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その1



○登場人物

  天使&平原瑞紗・ひらはらみずさ(天使、アジア圏の若い世代の恋愛部門を担当)

  平原清隆・ひらはらきよたか(運動以外はからっきしなダメダメくん)

  広岡志緒・ひろおかしお(清隆と小学校からの腐れ縁)

  有道ほのか・ありみちほのか(学内のマドンナ的存在)





 輝くお日さんからの光は体をほんわかとさせてくれる。あぁあ、ここがウチのベッド

だったらどんなに・・・・・・ボカッ。「っ痛ってぇ」

 「ずいぶんと気持ちよさそうに眠ってたなぁ」くりくりの目を開けると、国語の教師

の黒萩がどっしりと目の前に立ち尽くしていた。ハゲかかった情けない髪形、度の強い

眼鏡をし、華のない顔立ち、痩せすぎの体つき、言ってしまえば貧弱なその外見でどっ

しりと構えたとしても本人が思ってるほど迫力はない。それは40代後半の国語教師に

は似つかわしいものだと言ってやりたいが、どうやら今は火に油を注ぐしかなさそうな

ので自粛しておく。「そんなに俺の授業は寝心地がいいのか」

 「いえ、そういったことは・・・・・・」弁解しようとしたが全く無駄だった。彼に

危機から自らを救い出せるような長けた答弁ができるはずがない。ましてや、寝起きで

思考機能がメリーゴーランドみたく頭をぐるぐる回ってる状態で。結果、授業が終わる

まで廊下に独り立たされる罰。こんな昭和な罰する奴いねぇよと思いながら、なんとか

立ちながら寝られないか試みたが失敗だった。

―あぁあ、とんだダメダメくん。

 「んっ」どこかから女の人の声が聞こえた。どこから届いたのかは分からない。今は

授業中だし、廊下を歩いてる奴はいない。気のせいか、と思った。

 チャイムが鳴ると、黒萩に軽く説教を受ける。もう昼寝はしません、と言ってしまう。

するんだろうなぁ、と思いながら。

 「あらら、まぁた立たされてるよ。好きだねぇ、立つのが」広岡志緒が顔をにやにや

させながら寄って来た。黒萩とのやりとりを遠目にキャッチして、からかってやろうと

考えたんだろう。

 「まぁな、いろいろ立ちたいお年頃ですから」と、股間の辺りにある空気を撫でる。

 「うわぁ・・・・・・最低だよ」と、ケダモノを見るような顔で彼女は逃げるように

去っていく。

 よしっ、と心の中でガッツポーズをした。普通に言い合えば何かにと理論だてて捲く

し立てる真面目ちゃんには変化球を投げるのがバカの勝ち道だ。正直で勝ち気な女子の

弱点、昔からの連敗に見い出した光の筋。

―えぇえ、ただ単に逃げてるだけでしょ。

 「んっ」またどこかから女の人の声が聞こえた。周りを見渡してみても、多くの学生

はいるがそれらしき人物はいない。不思議だな、と思った。これから自分に降りかかる

災難と幸福の日々がもう始まってるとも知らず。


 夜、清隆は自宅でマンガを読みながらベッドで笑い転げていた。マンガなら、ファン

タジーやアダルトやスポ根をよく好んで読む。現実的なものは共感できるし、非現実的

なものも面白味がある。友達から借りた回数は知りえない。弟が借りてきたものも協力

交換する。自分で買うのはもったいないから使える人脈はしっかりと使う。毎度と借り

ていると、初めのうちは自分で買えばいいのにとも言われるが、途中から相手も感覚が

麻痺してくるのか、実に流動的に少年誌やコミックスの発売日から数日が経つと学校に

持ってきてくれる。慣れとは恐いものだ、と言う側の人間じゃないが思ってみる。

 「清ちゃん、お風呂に入りなさい」

 「あいよ」

 「宿題はやったの」

 「やったよ、楽勝」

 確定の嘘。口からでまかせ。イチローが野球で安打の製造機と評されるのなら、彼は

