進み始め
それから、一部の家を借りることができた。
と言っても急な来客の為一人一部屋とはならず、いつものように何人かで同じ部屋に泊まっていた。
これから増える住民のことも考えると住居の確保は急いだほうが良さそうだ。
それに加えて食料の確保も……
それから俺は寝るには少し早いからとルーカスを呼んだ。
外の焚き火にあたりながらあれからどうだったのか話を聞く。
ルーカスは遠い目で焚き火を見ている。
「ゴル達のおかげでギルドの仕事は順調だった。
割に合わないのが割にあうようになったっつーのかな。
それからは歯車がカチッとハマったみたいにうまくいくようになって生きることに余裕が出てきたんだ。いろんな事を考えるようになったよ」
「そうか。
俺は随分自分勝手なことをしたからな。
もし悪手だったのなら俺が責任を取る必要があった。
やるだけやって後はがんばれじゃ示しがつかないからな」
「魔王としての?」
「自分勝手した身として、だな。
ルーカス。国の件だがどうだ? ゴル達には話をつけてある。
と言ってもゴル達には少し乱暴なやり方をしたけどな。
でも、それが魔族なんだよ。魔王会議っていう場所で魔族達と会って分かった。
それが種族の違いなんだってな。
俺たちは権力や金に物を言わされるが魔族は力によって従うんだ。
もし人と魔族の国を作れたのならちゃんとルールを定めないとな」
ルーカスは焚き火に向かって手を伸ばし、その手を温める。
「今少し人間で良かったと感じてるよ……
国民となること……俺は、正直構わないと思ってる。
ミレッド帝国に恩はないし、むしろ恨みすらある。
最初から生き方が定められているような、違うな、生きていい人間を選んでるような国に未練なんてない。
でもあんたが作る国がどうなるのかも分からない。
たとえあんたがいる間は良くても俺たちにガキが出来たとしてそのガキの未来はどうなる。それだけじゃない。
俺たち自身あんたが居ない間に魔族にいびられるかも知れない。
権力による闇が生まれるかも知れない。
ミレッド帝国と同じになるかも知れない」
「可能性の話だ。
否定は出来ないな」
「ああ。分かってるよ。
だから、期待するしかねーんだ。
あんたの作る国が、いい国になるって」
「んで、結論は?」
「不満くらいこぼさせてくださいよ……
期待する。俺に出来ることなら協力する」
「良かった。
さて、これを足がかりに色々手を伸ばしていかないとな。
ここで出来る生産、人材、友好関係に建物、魔王城に交易」
「魔王城作るのか?」
「作るぞ。魔王なら魔王城ないとな」
「結構気にするんだな」
「まぁ、俺のイメージみたいなものだけどな。
そうありたいと思っただけだ。
そうだ、ゴルを呼んできてくれないか?」
「ゴルっすか? いいっすよー」
ルーカスは立ち上がるとゴルを探しに行った。
数分の内にゴルは顔を見せ、俺の隣に座る。
「どうしました?」
「以前ゴル達みたいなのが多くいるってイビアに聞いたんだ。
だから頼みがある。
そいつらを秘密裏に勧誘して来てくれないか?
できるだけ情報が外に漏れないように。
報酬はアビスによる認識阻害の拡張。
ある程度大きくしてからじゃないと認識阻害は外せないからな」
「来てくれるでしょうか?
