【1-1】転生した
転生した。
気付いたら産まれなおしてた。
前世での最後の記憶は普通に働いているところだった。死因は全くわからない、というか死んだという自覚すらない。だけどいい歳した社会人である私……いや、俺が突然赤ん坊になったということはやはりそういうことなんだろう。
父親はどこかに召し抱えられた……ここではとりあえず「騎士」としておこう、俺はそこの次男坊として新たな生を受けたことになる。
この世界にも現世で言うところの「貴族」というものが存在する。
まあ別に「華族」と言ってもいいんだが貴族の方が通りがよさそうだからそっちで表現する。
ようするに上流階級、或いは上級国民というやつで、「騎士」とは一般的にはそいつらに仕える武官という扱いだ。
そしてそいつら「貴族」にも階級というものが存在する。それは「爵位」で表され、一番下は爵位を持たぬもの、有爵者としての最下位は「男爵」次いで「子爵」「伯爵」「侯爵」「公爵」「大公」という順序であることが基本だ。
そしてそれらの更に上には「王」がいる。この国は「王国」なのだ。
一応言っておくけどここでの爵位は俺があくまで便宜上当てはめた名称であって現地の言葉では全然違う。
そして当然これらの称号が出来た歴史的背景も前世のどこかの国の制度に対応しているということは多分ない。
例えば日本で使われていた「公侯伯子男」は昔の中国の書物「礼記」に書かれていた王制を援用しただけだからヨーロッパの貴族制度とはズレが生じてしまう、という話を聞いたことがある。
日本では一口に「公爵」と指し示す中にはイギリスで言うところのprinceとdukeの両方があったりするらしい。
ようするに何が言いたいのかと言うと、この世界の制度はこの世界独自のものだから前世のどの国のものにも対応していないと指摘されてもそりゃしょうがないでしょとしか言えないわけだ。
繰り返しになるがこれらは俺が翻訳の過程で勝手につけてるだけの名称ということを念頭においといてほしい。
さっき俺の父親が「騎士」と言ったけど、本当は別に騎乗して戦うことに由来しているわけではないわけ。あくまで便宜上近い表現を使っているだけなのだ。何だかそれっぽいし。
ただ実際にそこらの兵士や傭兵なんかと違い、「騎士」にはそれなりに地位というものがある。前世の日本の歴史でいうところの「士族」、外国では「準貴族」などと表す国もあったようだけど概ねその辺に該当していると思う。
こちらの世界でも貴族として扱われるわけじゃないがそれなりに安定した生活が保障される。当然、給料も期待できる。
「騎士」は基本的には世襲制なので、兄弟のうちの誰かがそのうち父親の跡を継ぐことになる。そして大体は長男が選ばれる。勿論資質がなかったりするとその限りではないのだけど、うちの長男はしっかりしているので俺にお鉢が回ってくることは無さそうだ。
じゃあ俺の将来はどうなるのか?自分で見つけるしかない。親にコネがあれば働き口も何とかなるんだろうけど、残念ながらうちでは期待はできそうにないみたいなのだ。
この国にはそういった子供が結構いるらしい。で、俺を含めたこういう連中が取る選択の一つに首都にある「学園」への進学がある。
「学園」への入学は狭き門だが、さすがに人生二度目ともなると相当アドバンテージがあった。さすがに前世の歴史で習ったような科挙レベルの難易度だったら二度目どころか何度転生したとしても受かる自信はなかったが、幸いにもせいぜい難関といわれる高校程度だったと思う。もっとも、試験科目には実技も含め色々あったので一概に比べることは出来ないのだろうけど。
まあなんやかんやあって、俺は無事その学園に合格したのだ。
だからこれからの話は、基本的には俺の学園生活での体験談ということになる。
そうそう言い忘れてた。俺の名前はヒリア・キョロットル、これといった特徴のない平凡なモブ男子学生だ。