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【2-8】カネもちカメもちだった

「オッホッホッ!いや~、スカッとしたわ~。これで溜飲も下がるってもんよ」


 脚を前に出す度にケツを左右に揺らしながら廊下を進むお嬢はこれまでにないくらいに上機嫌だ。得意の麿笑いにもキレがある。


 勝鬨を上げた後はもうあの場にいる必要がないと判断したのか、お嬢もまた踵を返しサロンを後にした。従者である俺と先輩も彼女の後に続き、今は校舎との間を繋ぐ渡り廊下を歩いているところだ。


「てかお嬢、何考えてるんすか?公爵家の……それも次期国母と目されてる方にあそこまで突っかかるなんて」

「相手が誰であろうと売られた喧嘩は買う。それがこのアフォーナ・ヤッチャネン様よ」

「最初はめっちゃビビってた癖に」

「そんな事実無いわ。歴史改ざんしないで頂戴」


 ドヤりながら平気で嘘つくお嬢。

 いや、そりゃあんたの得意技だろうが。


「でも、マズい事には変わりないんじゃないっすか?相手は相当格上なんですから」


 その危険性はお嬢自身よくわかってる筈だ。だから当初は――お嬢は記憶を抹消してるようだが――彼女に屈しようとした。家族であるメイの件もあって引くに引けなくなってる事自体はわからなくもないが、それにしたって無駄に煽り過ぎだ。このままでは本当に追放されかねないのではないか。


 そんな俺の心配を他所に、お嬢は余裕綽々だ。


「ところがどっこい。何かここでは、よっぽどの事でもない限り階級差も身分差も不問になるんだって」

「そうなんすか?」

「そうそう、そういう経験含めての学園生活だ、って。それ聞いたら公爵家が相手だからってヘコヘコすんのアホみたいじゃない?」

「お嬢様はヘコヘコしなくてもアホそのものですが」

「オッホッホッ!メイってば冗談きついんだから」


 いやガチのマジだと思いますが。


 しかしなるほど、そういう事情があったのか。確かに本学園の目的の一つにお貴族様たちの模擬戦としての側面があるらしいとはいえ、争いは基本的にそれぞれのクラス内で行われるようなので、特に階級差が激しい中級(ミドル)内ではこのような規定でもないとシンプルに侯爵家の子弟が優位に立ってしまうのだろう。


 ただ、クラスを超えてもその規定が本当に適用されるのかは疑問だ。もしそうならば初めからクラスを別ける必要があったのだろうか?単純に学ぶ内容の違いによるものかもしれないが、少なくとも下級(ロウワー)では目指すべく職能に応じて教室を移動するので元々の大教室自体は一緒にしていたとしても不都合はなかったというか、むしろその方が合理的だったんじゃないかと思う。


 実際クラス分けがされてるせいで、下級(ロウワー)の生徒はことあるごとに上位のクラスに赴いてあれやこれや仕事をしているらしく余計な手間暇がかかっているようなのだ。まあ単純にそれぐらい身の程を知れということなのかもしれないが、この辺のチグハグ間は否めない。


 そもそもお嬢の言う「よっぽど」がどれぐらいの事なのかも気になる。客観的な判断基準が存在しているのか、それとも誰かの匙加減で決まるのか、はたまた裁判のようなものを執り行うのか。


「でも在学中は大丈夫でも卒業後に困るんじゃ?」


 いずれにしろこの学園全体にその規定が適用されるのだとしても、それはあくまで現役の生徒であるうちだけだろう。総合的に考えれば長い物には巻かれていた方が無難な筈なのだが……


「先の事を考えてもしょうがないでしょ。なるようになるわよ」


 と、お嬢は実に楽観的である。


 先の事と言えば、俺達の前方に女子生徒が現れた。まあ渡り廊下なのだから誰が通っても良いのだが、問題はその人物が何やら運んでいることだ。花瓶?壺?いや、(かめ)か。その赤黒い色をした容器と思しきものは口元が胴回りよりやや広い形状をしていた。一応前世で口が胴の三分の二以上のものは甕に分類されると聞いたことがあるので目安の上ではそうなると思う。