勉強で空言の製造機といえよう。宿題なんて、滅多なことでもなければやりはしない。

教師からの強い圧迫でもなければ。口頭の注意ぐらいじゃ5分で忘れる。国語の漢文、

数学の数式、社会の古代歴史、理科の化学反応、英語の文法、どれも大人になって重要

な要素を占めるとはとても思えない。日常を生きる中でこれらを必須とする場面がどれ

だけあるだろうか。ない、ほとんどない。あっても英文法だけど、海外で日本語を押し

通す大阪のオバハンの話を耳にするとこいつも疑問だ。要は、無くても人生の裏表をぐ

るりと回されるようなことにはならないってこと。なら、やって楽しいことをやっても

いいじゃないか。将来を見据えるのも大事だろうけど今も大事だ。未来は見えないけど、

今は今ここにある。現実味、ありふれている刻まれた時間。この瞬間を大切にする方が

いい。そんな気がしてやまない。

―あらら、そんなの後付けなくせに。

 そうさ、別にそれでも・・・・・・んっ。まただ、またあの女の人の声だ。母親の声

ではない。どこだ。どこから聞こえるんだ。そう首をキョロキョロ振ってみるが、当然

そこには誰もいやしない。なんだか気味が悪くなる。ひょっとして、これが例の霊的な

ものなのかと考える。

―やだなぁ。人の事、お化け扱いしないで。

 やっぱり。確かな声だ。天から降ってきた、とか抽象的なものじゃなくて明らかなも

のだ。どこだ。どこにいるんだ。清隆はドアを開け、窓も開けて注意深く見渡すが誰も

いない。どうなってるんだ。悪い夢でも見てるのか。

―夢じゃないわ。ここよ、ここ。

 そう声がすると、目の前に薄くぼんやりと形が見えてくる。濃度は増していき、だん

だんとくっきりとした形になっていく。それは人だった。何もないところから人が現れ

たのだ。清隆はその一部始終を目にしながら固まっていた。あまりに現実離れしすぎた

光景にただ立ち尽くすことしか出来ない。ファンタジーにしても、随分と凝ったレベル

だろう。

 「ハイホー」突然現れた女の子はそうこちらに手を振っている。笑顔は可愛い。年齢

は10代っぽい。茶がかった黒のロングヘアー、愛嬌のあるファニーフェイス、中世の

西欧の純白の衣装を身にまとい、無垢な表情を振り撒いている。さながら、選挙カーで

愛想を放ってるウグイス嬢みたく。いや、彼女たちほど機械的ではない。その女の子の

笑顔は本物だ。

 「あれれ、ノリが悪いなぁ。昼間のテンションはどこいったの」

 そんなこと言われても、彼には今この状況を飲み込めるだけの容量のキャパシティを

頭に供えられていない。大多数の人間はそうだろう。心から神の存在を信じてる宗教家

ぐらいじゃないだろうか、理解しえるのは。普通の人間にそれをしろというのは至極に

難題でしかない。

 「すいませんけど」唾を飲み、ようやくの思いで清隆は一声を放つ。

 「うん。何? 何?」女の子は興味深そうに歩み寄ってくる。

 「誰ですか」ほとほと困り果てた様子で聞く。

 「やっぱりぃ。気になるよねぇ」何か、この状況を楽しんでるようだ。ってか、気に

ならない方がどうかしてる。物取りとかそんなふうには見えないが、怪しいかどうかと

問われたらあまりにも怪しい。「そりゃ、急に天使が部屋に来たらクリビツテンギョウ

だもんね。実際にはありえない世界だし。でも、いるもんはいるんだからしょうがない

っていうか。信じられないんだろうけど、こっち的には信じてもらわないと話が進んで

かないんだよねぇ」

 何を言ってるのかさっぱりだ。言葉だけなら、とち狂った子としか思えない。ただ、

目の前の女の子は嘘を言ってるようには見えなかった。清らしくて、嘘なんて知らない

かのような感じにすら見て取れる。

 「すいませんけど」

 「うん。今度は何かな」

 「さっき、天使って言ってましたけど」

 「うん、言ったよ」

