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①序章

 クレー暦、1592年。


 大陸の東側に位置するラムーザ国に一人の姫君が嫁いできた。

 彼女の名はシンシア・ブルー・グラハム。

 大陸の西側に位置するグラハム国の王女だった。


 彼女の嫁ぐ相手は、ルークス・レッド・ラムーザ。

 ラムーザ国の若き国王だった。


 ブルーの国グラハムと、レッドの国ラムーザは大陸を西と東に分けて長く戦争を繰り返していた。


 だが長い戦争に疲弊した両国は、互いの王女を相手国王に嫁がせることで友好関係を築き、戦争の終結を取り決めた。


 そうしてラムーザ国に嫁いできたのがシンシアだったのだ。


 これにより長い戦争が終わり、平和の時代がやってくるとラムーザの民は喜んだ。


 ラムーザの国境近くのトロイ村に住むシンディも心から喜んだ。

 シンディは銀色の巻き毛と青い瞳が美しい十三歳の少女だった。



「聞いた? シンディ。戦争が終わったのよ! 和平が結ばれたの!」


 一つ年上の親友マリッサは大喜びでシンディの元にやってきた。


「良かった。これでもう大勢の人が戦争で死んだりしないわね」

 

 シンディはマリッサと抱き合って喜んだ。

 人が戦争で死ぬことは、二人にとってなにより悲しいことだった。なぜなら……。


「お父様、お兄様達。ようやく戦争が終わりました。もう二度とお父様達のように戦争で無駄に命を奪われることのないように。弟のカイルのことは私が必ず守ります」


 シンディは丘の上の墓前に花を供えて呟いた。


 シンディの父と二人の兄は、戦死していた。

 マリッサの父と兄も同じく、戦争で命を落としていた。


 シンディの祖父はトロイ村の村長をしていて、父は次の村長になるはずだった。

 しかしグラハム国との戦争が激しくなり、戦地に近い村々からそれぞれ十人の兵士を出すように国王の命令が下り、父と兄二人は連れていかれてしまった。


 トロイの村はグラハム国と山を挟んで国境に接していた。

 身勝手な王家が起こす戦争で迷惑をこうむるのは、いつだって国境に近い善良な村人達だ。


 父と兄達は他の村人を守りながら、勇敢に戦ったそうだ。

 そうして命を落とした。


 トロイの村人達は次期村長の死を嘆き悲しんだ。

 身内のシンディから見ても、正義感に溢れた立派な父と兄達だった。


 シンディの家に残されたのは年老いた村長の祖父と、病弱な母と幼い弟だけだった。

 弟のカイルはまだ十歳だ。

 カイルまで兵士に取られることだけは絶対に認められない。


「もう二度と……国王が命じたって、絶対にカイルを戦争に行かせるものですか」


 シンディは父と兄達の墓前で誓っていた。


「お父様達が生きていたら、村はもっと安泰だったのにね……」


 マリッサも呟いた。


 年老いた祖父の次に村長になれそうな者は、マリッサの父を含めすべて戦死してしまった。

 村人達は、祖父の後は成長したカイルに次の村長をと望んでいる。

 もしも年老いた祖父がカイルの成長を待てずに亡くなる場合に備えて、シンディが祖父からカイルに引き継ぐ役割を請け負うことになっていた。


 シンディは祖父から村長の仕事を学びながら、戦争というものの残酷さとくだらなさを嫌というほど思い知った。


 歴史という長い目で見ると、戦争とは為政者いせいしゃ達がお互いの領土を奪い合いながら、民を犠牲にして己の権力を見せつけるために行うデモンストレーションのようなものだ。


「国王がバカだから戦争なんて起こすのよ。こんなくだらないことに大切なカイルを連れていかせるものですか!」


 近隣の村々も働き盛りの若者が戦死して、疲弊していた。


「もしも国王に会うことがあったら、一発殴ってやるわ!」

「ふふ。シンディったら」


 片田舎のシンディが会うことなど一生ないからこそ、いつも強気に言い放っていた。


 しかし、そんなシンディがまさか国王ルークスに会う日が来るなんて……。


 この時は考えてもいなかった。




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