 しかもそれは胴から下部に向かってすぼんでおり、底に至っては若干丸みを帯びているという特殊な形をした。にもかかわらず女子生徒はそれを直接手で持つのではなく、本当はその容器の蓋なんじゃないかと思えるぐらいの小さなお盆に乗せて運んでいるため正直見ていてかなり冷や冷やする。


「危なっかしいなあ、大丈夫かよ……」


 そもそも何故あんな不安定な運び方をしているのだろうか。中身の問題か容器が熱くて直に持てないのかもしれないが、もうちょっとマシな方法もあっただろうにと思わずにはいられない。

 彼女はおそらく俺達のことが見えてない。慎重に運ぶ事に精一杯の様子なのだ。このままだと俺達一向のすぐ脇を通ることになるだろうが、ぶつかられやしないかちょっと心配だ。

 そういう趣旨で呟いたのだが、どうやらお嬢は自分の事を言われたと思ったらしく少しムッとした。


「あんたこそそんな先の事考えるよりアタシの信頼を勝ち取る努力をなさいよ。じゃないと正式な従者として認めてやんないわよ」

「え、もう勝ってません?」

「はあ~っ、全っ然わかってないわねぇ」


 俺の問いにやれやれといった感じで首を振るお嬢。主人公でもないのにそれやると酷い目にあうぞと教えてやりたいところだが、まあ言ったところで何の事だかさっぱりわからんだろうしお嬢がどんな目にあおうと一向に構わないのでやっぱり放っておこう。


 しかしこれで、やはりまだ信頼されていないことが発覚した。ワンチャン即日追放されても同行を許されるかとも期待したが、これではどうも無理そうだ。

 だとすればやはりお嬢でも迎え入れてくれる心のひろ~い上級(アッパー)所属の王族を探さなきゃならんくなる。


 これから待ち受けるであろう途方もない苦労に思いを馳せ、俺の涙腺が緩む。一体俺は何のために……


「酷い……キスまでした仲なのに……」


 あの時の屈辱、そしてこれからの仕事を考えて溢れる涙を拭いていると、お嬢は高らかに嗤った。


「オッホッホッ!キスぐらいで何調子こいてんのよ、自惚れないで頂戴」

「でもお嬢はさっきパアナ様に調子こいてたじゃないっすか。たかがキスぐらいで」

「あー、あれ?想像以上に効いてたから煽っただけよ。まさか中央のお姫様があんな奥手だとは思ってなかったわ」

「お嬢もアレが初キスだったくせに」


 俺が指摘してやるとお嬢は鼻を鳴らした。


「だってアタシ、今までそういうのにあんまり興味湧かなかったのよね。地元には変なのしかいないのもあって」

「そりゃま、お嬢んとこの領地なんですからそうなんでしょうね」

「だけど実際ヤッてみると、すごく良かったわ。何ていうかこう、濡れた」

「俺の口もベッチョベチョにされましたしね」


 まああれだけ濃厚なのをすれば濡れるのも必然だろう。唇が、唾液で。決して(シモ)の事じゃない筈だ。


 と、お嬢がしなだれかかってきた。そして俺の肩に顔をうずめ、上目遣いで問いかけてくる。


「……これ、最後までヤレばどうなるのかしら?」

「多分捕まるんじゃないっすかね」

「そういうこと。アタシを掴まえたかったらどうすれば良いか、これでわかったでしょ?」


 何故かにやりと笑うお嬢。自分が豚箱送りになるヒントを与えてくれるとは、やはりこいつはメスブタだな。


 しかしだとすると美人局(つつもたせ)にでもなるべきか。男の美人局なんて概念あるのかどうかは知らんが。

 ただいずれにせよそれには危険が伴う。何せお嬢は腐っても伯爵令嬢様、例えこの学園が無礼講制度を取っていたとしても、さすがに法が絡むとなると貴族が優遇される事必至だろう。せめてカメラの類がある世界だったら何とかなったのかもしれないが……


