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【1-4】王子様が現れた

 闖入者が一人現れた。金髪イケメン男子だった。

 あまりにもイケメン過ぎたせいか、再び会場がざわつく。いや、男子の登場にもかかわらず男性陣の多くもざわついているところを見ると少し事情が違うようだ。


「だ……第二王子!?」

「ああ!オウル様がパアナ様をお守りに!」


 辺りからそう言った声が漏れ出る。そして隣の……名も知らぬ男子からも。


「第二王子オウル・シメトール殿下……やっぱり、パアナ様の婚約者として見過ごせなかったか」


 そう、この二人は婚約者同士なのだ。

 パアラの表情がパッと明るくなった。そして再びスカートを摘まむと、未来の夫に向かって一礼した。


「これは殿下、お騒がせして誠に申し訳ありませんわ。ですが今すぐにこの不作法者を叩きだしますのでご安心くださいませ」

「いや、だから落ち着いてパアナ。みんな今日入学したばっかりじゃないか、もっと仲良くしていこうよ」


 だが当の殿下からの返答は彼女の意にそぐわないものだったらしい。パアナの眉間に皺がよる。


「仲良く?このような輩と?殿下、ご冗談にしても笑えませんわ」


 当のこのような輩は輩で怪訝な表情を浮かべ、メイに耳打ちしている。


「誰?こいつ。知ってる?」


 まさか自分の国の王子の顔も知らんとは。さすがはアフォーナ、侮りがたし。ていうか殿下って呼ばれてる相手にこいつ呼びは止めろよ。


「はい。我が国の第二王子、オウル様です。ちなみにそちらの公爵家ご令嬢の婚約者でもあらせられます」

「え!?あんたもう婚約してるの!?はっや!」


 やっぱり知らんかったか。周りもめっちゃ言ってるのに聞いてもいないのな。

 というか彼の正体よりも許嫁の関係であることの興味が勝ったらしい。


 驚きの顔を向けてくるアフォーナに、パアナは嘆息で応えた。


「……宮廷では普通のことですわ。幼少の頃には既に縁談がまとまっております」

「マジで!?そんなんどんな男に育つかわかんないのに!?」

「国を背負って立つ素晴らしい殿方となるに決まってるでしょう!?」

「うう……プレッシャーがすごい……」


 全く疑う素振りも無く言ってのけるパアナを他所に、オウル様が胃を抑える。


 そんな将来の旦那の体調に配慮することは一切なく、今度はパアナがビシッとアフォーナを指差した。


「殿下、もうお分かりかと存じますがこの者はあまりにも常識が欠落しております。このまま同じ空間で同じ空気を吸う事などわたくしにはとても耐えられません」


 しかしその言葉で、王子は再び背筋を伸ばし姿勢を正した。

 そして優しい言葉で諭すように口を開く。


「あのね、パアナ。この学園に集まっているのは宮廷の人間だけじゃないんだ。色んな所から色んな人が来てるんだから、もっとお互い寛容になる必要があると思うんだよ」

「そうは仰いますが、わたくしはオーテンバー家の娘としてあのような振舞いを見過ごすわけにはいきません!」

「その気持ちは尊重する。だけど、家名に頼るのはやめにしないか?」

「わ、わたくしはそのようなつもりは……!」


 何やら結構シリアスな感じになってきた。

 王子の態度はあくまで温和ながら、有無を言わさぬ力強さが含まれている。中性的な顔立ちで柔らかな印象の彼だが、やはり王子であるが故か隠しきれない威厳がそこにはあった。


「もし君がオーテンバー家の力でもって彼女を排除しようとするのなら、僕はシメトール家の力でそれに対抗しなければならなくなる。でも、そんなことはしたくない」

「何故殿下はこのような者を庇うのです!?」


 ほぼ悲鳴に近い抗議だった。確かに、彼女の立場からしても、そして婚約者から受ける仕打ちとしても納得いくものではないだろう。

 だがそんな彼女の気持ちを知ってか知らずか、王子は自身の理想を口にした。


「彼女だから庇うんじゃないよ。僕はただ、この学び舎に親の権力を持ち込んでほしくないだけなんだ。身分なんて関係ない、ここではみんなが対等……そうあるべきだと僕は思っている」

