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奴隷商の覚悟

 重い。倉庫からありったけの食料を運び出す。

 それらを建物の中に持ち込んだ。

 ついさっきまで全部凍ってしまっていたが国王の神の力なのか術者によるものなのか定かではないが、その氷は魔素となって消滅していた。


 建物中では見慣れた光景が広がっている。

 薄暗い空間の中で、奴隷たちの唸り声。虫の息の奴隷もいた。


 弱っていた奴隷にポーションを与える。

 今までは力を削ぐ為に生きるギリギリの食事を与えていた。

 牙を向けられればいとも簡単にこいつらは飼い主である私を食いちぎるだろう。

 街にも被害が及ぶ。



 念の為、先に奴隷紋を描く。

 そして私自身を主とした後、倉庫から持ってきた食事を全部与える。

 一匹、また一匹と食料を投げ込むと一瞬でなくなってしまうくらいの速さで食べきってしまう。

 上手くわけながら餌を与えていく。


 私は中々の重労働に音を上げる。

 自分のポケットから先程黒い鳥に括り付けられていた紙を取り出す。



 今朝の出来事だった。

 黒い鳥が私の頭上を飛んでいた。その鳥が燃えた後、足に括り付けられていた紙だけは燃えずに落ちてきた。

 この紙に書いてあることを伝えるべき相手に伝え、私は自分に言った。


 私は人でなしである。人として真っ当に生きる資格はない。

 私にとってここの奴隷たちは商品だった。

 でも、あの日売った狐の獣人が幸せそうに笑っているのを”見てしまった”


 もう商品としてではなく、生き物として奴隷たちを見てしまった。




 あの子のようにいい買い手がつけば幸せに暮らせるだろがそんなのは分からない。

 紙を握りしめ檻を開けた。

 当然お腹の膨れた魔物や獣人は襲いかかってこようとする。

 私は奴隷紋の力を使い奴隷たちを静止させる。

 そして奴隷たちの前で地べたに頭をつける。


「すまなかった」



 そう言った。唸り声や、罵倒が聞こえる。

 私は自分の行動について説明した。


「許されるとは思っていない。

 これはただ私が謝りたいからそうしているだけだ。

 ここで私を食べてもいいがすぐ国によって退治されるはずだ。

 だから話を聞いてほしい。


 今からこの国を脱走する。その後は自己責任にはなってしまうが自由にしていい。

 なんなら私のことを食い殺してもいい。

 少しだけ、私の正義の為に付き合ってくれないか」



 獣人の女が言った。


「なんだよ……自分勝手にも程がある。

 私達が今までどんな仕打ちを受けたか!!

 家族と離されたやつだっている。生まれた時から親の顔も知らずにここで過ごしてきたやつだっているんだぞ!」


「お願いします」

「それ以外に方法がないとしても私達はっ!」


「お願いします」



 私は何時間もその状態を保った。

 足がしびれても、奴隷紋での抑制が間に合わず怪我しても、頭を下げ続けた。

 いくら経ってもこの子達の怒りは静まることはないだろう。

 でも少しだけ、言うことを聞いてくれるのなら。


 奴隷紋での抑制は全員に掛けられても細かい指示を一度に全員にすることは出来ない。

 だから私はひたすら頭を下げていた。



「少しだけだ」


 獣人の女がそう言った。



「ほ、ほんとうに?!」


 私はうれしくなって獣人の女を見上げる。

 獣人の女は動揺しながらも私に言った。


「少しだけだって言ってるだろ!

 それしかないのも分かってるし……


 ただ、本当にその後は自由にさせてもらうからな。

 後、私はってだけ。他は知らない。


 あんたは国の言うことだけ聞いてれば楽出来るのに……馬鹿だな」



 他の奴隷も仕方なしにと賛成してくれた。

 私は奴隷を連れて建物を出る。

 すると一人の筋肉が発達した爺さんが来る。


「よぉ。今朝方ぶりだな」

「ガディ……さんでしたっけ?」


「そうよ。まだ来るだろうよ。

 お、来た来た。ニーナの嬢ちゃんにレイト!」


 大荷物を持った女性と好青年が来る。

 好青年はガディに話しかけた。



「声をかけてくれてありがとうございます。

 僕たちも決心がつきました。


 不安だらけですけど……」


「あの弱虫だった冒険者が奥さんもらうたぁ……

 独身のわし立場ねぇなぁ……」


「よわっ! ちょ、ちょっと言わないでくださいよ!」


「へへっ。ニーナの嬢ちゃんもおっきくなったな。

 イナの嬢ちゃんの服、あんたのお下がりだろ?」


「まぁねっ! 後お下がりのことは正解っ!

 思い出すわ。あの時は死ぬかと思ったわよ」


「ちげぇねぇっ! レイトには助けられた」



「いえ、ガディさんの打った武器のおかげですよ」

「言うねぇ……

 にしても家族はいいのかい?」



「はい。伝えてあります。

 折角結婚したのに離れ離れになってすみませんとあれから頭を下げてきました。

 覚悟は……してるそうです。一緒にと言ったんですが足手まといになるからと」


「そうか……

 目をつけられないことを祈るしかないってわけか。

 この国らしい」



 完全に置いてけぼりにされていた。

 遠くから駆け寄ってくる女性がいる。


「あ、あの……」

挿絵(By みてみん)


