【1-5】聖女様まで現れた
一部こじらせすぎててちょっと何言ってるのかわからない箇所(*1)がありましたので後書きに解説を入れておきます。
唐突な出来事だった。
そんな誰かの声と同時にアフォーナとメイ、そしてパアナの体に光のロープが巻き付いたのだ。しかもそれは各々の席に縛り付け拘束した。
「な、なんですのこれは!?」
「魔法……のようですね」
「はあ!?一体誰の仕業よ!アタシにこんなことしてタダで済むと思ってんの!?」
「ごめんなさいね。だけど、入学早々騒ぎ立てるあなたたちが悪いのですよ?教員の皆さんも困っておられるわ」
慌てふためく二令嬢とこの期に及んでも尚冷静さを保ったメイ、そんな彼女らに対しその女性は苦笑いを浮かべながら両手を軽く合わせて謝罪の意志は示したものの、本心から申し訳ないと思ってるわけではなさそうではある。
その女性は制服ではなくロングテールスカート風のドレスを着用しているためどうやら生徒ではないらしい。
流れるような銀髪に穏やかな表情、透き通るような声には特徴がある。誰しもが魅了されそうな癒しのオーラがそこからは溢れ出ていた。
「あ、あなたは……ナリーセ様ではありませんか!?」
彼女の正体にいち早く気づいたのは一人難を逃れていたオウル王子だった。そして、彼の驚きに連動するようにパアナの目も大きく見開かれる。
「ナ、ナリーセ様!?あなた様のようなお方がどうしてこのようなところに!?」
「あんたが誰だか知らないけどさっさとコレ解いて!さもないと痛い目見るわよ!?アタシを誰だと思ってんの!?」
一方でアホだけが毒づくことを止めないでいると、今度は側近から進言があった。
「お嬢様、ナリーセ様は当代の聖女です。神より選定されし偉大なるお方への脅迫は紛れもない不敬ですので処刑台送り待ったなしですさようなら」
そうなのだ。ナリーセはこの国の聖女であり、そして聖女とはこの国において王に匹敵する地位におわす御方なのである。だからメイの言ってることは――少々大袈裟とはいえ――あながち間違いともいえないのだ。
というわけもあってそもそも権威に弱いことが判明しているアフォーナの顔面がさっと真っ青になる。
「あ、あ~拘束がキツくって体が痛いわ~!痛い目見るってアタシがってことだからそういう意味だったから!」
ダバダバと再び脂汗をにじませながら何やら言い訳を始めたがメイは問屋が卸さない。
「言い逃れは見苦しいですよ、最期ぐらい潔く散ってください。大丈夫、馬の骨……じゃなかったお嬢様のお骨は拾って差し上げますから」
「あんたアタシに恨みでもあんの!?あ、さっきあるって言ってたっけ!?」
「どうやらこれで王子様の妾をやらずに済みそうです。パアナ様、ご安心を」
「え?あ……はあ。それは何より……ですけれど」
突然話を振られてきょとんとしているパアナの隣でアフォーナが人目もはばからず大泣きしながらバタバタ足をばたつかせだした。
「ヤダー!死にたくないい!うら若き乙女のまま死にたくないいいい!」
「往生際の悪い。そんなのどうせ余命いくばくも無いんですから」
「そんなことありませんわ!花の命は存外に長いものです!」
と、最早誰が味方で誰が敵なのかわからなくなったカオスな状況。これを打破したのはまたしても聖女様である。
「大丈夫よ、別に気にしてないから心配しないで」
「ほ、ほんとッスか!?あざっス聖女様!アザーッス!」
アホが涙ながら鼻水ながらに感謝の意を示す横で一人舌打ちするサイドテール。いやほんとあんたはご主人をどうしたいのよ?
そんな彼女の態度が目に入ったから……というわけではないとは思うが聖女様が顎に指を当て何やら思案しだした。
「でも確かに、タダで済ますのも悪いかしら」
「……ひっ?」
突如、聖女ナリーセのスカートが揺らいだかと思うと全身に蒼いオーラが巻き上がり、長い銀髪がゆらゆらと靡く。
彼女は投げキッスするかのようにアフォーナ目掛けてフッと息を吹きかけると、縛り付けられたままのアホの体の前に白く輝く氷の結晶のようなものがふわふわと漂いだした。
「な、何これなにこれナニコレ!?え、破滅?アタシもう破滅すんの!?あ、寒気してきた!お腹冷えてきた!色々出そうになってきたあああああ!」
それにしてもうるせえしばっちい令嬢だなこいつは。もう目と鼻とついでに口からも体液噴出させてるんだからこれ以上臭そうなのまき散らすのはやめてくれよ、とか思っているとようやく事態が呑み込めてきたのか彼女も徐々に落ち着き始める。
「……あれ?涼しい?」
「あなた、暑かったのでしょう?これで問題は解決したんじゃないかしら?」
聖女がにっこりと微笑む。どうやらさっきのは冷却効果のある魔法のようだ。
「え、ええまあ……どうも」
「いえいえ、お安い御用よ。後はあなた達が大人しくしてくれればチャラってことにしたいのだけど、まだ何か不足があるかしら?」
「い、いえいえいえいえ滅相もない!これでもう完璧に完全に快適……」
「恐れながら聖女様、高貴なご令嬢はそれしきのことで引き下がる安い女ではございません」
「まあ」
アフォーナが合意しようとした矢先にまたメイが横槍を入れて場を乱した。ほんまこいつ。
当然、高貴なお方達が激しく抵抗する。
「あんた何勝手に!?」
「その言い方だとわたくしも含まれません!?」
「何のためにいつもお高くとまってるんです?こういう時巻き上げるためでしょう?」(*1)
