【1-11】予想を超えてきた
一部こじらせすぎててちょっと何言ってるのかわからない箇所(*1)がありましたので後書きに解説を入れておきます。
「なるほど、いやさすがですヒリア様。そうやってわたしの方からこの茶番を撤回させようという魂胆なのですね」
茶番って言っちゃったよこの子。
だが、まさにその通りだ。
アフォーナ自身が要求してしまった以上、先輩であるメイが俺より先に死地に赴くのは決定事項となった。これを覆すためには、そもそもの儀式内容自体を変える必要がある。必要がある筈なのだ。
なのに彼女は、予想しえないことを口にした。
「……ですが、そうはいきません」
何故、まだそんなことを嘯く余裕がある?
俺の背筋に冷たいものが走る。
「強がるのはよせ……あんただってこんなことで死にたくはない筈だ」
「え、命までかかんのこれ」
アフォーナが何か言ってるが今はそんなこと気にしている余裕は無い。
そして、白状しよう。強がっているのは俺も同じだ。心臓はバクバクと跳ねあがっており、脚はガタガタと震えている。
だから余計に、俺よりも小柄な女子が大きく見えてしまう。
動じずに俺の方をまっすぐ視線で射抜く、彼女が。
「甘い。あなたは本当に甘いお方です。こうなることをわたしが想定してないとでも思っておられたのですか?」
「……な、に……?」
予測していた、だと?バカな!
「この試練において、最大の難関は一体何だと思われます?」
「そんなの、激臭い足に口をつけることに決まってるだろ!」
思わず口調を荒げる俺を見下すかのように、メイは顎を上げた。
「違います。そんなことは覚悟があれば出来なくはありません。もっとも、失うものも大きいでしょうが」
「ハッタリだ!そんなこと普通の人間に出来るわけが……!」
「おや、おかしなことを仰いますね。まさか正気のまま我がお嬢様の従者が務まるとでも?」
「どういう意味よ」
アフォーナの突っ込みを他所に、俺の頭でこれまでのメイの態度がフラッシュバックする。
確かに、彼女の行動は奇行ともいえるものばかりだった。
「あんた……もう自分を捨てていたのか」
既に彼女は、壊れていたのだ。
ふと、メイが遠い目をした。
「とはいえ、生理反応だけはどうにもなりません。つまり、最大の難関はあの強烈な激臭です。これだけはいくら腹をくくろうと、体が勝手に拒絶してしまいます」
「口呼吸で乗り切るつもりじゃなかったのか……」
「浅慮ですね。お嬢様は穴さえあればどこにでも侵入する、そう思われた方がよろしいですよ」
「あんたはアタシを何だと思ってるの?」
発生源と匂いを混同するメイの答えは意外なものだった。
「勿論、とてもエラい方だと」(*1)
「え、ホントに?」
「はい、だってこんな恥ずかしい人滅多にいませんから」
「失礼ね!アタシは何も恥ずかしくないわよ!」
だったら少しは恥を知れ。入るだけじゃなく埋め立てろ。そしたら少しはマシになるだろ色々と。
まあそんなことよりも、俺の計画はどうやら最初から破綻していたらしい。
個人的にはキスの方が問題だと考えていたが、それは口呼吸で対処可能と判断していたからだ。しかしそれが通用しないとなると、確かに臭いに耐え切る方が難しいかもしれない。
「だとしたらあんたはどうするつもりだったんだ?」
「気づきませんか?わたしの声を聴いていて」
一瞬、彼女が何を言っているのかわからなかった。だが、そういえば彼女が絡まれていた時から何か違和感を覚えていたことを思い出した。あの時は気づかなかったが、声と指定されておぼろげながら相違の正体が手繰り寄せられてくる。
そして疑問が、ようやく氷解した。
「……鼻声!?まさか!」
「そうです!聖女の魔法の巻き添えを食らったお陰で、今のわたしは少々風邪気味!つまり、鼻が詰まっているのです!」
「あ、ああああ……」
何という事だ……俺が壁ドンした時から既に計画は練られていたのだ!
