第1話 目覚め
目が覚めた、とだけ聞けば実に日常的で面白みのない言葉の響きだが、自身の周囲の状況は実に非日常的で、面白いか、面白くないかで言えば、日々を漠然と生きてきた自身にとっては、非常に面白い状況だった。
見慣れた景色が1つもない。
天井も、床も、今起きたベッドも、ベッドサイドに置かれた皿の上の果物も、知っている物が何もない。
「知らない天井だ、とでも言えば良いのかな」
声は出るようで安心した。
声を出すのは久しぶりだから心配だったのだ。
「………久ぶり?」
何故そう思ったのだろう?
でも久しぶり、という言葉が何故かしっくりくる。
それほど自分は眠っていたのだろうか。
身体を動かしてみる。
久しぶりに動かしたにしては、筋肉が衰えていたりするわけではないようだ。
変な感覚。
そして違和感。
違和感の正体はすぐに分かった。
皿の上の果物だ。
見た目は皮をむいたバナナのようだが、断じてバナナではない。
そう断言できる。
何故ならそれは、およそ食べ物とは思えない、おどろおどろしい色をしているのだ。
青と黒と茶が混ざり、それでいて少し金属のような光沢がある。
気持ちが悪い。
そう思ったとき突然部屋の扉が思い切り開いた。
外側のドアノブが壊れている。
「目が覚めたようだな」
そこに現れたのは筋肉質のおっさんだった。
あんなバケツの様な筋肉の付いた腕で殴られたら爆散しそうだ。
おっさんも壊れたドアノブに気付き、その太い腕で青髪を搔いている。
「まぁた怒られる」
誰に?と聞く前に自己紹介された。
「俺の名前はジョン=ドゥ。この村で漁師をしている。」
どうやら俺がいるのは海に面した小さな漁村のようだ。
しかしジョン=ドゥ?
確か海外では身元不明の死体の事をそう呼ぶ、と聞いたことはあるが。
ジョン=ドゥは語る。
「びっくりしたぜ。網引き上げようと思ったらえれぇ重ぇからよぉ、こりゃ久しぶりに大物が掛かったと思ったら人なんだもんよ。」
海で漂流してたのか俺。
最期の記憶ではトラックに轢かれたと思っていたんだが、海?
吹っ飛ばされたにしても、あの近くに海なんてなかったし。
「ところで、お前さん名前は何て言うんだ?」
とジョンが聞いてきた。
名乗られて名乗り返さないのは失礼にあたる、と思い俺は慌てて
「古部優斗です。古部が苗字で優斗が名前です。」
と答えた。
その後もジョンに色々詳しく話を聞いた。
ここの正確な場所から始まり、現在の日時等。
結果から言うと、どうやら俺は小説やアニメなどでよくある、異世界転移をしているようだ。
場所を聞いたとき、ジョンが持ってきてくれた地図に載っているこの国の地形は、俺には見覚えがなかったのだ。
そこで思いつき、小さな声で、
「ステータスオープン」
と言ってみると、目の前に半透明のプレートが現れた。
読んでいただきありがとうございました!
いいね、ブックマーク、評価、なにをされても作者は大変喜びます(〃▽〃)