隣りのエルフさんと晩御飯 ~すき焼きとエルフ~
書いててすき焼き食べたくなりました。
誤字編集しました。
「これが本物のすき焼きですね…!」
自分の正面でこたつを満喫しつつ、すき焼きに生卵に絡めているエルフを眺める。今日の成り行きを思い出す。
---
事の発端は僕の実家から送られてきたお肉だ。事前にもらったお肉が食べきれないと連絡があり、残りを送ってもらったのである。そして届いたときにこのエルフは我が家のこたつ目当てで居座っており、成り行きで一緒に食べることになったのである。
別に一人で食べきる量ではないので一緒に食べること自体はあまり気にしていない。だが〇〇歳なのに、このエルフ、晩御飯を我が家でしか飯を食べないのである。
始まりは両親からの定期的に連絡だった。その中に彼女のことが書いてあった。彼女は両親がお世話になった人の娘らしい。なんでも、僕が通っている大学に進学が決まったそうだ。そして同じ大学に通っている僕を頼るように言われているらしく、隣に越してきた。
初対面では彼女は、とてもまじめな人だと思っていた。
しかし、そんな彼女は、
そう彼女は、家事が壊滅的なのだ。
まさかパンを炭にするとは。ずぶ濡れの(コンセントが抜かれた)トースターには驚いた。
家事のやり方を教えたりするうちに我が家に居座るようになり、晩御飯を一緒に食べるようになったのだ。
---
ピンポーン
「先輩!こんばんは!すき焼きごちになりに来ました!」
ガチャ
僕はドアを開ける。彼女の持っている袋を見ると野菜が飛び出している。なかなかやる気満々のようだ。
「先輩、早くすき焼きしましょ!これ買ってきたのでどうぞ」
そういってニコニコ顔で袋を手渡される。この後輩の名前はアイシャ。すらっとした体格に整った顔つき。そして一番目立つのは細長くとがった耳だ。そう、彼女はエルフなのである。
---
「ふふふ…」
気が付けばアイシャはこたつに入り、鍋が温まる様子を眺めている。用意しておいたすき焼きのタレ、その灰汁取りをしてもらっている。こちらまですき焼きのいい匂いがしてくる。
シャキシャキ…
灰汁取りしてもらっている間に野菜たちを無心で刻む。
にんじん、白菜、玉ねぎ、長ねぎ…
没頭していると声を掛けられる。
「せんぱーい、沸騰してきましたよ!」
「了解、じゃあ一回火を止めて味見しようか」
僕はキッチンの棚から小皿を用意し、切り終わった野菜としらたき、焼き豆腐、下ごしらえしたさやえんどうを一緒にもっていった。
「先輩、はやくはやく!」
「はいはい」
僕は小皿に汁を掬い少しずつ入れる。アイシャは僕から皿を受け取るとふちにピンク色の唇をつけひとすすりする。彼女は一瞬固まった後、
「おいしい…」
とため息をつくようにつぶやいた。僕も彼女と同じようにひとすすりし、
「おいしい…」
とため息をつくようにつぶやいた。特別な味付けなどはしていないが最近の寒さにさらされていた体に染みる。彼女がつぶやいたのも納得してしまう、優しいおいしさだ。
「うん、味は良さそうだね」
「そうですね、先輩」
「じゃあ、先に野菜を炒めよっか」
汁を作った鍋を火から外し、土鍋をカセットコンロにセットして火をつける。温まる前に冷蔵庫からお肉をとってくる。こたつの前に座り箱を開封する。
「わあああ、これが例のお肉ですか!?!?」
「そうだよ、かなり評判のいいところのらしいよ」
箱の中にある牛脂の封を開け、温まった鍋に塗り広げる。先ほどのしょうゆやみりんの香りだけでなく肉のいい匂いが部屋に広がる。
「こうやって塗り広げたらまずは根野菜から焼いていこうか。両面がきつね色になったら教えてね」
「はーい」
真剣に焼いている彼女を横目にお皿やお箸の準備をする。彼女が我が家出番ご飯を食べに来る用のものだ。
「焼けましたー!」
僕は配膳しながら、
「おけい、じゃあほかの具材もどんどん入れちゃおうか。アイシャはお肉の担当してもらってもいい?」
じゅうううう
水分が蒸発する音とともにタレの甘いにおいと牛肉のにおいが鼻に絡みつく。そこに容赦なくしらたき、白菜、焼き豆腐、さやえんどうを投入していく。反対側ではアイシャが慎重にお肉を入れていっている。しばらく煮込み灰汁をとったら完成だ。
「多分これくらいでいいと思うよ」
「ようやくですね」
アイシャの目は普段のおっとり系の目ではなく、完全に空腹の獣の目であった。
「それじゃ、食べようか」
「早く食べましょ!」
「「いただきます」」
アイシャが取り皿を差し出すのでよそってあげる。そして自分の分もよそう。ふとアイシャを見ると
「うー--ん!!!おいひい」
と口いっぱいに頬張っている。僕はその間に卵を割って碗に入れる。
「へんはい、なにひているんへすは?」
「食べ終わってから喋りなさいな。これはすき焼きに絡める用の卵だよ。アイシャも食べる?」
「はひ!」
碗に卵を割って渡す。アイシャは受け取ると
「なるほど!アニメのあのタレはすき焼きのじゃなくて卵だったんですね!これにお肉を絡めればいいんですね!」
「これが本物のすき焼きですね…!」
自分の正面でこたつを満喫しつつ、すき焼きに生卵に絡めているエルフを眺める。今日の成り行きを思い出す。そうしているとアイシャがにやにやしながら
「先輩、もしかして私に見惚れちゃいました?」
というので、少しイラっとして
「先輩のことをからかう後輩にはお肉はありませんよーと」
そういって鍋からごっそりお肉を自分のお皿のよそった。
「あ、先輩ひどい!!!!!!!!!」
悲痛な叫び声をあげる。
「冗談だよ、ほらまだ肉あるから」
そう言ってはこの残りの肉を鍋に追加する。
「おいひーい」
そうして騒がしい冬は過ぎていった。