偽りの平和
「ここがミレッド帝国の植民地か。
随分小さい国だな」
建築技術もそこまで高くなく、見た所土地としても小さい。
国というよりは町という言葉があっている。
国と言っても大きさで決まるわけではない。
そこに政府、もしくは治める者、もしくは他国が国と認めるかどうか。
「旅人ですかな?」
一人の杖をついたご老人が話しかけてくる。
「ああ。ちょっと近くを通ったから寄ったんだ」
現状を知らない内はあまり警戒されたくない。
もしこんな所で用があってきたなんて言ったらミレッド帝国に報告されるかも知れないし勘ぐられるかも知れない。
「そうでしたか。まぁなにもない国ですがどうぞゆっくりして行ってください」
「そうさせてもらうよ」
イリアスの仮面をしっかりと被り、中に入る。
にぎやかとは言えない。ある程度人はいるものの人数が少ない。
「こんにちわっ! おにーさんっ」
「こんにちわ」
イナよりも若そうな少女が俺に呼びかけてくる。
あいさつを返すと嬉しそうに近寄ってくる。
「今日この国に泊まっていくの?」
「そうだな。そうしようかと思ってる」
「うちに来てよ! うち宿なんだー!」
「そうなのか」
ガルスの時も紹介されて宿に泊まったな。
近くにいた少年が少女を指差して言った。
「あっ! おいずるいぞ!
俺が先に目をつけてたのに!」
「早いものがちですー!」
「あははっ」
俺は思わず笑ってしまった。
少女は俺の手を引くと言った。
「ねっ? いいでしょ?
私の宿に来てよ」
「分かったよ。ぼったくりじゃないだろうな」
「そんなことしないよー。
安くしとくって!」
俺たちは少女についていく。
後ろで少年がまだ文句を言っていた。
宿に行く先々で少女はあいさつされている。
「やぁサリー。お客さんかい?」
「うん! 私が捕まえたんだからっ!」
「すごいねぇ」「えへへっ!」
俺はその様子を微笑みながら見ていた。
宿に入り、ご両親に頭を下げられながらあいさつをされる。
「すいませんうちの子が……」
「いえ、今日はここに泊まらせていただきます」
「っ! 本当ですか! ありがとうございます!
ささっ、こちらに」
「いくらだ?」
「お一人千ルティでいかがでしょう?」
「おいおい。安すぎるだろ。
一食分と同じくらいじゃないか」
「いえいえ。
私共は本業として農家をやっておりまして、宿は趣味でやらせて頂いてます」
「そうか……
それならまぁ納得は出来るが赤字だろう」
「泊まってよかった。そう言っていただくことがうれしいのです。
ですからご心配なさらないでください」
「……分かった」
「お心遣いありがとうございます」
俺たちは少女のサリーに案内される。
案内された部屋には人数分のベッドが置かれていた。
「ここの部屋でいい?
みんなで泊まるんでしょ? 別々の部屋がよかったらお母さんに」
「いや、このままでいいよサリー」
「あれ? なんで私の名前」
「さっきおばあさんにそう呼ばれてたろ?」
「あ、そっか! そうだね! じゃあゆっくりしていってね!」
「あーちょっと待ってくれ」
「なに?」
「この国に住んでてどうだ?
もし他の国に住めるなら住みたいか?」
「っ……
な、なにいってんのっ!
他の国になんて住みたいわけないじゃんっ!
