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アンロック・ゲフュール  作者: RynG
Chapter2 幻想の侵略者
35/87

黄金山の大将(2)

 過酷な高山の環境に適応し幻覚を見せる霧を生み出し標的の自由を奪うラバーフロッグの別種、"カスミカワズ" 。

 手足の関節がバネの身体になってるカートゥーン調の花の玩具みたいな物質型エッセンゼーレ "サンフラワー・ジェニー" 。

 小柄な体躯を活かし遊び相手を翻弄し無邪気に吐く炎で獲物を炙る小さな火種。幻獣型エッセンゼーレの "蛍火宿す妖竜(ようりゅう)" 。

 厄介な奴らとの戦闘中は攻防に優れた大木の一片であるヤヒサの枝や相手の生命や活力を奪って咲き誇るセツナギク、小さな炎上を引き起こす可燃性の胞子を散布するシャクバナなどの植物の成長を自由に促進させ使役する清華さんの能力、 "開花" の援護を受けながら歩きにくい山肌だけでなくエッセンゼーレにも妨害される山登りを越え、とうとう目的地である暴雨の囚獄をお目にかかれた。

 まだ村の輪郭がぼやっと見える程度だけど底を流れる川に建物が触れないようくり抜いた洞窟や崖に沿う様にある建築物との間を吊り橋で繋げる全貌は非現実的な民族集落にも取れる。

 ここまで来ればもう少しってところで清華さんからこの山にある唯一の山小屋で四臣の二人と合流しつつ休憩をする事になった。

 今の私の状態は人間で言う "足が棒になる" じゃないかとウィンドノートに揶揄われたが正直、足だけじゃなく全身が石になりそうな程、疲弊してる。今、運動したら炎天下の屋外で水分と塩分の補給を忘れたスポーツマンみたいに倒れる自信があったから休憩は凄く助かる。

 少し歩くと現世でも見かける立派な山小屋があった。素朴な看板には小屋の名前を示す "スミレ" って書いてある。

 ベル付きの扉を開いた先は温かみのある色彩の家具や薪ストーブ付きの充実したロッジでここまでの登山の疲れを癒すのにも一週間近く生活出来る設備も貯蓄も揃った最適な内装になっている。

 ゆったり寛げるリビングのソファには既に二人の先客が二つある方の片方を陣取り思うがままに私達の来訪を待機していた。


「うーっす、統主」


 一人目は爽涼な橙色のネイルを塗り直すノリの軽い美しい身だしなみの女性。登山途中で聞いた名前は招蘭(しょうらん)さん。

 外見を一言で例えるなら人間のギャルになった孔雀って感じ。

 所々にメッシュの入ったサラサラの長いブロンドヘアは毎日手入れしてるのが分かるし努力の化粧で丹念に整えた小顔はアニメキャラクター並の美貌を秘め、手足もすらりと伸びた天性のプロポーションは人間の世界に来ればカリスマモデルになれる可能性を持っている。

 でも所々透き通った柔肌が見えるほぼ薄布の衣装にちょっとドキドキしてしまう。

 溌剌とした招蘭さんの挨拶に反応し隣でポテチを食べていた少年も一気に含んだ中身を咀嚼しながら無邪気に振り向く。


「かーちゃん。腹減っちゃったからちょっと菓子バクバクしてる!!」


「響彌、物を食べながら喋ってはいけません。

 それと夕食を持ってきました。ここの食料は他の方も使うのでまだ手を付けていないのはしまってきなさい」


 清華さんに向かって母と呼んだこの幼気な容貌が残る白猫の少年こそ獣人の平穏を護る四臣の一人であり清華さんの大事な息子さん、響彌(きょうや)さんだ。

 簡単な顔の動きの反動で軽く靡く銀髪に大きな青色の目。それに纏う雰囲気からも清華さんの遺伝子を受け継いでいるのが分かる。

 よっぽどの大食漢なのか目の前のテーブルに置かれた未開封のスナック菓子四袋に有り合わせのチョコ菓子やキャラメル、飴などの甘味の詰め合わせと食べ終わった後のゴミから彼の膨大な食欲が想像出来る。