「……殿下は甘すぎます!」


 苦々しげな、いや悲しげとも言っていい表情を浮かべながらも、パアナは軽く手を振るった。そしてこれに呼応し立ち上がっていた生徒たちが再び座り込む。


 会場は再びしんと静まり返っていた。二人のやり取りは、下手をすればこの国の将来に遺恨を残しかねないものだということに皆気づいているからだ。


 そんな中、全くわけのわかってない様子のアホが一人調子づく。


「まあなんだかよくわかんないけど、ざまあw」

「何をっ……!?」


 キッとアホを睨みつける公爵令嬢。

 だがアフォーナはそれを全く意に介さずパアナを煽る。


「ねえねえ婚約者の王子様に怒られるってどんな気持ち?ねえどんな気も……」


「でもこれは君にも言える事だよ、アフォーナ。例え彼女が君の側仕えであったとしても、この学園では互いに対等だ。このような扱いをするのは感心しない」


 遮るように今度はアホを戒める王子。ただそれは調子に乗って勝ち誇っていることそのものに対してではなく、彼女のメイへの態度に対してのようだった。ただそれでも、パアナが再び明るさを取り戻すには充分だったようだ。


「そうですわね、とても清々しい気分ですわ。わたくしのために一矢報いてくださったのですから」

「ぐぬぬぬ……」


 その時、令嬢二人が睨み合ってる隙をつくかのように、メイがすすっと王子にすり寄っていく。


「王子様、ステキ。わたし、あなたになら抱かれてもいいかも」

「なっ!?わたくしの目の前でよくもそんな……!」


 婚約者の怒りの声をものともせず、メイは王子の腕に絡みついた。


「側室の籍、まだ空いてます?あ、別に端っこの方で構わないので」

「殿下!わたくしは許しませんよそんなこと!」

「い、いや……僕は別にそんな気は……」


 何だかよくわからん三角関係が急展開されてる中、意外にも冷静な声で突っ込みを入れたのがアフォーナだった。


「ていうかあんた何アタシに無断で嫁ぎ先決めようとしてんの?」

「そうです!主としてそんなこと決して許してはなりませんよ!」


 とはいえそれでもメイはどこ吹く風だ。


「申し訳ありませんお嬢様。ですが身分なんて関係ないと嘯かれている今が大チャンスなのです」

「うそぶ……」


 暗に綺麗ごと言ってるだけと揶揄されショックを受けた様子の王子。一方のアフォーナの方はというと、ちょっと違った視点からこの出来事を見ているようだった。


「それで、あんたが側室になれたとしてアタシに何か見返りある?」

「勿論でございます。側室として権力を手中に収めた暁にはそりゃあもうたくさん差し上げるものが」

「へえ、それは楽しみね」

「ちょっとあなた!止めなさいな!その女は危険です、きっと裏切りますわよ!」


 満更でもない様子のアフォーナに抗議するパアナだったが、また例の高笑いで一蹴する。


「オッホッホッホッ!何をバカなことを。アタシとこいつは長年同じ釜の飯を食べてきた家族よ?それだけ目をかけてやった恩義を忘れるわけないじゃない。そうでしょ?」


 同意を促され、それまで無表情を貫いていたメイの表情が破顔した。とってもいい笑顔だった。


「はい、積年の恨みを晴らすべくお嬢様にたくさんざまあwしまくって差し上げますので震えてお待ちを」

「よ~し、アタシ達二人でこの食わせ者を何としても止めるわよ!」

「望むところですわ!」

「王子様~助けて~、お貴族様たちがマウント取りにくる~」

「あ、あはは……仲良くなって何よりだよ」


 様相一変、これまでの諍いが嘘であるかのように結託したアフォーナとパアナがじりじりとメイに詰め寄り、当の彼女はタックル食らわないよう王子を盾にして隠れるというドタバタラブコメが始まった。


「そうね、でも寸劇はこの辺で終わりにしましょうか」


 が、その茶番は結局長続きしなかった。いつの間にか四人の近くに現れていた一人の女性が、それを宣言したせいで。

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