第7話 嵐龍②
「Guoooooooooo!!」
とドラゴンが咆哮する。
あまりの音量に皆一様に、耳を押さえ蹲っている。
西洋の竜を思わせるエメラルド色の体躯、頭の両側に雄々しい角が生えていたらしいが、今は左側にしかなく、右側の角は途中から無残にも折れている。
ふと気付くと隣にギルマスが立っていた。
いつの間に来たんだろう?
「あれは嵐龍だ。俺もおとぎ話でしか見たことねぇがそれによると、大昔に暴れまわった時、その時代の勇者が封印したそうだ」
「実在したなんて………」
とハラミさんが絶句。
「でもなんでまた今?封印が解けたのか?」
とギルマスに聞いてみると、
「さぁな。でもなんとかしねーと」
ただそこに存在するだけで、建物やそこに住まう人々が破壊されていく。
嵐龍が現れてからずっと、悲鳴が絶えない。
自分に何かできることはないか?と目を凝らして観察を続ける。
そして気付く。
「あれ?あの龍、目を閉じて………もしかして寝てる?」
そう俺が言うと
「ん?ほんとだな。ただ寝てるというよりは、我を失っているような?」
とハラミさんが答えてくれた。
「じゃあ一発でかいのぶちかましたら、正気に戻るかもな」
と気怠そうにしているのはギルマスだ。
ただ、その気怠さに相反し、今までどこか諦めモードだった周りの冒険者たちが騒ぎ出す。
そして各自、自分の得意な戦技を次々と嵐龍に向け、放つ。
ある者は生まれ育ったこの町を守る為に
ある者は平穏な日常を取り戻す為に
またある者はここにいる人々の幸せを守る為に
しかし健闘空しく皆散る。
嵐龍の表皮を覆う様に常に発生している突風によって阻まれる。
「埒が明かねぇなぁこれじゃ………、しゃーない、ボチボチ行くか」
と言った瞬間ギルマスの身体が光りだす。
きっと内気功か外気功、若しくは両方か。
「どうするんだ?」
「ぶん殴ってくるわ」
ちょっとコンビニでアイス買ってくる的なノリで、ギルマスは飛び出していく。
ギルマスは高く飛び上がり、嵐龍の顔の真横で右拳を振りかぶり、その左頬を殴りつけた。
が、やはり風の鎧に弾かれる。
しかし威力は高かったのか嵐龍も気付いたようで、体制の崩れたギルマスに追撃を仕掛ける。
嵐龍の咆哮と共に口から吐かれた突風と雷撃はギルマスを直撃した。
「ギルマスッ⁉」
ハラミさんがすぐに駆け付け、黒焦げのギルマスに回復魔法をかけている。
それを横目で見ながら考える。
俺のステータスは一見普通だが、ギルマスの予想ではこの世界のレベルとは違う概念で構築されている可能性が高い。
現に冒険者登録試験では、初めて使った戦技がギルドの屋根を吹き飛ばしたり、剣術Lv1の俺が剣術Lv4のハラミさんに完勝したりしている。
それに、特に思い入れのない町だが、もうすでに大分お世話になっている自覚がある。
だからやれることをやってみようと思った。
雷槍はダメだ。
あの風の鎧でもし軌道を逸らされたらまた被害が出かねない。
でももう一つ、俺には戦技が残っている。
「纏雷」
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