「別に俺じゃなくても男なんて他にいくらでもいるでしょ。お嬢相手でもイケるって奴結構いると思いますけど」


 実際お嬢は性格と肌年齢にさえ目を瞑れば見てくれ自体はそれほど悪くない。体つきに至ってはむしろ結構どすけべな部類だ。お嬢が誘えば乗ってくる男は少なくないだろう。


 実際無駄に自己肯定感の高いお嬢もその自覚はあるらしい。


「んなこたぁ言われなくてもわかってるわよ。アタシはあんたのために言ってやってんの」

「……それって、俺が正式に叙任してもらうにはソレしかないって事っすか?」

「さあ?どうかしら」


 口角を上げてにんまり笑みを浮かべるお嬢。一方で俺の気分は下がる一方だ。


 お嬢が明言を避けたのは他にも可能性があることを示唆している……と捉えるのはやはり楽観的か。単純に言質を取られないよう婉曲的に言っただけの可能性が高い。


 つまり結局のところ、俺に求められているものは一つしかないのかもしれない。


 というかこれ男女逆の展開だろ。まさか男の身に産まれてこんなあからさまなハラスメントを受けるとは思いもしなんだ。別にイケメンでもないのに何この仕打ち。


「……まあ、おいおい考えます」


 少なくとも、今はこうしか言えない。下手に拒絶して機嫌を損ねる方が厄介だ。

 もうすぐ俺達の隣を通ろうとしている女子生徒を尻目に苦渋の表情を浮かべる俺に対し、お嬢は実に嗜虐的な笑みと共に顎を上げて高笑う。


「オッホッホッ!良い返事を期待してるわよヒリア。なぁに心配いらないわ、身も心もアタシのものにさえなれば、行く行くは一緒に連れてイッてあげるから。オッホッホッ!オッホッホッ!オーッホッh」

「イケませんお嬢様!」

「おっほぉ!?」


 今の今まで大人しく後ろからついてきていた先輩が突然お嬢を突き飛ばした。その衝撃のお陰で諸々イケたようで、そっくり返ったまま数歩分先までダイブするお嬢。


 真隣に、甕を持った女子生徒がいるところまで。


「わわわ!」


 お嬢らの奇行のせいで驚いたのか、その女子生徒がバランスを完全に崩して容器をひっくり返し、零れた液体が見事なまでに全部お嬢にぶっかけられる事になる。


 何だかねっちょりした白濁液だった。


「メイィィィィ……あんたねえ……」


 お嬢が四つん這いになり、後ろを向く。顔が真っ白なのは怒りを通り越して、とかいう問題じゃなく物理的に染め上げられているからだ。


 そんな主人公ぶったせいで早くも酷い目にあったお嬢を見て、先輩が口元を抑え小刻みに震えている。さすがの事態に狼狽した……というわけではおそらくなくほぼ間違いなく笑いをかみ殺している。


「ああ、お嬢様おいたわしや。どうしてイッてしまわれたのですか」

「あんたが後ろから突いたからでしょーが!」


 どうやらお嬢はバックから攻められると弱いらしい。また有害な情報を得てしまった。


「賢者タイムに突入して欲しかったので」

「逆に興奮してヤル気マンマンよ!」

「でも頭は冷えたのでは?」

「むしろ生暖かいわ!」


 頭から白濁液まみれになったお嬢の全身に制服が張り付いている。そのせいで胸元が乳袋のようになりうっすらと下着も透け出したので俺は慌てて視線を逸らした。決して目のやり場に困ったからではない、もしブラまでトラ柄だった日には雷を落とされても文句言えなくなるからだ。それならまだ中世的世界観なのにワ〇ールで売ってそうなのを着けてる方がマシである。


