生産の目星
「だめだ。どの食物もいいものばかりだがあそこでは育てられないな」
リーシアは市場の果物を買い、お金を払う。
あーっと口を開け、んっ! カリッといういい音でかじると言った。
「んっ、おいしぃ! 甘いっ!
でも、気をつけないと果汁が垂れちゃうわね。
この果物も育てられればいいんだけど、動物しか食べられないわね。
エノアの言う通り魔素が多くなっちゃうだろうから。
イナちゃんとか魔族はいいけどねー」
「そうなんだよ……そこの問題を解決したいけど。
ん? あれは……よっ」
俺は手を振りながら挨拶する。
「あっ、昨日の……」
昨日水とお金を渡した女性が穀物を買っていた。
「それ、どうするんだ?」
「食べるんです」
「食べる? でも、火とか水とかは」
「このまま、食べます」
「なっ無理だろ!!
いや、食えないことはないだろうが……
炊かなければ硬すぎて、消化にだって一体どれだけ時間がかかるか」
「いえ、これが私達の食事です。
私達が食べていいものは決まってますから」
「そんなのはっ……生きてると言えるのか?」
「? 生きて、ますよ?」
疑問にも思わないか。
「少しもらえるか?」
「はいっ!」
女性からもらった穀物は実を包む皮が残ったままだ。
それを剥いて中のうすく茶色がかった実を口の中に放り込む。
ガリッ
歯ですり潰そうにも全く削れない。
仕方なく飲み込む。
「かったいな。分かってはいたが、これを食べてるのか?」
「はい。火は使えないのでこのまま食べます。
それか飲水を減らし、水を中に入れ日に当てて置いておくんです。
そうすると食べやすくなりますよ」
これはこの国の闇ってわけじゃないだろうな。
ルーカスはこのくらいのことは知ってるはずだ。
なにせ決められた生き方を知っているということはこういう生き方をしてるやつがいるって分かってるはずだからな。
さすがにもうこの子に出来ることはない。
ルールを破ったものがどうなるのかが分からない。
「できるだけ柔らかくしてから食べるんだぞ」
「はいっ!」
年で言えば俺と同じくらいだろうか。
はっきり言って不幸だと言いたいが彼女はそんなこと思わないだろうな。
俺は手に残った穀物を触る。
すりつぶせば小麦粉のようになるか。
いや、その後の加熱方法がない。まるで家畜だ。
家畜?
「ああ、なるほどそうか」
リーシアは果実で汚れた手を拭いて言った。
「どうしたの? なにか分かった?」
「家畜だ」
「え? うん、あの子がされているのは家畜と同じような、ううん。もっとそれ以上にひどいことだとは思うわ」
「違う。いや違わないけどその話じゃない。
彼女というかこの国のことは俺たちにはどうしようも出来ない。
今の俺達じゃな。
俺が言いたいのは生産、自分の国の話だよ」
俺は穀物を親指と人差し指で挟み、リーシアに見せた。
リーシアはそれに気づいたようだ。
「あっ! 畜産ね!
そっか、用意するのは大変だけど穀物ならすり潰す肯定で魔素が流れていく。
それでも残るとは思うけどそれを家畜が食べて、体内で循環、排出しちゃえば!」
「ああ。これは強みだ。
魔素こそ強いがあそこならかなり早く穀物を育てられる。
あの場所は境目が近いからな。魔素が豊富すぎて嫌でも穀物に影響を与える。
刺激を受けた穀物はその成長を早める。
それを餌にすれば回転率の高い生産が出来る。
まずは時期に関係なく、短期間で育てられる穀物を手に入れよう。
そこから畜産としての流れを作れば交易には充分な産業になる。
後は人手を集めて簡単には攻め込まれないほど大きな国を一気に作るぞ」
「問題の家畜はどうするの?