 「天使なんですか」少しためらいがちに言った。こんなこと、口にするの自体がおか

しい。

 「うん、そうだけど」女の子はあっさりと言った。そんなの当たり前、ぐらいな勢い

でもって。

 「信じられないかな」

 「まぁ・・・・・・はい」信じろ、というのが無理だろ。

 「どこらへんが信じられない? 私のどの辺が天使っぽくない?」

 「そうだなぁ」女の子を観察するように見ながら、自分の中にある天使像と比べる。

正直、洋服以外は全てだ。「輪っかとか」

 「輪っか・・・・・・あぁ、あれね」女の子は頭の上を指さす。そして、笑い出して

しまう。「あんなの、もう古いってば。一時のブームだったんだから。今どき、あんな

もん持ってたら変人と思われちゃう」

 「ブームだったんですか」

 「そうよ。アブラハムの頃に伝えられた天使がそのままパブリックイメージになって

今にも残ってるのよ。もう、いい迷惑。天使だって、その年代によってどんどん変わっ

てってるんだから。まぁ、手っ取り早く自分のことを天使だと信じてもらうために付け

てる人もいるけどね」

 「付ける、って取り外し可能なんですか」

 「当然よ。あんなの頭の上にあったら邪魔じゃない」

 「そうなんだ」清隆は女の子の話を信じた。話していると、より嘘がない言葉なのが

沁みていく。というより、バカだから他人の話を信じやすい。「あれは天使とセットに

なってるもんだと思ってました」

 「他には? 何でも聞いてもらっていいわよ」

 「そうですねぇ」

 真剣に質問を考えてる彼の表情を見て、天使のくだりを信用してるのは分かりえた。

単純でかわいい男の子、という印象。

 「羽根はないんですか」

 「あぁ、羽根は空を飛ぶ時にしか出さないの。それ以外に必要ないでしょ。だから、

普段は仕舞っとくの。これもイメージなのよねぇ。そんな、いっつも羽根があるわけな

いっつうの」なんだか、怒りぎみだ。「あっ、ごめん。あなたのことを怒ってるわけじ

ゃないから心配しないで」

 ところで、と女の子は開口する。「信じてもらえたかな」

 いやぁ、と清隆は首を振る。「それは無理でしょう」

 この子は嘘は言ってないと思う。だけど、それで彼女が天使だとしろというのはまた

別の話だ。異次元に飛びすぎていて不可能だ。頭の中は混乱を繰り返すばかり。難解な

ものが何度もぐるぐるぐるぐる回り続けている。頭を使うことが苦手な彼には特に理解

しにくい。余計な知識が入ってない彼だから納得してくれるかも、とも抱いてはいたが。

 「うぅん・・・・・・まぁいいわ」考えた末、女の子は現時点での妥協案に辿り着く。

このまま続けても埒があかないだろうし、もっと掘り下げても彼には着いてこれないだ

ろうし。「今日はこの辺にしとく。いきなりじゃ、辛いとこもあるだろうしね。次第に

分かってくと思うから、だんだん信じてきて」

 そう言い残し、女の子は手を振りながら消えていった。一体全体、何が起こったって

いうんだ。これは明らかに現実だ。寝てなんかいない。それにしては、非現実的すぎる。

でも、部屋にはまだあの女の子がいた余韻が空気の中に残っている。思春期の男子には

たまらない、女性の匂いのようなものが流れている。嘘ではないが本物とも捉えきれず、

その日は夜遅くまで眠りにつけなかった。


 朝、就寝時間がずれた分だけ起床時間も平行移動する。というより、清隆が定刻通り

に起きてきやしない。彼は宿題もやらないが遅刻も多い。学生のマイナス要素の大概は

こなしている。担任の軽い説教と朝の快眠を選ぶなら、迷わず後者だ。家族もそんな彼

を理解している。理解した上で、適当にしか起こさない。無理やり起こすのは小学生の

初めの頃に止めている。諦めたわけじゃなく、それも個性だろうと解釈している。苦手

部分を尻を叩いて埋めるより、得意部分を伸ばす自由主義に近い考えだ。清隆自身とし