 あんまりそわそわするのもよくないので、注意をお嬢にぶっかけた女子生徒の方に向けることにした。


 と、ようやく気付いた。彼女は昨日大講堂でお嬢の前に座っていた子だったのだ。奇しくもお嬢に仕返しをした形となってるのだが、様子を見るに意図的ということではなさそうだ。ただ単にお嬢と巡り合う星の下に産まれた哀れな少女なのだろう。


 せっかくの機会なので改めて彼女の様子を確認する。明らかに動転しており顔を真っ青にしていたが、その容姿は実に可愛らしかった。左右の髪をおさげにした彼女が大きな目をさらにまん丸に見開いて涙をためている様子には庇護欲すら掻き立てられる。一方その反面……といってもいいのか、胸の辺りはお嬢よりもさらに巨大な隆起が制服を持ち上げているせいで少々貫禄があった。なるほど、昨日講堂でお嬢が長時間彼女の首に脚を回せていたのはこれに乗っけることが出来たからなのかもしれない。


「あー、もう……あんたのせいでビッチョビチョのヌッレヌレよ……これどーしてくれるの?」

「ご、ごご、ごめんなさい!」


 彼女はお嬢に凄まれると全身をガタガタと震わせた。連動するようにお盆の上で例の甕もガタガタと揺れている。


 ……ん?


「あんたねえ、謝って済む問題だと思ってんの!?」


 俺は違和感を覚えたものの、怒りのこもったお嬢の唸りで我に返る。

 お嬢は立ち上がらずに胡坐をかいて彼女に凄んでいた。


「す、すみません!まさか人が倒れてくるだなんて思ってもみなくって!」


 まあそりゃそうだろうな。ハッキリ言って先輩が余計な事しなかったらこの事態には陥らなかった筈だ。正直どちらかというと彼女の方が被害者だと思う。


「言い訳無用!アタシを誰だと思ってるの!?ヤッチャネン伯爵家の娘よ!?」


 とはいえ当のお嬢本人からすればそんな事知ったこっちゃないだろう、女子生徒相手に口角泡を飛ばしながらまくしたてる。


「お嬢、さっきよっぽどの事がない限り身分差関係なくなるって話したところじゃないですか」

「いやよっぽどの事でしょこれ!」


 俺の突っ込みに対し、これ見よがしに全身のベトベトっぷりを見せつけて抗議するお嬢。隣では先輩が小首を傾げる。


「そうですか?割と日常茶飯事の気がしますが」

「誰かさんのせいでね!」


 先輩が肩を竦めている横では、女子生徒が首をしきりに傾げて何かを思い出そうとしていた。


「……ヤッチャネン?どこかで聞いたことがある気が……ってまさか!?」


 そしてようやく何かに気づいたように両手で口元を覆う。

 そのためお盆を手放ししまい、せっかく無事だった甕と共に落としてしまう。


「あ!?あっぶ!?ぐえっ!?」


 しゃがんだ状態のお嬢は反射的に自分に向かって落ちてくる甕を受け止めようとしたが、先にお盆が頭に当たりひしゃげたような悲鳴を上げた。

 ついでに甕はヌメヌメのお嬢の手から零れ落ちた。おそらく陶器製なそれは硬い床に衝突し、鈍い音を上げる。

 