「モノによるわ!これ以上貰ってもお返しできないでしょーが!」
「それに、あなただって他人事ではないのですよ!?」
「わたしは下々の者なんで安上がりです」
「「なんてお得な!」」
「高みの見物が出来そうで今から胸アツです」
なんかよくわからん言い争いを始めた三人。
と、何やら空気が冷えてきた。これは比喩的な意味ではなく本当に気温が下がった気がするのだ。
「仕方ありませんね、騒がしいお子様方にはもうちょっと涼しい思いをしていただきましょう」
いつの間にか、聖女は自身の体の前に先ほどとは比べ物にならないほどのどでかい結晶を形成させつつあった。ひんやり……というより刺すような冷気が講堂に吹き荒み始める。間近にいる彼女達には霜までもが降りだしている。
三人娘がガタガタと震え出したのは寒さが故か恐怖が故か。どちらにしろ涼しいどころの騒ぎではない。
「ま、待ってください!彼女達も反省している筈ですから!ね?そうだよね!?」
そこにそれまで立ちすくんでいた王子が止めに入った。さすがイケメン。
「ジッとしてますから!一言も喋りませんから!アタシゃもうババアですから!」
「そ、その通りですわ!わたくし達、成熟した女性として節度はちゃんとわきまえます!」
「聖女様のお心遣いによりお二方にもようやく大人としての自覚が芽生えたようですのでこれ以上の温情は必要ないかと」
彼に促され全泣き、半泣きの二人が泣きを入れた。最後の一人は相変わらずの無表情で、誰のせいでこうなったと言わんばかりに睨みつけてくる令嬢ズからの視線すらも全く意に介すことなくしれっとしているが。
「良かった。これ以上冷やしてしまうと講堂にいる全員が凍えてしまうところだったから」
聖女は微笑みを浮かべたかと思うと、自身の目の前の大きな結晶が霧散した。同時に、三人を縛っていた光のロープも消えてなくなる。
それにしてもさらっと恐ろしい事を言いよったな。危うく俺達も巻き込まれるところだったらしい。
「それでは私はこれで。王子も席に戻ってくださいね」
「は、はい!」
心労からか肩で息をしているオウルの臀部をそっと叩いた後、聖女は床をならしながら縦通路を降り演壇へと歩いていく。
それまでアフォーナ達に注目していた生徒たちの視線は、そのまま一斉に聖女へと向けられた。彼女は式典台に立つと、想像よりも朗々たる声で喋り出した。
「新入生の皆さん、入学おめでとうございます。有志の方たちの余興はいかがでしたか?楽しんでいただけたなら何よりです」
少しだけ会場が湧いた。まあ、普通に見ればあれは見世物の類だったし聖女の皮肉に笑いがこみあげてもやむを得ないだろう。とはいえ相手が大物令嬢だけに大半の生徒は自重しているようだが。
「あ、ご挨拶が遅れました。わたしはナリーセ。ご存じの方もおられるかとは思いますが、現在聖女の称号を賜っている者です。でも、どうして聖女がこの学園に?と疑問に思われる方がほとんどだと思います。ですのでこの度、僭越にも学園長様のご挨拶に先立ち説明させていただく運びとなりました」
そしてこの後も聖女のスピーチは続いた。
内容をかいつまんで説明すると、本来この世界では原則女性にしか扱えない魔法を男性でも使えるようになる方法を見つけただの、その成果を広めるために講師として赴任してきただの結構衝撃的な話だった。
そのため大半の生徒たちは困惑を隠せないでおり一時は余興の比ではないほど騒然としたのだが、それに反比例するかのようにさっきまでのお騒がせ女子達はしんと静まり返っていた。
アフォーナは快適そうに寛いでいる、のだが結局その両隣にまで唯一残された魔法の効果範囲が及んでいるらしくメイとパアナが凍えそうに震えていた。
ついでにアフォーナの前席の女子も半分凍っていた。
俺は何となくそっちの方が気になってしかたがなかった。
(*1)
「何のためにいつもお高くとまってるんです?こういう時巻き上げるためでしょう?」
前段の「〝安い〟女」ではないということから「〝お高く〟とまってる」女という対比。またこれを物理的に高いところに留まることにも掛けて、巻き「上げる」に対応させている。
「モノによるわ!これ以上貰ってもお返しできないでしょーが!」
文字通り、これ以上寒くされても困るし仕返しなんかできない。
「それに、あなただって他人事ではないのですよ!?」
巻き添えを食らうのはお前も一緒だと言いたい。
「わたしは下々の者なんで安上がりです」
メイは前段で「高貴なご令嬢はそれしきのことで引き下がる安い女ではございません」と言っており、転じて下々である自分は安いと言いたい。
「「なんてお得な!」」
お安くてお得!という意味と、メイだけ引き下がれる=これ以上巻き上げずに済む=寒くされずに済んでうらやましいという意味がかけられている。
「高みの見物が出来そうで今から胸アツです」
自分だけが無関係であり、アフォーナとパアナの二人が苦しむさまを見れて胸が熱くなるという意味。下々が転じて「高み」におり、二人が寒くなるのに自分は熱いという意味も込められている。
という感じて書いたと思うんですが、当時でもちょっとこじらせすぎて伝わらない自覚があったらしくヒリアに「なんかよくわからん言い争いを始めた三人。」と独白させてますがこれは完全に予防線です。こんなんやるぐらいならボツにして消せばいいのにとも思われるでしょうが、何卒ご理解のほどよろしくお願いいたしますm(__)m