ては理解のある親でよかったと思っている。しかし、今日にかぎってはそれが遮られて

しまう。

 「お兄ちゃん、学校だよ。起きなきゃ、遅刻するよ」その言葉に、清隆は一気に目が

覚めた。体を揺り動かされたことではなく、そのあるはずのない言葉に。彼には妹など

いない。体の悪いいたずらか。じゃあ、誰が。

 くるまっていた布団を開けると、そこには昨夜の女の子がいた。清隆は慌てて起きる。

焦点の合わない目をこすると、何かを期待して目を開く。何も変わりはしない。

 「ハイホー」女の子は制服を着て、こっちに手を振っている。しかも、ウチの高校の

女性用の制服。カーキのブレザーと茶と赤の混じったチェックのスカート。何でそんな

のを着てるんだと思ったが、うまく言葉にならなかった。「早くしないと遅刻しちゃう。

用意して」

 有無を言わさず、女の子はそう言い置いて部屋を出て行った。ただでさえ回らない頭

なのに、寝起きでもっと複雑になる。なんとか現状を理解しないとと思い、だらだらと

用意を済ませて部屋を出る。

 リビングへ行くと、母親の姿があった。

 「ほら、早く朝ごはん食べて行きなさい。瑞紗はもう行っちゃったわよ」

 「瑞紗?」

 「うん。さっき出てったわよ。それでもギリギリだろうけど」

 何を言ってるんだ。母親の言葉が全く意味が分からない。瑞紗って誰だ、と聞きたく

てしょうがなかったが言葉にするのは留めておく。きっと、あの女の子のことを言って

るんだろうとは分かりえたから。ただ、それがどういうことなのかはミクロも理解でき

なかった。


 「お兄ちゃん」その次に彼女が現れたのは昼休憩の時間だった。清隆のいる2年4組

の教室に一輪の黄色い華が咲いたような明色な空気が流れる。「お弁当、一緒に食べよ

うよ」

 「あぁ、いいよ」毎日お弁当は友人と食べているが了承する。彼女に聞きたいことは

山ほどある。ちょっと行ってくるよ、と友人に言って教室を後にした。

 屋上の広々とした空間には、カップルやグループの固まりがすでにいくつかあった。

冬も終わりかけの寒空ではあったけど、この日は太陽がくっきりと顔を出して体感温度

も割りに高かった。風も少なく、空に広がる青は見ていて気持ちいい。2人は一角へと

座り、母親の作ってくれた弁当を広げる。2人の弁当の中身は同じだった。それで一つ

理解ができた。

 「気持ちいいねぇ。こういうところでご飯食べるのって好きかも」

 「そうじゃないだろ」女の子の心地良さを遮断する。こちとら、それどころじゃない。

 「どうしたの」

 「どうしたの、じゃない。何がどうなってんだよ。さっぱり分からねぇし。きちんと

説明してくれよ」

 「あぁ、そうか」女の子はたこウインナーを口に運ぶ。「まだ説明してなかったね」

 悪い悪い、と彼女は手を上げる。「食べれば」

 「そんな気分じゃねぇ」

 あっそ、と呟く。「分かったよ。ちゃんと教えるから」

 「私、天使なの」実にあっけらかんと言う。

 「それは聞いた」

 「だって、信じてないから」

 「それは今はいい。その後の話をしてくれ。どうして、君はここにいるんだ」

 「魔法を使って、あなたの妹になったのよ。あなた以外の全ての人に、私はあなたの

妹である設定を振り掛けたの。ただ、それだけ。みんな、私をあなたの妹だと知ってる

のよ。知らないのはあなた一人」

 「マジかよ・・・・・・ってか、魔法なんか使えんの」

 「使えるわよ。天使なら常識よ、はっきり言って」

 「天使って魔法使えたっけ」

 「だからぁ、それはあなた達人間が昔に知った私たちのこと。天使も日々進化してる

のよ」

 「ふぅん、そうなんだ」

 「どう? 天使って信じてみる?」

 「あぁ、信じるよ」

 「あらら、今度はやけに素直」