「だ、だだ大丈夫ですか!?」


 慌てる彼女を睨みつけるお嬢。


「大丈夫じゃないわよ!見りゃわかんでしょ!」


 そう言って頭をさするお嬢。ただヌレヌレになってるとはいえ元々がモリモリに盛られた髪型、お盆程度の衝撃なんぞ吸収してそうだ。事実、あまり良い音を響かせなかった。


 メイが心配そうに状況を確認する――


「本当ですね、少し割れちゃってます」


 ――床に落ちた甕の方のだが、底の中央部にぱっくり直線状のヒビが入ってしまったのだ。


 これに先ほどにもまして慌てふためく彼女。


「え!?ど、どどど、どうしよう!?壊しちゃった!?」

「問題ありません、最初からぶっ壊れてます」

「んなわけないでしょ!」

「本当ですか?カチ割って中身を確かめてみましょう」

「ってアタシの頭に向けて甕振りかぶんな!」

「そ、そうですよ!それ以上割らないでください!」

「だから元から割れてな……イッキシ!」


 文句言っていたお嬢が突如クシャミをし、震える体を自分でさすり始める。


「お嬢、冷えてきたんすか?」

「そうみたいね……てか、くっさ!ちょっと何よコレ!?」


 垂れ下がった鼻提灯を思いっきり吸い込んだお嬢はついでに付着した白濁液の匂いも嗅ぎ取ったようだ。思いっきり顔をしかめる。


「うわっ、めっちゃイカ臭いですね」

「ですね。まあお嬢様の体臭に比べれば香水振りかけたようなものですが」


 俺も一応嗅いでみたが、確かに臭い。臭いが、先輩の言うようにお嬢の足に比べたらどうということもない。


「ちょっとあんたコレ一体何なのよ!?アタシに一体ナニぶっかけたの!?」


 とはいえお嬢本人からしたらたまったものではないだろう。

 怒られてる当の本人はぺこぺこと頭を下げた。


「ご、ごめんなさい!中身の事はよく知らないんです。ただ、確か男の方たちがためにためていたナニかだとは仰ってたような……」

「何だかすんごく嫌な予感がするんだけど」

「何を仰いますお嬢様、お世継ぎが産まれたらご当主様もきっとお喜びになられますよ」


 しれっと無茶苦茶な事を言い出す先輩。

 ところが、意外にもお嬢がそれに乗っかる。


「まあそうね……そんときゃヒリアを父親ってことにすりゃいいか」


 それもすんごくえげつない事を口にして。

 当然俺としては受け入れがたい。


「ふっざけんな!俺の汁権利を与えた覚えはない!」

「いーじゃん別に。どうせ誰のかわかりゃしないからへーきだって」

「だからヤベーんじゃねえか!」

「それにそんときゃあんたもうちの領地に来れるんだからウィンウィンでしょ?」

「それもう囚人の移送みたいなもんだろ!人生の負け確定だよ!」


 俺とお嬢が言い争ってると、珍しく先輩までもが声を荒げ割って入って来た。


「ご安心ください!ヒリア様の身の潔白はきっと証明できます!」

「ほ、本当か!?」


 さすがはメイ先輩、何と頼もしい事か。きっと俺が無実であることを証言してくれるのだろう。

 或いはひょっとしたらバックス・バンニンの技術で遺伝子鑑定してくれるのだろうか。どちらにしろそれならさすがに俺の嫌疑は晴れそうだ。世間様に女の趣味を疑われずに済む。


「はい!性交渉のない男性には童貞線なるものがあると伺っております!それが証拠になる筈です!」

「んなもんねーわ!てか身の潔白ってそっちの意味かよ!」

「ま、まさかヒリア様はもう穢れているのですか!?」

「ノーコメントだよド畜生!」


 何て畜生な質問するんや!

 ど!どどど!どどどどどうていちゃうかもしれんやろが!


 すると、お嬢が何やらニヤニヤしながら俺に問いかける。


「ちなみにあんたの言った「んなもんねーわ!」ってどっちにかかってんの?童貞線?性交渉?その両方?」

「ぐっ……!?だ、だからノーコメントって……!」


 クソ!アホの癖にこういう時だけ鋭い奴め!


「童貞線なんてもの最初から実在しないからノーコメントにする必要ないわよね?ってことはやっぱあんた童て……」

「あー!お嬢も助かりましたね!膜で塞がってるお陰で白いのナカに入らずに済みましたよ!」


 クソが!アホの癖にそういう知識だけは持っていやがって!

