第6話 嵐龍①
かかってこい!と言っていたのにハラミさんの方から距離を詰めてくる。
嘘つき。
でも速い。
剣の振り方なんて全然知らないが、それに合わせがむしゃらに振ってみた。
するとどうだろう。
自分でも信じられないのだが、俺の放った剣戟はハラミさんの初撃を防ぎ、あろうことかそのままハラミさんの大剣を弾き飛ばしたのだ。
そして俺はハラミさんの喉元に剣先を突き付けた。
どうやら試合は終了のようだ。
「これが剣術かぁ、すげーな「断じて違う!」ぁスキルって」
俺の感想にまたギルマスが割り込んでくる。
よく見ると目の前のハラミさんも
「な、何が起こったんだ?」
と小さい声で言っている。
「まぁこうなるだろうとは思ってたんだがな」
ギルマス曰く、雷槍の件で俺と一般人では同じ名前のスキルでも内容が違うことは、予想がついてたようだった。
「まぁとりあえず、合格って言うしかないわな。こんな優秀なやつ落としたって知れたら、ギルドの沽券に係わる」
なにはともあれ、俺は無事に冒険者試験に合格したようだ。
「ランクをどうするかや、冒険者としての矜持、規則、説明、そのあたりの諸々面倒くさいことは受付のカルビに任せるから、あとで自分で聞け。あぁ~疲れた。俺は部屋に戻る。事後処理もあるしな」
とギルマスは、今は亡き冒険者ギルドの屋根を見ながら去って行った。
ハラミさんに視線を戻してみると、彼女は下を向き震えている。
もしかして今のでプライドが傷付いてしまったのだろうか?
「あのー、ハラミさん?大丈「凄いぞユート!」夫ですかっぷ」
と急に目をキラキラさせ俺に飛びついてきた。
「私はこう見えても冒険者としてはBランクで、しかもあの焔翁流抜刀術免許皆伝なんだぞ!それなのにそんな私が、何をされたのか全く分からなかった」
「ハラミさ………、苦し………離れ………息が………」
「才能があるなんてもんじゃない!ユートならAランクでもSランクでも、いやもうここは前人未踏のトリプルSなんてのも目指せ………、ん?あっ、ユート大丈夫かっ!?」
離れてくれたおかげでやっと息ができた。
「はぁ………はぁ………、ギリギリ大丈夫だった」
「す、すまない。私は集中すると周りが見えなくなって、いつも仲間に迷惑をかけてしまうんだ」
根がドジっ娘なんだなきっと。
でも、こんなに俺を助けてくれた人がしょげているのはどうにも忍びない。
「そんなハラミさんがいなきゃ、俺は冒険者になれなかったかもしれない。ハラミさんには世話になった。本当に感謝してる」
と声をかけた。
するとハラミさんは飛び切りの笑顔で、
「そうか………良かった」
と言った。
「実は私は今パーティを組んでいないんだ。だから、もしユートが良ければ私と………」
「大変だーーーーー!!」
ハラミさんが続けて何か言おうとしたのだが、町人の叫びによってそれが遮られる。
何事だ?と声が聞こえた方を見ると、何やら空が暗い。
どうやら雨雲の様で、急に雨が降ってきた。
次第に雨、風が強くなり、雷鳴も轟く。
しかしそんな状況の中で、誰もその場から離れず、町中の視線が一点に釘付けになる。
その漆黒の雲の中から徐々に姿を現したのは、ギルドの建物が小さく見える程の巨体で、嵐を身に纏った一体のドラゴンだった。
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