 「だってよ、この現実見たら信じないわけにいかねぇじゃん。確かに、みんながお前

のこと俺の妹って思ってたし。何が何だか全然だけど、もう信じるしかねぇよ」

 「なるほどね、お利口さん」そう言い、清隆の頭を撫でてあげる。「ただ、これから

私のことは瑞紗って呼んでね。その方が自然だから。私は清ちゃんって呼ぶね」

 「何で、清ちゃんなんだよ」

 「だって、ママさんがそう呼んでたから」いいでしょ、と首をかしげて言った。その

仕草はいやに可愛らしかった。

 「別にいいけど」

 よかった、と彼女は顔をほころばせる。「清ちゃん、チョコレート食べて」

 そう手元から一口サイズのチョコをいくつか手渡してきた。

 「いいのかよ。学校にチョコとか持って来て」

 「バレなきゃいいの。清ちゃんもいっぱい規則破ってるでしょ」

 うるせぇ。

 「そういえば、大事なこと聞いてなかった」振り向くと、彼女の姿はもうなかった。


 夜、清隆は瑞紗の行動をずっと目で追っていた。自分以外の人間には彼女の存在が組

み込まれてるようだが、どういう妹を演じる気でいるのかが気にかかったから。彼女の

妹ぶりは実に素晴らしいものだった。心配する必要なんかとてもない。父親が帰ってく

れば、ビールを注ぎながら話を聞いたり、疲れたと言われたら肩たたきもする。母親の

家事も手伝い、まるで本当に15年は娘をやっていたような関係だった。清隆とも兄妹

の雰囲気を崩さず、ゲームに興じたり、テレビを見たりした。完璧に家族の一員だった。

それも、出来のいい妹。兄のおざなりの加減を埋め合わせるには充分なほど。

 瑞紗と二人きりになれたのは夕食の後、風呂からあがった彼女がパジャマ姿で清隆の

部屋に入ってきた。

 「あぁあ、お風呂なんて久しぶり。一日の疲れがきれいに流れてく感じ」

 「お風呂、入んないの」

 「そうなの。天界では汚れるとか綺麗とかそういうものがないの。便利っちゃあ便利

だけど、不潔っちゃあ不潔よね」

 「いいんじゃないの。汚れないんだったら」

 「まぁ、そうね」

 「それより、聞きたいことがあんだけど」

 「うん。何かな」

 「その、あんた・・・・・・瑞紗が天使っていうのはなんとなく分かったんだけど。

一体さ、何しにここに来たの」

 あっ、と声を上げる。「やっと、そこに気づいたか」

 「あぁ。ここにいる目的は何なんだ。俺には別に天使に来られるようなことはないん

だけど」

 それがねぇ、と息をつく。「有るのよ。理由がね。天界では私たち天使が地上界の人

たちを観察してるの。それでね、あんまりにもダメダメちゃんな子には愛の手を差し伸

べてあげることになってて。あっ、そうは言っても重犯罪をやっちゃうようなのはダメ

なんだけど。そんなの、助けてなんかあげない。要領がからっきし悪いんだけど憎みき

れない、愛らしいって子を助けてあげてるの」

 「それが俺なの?」

 「そう、恰好の人間を発見したと思ったわ」

 「それ、俺がダメな男って言ってんの?」

 「そうだよ。でも、そっちが悪いんじゃない。普段の自分を頭に思い浮かべてよ」

 まぁ、そりゃそうだけど。「それで? 瑞紗は何しに来たの?」

 「私はね、天界の中でもアジアの恋愛部門を受け持ってるの」

 「恋愛部門?」

 「うん。恋愛におけるダメダメちゃんを救済するのが私の仕事、ってわけ」

 「ふぅん」

 「分かってる?」

 「分かんない」

 「そうかぁ。要はね、簡単に言うとあなたの恋愛を成就させてあげようってこと」

 へぇ。

 「分かった?」

 「分かった」

 「よかった」瑞紗はホッとした様子で肩の力が抜けた。

 「チョコ食べよう」また一口サイズのチョコをいくつか渡される。「信じてもらえて

嬉しい」



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