 思わずカッとなってかなりギリギリの下ネタで話を逸らしてしまったが、正直後悔している。こんなんでRがついてしまったら目も当てられない。


 俺の渾身の誤魔化しにお嬢は一瞬きょとんとしたかと思うと、ぽんっと手を叩いた。


「……あ、そういやそうよね!いやー良かった危うく孕むとこだったわー」


 と、さわやかな表情で額の汗ならぬ白濁液を拭うお嬢。


 ちなみに膜があっても完全に塞がってるとは限らないので何とも言えない。ただそれ以前に体外ならば数時間ほどしか持たないと言われてるので甕に入ってたやつが出したてホヤホヤでもない限り実際のところ初めから杞憂なのだ。

 ……というか、この白濁液がアレなわけないだろ常識的に考えて。仮にここがエロ系の創作世界だったとしてもいくらなんでもそれはないだろ頼むぞほんとに。


「何ともあっけないまく切れですねお嬢様」

「だからまだ切れてないっつーの」

「ではブッタ切れる長物をご用意致しましょう。出血大サービスです」(*1)

「ヤッたことなくてもうまくイくかしら?」

「それはもう、真っ赤になって昇天間違いなしかと」

「やだ、ビッチョビチョに濡れちゃいそう」

「お嬢様のハカ、式典挙げて盛大にお祝いしますね」

「大袈裟なんだから」


 アハハオホホと笑い合う先輩とお嬢。うまい具合に話を逸らせたようなので俺も一緒になって笑っておく。


「でもどうせならヒリアと一緒に卒業したいわ。こいつも長モノ持ってるみたいだし」

「無用っす。俺そもそも単位不足っす」

「やっぱあんたまだまだなんじゃん。見栄はってんじゃないわよこの不届き者」

「至らずに申し訳ございません」


 見ヌかれてへんにゃり180度頭を下げる俺。


 ――結局そらせなかったのだ。話も、俺の無用の短物も。


「それじゃあんた達、一旦控室に戻るわよ。着替えたいし体も洗いたいわ」


 既にビッチョビチョに濡れてるお嬢は立ち上がるとそう宣言した。


「あ、あの……あたしも戻らないといけないんで容器を返してもらえますか?」


 すると、おずおずと女子生徒が声をかけてきた。ちなみに甕はメイが持ったままなのだが、全く返却するそぶりを見せずにしれっとしている。


 そしてお嬢が呆れたように鼻を鳴らした。


「いやいやあんた何言ってんの?ヤリ逃げが許されるわけないでしょ、落とし前つけるまでかえさないわよ」

「で、でも!あたしお金は持ってなくて!」


 女子生徒の弁明に、今度は微苦笑を浮かべるお嬢。


「あらそうなの?ならしょうがないかぁ」

「ゆ、許していただけるんですか?」


 女子生徒は安堵の表情を浮かべる。

 ――次の瞬間、お嬢の表情が邪悪に歪むまでのほんの刹那の間だけ。


「だったら体で払ってもらうしかないわねぇ!」

「ひっ!?」

「と、いうわけや姉ちゃん。ちぃ~っと事務所の方まで一緒に来てもらいまひょか~」

「ひいっ!?」


 先輩が背後からガバッと肩に腕を回しながら耳元でそう囁くと、彼女は更に体を硬直させた。

 これはいけない。


「だーいじょうぶ大丈夫、怖いのも痛いのも最初だけやさかいにのぉ~」

「ひいいっ!?」


 なので俺も負けじと下から仰ぎ見るようにして安心させようとするも、彼女の顔はより引きつっただけだった。お嬢の顔がより一層嗜虐的に歪むのと対照的だった。


「あんた達、たっくさん可愛がってやりなさい」

「「アらホらサッサー」」


 俺達の歓迎の意も、女子生徒には伝わらなかったようだ。

 彼女の顔面は白濁液など一切かかってないにもかかわらず蒼白となっていた。


 あ、お盆は俺が回収しときました。

(*1)「長物」を「ながもの」と読んだ場合には刀の意味もあります。


又、「ハカ」には二つの意味を込めておりますが全年齢対象ということで漢字での説明は控えさせていただきたいと思います。ご了承ください。

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