 絶え絶えの息と一緒にお菓子の山をチラ見をしていたら響彌さんがきょとんとこちらを見つめてくる。


「ねーちゃん、ぜぇぜぇ言ってるけど大丈夫?」


「まぁ、獣人族でもそこそこ鍛えないとここ登るのキツイからねぇ。

 人の身でここまで来れるのは一生の武勇伝にして誇っていい事だから」


 そ、そうなのか・・・・・・

 安定した足場も少ないしエッセンゼーレもいるから凄いキツかったけど人よりも身体能力に優れた獣人でも大変な山だったとは。何故踏破出来たんだ、私。


「二人共、こちらは緋袁との対談に協力してくれるUNdead社員の者です。

 人間の方は北里 翠、後ろの霊獣は彼女の相棒であるウィンドノートという名です」


 簡単な挨拶も済ませたところで待ちに待った食事の時間である。

 清華さんがテーブルの中心に持参した風呂敷を開くと中から一個一個ラップで丁寧に包んだおにぎりと水筒、スープジャーが登場し清華さん自ら分配する。

 気になるのは響彌さんの分が一切配られない事だけど・・・・・・


「あれ? かーちゃん? 俺の分は?」


「慌てないの。すぐに用意しますから」


 響彌さんの目の前に置かれたのは漫画なら置いた衝撃を重厚感溢れる効果音で表現されるくらいに私達の分が入っていた奴より一回り大きな風呂敷。結び目を解けば引き締まった細マッチョの彼の肉体では絶対に入り切らない大量のおにぎりと一回り大きい容器の数々が飛び出し響彌さんは億さず寧ろおぉ、来た来た。と溢れんばかりの笑顔を煌めかせる。

 ・・・・・・改めて夕食を戴こう。風の力では水筒とジャーの蓋を回すのは厳しいようだったのでウィンドノートの分も一緒に開けた。

 中身は保温されたほうじ茶、キャベツと豚バラの味噌汁でおにぎりとの相性は言うまでも無い。キャベツ、玉ねぎ、豚バラで構成された白味噌の味噌汁は溶け出した旨味とほのかな甘みが溶け出し、最適な方法と温度の湯で抽出されたほうじ茶も香り高い。

 それぞれ一口ずつ啜った後はいよいよメインのおにぎり。

 形は見事な三角形。ご飯の握り具合もふんわり空気を含ませた固すぎず柔らか過ぎない絶妙さで和食も好きな清華さんの為に慣れない異国の料理を再現しようと努力を重ねたのが伝わる出来栄えだ。


『なんだこの飯は? 俺が良く見る白米と色が違うようだが』


 あぁ、そうか。ウィンドノートは混ぜご飯を知らないっけ。

 UNdeadのお米は白米が基本で炊き込みご飯等の味付けを希望する場合は前持って申請しないと出てこないからね。私もエクソスバレーに来てから久しく食べていないな。

 鮭と大葉、白胡麻が混ぜ込まれた色彩も完璧なおにぎりは塩の効いた焼き鮭が味の主軸になってて鼻を突き抜ける大葉の爽やかさと白胡麻の風味が脂っこさをマイルドにして何個でもいける口当たりを演出している。

 戦闘に発展するかもしれない超危険な罪人、緋袁と会う前にこれほど適した食事は無いだろう。

 最高の食事を摂り心を穏やかにしつつも着実に力を蓄える中、招蘭さんが興味津々な目付きでこっちを向いてきた。


「そういえばスイさんってどうやってエクソスバレー(ここ)に来たの?」


「僭越ながら私も少々、興味を唆られます。

 貴方ほどの戦士が現世でどの様な物語を歩んだのか聞かせてください」


 招蘭さんだけでなく清華さんまで・・・・・・

 別に隠す必要も無いから雑談する感覚で話そうと思うけど。


「えっと、爆音に身を委ねて前に集中してなかった車に轢かれまして。

 しかもその車、事故起こしても知らん顔して通り過ぎていき・・・・・・」


 話を聞き終えると招蘭さんはメイクで薄い色の顔から血色が落ち、清華さんは隠す気の無い怒りを顕にしている。


「嘘・・・・・・

 交通事故が原因の奴は結構いるけど今までで一番悲惨だよ・・・・・・」


「許し難いですね。自分の不注意で事故を起こしておきながら後始末の責任から逃れようとは。

 今すぐ運転手の特徴を教えてください。後ほど北里 翠さんの輝かしい将来を奪った愚者を祟りに参りますので」


 清華さんは本気で実行しそうだったので慌てて止めた。

 青信号だからと周囲を確認せず渡った私にも非があるし事件なら収束を迎え運転手は相応の判決を受けた筈だと必死に言ったら軽く咳払いした後に謝罪しながらいつも通りの不動顔に戻った。


