揮った肉体の反撃も無言の発砲の前では成就せず問答無用で凶暴な猿を駆除していく。

 危険だから。人間が抱く僅かな勝手と偏見で大事な仲間たちが凶弾に倒れていく。障害が無くなれば人間達は重機を駆けて緋袁達の居場所を理想の宿に変えるべく跡形もなく消していく。

 結局、緋袁達の必死な訴えは人間達に響かず温泉も我が家の様に親しみ愛していた山はあっという間に崩壊した。

 緋袁は生き残ることが出来たが人間の蹂躙は彼の内外に傷を残した。

 右足は仲間を庇った際に銃弾で焼き焦がされ今までの動きが出来なくなった。

 戦力の分析も出来ず浅はかな自信を過信したせいで失った仲間は十五匹。

 危うく群れが壊滅するかもしれなかった危機を招いた事態は普通ならばボスとしての信用も失墜する失態だがそれでも一緒に生き残った仲間は一言も責めず寧ろこれからも群れを率いて欲しいと懇願されたのが唯一の救いであった。

 自分を許してくれた仲間に感謝しながらボスとして先頭に立ち続けた緋袁は安らかな最期を送った後、エクソスバレーに漂流し自身と同じ大きな植物の葉だけを纏った人間体の清華達と出会う。

 

『貴方も人の身を手にしたばかりですか?』

 

 人の身になっても隠し切れない獣の特徴から猫の子供と狐の女が元から人間で無いことは一目で分かった。だからしばらく行動を共にする事を決めた。

 最初は動物という一括りに在籍していても違う種族である以上、相容れると思えなかった緋袁だが互いの境遇を語り共感しあう事で心の通じ合った友になった彼らは、共に獣人の為の国作りを志す同志となり一人の人間の男の援助を受けながら一年後に栄遠の銀峰を築き瞬く間に一大国家へと大成させた。

 建国当時に市民に向けて力説した清華のスピーチ。緋袁はその一部を深く覚えていた。


『栄遠の銀峰に住まう皆さんに覚えて欲しいのは獣人という大枠に囚われてはいけないという事です。

 同じ人の身を持ち、言葉を持ち、個人の嗜好と考えを伝えられ分かり合えるようになった今。人間と関わる事を恐れないでください。

 私達は彼らと共存出来るのですから』


 人間に左右された過去を思い出すと人間の優しさにしか触れていない飼い猫らしい詭弁だと緋袁は感心したが建国を手伝ってくれた桐葉の存在もある。出来る限り心掛けることにしようと考える。

 荒事を担当していた緋袁に至っては統主|《くそ真面目な白猫》の国を守る内に”瞬光”なんて名誉で呼ばれていた。

 今度こそ不変の幸せを掴み取れた。そう実感した直後、悪夢が再び形を持った。

 建国から三年後、メデルセ鉱脈を巡回していた時だった。

 誰もいないはずの坑道から明かりと採掘の音が聞こえたので近づけば緋袁がもっとも嫌う人間達が我が物顔で鉱石を掘り起こしていた。

 皆、黙々と作業していた為、真意は分からなかったが欲深い人間のことだ。ここで採った分だけで足りなければ栄遠の銀峰の近くまで迫り堂々と土足で荒らすに違いない。その思い込みが緋袁を真っ当な思考から遠ざけていく。

 

 (どうせあいつらは俺達を採掘の障害と認識する。あの人間に倣って俺が率先して排除しねぇと)

 

 光に吸い寄せられた虫の様にゆらゆらと現れた緋袁に鉱夫達は先住民がいたのかと呑気に驚いていた。

 本来ならまずは質疑から入り警告、武力行使は最終手段のはずだった。しかし当時の緋袁にその手順を守る冷静など存在しなかった。

 

『てめぇら・・・・・・俺達の街を踏み荒らすのか?』

 

 急激に向けられた殺意で鉱夫達にもようやく動揺と緊張が芽生えた。

 採掘のリーダー格を務める者が代表して説得を試みる。

 

『ま、待ってくれ。俺達は正式な許可を得てここより深部に入らない条件で採掘しているんだ。

 あんたがどこに住んでるのか知らないが必要分採るまでに迷惑はかけないことを誓う。どうか落ち着いて』

 

『俺達の故郷を奪うんじゃねぇぇぇぇぇぇぇ!!』

 

 二度と大事な場所と仲間を失いたくない。二度と人間に奪われたくない。

 心に抱えた積年の後悔が緋袁の動力となって鍛錬で得た技術と肉体により一層の格を齎す。

 戦いを知らぬ一般人と殺意に支配された英雄の力量差に変則などなく坑道はあっという間に赤く染まった。

 

 黄金山の大将(5) (終)

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