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【1-8】ご挨拶に伺った

「お帰りメイ。って、誰よその男」


 メイに連れてこられた場所は中級(ミドル)のある校舎の一室だ。先述した通りこの学園では学年だけでなくクラスでも校舎が別になっているのだが、ここ中級(ミドル)では講堂以外にも個々の控室が宿舎とは別にあるらしい。ちなみに下級(ロウアー)にはそんなものは基本的に無い。

 で、ここはヤッチャネン伯爵家用に用意された部屋というわけだ。結構広く20畳はありそうだ。

 その中央付近に設置された豪華な椅子に彼女は腰かけていた。先端部分に腰を掛けだらしなく背もたれに体重を預けながら胡散臭げにこちらへと視線をよこしてくる。


「ご紹介しますヒリア様、こちらが我が主アフォーナ・ヤッチャネンお嬢様です」

「初めまして」


 メイの紹介に俺も頭を下げる。だがアフォーナはさも興味なさげな様子で爪をいじり始めた。


「そしてこちらがヒリア・キョロットル様。本日この方をお招きしたのはわけがあります。お嬢様……何卒お気を確かに持ってお聞きください」

「……何かあったの?」


 俺たちの様子に違和感を覚えたのだろう、アフォーナが少し真剣な面持ちとなった。

 何せメイは口元を抑え嗚咽を漏らしながら俺の方を悲しげに睨みつけてくるのだ。一体何でそんなことすんのと思わなくもないが、俺は俺で薄ら笑いを浮かべてるので人の事は言えない。


「じ、実はこの方が……ああっ!これ以上はわたしの口からはとても……」

「あんた、うちのメイに一体何したってのよ!」


 バッとアフォーナが立ち上がって俺に詰問してくる。

 だから俺は正直に言ってやった。


「絡まれてるところを助けました」

「ありがとう!あんた良い奴ね!」

「いえいえそれほどでも」


 俺もアフォーナも平和にアハハオホホと笑って一件落着。

 だがメイはまだ悲痛な面持ちを崩さない。


「でも……その後見返りを要求されて……」

「……何?お金でも欲しいってわけ?」


 アフォーナが再びドカッと椅子に腰かけた。

 その表情からは笑みは消え、俺に蔑むような視線を送ってくる。ひょっとしたら、金を無心してくるような輩は少なくないのかもしれない。

 とはいえ、俺の望みはそんなものじゃない。

 事実、メイもかぶりを振って否定の意を示した。


「いえ、そんな大層なものではありません」

「だったら何なのよ」

「全く本当に大したモノではないのですが……」

「いいからハッキリ言いなさい!」


 苛立つアフォーナを散々じらした後、覚悟を決めたようにメイは告げる。


「お嬢様をいただきたいそうです」


 そう、俺の望みは、アフォーナ・ヤッチャネンその人だ。


「……は?それって……」

「はい、是非シたいです」

「んなっ!?」


 いぶかしげな彼女だったが俺が本心を伝えると一気に頬を真っ赤にした。いや~、そんなに喜んでもらえるとこちらとしても実に嬉しい。


「と、いうわけでちゃっちゃと脱いでください。そしてさっさとおっぱじめちゃいましょう」


 メイが急かすがアフォーナはぶんぶん手と首を振る。


「い、いやいやいや!ちょっとまてちょっとまって!ア、アタシに体で払えってこと!?」


 まあ大体あってます。

 メイもコクリと頷く。


「それぐらいで済ませてもらえるんだから安いもんですね」

「何てこと言うのあんたは!」

「すみませんヒリア様、こんなんが相手で」

「いえいえ、お気遣いなく」


 憤る主人を他所に、さも申し訳なさそうに深々と頭を下げるメイだが俺としても贅沢は言っていられない。


「だ、ダメよそんなの!いくら何でもそんなこと……」


 ところがどういうわけか、肝心のアフォーナがどうにも乗り気ではないように見える。これは一体どういうことだ?顔を赤らめているのは嬉しかったからじゃないのか?こんなことは手慣れていると思ったが、俺みたいなモブキャラなんて相手にしないという事なのだろうか。


 やはり、メイに恩を売っておいて良かった。

 事実、彼女は説得を続けてくれている。


「良いじゃないですか減るもんじゃあるまいし。むしろ増えますよ、家族が」

「そうなったらマズいやつじゃん!減った方がマシなやつじゃん!」

「へえ……ただ一人お仕えしているわたしがいなくなった方が良いということですか」


 メイがジト目で睨む。まあ実際彼女のこと家族扱いしてたもんな。

 アフォーナも自分が言ったことに気づいたのか、ばつが悪そうにする。


「べ、別にそういうつもりじゃ……」

「でも結果的にそういうことになるかもしれませんが」


 事実上の脅しが功を奏したのか、アフォーナがの態度がようやく軟化した。


「……本当にスるの?」


 上目遣いで恥ずかしそうに尋ねてくるアフォーナ。

 俺の口角が無意識に吊り上がってしまうが、何とか声に出して笑う事だけは耐える。


 メイは更に促す。


「当たり前じゃないですか。さ、早う早う」

「わ、わかったわよ……だったら今晩アタシの宿舎にきて……」


 アフォーナは俺にそう要求するものの、即座にメイからダメ出しを受けてしまう。


「は?何言ってんですか。今ここでヤるに決まってるでしょう」

「はあ!?あんたの見てる前で!?」

「当然です。じゃないとちゃんと済ませたか誰が見届けるんですか」

「念入り過ぎない!?」

「そりゃコトがコトですし」


 まあコトがコトだしな。

 どういうわけかアフォーナは意味不明って顔をしていたが、一つ大きく嘆息した後表情を変えた。ようやく覚悟を決めたようだ。


「……わかったわよ。他ならぬあんたのためなんだし、アタシが一肌脱いでやるわよ」


 アフォーナは立ち上がってコートを脱ぎ捨てる。そして制服のボタンを一つ一つ外していき……


 その時の俺は、とにかくこみあげる笑いを抑えることに必死だった。

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