さすがに売ってないわよ? 見つけてもそう簡単に買えるかな」
「まぁな。
だが交渉が出来て、家畜の状態を見れて且つ自分の足で商品を探しに行けそうなやつがいる。
奴隷商のロンだ。
あいつにはながーい旅に出てもらってるからな。
帰ったらアビスのカラスを使って連絡を取る。
ロン達が帰ってくる前に穀物関連を終わらせる」
「最初の課題は解決ね。
後は土地を開発していくだけ?」
「と言いたいとこだがそれだけの種を買わなきゃいけない。
品種を見つけて出来る限り多く売ってくれるものを探さなきゃならない。
国を支えようってレベルだからな。
始めこそ多く買って余裕を作りたい」
「そしたら売店じゃ少ないかも。
直接交渉しましょ? 生産してる人にっ!」
「そうだな。
リィファ、丁度いい品種の穀物を探したい。
いい方法ないか?」
「そうですわね……
広く知りたいので図書館があればいいんですけど。
あのっ」
リィファは通りかかった男性に話しかける。
図書館があるか聞くとあると答えられる。その場所を聞き、俺たちは図書館へと向かった。
さすが最も土地と人を抱える国。
一つの街にある図書館といえど見渡す限り本が詰まった本棚だらけだった。
「これは……骨が折れそうだなリィファ」
「そうですわね……
ですが目的の本はある程度目星がついているのです。
でしたらすぐ見つかりますわっ!」
と、意気込んで中に入っていく。
見た所五階まであるんだがな……
それから何日も通い詰め本を探す。
リーシアとリィファは少しでもいいものをと本を漁る。
俺はこの国の資料を探して見たのだが全く見当たらない。
それ以外の歴史であればある程度あるのだが……
仕方ないと地図を広げる。
魔界までは載っていないが故郷の国くらいまでなら載っていることを確認した。
「ここが俺たちの住んでた国か。
やっぱ小さいな。ミレッド帝国が大きすぎるだけか」
ミレッド帝国自体はいくつもの国を支配して自分の国としている。
ゆえに大きいと感じるがそれだけじゃない。
交易や条約を結びながら実質的に支配している国もあるだろうな。
「なるほど、こりゃ世界征服も夢じゃないわけだ」
そしてこの国を落とすことができれば……
もう敵はいないだろう。
とんっ
「ん? イナか。眠くなってきたか?」
こくっとイナは頷く。
「少し寝てていいぞ。
そうだな、起きたら少し文字の勉強してみようか。
イナがやりたいならだけど」
「本当ですか?
そしたらイナはご主人さまの名前が知りたいです」
「ああ。先に寝るといい。
ここは日が当たる場所だから心地いい。おやすみ」
「はい……」
私は国王様を見つける。
「国王様、ヴァルクです。
良かったのですか?
相手が魔王なれば探し出して殺さなくては」
私は外の景色を眺めながら果実酒を嗜む国王様にそう言った。
「よい。
それではつまらないだろう。
私は私の役割をこなすだけだ。
それに、やつが全ての勇者候補を殺し、世界を征服するなど出来るはずのないことだ。
たとえ勇者候補を味方につけたとしても、な」
「トア、ですか」
国王様はグラスを机の上に起きこちらに向かって振り向く。
「貴様は随分とトアに入れ込んでいたな。
なにか特別な感情でもあるのか?」
「いえ、妹のようなものですよ」
「孤独だったお前が妹という概念を感じるか。まぁよい。
ならトアが死んでしまっても良いな」
「はい」
「ヴァルク、魔王は負けるように出来ているのだ。
神が示した導きのように、そうなると決まっている」
「ですがどの勇者候補が倒すかは分かっていない。
勇者候補を一人失ったというのに随分と静観なされているのですね」
「ふん。
元はカリムを利用するつもりだったがこの国から二人も勇者候補が消えてしまった。
なのになぜ私が静観しているのか。それが疑問なのだろう。
いいかヴァルク。なにもシナリオ通りにことが動くわけではないということだ。
カリムが生まれた時とは状況が変わったのだよ」
「なるほど、お聞きしたいことがもうひとつ」
「なんだ」
「勇者候補と魔王を生み出した功績を持つハーネスト卿は一体どちらにいらっしゃるのですか?
お話を伺ってみたいものですが」
反応が少し遅れた後、私の質問に答える。
「ハーネスト卿は――なくなった」
「……」
国王様は再び窓を眺める。どうやらご機嫌のようだ。
「そうですか」
これは……嘘、ですね。
さて、どうやら私が考えていたよりもエノア君に立ちはだかる壁は大きいようです。
まぁどちらでも良いですが、手当てをされた恩は返さなければなりませんね。
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喜びます。