「過度な反応を示し申し訳ありません。

 北里 翠さんの輝かしい将来が予兆無く奪われたと思うと感情が抑えきれなくなりまして」


「わ、私の人生はそこまで大それた物じゃないですよ。

 正直、死ぬ前なんて直近の生き方すら悩んでましたし・・・・・・」


 輝かしい将来なんて不運に阻まれたばかりの私には雲を掴む様な理想だ。

 昔は天性と感覚とちょっとの努力で大学生でありながらオリンピックの最終選考に残ったお姉ちゃんみたいにフィギュアスケートに夢中で打ち込みたかったけど、優勝に向けて奮迅しようとしたタイミングで唐突に失くしてから将来の展望なんて思い付きもしなかった。

 学生の身分に甘んじて具体的な目標も定まらず事故直前にはお世話になってたバイト先が潰れ虚しく生きていた私に光が宿る事などあったのだろうか。


「正直さ、人間に飼われてたり自然で生きてきたあたし達には人間の悩みに対する答えは用意出来ないけどさ〜」


 食事を終えた招蘭さんが優雅に紙ナプキンで口を拭いながら言う。


「出来る事と好きな事だけに執着して未知の可能性を遠巻きに眺めるだけなのは勿体無いなーってあたしは思うよ。ね、統主?」


「招蘭の言う通りです。桐葉 透一さんの総評で語られた簡単に不貞腐れず果敢に物事に挑む貴方らしくないですよ。

 私達の中には人間に憧れなりたいと無謀な願いを持つ者もいましたがエクソスバレーに来て叶える事が出来ました。

 人間は私達よりももっと自由に可能性に挑戦する権利と勇気を持っているはずです」


「そうそう!! 時間はたっぷり残ってるんだし焦らず目標を見つければ良いんだって!!

 文献に書いてあったけどフィギュアスケートって確かスポーツでしょ?

 そういう闘犬みたいなのは選手だけじゃ成り立たないし影で支えるポジションも視野に入れて見るのはどう?」


 選手以外、か。

 確かにスポーツは競う選手だけじゃ成立しない。一定の規則に則って試合する以上、公正に見極める審判は大事だし選手を支えるコーチだって必要だ。

 物心ついた頃から選手としてプレイしていたから感謝すべき有難みを当たり前だと浸透して目を向けていなかったなんて恩知らずにも程がある。

 いつか選手を支える側に回って選手が伸び伸びとスポーツに熱中出来る様に支える。そういう将来に挑戦してみるのも悪くないな。

 あれ? でもこの言い方じゃまだ私が生きてるみたいじゃない?


「あっはは、あたしら既に死んでる身なの忘れてたわ〜

 でもそれくらい前向きに進んだ方が絶対夢も叶いやすいって!!」



 暴雨の囚獄へ続く峡谷からまた環境が一変する。

 山道を登ってる時は天災が起こる前の予兆にも見える禍々しい曇り空に覆われていたのに谷の間は別名、黄金山と称される所以の光背の様な光とそれを反射し煌めく冷たい雨が絶えず降り注ぐ聖域みたいに神々しい雰囲気になっている。

 慎重に降り進むのに利用する大半の岩道は濡れて滑りやすいけど頭の片隅で注意すれば足をすくわれ無いし道幅が広いから転んでもいきなり谷底に転落する危険はまず無い。囚人達がここを拠点に選んだ理由も合点がゆく。


「次の飯っていつかなぁ・・・・・・」


 エッセンゼーレとの遭遇が無い束の間の平和な一時。

 四分の一のお菓子と私達よりも多い食事を無我夢中で補給したはずの響彌さんがお腹を鳴らして呟いた。


『食事ならば先程取っただろう?』


「 "せーりげんしょう" って奴だから仕方なくね?」


 お腹が空くのは霊体にとっても健康な証拠ではあるけどそれにしても早すぎる。母の清華さんもやれやれって溜め息付いてるし。


「響彌さんって生前からこんなに食欲があったんですか?」


「響彌は昔から良く食べる子ではありましたが人の身を授かってからは食欲も倍増しましたね。

 昔、大食い大会に参加した時は記録を塗り替えて優勝しました」


「そうそう!! 決勝戦なんて凄い勢いで背脂入りの醤油ラーメンを吸い込んでいって大差付けちゃったんだから!!」


 響彌さんが自慢気に胸を張った。


「それにしてもここがほんとに牢獄なんですか? イメージと全く違うのに困惑しちゃって」


 個人的イメージだけど牢獄って暗く冷たい地の底で収容されてる物と思っていたから神の住まう神聖な世界みたいな自然領域に似つかわしくない鉄の檻が存在するのか疑問に思ってしまった。