 その服装はギルドの受付のもので、なぜこんなところにいるのかと警戒する。


「エノアさんの所に行くんですよね」



 ガディさんは受付の女性に言った。


「そうさ。エノアの旦那と話してる時あんたの話題が出てたからな。

 声をかけとこうと思ったんだ。

 だから奴隷商。警戒しなくていい」


 怪しんでいたのがばれていた。

 私は返事をして肩の力を抜く。

 ガディさんはこんなもんかな。と言うと布を広げる。



「魔剣の類よ。

 傑作の一つだ。ただ一度きりの大勝負。

 わしの一品が勝つか神の壁が勝つか。もし負けたら全力で走れ」



 私はそんな無計画なっ! と言ったがこれしかないと言われた。


「心底丁寧に道なりを大人数で走って被害ゼロとはならんだろ。

 聖騎士団も必ず動くはず。

 なら壁をぶち抜く。それしかない。


 その後はわしが先頭を走る。エノアの旦那が用意した移動術式とやらがある場所まで全力だ。

 わしらが逃げ切れば術式を解除してもらって作戦大成功。いいな?」



 信じるほか道はなく、私は奴隷達に追手を追い払う手助けを頼んだ。

 首を縦に振ってもらいガディさんはハンマーを腰に構える。

 魔素が吸われてハンマーが白く輝いていた。


「ぬぁぁぁぁぁぁああああ!!」


 そのハンマーを強く、重く、壁に叩きつける。



 ガツンと壁に当たった瞬間、一撃、二撃と追撃がかかる。

 一撃ごとに威力が増しているのが見て取れる。


 そしてその反動を制御するガディさんは服がはちきれそうなほど力を込めていた。




「ぐっ、まだ、まだぁぁぁぁ!!」


 ぴしっと壁にヒビが入る。

 直後、最後の衝撃が壁を破壊。レンガや周囲の建物にまで衝撃で影響を与える。


 ハンマーの当たった場所から”風が始まるような”神秘的な瞬間だった。

 壊れた壁から外に向かってガディさんは走り出す。

 それを合図とするように私達も足を動かす。


 当然後ろから追っ手が来ていた。



 その追っ手を奴隷達が魔法やスキルを使って遠ざけてくれる。

 だがやはり聖騎士団。ただの奴隷が相手できるようなものじゃなかった。

 かと言って私が殿を努めても一秒と持たない。




 ただ……もし、連携が取れていたのなら?



「十二番! 雷撃! 三重一番! スキルを使って六番のサポート!

 六番! 三重魔法で壁を作れ! 二十七番今の者たちを連れて前へ行け!

 八番水の魔法で足場を泥に変えろ! 七番空から八番を回収!」



 私は奴隷商。奴隷の能力は把握している。

 ガディさんは俺に言った。


「やるじゃねぇか。ただのデブじゃないな」

「ただの……人でなしですよ」


 ガディさんは目的につくとレイトさんと共に一度残り、殿を努めた。

 そして殿をなんなくこなし移動術式を使って再会する。


 移動術式が消えるとその先には一人の魔族とエノア様が居た。

 私はあいさつもそこそこに奴隷たちの奴隷紋を解除した。



「さぁ……好きにするといい」


 私はその場に座り、その時を待った。



「ためらうな。私は、もう生きる資格などないのだから」


 奴隷たちにそう言った。


 死を覚悟するとはこんなにも怖いものなのか。

 心臓がバクバクと跳ねる。


 目をつむると余計それを感じる。しかし目を開けるほうが怖い。



 どこから食われる? 時間を掛けて端からだろうか。それとも丸呑み?

 大きいやつに食われて咀嚼されるか?


 待てど痛みはなく、恐る恐る目を開ける。

 見えたのは私の前に立つエノア様だ。


「お前らが知っているかは知らないが俺はエノア。人間だが魔王なんだ。


 さて、こいつに何をしてもいいがその前に俺も言わなきゃならないことがある。

 あの時、お前達を助けられなくてすまなかった。


 それとな。実はこいつに頼まれたことがあってな。それを話そうと思う。



 ――奴隷たちを受け入れてほしい。


 頼られたんだよ。行く宛のないお前たちの面倒をせめて自立出来るようにまでは見てほしいって。

 自分はおそらく殺されるだろうからってな。



 そこも考慮してやってくれ。

 それと約束だからな。お前達の面倒も見る。自分への罪滅ぼしの面もあるが……


 もしこの場所が気に入ったのなら国民になってくれると助かるんだがな。

 それだけだ」



 そう言ってエノア様は後ろに下がった。


 獣人の女が歩いてくると頭をゴツンと殴られた。

「ずるい」


 そう言って彼女は離れた。

 そして、私は彼らにぼっこぼこにされ受け入れられた。



 あははとエノア様に笑われた。


「死ぬほど痛いんで笑うのやめてもらっていいですか」


「悪い悪い。ちょっといい気味だなとか思ってな。

 むしろそれだけで済んで良かったじゃないか。


 ――何人か死んでるんだろ?」



「まだ新人だった頃に……」

「殴られたほうがすっきりするだろ」



「……正直、そうですね」

「イナにも殴らせるか。手加減した状態で」


「治ってからで、いいですか。次で死にそうなんで」



 エノア様の前にギルドの受付の女の子が立つ。

 私はお邪魔だと思い、痛む体にムチをうってそこを離れた。


「いてて」


 ふらふらしていると獣人の女が情けない声出すなよと肩を貸してくれる。



「……ありがとう」


「あんたに礼言われると気持ち悪い」

「素直に受け取ってくれないなぁ……」

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喜びます。

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