ここが私の国! 居心地いいよ!」
一瞬サリーの顔が曇ったのを俺は見逃さなかった。
「そうか。ありがとな。サリー」
「……うん。
っあ……の……なんでもないっ!」
少女はそう言って部屋を出ていった。
俺はベッドに腰掛ける。リーシア達もやっとまともなベッドに腰掛けられると気を抜いていた。
リィファもバタンッとベッドに仰向けで倒れ込む。
「疲れましたわ」
「一ヶ月かかったからな」
「そうですわね……足が痛いですわ」
「そうだろうな。俺も結構きつい。
本当はゆっくりしたい所だが……イナ」
「はい。ご主人さまに言われた通り匂いに気をつけてました。
場所はたどれませんがやっぱり、その……
――あの地下の時と同じくらい匂います」
「表向きは平和そのものだがな。
何も知らなければ騙されていただろうな。
ルーカスが怪しいと言ったんだ。何もないはずはない。
しかし実態はつかめない」
リーシアは上半身を起こすと俺に聞いた。
「どうするの?」
「どうする、かな。
この国の問題を解決しに来たわけではないし、かと言ってこのまま帰るわけにはいかない。なにかしらの成果がほしい。
せめてルーカスの噂がなにを指しているのかくらいは見ていかないとな」
気を抜かないよう体を休めつつ窓の外を見る。
普通に働いて普通に生きている。
どうやら家がないと言った貧困層もいなさそうだ。
外に出てみてもいいがなにも掴めそうにはない。
もしかしたら数日泊まっていかないといけないかもな。
夕食分の食事をリーシアが買いに行く。リーシアなら問題ないだろうが気をつけるように言うとありがとっとほっぺにキスをされる。
意気揚々とリーシアは買い出しをしにいく。
日が落ち始め、夕日が差し込んだ頃。
リーシアは毒はないと思うけど……とパンや焼き立ての肉を見せる。
サリーが俺達の部屋に入ってくる。
「夕食出来たけどすぐ食べにこれる?」
「夕食あるのか。悪いな……
あまりに安いもんだから夕食ないと思って買っちゃったんだ」
「そうなの? じゃあ一緒に食べようよ!」
「いいぞ」
俺はイリアスの仮面を外す。
サリーは俺の素顔を見て、かっこいいねと言ってくれる。
「ありがとサリー。じゃあ俺たちを食堂まで案内してくれ」
サリーに案内される間、建物の構造を見る。
不審な間取りなどはなく、どう見ても普通の宿だ。
見えない部屋などでもあればわかりやすかったが、この宿はなんにもないのか?
サリーの母親が料理を並べていた。
「すいません。先に言っておくべきでしたね。
こんなものしかご用意出来ないのですが」
「そんなことはない。豪華な食事だ」
ガルスの所と比べると幾分か豪華さは劣るが宿としては奮発しているように見える。
どう考えても採算が合わなすぎる。
リビア。
”毒物の類はありません”
分かった。
「それじゃあいただきます。
うん、うまい。おいしいよ」
そう言いながらリーシア達に目配りで合図をする。
問題ないという意図だが伝わるだろうか。
リィファがナイフとフォークを手にとって言った。
「ではわたくしもいただきますわ」
それに続くようにリーシアとイナも夕食に手を伸ばした。
サリーとも夕食を楽しむ。
サリーはお腹一杯と言いながら背もたれにより掛かる。
「ごちそうさまー! おいしかったぁ。
お兄ちゃん達ずっとここに住めばいいのに。
そしたら毎日豪華なごはん食べられるのになー」
そんな事言わないのっ! と母親に少しだけ怒られる。
「はぁーい」
俺はサリーに言った。
「そうだな。せめてもう何日か泊まってもいいかもな。
迷惑でなければ」
「……そうだね。うん、そうだったらいいのに」
その後、俺たちは礼を言って部屋に戻る。
布団を被り、俺たちは眠りに入る。
隣で寝ているイナを撫でた。
うとうととしているといつの間にか眠ってしまった。
”起きてください”
リビアか。どうした。
プシューッと煙が部屋の中に立ち込める。
リビア!!
”問題ありません。睡眠と麻痺を誘発する煙ですがリィファによる状態異常無効化が全員にかかっています”
そうか……
どうやらリーシアとリィファも気づいたようだ。
俺は自分たちを影で覆い、寝た振りをするように言った。
「それともし危険を感じたらすぐにやめていい」
二人は頷いた。
もう一度ベッドに潜り、その時を待った。
扉がギィィィと開く。
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喜びます。