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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

惨殺

作者: ゆりかもめ


その男は、無言で立ち尽くしていた。


顔の上半分を覆うほどの黒髪。着用しているのは黒いコートとクリーム色のチノパン。腰にはベルトを巻いている。


確か自分は、家を出て星が瞬く夜の外を歩いていただけだったはずだ。


それにも関わらず、足元は灰色の雲のような物体が広がっており、頭上からは大粒の雨が降り注いでいる。遠くからとどろく落雷の音も耳に響く。


冷静に、自分の記憶を遡ってみる。


1人で歩いているときに、天からぶら下がっている鋭利なものに触れたことは覚えている。


そして、その物体が指先に突き刺さり、痛みを感じた途端に体が天に向かってひっぱりあげられた感覚がした。


それ以降の記憶はない。


それに。


男はベルトから垂れ下がっているものを見る。


刀をおさめた鞘。これは初めて見る。一体いつ誰が用意したのだろうか。


試しに鞘から刀を引き抜いてみた。


鋭く研ぎ澄まされた片刃の凶器。握りしめた手からずっしりとした確かな重みが伝わってくる。


そんな刀を見ていると、唐突に前方から声が聞こえてきた。


「こんにちは!」


声のする方を見ると、そこには10代くらいの少年が立っていた。黒い制服を身にまとっている。両手には何も持っておらず、男と同じくずぶ濡れだ。


だが、その少年はそんなことを気にする様子もなく近づいてくる。


「ここって結構危ない場所なんだよ?なのにどうしてここにいるわけ?修行とかのつもり?刀とかの武器はいいけど、人間ってすぐ死んじゃうんだけどね。いくら強い武器を持っていたところで君もすぐ死んじゃうんだよ」


少年は、好き勝手に喋りながら、興味深そうに男とその手に握られている刀に視線を注いでいる。


「まあそんなことはともかく。これから僕、喫茶店に行くんだけど君も行かない?君と話したいことが沢山・・・」


男の体は、無意識のうちに動いた。


次の言葉を封じようと動き、刀の切っ先を少年の眼前に突き付けたのだ。


そんな男に対し、苦笑いを浮かべて目を泳がせる少年。


男はそれでもなお無言を貫き通し、少年を睨みつけている。


やがて、少年は笑顔で口を開いた。


「僕も君と同じ。死ぬときは死ぬんだ」


その言葉を最後に、少年は永遠に口を閉ざした。男が刀を振りかぶって振り下ろし、少年の首を跳ね飛ばしたからだ。


首は音もなく転がり、繋がっていた首の断面からは噴水のごとく血液が噴き出る。ちょうどその時、都合よく雨が止んだ。


男はその血液で自身の衣服を濡らしながら、ベルトに巻き付いていた紐を解くと、血で濡れた刀と共に鞘を放り投げ、無目的に歩き始めた。


一体どれほど歩いたのか覚えていない。前方に向かって歩き続けたのは確かだが、どれほどの時間が経過したのか分からない。


しかし、確実に言えるのは、男が歩いた先には白い球体に青くて巨大な単眼を持つ未知の存在が待ち構えていたことだ。その大きさは、家一軒を押しつぶすことができるほど。その存在は、左右に5枚ずつ生えている巨大な翼をゆっくりと動かしながら宙に浮かび、単眼で男を上から静かに見据えている。


その存在は何も言わない。男もまた、顔を上げてその存在に視線を向けているが何も口にしない。


そんな長い沈黙の末に、男の足元に大穴が空いた。


男は抵抗する間もなく、抵抗する素振りを見せることなく落下していく。無感情な視線を注ぎ続けているその存在が遠ざかっていき、落下速度が速まっていき、両耳からは轟音が鳴り響く。



ーーー気が付いたときには、男は夜の地上で1人倒れていた。


手元には、燃えるゴミがパンパンに詰まったゴミ袋がある。そして、目の前にあるのはゴミ捨て場。


そうだった。自分はゴミを捨てるためにわざわざ夜中に外出したのだった。


男はそれを思い出すと共に力なく立ち上がり、服についた砂埃を払う。そしてゴミ袋を拾い上げた。


それと同時に、底知れぬほど不快な夢をみた気分も覚えていた。まるで、自分が刃物を振り回す殺人鬼にでもなったかのような。指先も痛むし、何か重たい物を握っていたような感触も手に残っている。


だが、一体何があったのか思い出せない。そんなモヤモヤとした気持ちを抱えながら、ゴミ袋をゴミ捨て場に投げ入れてその場から立ち去って行った。




男は気が付いていない。それが夢ではないことを。


男は知らない。男の衣服についた返り血がそれを証明してることを。

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