表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/178

植民地の噂

「あ、様、エノア様、エノア様ー」


 耳元でリィファの声が聞こえる。心地の良い声に耳を傾ける。

 肩を軽く揺すられ目を開ける。眩しい。

 視界がぼやけるが少しずつ鮮明になっていく。


「エノア様、おはようございます」

「リィ、ファ?」


 鮮明になっていく視界にリィファの顔がうつる。

 どうやらイナと一緒に寝てしまっていたらしい。

 イナは俺の膝の上に座り、寝息をたてていた。


「いつのまに……そろそろ起きよう、イナ」


「ふぁい……」


 ほわほわと頭を揺らす。

 俺はリィファにおはようと言うとリィファはとある本の一ページを見せる。


「エノア様、このウィレンという穀物がいいんじゃないかと思います。

 品種改良を繰り返し、家畜の餌とする為に作られた品種です。

 栄養こそあるものの火が通りづらく、食用には向きません。

 ですが疫病や大雨にも強いですし栽培には最適かと思いますわ」


「完璧じゃないか。

 何日も通い詰めたかいがあったな」



「はいっ!

 実はこの穀物はミレッド帝国にはないそうなのです。

 姉妹のような品種はここにも出回っているのを確認しました。

 調べた所によると輸入しているみたいですわ」



「輸入ということは輸入元があると同じだからな。

 ここで入手するんじゃなく、そこを探しに行こう。


 この本に書いてある品種とは違うわけだが大きく違う点はあるか?」



「いえ、土地によっての育ちやすさや特定の疫病に対する耐性が違うだけですわ。

 目的としては申し分ないと思います」


「よし、リーシアを呼んで探しに行こう」



 頭にやわらかいものが当たる。顔を腕で隠される。


「リーシア……」


「正解っ! 大丈夫よエノア。その必要はないわ。

 もうっ、ほんとぐっすりだったんだから。お寝坊さん。

 実は二人がうたた寝してる間にこれで問題ない。として私が輸入元見つけてきたわよ。

 でもそこに行くのは次でいいと思うわ」


「どういうことだ?」



「ふふんっ。

 売れ残りの種を安く売ってもらえることになったの。

 これを欲しがる旅人は珍しいって言われたわ。


 最初としては充分な量を安く手に入れられたわよ!」



「やるなリーシア。

 俺たちが寝てる間に全部終わらせてきたのか。

 二人を連れてきて正解だったな」


「えへへ、そうでしょ?」「照れますわ……」



「なら一度戻るか。でももう一泊していこう。

 急ぎではないからな。イナとの約束も守りたいし」


「はいっ!」



 少し図書館で時間を潰し、外に出る。



 宿に戻る途中フードを被った男とすれ違った後、お互い足を止める。


「あんたはこの国の領地がどこまでかは分かってるか」


「ルーカスか、なにか分かったか」



「俺はこの国にいる限りルールに縛られる。


 噂程度に聞いてくれ。手中に収めた植民地の扱いがひどいらしい。

 ルールの中にさえ入れてもらえない」



「調べるには値するな。

 一度国に戻ってから足を運ぶ。


 引き続き頼む。例えばこの国の王やルールについてもっと詳しく。

 やばいのは隠されてるだろうからな。気をつけろよ」


「へいへい。あんたの言う通りにするよ。

 そっちも気をつけてな」



 再び歩みを進める。

 俺はイナとリーシア、リィファを連れて夕食を買った後、予定通り宿に戻った。


 そこでリーシア達とその情報について話し合う。


「つまりルールに縛られていない手つかずの人材がそこにいるってわけだ」


 俺の言葉にリィファは疑問を呈す。


「ですがエノア様、相手は一度負けた人達ですわ。

 意欲があるのかもわかりません。それにわたくし達の国に移住を決意するとは思えませんわ。

 なにせ負けた相手、つまりミレッド帝国を相手取ろうとしているのですよ。

 敗者として心を折られていたら……扱いがひどいと言うことはまともな思考が出来るかどうかすら」


「分かってはいるさ。


 だから一度見に行く。その前に領地に戻って種を渡し、アビスに頼んで奴隷商のロンにおつかいを増やしてもらう。


 それと当分は移動術式も使えないからな。

 おそらく長旅になる。まぁ戻ってくる時はさすがに鉱石採掘は一旦中止にしてもらおう。

 そこのタイミングはアビスのカラスに全て任せる。

 その鉱石を売買しながら穀物生産と畜産をすればいい」


「もし、わたくしが労力として数えられないと判断したら身を引いて頂けますか?