 それに解説してくれたのは清華さんである。


「 "獄" という字が含まれていますがそれは揶揄された言い方であって特別、こちらから罰を下したりも更生に向けた干渉も滅多に致しません。

 ここに送られる事自体が死刑と同じ重みを持つ罰なのですから。

 暴雨はこの黄金の雨を指し、囚獄は大罪を犯した愚か者が簡単に出入り出来ない峡谷で牢獄のように囚われ惨めで不自由な生活を送る状態。この二つの単語を合わせて名付けられたのが暴雨の囚獄です」


『ここに送られる事自体が死刑、か。

 獣人族、唯一の人工領域から追放され豊かで安全な生活を奪われるのは確かに死と同等の重い刑罰だな』


「でも時折罪人、特にボスの緋袁の思想に賛同を示した博識な狂人が恩恵を捨てここに来ることもあんの。おかげで栄遠の銀峰の技術が欠けてるんだよね」


 言われてみれば自然領域なのに岩道が平らに舗装されてたり疲れを一時的に取るベンチなど安全目的の技術が整備されている。この峡谷で丈夫な素材になるのは鉱石ぐらいの筈だが本物に近い質感と機能を再現出来るのは優れた技術と知識を持っている何よりの証明。装備だって強力な物を持ってると考えるべきだろう。

 岩壁に埋め込まれた白熱灯を眺める招蘭さんには何か思う事があるらしい。どうしたのか聞こうとしても明るくはぐらかされ聞く事は叶わなかった。

 鎖を使った崖登りよりも遥かに楽な道中を進む中、岩壁をくり抜いて作った花園が広がる。

 ここは "淡描(たんびょう)庭園" と呼ばれる暴雨の囚獄の人工の景勝地であり女性や子供の手によって植えられた様々な色合いの花が繊細な絵画を描いた様な美しさからそう名付けられたんだって。


「ここを抜ければ暴雨の囚獄ですが気を抜いてはいけません。

 この花に僅かでも触れてしまえばすぐに見張りの者が駆け付け、花に負わせた代価を報わせようと確実に強硬手段を取ります」


 大事な花々をぞんざいに扱えば向こうの印象も悪く映り緋袁との交渉で不利に働く他、駆け付けた見張りと戦闘になれば勃発するかもしれない緋袁戦で温存したい力を消耗せざるを得ない。

 花は歩く人の邪魔にならないよう出来るだけ端に寄せて植えてるみたいだけど基本、野晒だから些細な行動でも傷付きやすい。

 慎重になるに越したことない。

 道中と同じ白熱灯にぼんやり照らされた薄暗い庭から抜けると急に視界を細める光に当てられた。

 どうやらこのエリアだけは外と通じているみたいで光と雨で育まれた花達が地面を瑞々しく覆い尽くし心地好い春風が吹き込みそうなうららかな花畑になっている。

 そこには小さな利用者がいて中央に屈み込み拘りに合わせてまだ不完全な選別を用いながら花を探す兎耳の女の子がいた。

 ここは花にとっての貴重な楽園だけど外に直結してるからエッセンゼーレに遭う確率も高い危険な場所だ。

 手早く目的を聞いて早く送ってあげないと。


「君、こんな所で何してるの?

 ここは形骸が出てくるから危険だよ?」


 私がそう尋ねると兎耳の女の子は長いスカートに付いた土を払いながら立ち上がる。


「お母さんにあげる花を探してるの。

 緋袁様が今日はお前の母さんの誕生日だから日頃の感謝に何か贈ってやれって。

 ここの花は淡描庭園の中で一番綺麗だから」


「へぇー!! けなげな奴だな、お前!!