僕たちは魔王様だからすんなりと受け入れた。
そんな節があります。
だから僕たちが行って説得出来るかどうか」
「俺は他にやることがあるからな。
それに警戒もされるだろう。
やるだけやってみてくれないか?」
「まぁ僕たちとしても自由に活動できる範囲が広がることは願ってもない利益なのでやりますが上手くいかなくても怒らないでくださいね」
「怒らないよ」
「分かりました」
ゴルと別れた後、俺はアビスを探しに行った。
以前アビスが聞き耳をたてていた場所に行くとアビスが目を閉じて木に寄りかかっていた。
「アビス」
「っ、わぁっっ! 魔王様?!」
「驚かせて悪いな」
「いえそんな……どうされたんですか?」
「イビアの移動術式はどこまで使える?」
「現状人数制限付きでここまで来たのと同じ規模です。
一日に使える分にも限界があります。
そうですね……最大の距離が決まっていてその距離であれば一回であろうと複数に分けようと自由に移動出来る感じです」
「じゃあ少し厳しいな……
んーならカラスはあの国の中に入れられるか?」
「それは厳しいです。
中に入ると検知されるようでリーシアさんとは壁の外からコンタクトを取っていました」
「そうだよな……
なら国の端っこなら時間は稼げるだろうか」
「なにかご予定でも?」
「ああ。ちょっと連絡をとりたいというか、とったほうがいいだろうと考えてる奴がいるんだが」
「やるだけやってみますか?」
「大丈夫なのか? 数が減ったりとか」
「消えるだけで死ぬというわけではないです。
また呼び出せますよ」
「なら頼む。
それともう一つ、これは相談でもあるんだがどうにかしてここに三人の王を集めたい。
一人は俺、もうひとりはカラムスタのアイリス。そしてフラッド。
フラッドがカラムスタに行くわけにも行かないしアイリスが魔界に入るわけにも行かないだろ。
そうなるとこの魔界と人間界の狭間が一番いいんだが……なにしろ警備と場所がな」
「なるほどそういうことですか。
確かにそれぞれ国を背負う重要人物ですからね。
木でできた村に来ていただくわけにも……フラッドさんが一番心配ですし」
「ああ。あいつに暴れられたらこの村もう一度立て直さなきゃならん。
ゴル達ががんばってここまで発展させたんだ。それは避けたい。
もう少し発展させてからの方がいいか」
「その方がよろしいかと。
もしくは一人ひとりに会いにいくのは」
「三国っていうのが大事なんだ。
だがさすがに厳しいな……
急ぎではないしこれは後回しにしてまずはインフラ整備が先か」
俺は頭を抱えていた。
まだ住民が増える可能性があったからだ。
受け入れるだけの場所と食料が足りるかどうか。
わしは葉巻を咥えながら目の前の布をぎゅっと縛る。
自分の店内を見回し名残惜しくなる。
「わりぃなぁ……わしは嬢ちゃんとこに行かなきゃならん」
店の扉が蹴破られる。
店の中に兵士が入り込みその槍を突き出す。
「大罪人エノアと共謀したとしてガディ・マルクス! お前を投獄する!」
「わしを……? やれるもんならやってみぃ。
ただの兵士ごときの集まりがこのわしを思い通りに出来ると思うか」
わしは壁に掛けられた大剣を掴む。
すると聖騎士団長が中に入ってきた。冷や汗が出る。
そいつはなぜか兵士を外に追いやった。
店内に二人となった後、正騎士団長はわしに言った。
「存命の中で最高峰の鍛冶師と謳われた名匠ガディ・マルクスさん。
お久しぶりです。
前回はたしか……破龍の素材をあなたに売りつけたのが最後でしたね」
「あー、あれは最高の素材よ。
腕によりをかけ、自分自身のスキルさえも犠牲にした天下一品の剣を作り上げたものよ」
「お忘れですか?
あの素材で出来たものは一度私と交渉した上で販売していただくと約束したはずですが?」
「わりぃな。あの狐氷は一人しか使えねぇ」
「全く。人とは分からないものですね」
「エノアの旦那から聞いたぜ。
あんたも大概だと思うがな」
「我々に敵対する覚悟がありますか?」
「どっちにしろ命はねぇ」
わしは大剣を地面に突き刺し威嚇する。
「冒険者としても一流のあなたと剣を交えるのは非常に興奮しますが……
明日、もう一度ここに来ます。
今日は警告ということで」
「お前さん本当によく分からねぇやつだな」
いわゆる見逃すという話だ。
「彼にも言われました。では」
わしは一人となった店で呟いた。
「わしの店……壊さなくてもいいじゃねぇか……
名残惜しさはなくなったな……」
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喜びます。