 エノア様はやさしすぎますから」


「分かった。見る目はリィファの方があるだろう。

 やさしすぎるなんてリィファの口から言われてもな。

 でも信用はしている。その国にはもう一度このメンバーで向かうが異論はないな?」



「なにかいいましたか? わたくしは問題ないですわ」


「冗談だよリィファ。リーシアもそれでいいか?」


「いいわよ。ちゃんとみんな守ってあげるわ」



「イナは……聞くまでもないかな」


「イナはご主人さまと一緒ですっ!」


 翌日俺たちはミレッド帝国を出た。

 こんな簡単に出入り出来ることに違和感を持ちつつもリーシアが用意してくれた種を影にしまって歩く。


 数日使って国に戻った俺たちはその変化に驚いていた。



「石造りの家がもういくつかできてるのか。

 どうやって乾かしたんだよ、すごいな!」


「おお! エノアの旦那、帰ってきたんですかい」



「ああ、ただいまガディ。

 いや驚いたよ。一ヶ月も経っていないのに素人だらけでよく……」


「それがエノアの旦那。

 ゴブリン達の筋がいいんですよ。


 なにがすごいってわしも持ってない建築スキルを使って時短出来るんですよ。

 数人獲得したばかりですがこの調子だともっと増えるかも知れないですぜ」



「そんな才能があったのか。いや、真剣がゆえか?

 とにかく俺が思った以上の働きだ。


 あっ、ミルさん」


 俺は遠くにいるミルさんを見つけ、声をかけた。



「エノアさん! おかえりなさい!」

「ただいま」


「んふふっ。へへっ……

 あっ、すみませ」


「いいよ。


 聞きたいんだけどスライム達に土地を耕してもらってたと思うんだけど」


「ふふっ、かなりの広さを開拓してくれましたよ!

 それとどうやらその、スライムさんは土を体内に入れ、吐き出すことによって土に栄養が行くみたいです。

 ですから毎日食事して働くだけで土の栄養価も上がっていきます!」



「優秀すぎるなスライム。かわいいだけじゃないんだな……」


「ただ、栄養が豊富の為か、害虫になりそうな虫が入ってしまったり予定外の種が入ってしまい急速に成長と侵食を始めてしまったりで大変な自体に……」



「そこは課題だな。

 魔法を使うか、魔具で薬のような効果を作るしかないな。

 それとこれ」


 俺は影から種の入った袋を全部出す。



「これは……?」


「この穀物を育ててほしい。

 まずは数を増やしてくれればいいから。

 農薬の件はどうするかな……」


 スライム達が集まって文字を作る。



「”任せて”か。

 大丈夫なのか?


 ”大丈夫”

 なら任せるよ。頼んだぞ」


 スライム達は激しく跳ねていた。



「次はアビスか」



 俺はアビスを探しに行くと言ってみんなと別れ、一人で林の中を見て回る。

 アビスは急速に広がる土地に認識阻害の魔法を設置するのに苦労しているみたいだった。


「アビス、全部任せっきりで悪いな……」


「そんなことありませんよ。

 今は毎日が楽しいですから」



「良かった……もし無理が出たなら休んでくれよ。

 みんなの手を止めてしまってもいい。それだけの働きをしてるんだから」


「そんなっ……いえ、分かりました。

 その時は甘えさせていただきます」



 と、頭を下げるアビス。俺はロンへの追加の要望と、鉱石採掘の切り上げをする時期、移動術式の再設定などを要求した。


「はい。ご要望承りました」

「ほんと助かるよ」


「んー……ご褒美ほしいです」


「俺がやれる物なら……まだ何も持ち合わせてないが」

「んー」


 アビスは両手を後ろに隠し、顔を前に出した。

 唇を少しだけ尖らせて静止する。


「え……」


「今度は魔法のきっかけではなく、本当のキスがほしいです」


 アビスはそのまま待っている。

 俺はなぜか辺りを見回し、誰もいないことを確認するとアビスの肩に手をおいた。



 自分の方に少し引き寄せるようにしてキスをする。


 そして目をゆっくりと開けながら離れる。

 アビスは両手の先をほっぺに当て、顔を真っ赤にしながら言った。


「これでがんばれますっ」

挿絵(By みてみん)



 その言葉がうれしくて、むず痒くて、目を逸らす。

 アビスに笑われた後、他愛もない会話をして今日を終える。


 旅の疲れを数日の休みで癒やした後、俺たちはミレッド帝国の植民地であるイムスという国へ向かった。

面白いな応援したいなと思っていただけましたらブックマークと評価の程、お願いします。


喜びます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