 俺たちも手伝おーぜ!!」


 贈り物探しか。

 広大な花畑でお母さんに相応しい一輪を一人で見つけるのは大変だろうし彼女の護衛も兼ねて私達も手伝う事にした。

 しかし意外だな。

 緋袁が他の人の誕生日を覚え、家族に贈り物を薦めるなんて。

 大罪人といえど囚人をまとめ率いる立場にいるから他人を思いやる気持ちはまだ残っているのかもしれない。

 ・・・・・・なーんて安心感を抱いてる時になんで胸糞悪い羽音が聞こえて来るんだろうね。


「皆、警戒を。蛍火宿す妖竜と弦鳴甲虫(げんめいこうちゅう)の群れの襲撃です」


 頭上を飛び回っているのは道中でも飽きるほど見たちょっとだけ愛嬌のある竜と子供サイズの浮き輪と同じ大きさのあるカブトムシの大群。

 弦鳴甲虫は大きくなった蛙みたいなラバーフロッグやカスミカワズより秘めている凶悪なインパクトは薄いけど(銀の鎧みたいな甲殻が男の子は好きそうだと思ったから)肉食獣の様に血走った目や樹木の蜜と同等の甘美な獲物を見つけ欲望の止まらない唸りで充分にエッセンゼーレとしての恐怖を与えてくる。


「危ないから離れちゃ駄目だよ」


 兎耳の女の子を庇い安全を確保したところで熾烈な戦闘が始まる。

 先制を仕掛けるのは獲物を蹂躙したくて堪らない弦鳴甲虫。

 名前の由来となった下手な弦楽器の演奏みたいな耳障りの雄叫びを掲げ、素早い低空飛行で群れが詰め寄るけど悉く小さな花火の様に破裂し溢れんばかりの生気を啜る夢は散る。


「灰になりたくねーならどきなぁ!!」


 軽やかでありつつも一撃一撃が重くのしかかる響彌さんの拳法が炸裂する度に銃口と火薬を搭載した手甲とブーツがエッセンゼーレの体内に火を付けた弾薬を埋め込みそれは瞬時に爆発する爆弾の様に短時間、高火力でエッセンゼーレの内側からダメージを与える。

 子気味良く連鎖する爆発音は四臣に身を置く彼の体技がどれだけ迅速か一撃かを顕著に示している。

 激しい体力の消耗が見える近接攻撃。

 銃撃の反動に踏ん張る筋力。

 彼の荒削りな戦いぶりを見ているとお腹が減る原因も見えてきた。

 蛍火宿す妖竜達を相手にするのは招蘭さんだ。

 ウィンドノートが扱う風と違い投擲のみに特化した風の刃と神前に捧げる伝統的な舞を掛け合わせた優雅な戦闘スタイルを持つ招蘭さんは彼女の容姿と同じ様に目を引く煌びやかな鉄扇を開き、近付く奴は剣を操る様に切り裂き吐かれた炎は仰いだ風で跳ね返してゆく。

 扇の上で生み出す風の刃は "還刃" と呼ばれ扇の鋭さを助長したり分散した一つ一つが意志を持ちブーメランの様に飛び、蛍火宿す妖竜の無防備な箇所を切り裂く。

 そして私達や四臣の二人よりもエッセンゼーレを圧倒していたのは


「 "我が招集に応じ、花弁を開け。セツナギク、ヤヒサの枝" 」


 杖に封じられた植物の成長の促進を補助する言霊を唱え杖を鳴らすと地中から普通の菊と巨木の根とは違う色合いの植物達が伸びて来た。

 静かに鎮座する清華さんに代わりエッセンゼーレ達を停滞させたり貫いたりくるりと全身を巻いて締め付けたりと畏怖すべき力を示す植物達だがこれはほんの一部でしか無いらしい。

 瞬く間に全てのエッセンゼーレを殲滅し終えた後、押し寄せる足音が近付いてきた。

 その正体は交戦の音を聞きつけ様子を見に来た暴雨の囚獄の囚人達で兎耳の女の子が身に付けてる清潔なワンピースと違い汚れの目立つ粗末な服や履いてる靴がサンダルに近かったりとお世辞にもみんな身なりが良いとは言えない。

 きっと子供達には綺麗な服を着せて大人達は我慢してるのだろう。

 見張りの一人と思われる鹿角の男が私達を見ていきなり短剣の刃先を晒す。


「てめぇら集落のみんなが大事に育てた花を傷付けるたぁいい度胸だなぁ?」


 あっ、これこちらの弁明に一切耳傾けてくれないね。


 黄金山の大将(2) (終)

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