アフォーナのことをよく知る彼女だからこそ思いつけたこの目論見。
俺に対する、初っ端からの新人いびり。
「いくらお嬢様といえど通り道そのものが塞がっていては入り込むことなど不可能!実際、先ほどからわたしの鼻はほとんど利いておりません」
「ち……チクショオオオオオオ!」
「いやアタシ=臭いなわけじゃないからね今更だけど」
今後何かある度に俺の知らないアフォーナの一面を利用され、そしてお仕置きされることになるだろう。本人が言うように彼女は臭いの権化というだけではない、もっと色んなとんでもない顔を有しているに違いないのだから。
――結局俺は、彼女を恐れる日々から逃れられないのか。
「それではお二方のお望み通り、わたしから儀式を完遂してみせましょう」
メイは余裕の表情でアフォーナの前に跪き、祈るように手を組んだ。
そして裸足に顔を寄せ、誓いの言葉を唱え始める。
「わたし、メイ・ドーザーはアフォクッッッッッッッッサアアアアアアアアアッッッッッ!」
だが結局、メイもまたもんどりうって倒れる結果となった。
「そ、そんな!?……わたしの鼻は……間違いなく詰まっている筈なのウォエエエエエエ……」
策士、策に溺れるとはこのことだ。
とどのつまり、彼女はナメていたのだ。アフォーナの底知れぬポテンシャルを。
哀れなものだ。常に主の身近にいながら、その真の恐ろしさをわかっていなかったのだから。
うずくまってえずきまくっているメイの肩をぽんっと叩いてやると、彼女の体がビクリと跳ねあがった。顔からは滝のように汗が流れ、水を得た魚のように目が泳いでいる。
だが、俺も容赦する気はない。
「おやおや?せんぱ~い、どうしたんすか~?早いこと済ませてもらわないと、俺の番が回ってこないんですけどぉ~?」
「そうよ、メイ。これしきのことでへこたれるあんたじゃないでしょ?さ、早う早う」
俺が邪悪な笑顔でメイに急かすと、アフォーナもノリノリで足を差し出す。
最早メイの表情は完全に崩壊していた。彼女の瞳、そして鼻からも液体が溢れ出ている。限界なのは明白だ。
「……手に」
「「ん?」」
「やっぱり手にしましょう。よくよく考えたら、足にキスだなんて前例知りませんし、ここは伝統を踏襲すべきかと」
「お嬢、どーしますぅ?」
「そーねえ?土下座して頼むんなら、考えなくもないけどぉ?」
俺とアフォーナがニヤニヤしながら迫ると、彼女は拍子抜けするほどすんなりと正座し三つ指ついてお辞儀をした。
「お、お願いします……」
「え~?聞こえないんだけど~?」
「お願いしますお嬢様!足は、足だけは堪忍してください!後生ですから!後生ですからぁ!」
更に額を床に擦り付ける勢いで縮こまってしまったメイ。よほどあの臭いが堪えたのだろう。気持ちは死ぬほどよくわかる。
「う~ん、ど~しよっかな~?」
「先輩も反省したようですし、今回はこの辺で許してあげましょうよ」
当然俺としても助け船を出すのにやぶさかではない。
じゃないと結果的に俺も死ぬ羽目になるからな。
アフォーナも割とあっさり合意した。
「ま、そうね。でもいいこと?これからはもっとアタシを敬いなさい。さもないとあんたの鞄の中に生足突っ込んでやるわよ?」
「そ、そんなご無体な……」
「い・い・こ・と!?」
「は……はい……」
抗議するものの結局押し負け引き下がるメイ。ところでご無体なのは足を突っ込まれることなのか敬わされることの方なのか。
「あー、何か久しぶりにスッとしたわあ~。ほれ、キスでも何でもちゃっちゃとやっちゃって?」
晴れやかな表情でアフォーナは左手袋を外し、メイの前に掲げる。
彼女はその手を取ろうとして二の足を踏んだ。
「……ところでお嬢様、手はいつ洗いました?」
「さあ?覚えてないわ」
「なっ……!」
なっ……
(*1)
「勿論、とてもエラい方だと」
立場上偉いという意味よりは、ちゃんとできてえらいね~的な意味の方。
「え、ホントに?」
「はい、だってこんな恥ずかしい人滅多にいませんから」
前段でメイは「お嬢様は穴さえあればどこにでも侵入する」と言っており、これは恥ずかしい人が「穴があったら入りたい」ということにかけている。つまり、ちゃんと穴に入るアフォーナは恥ずかしい人の鑑という意味で褒めている。というか皮肉っている。
「失礼ね!アタシは何も恥ずかしくないわよ!」
だったら少しは恥を知れ。入るだけじゃなく埋め立てろ。そしたら少しはマシになるだろ色々と。
↑穴があったら入るだけじゃなく埋め立てたら臭いもマシになるだろという意味。
自分で書いておいてなんですが読み解くのに苦労しました。ガチで何言ってるのかわからなくてどういうつもりで書いたのだろうと結構悩みました。前段の「穴」にここまで引っかけてんのかこんなもん伝わるわけねーだろと割と本気で思いました。
こんなん書いてアップしてごめんなさいm(__)m




