弱者として
「それは構いません。状況も理解しました。
襲われるようなことがあればその時は出ていってもらいます」
「ああ。
それで、国の話はどうだ?」
ゴルは下を向く。ゆっくりと顔をあげながら攻撃的な声で言った。
「僕たちを、なんだと思ってるんですか」
「……」
「それは僕たちにリスクを負えってことですよね。
僕たちがただでさえ力のない魔族だって分かってますよね。
この林の中でビクビク隠れながらひっそりと暮らすような弱者です」
「そうだな」
「魔王様の後ろにいるみなさんはそうでないかも知れません。
その方々は僕たちが束になっても敵わないでしょう。
僕たちを理由に使いたいのはわかります。
確かに僕たちは人間との隔壁があまりなく、魔王様の計画にはうってつけの存在だと思います」
ゴルは一歩後ろに下がる。
「ですが、はい分かりましたと首を縦に振るわけにはいきません。
主程度ならまだしも、これから訪れる勇者候補と呼ばれる人たちや国との戦争のコマになれ。
納得するはずがないです。
第一僕たちは生きることで精一杯なんです。
どうしてもと言うのなら、納得出来る言葉を持ってくるか」
ゴルはそこで言葉を区切ると腰に差した剣を手に取る。
鞘から剣を抜き俺に向かって構えた。
「力づくで支配してください――それが魔族の常識ですから」
警戒していたトア達が構えるが俺は手で合図をして静止させる。
ゴルの目を見て本気だなと感じる。ゴルは間合いを見極めながら距離をはかる。
「理解しているよ」
俺はゴルにそう言った。
ゴルは突然の出来事に慌てていた。
「っ! 前が、何も見えな」
ゴルの前が見えないのは俺がゴルの目に影を纏わせたからだ。
慌てふためくゴルの肩に俺は触れる。
触れられたゴルはなにかを悟ったように落ち着きを取り戻し、見えないながらに剣を振った。
「ごはっっ!」
剣が俺に当たることはなかった。
ゴルは攻撃を避けた俺に殴られいくつもの木をへし折り、住処を通り過ぎてなお飛ばされる。
そのままゴルは勢いを落とし、木に衝突した。
動きの止まったゴルは咳をしながら痛みに耐えていた。
俺はゴルに追いついた。ゴルの目から影が消える。
今ゴルの目には剣先と共に敗北の文字が浮かんでいるだろう。
痛みと恐怖に耐えながら参りましたと言う。
俺はそんなゴルに言った。
「弱すぎる」
「……はい」
「弱すぎて使い物にならん。
戦うな。たとえ誰が来たとしてもだ」
「は? ちょ、ちょっと待ってください、戦わなくてもって」
「戦闘の役に立たないと言ったんだ。
家を作り、土地を耕し、材木を集め、生産せよ。
後はそうだな。俺が打ち倒された時の為に移り住める場所も探しておかないとな」
「それはっ、僕たちには価値がないということですか」
「どこをどう聞いたらそうなる。
支援も大事な戦力なんだ。俺たちだって生きてる。
雨風はどう凌ぐ? どうやって明日を生きる? 食事は? 武器はどうする。
金は? 壁だって必要になるだろ。
それらが一つもなかったら戦闘で強くても意味がない。
冒険者ならばいいだろう。
だが俺が作るのは国なんだよ。
頼む。俺の野望を支えてくれ。ってこれだけやっておきながらお願いってのも変だな」
ぽかーんと口を開け、あははとゴルは笑うと俺に言った。
「そうですよ。やられ損じゃないですか僕」
「いや、そんなことはないさ。
実力があれば本当は戦闘に参加させようと思っていたし、俺に剣を構えたのも仲間の為だろ? ――魔王の俺に指図すれば死んだって不思議じゃないんだからな。
ま、それだけ仲間思いなやつが国民になってくれればありがたいって話でもある。
後は周りのやつへの説得力、だな。
ゴル、お前はこの群れの中でも実力者だろ。
そんなやつをコテンパンにしたんだ。逃げる時間くらい稼いでくれるって説得できるだろ? でも、やりすぎたな。悪かった」
俺はゴルに手を差し出した。
ゴルはほんとですよと笑いながらその手を掴み、立ち上がった。
入り口へと戻る途中に住処の者たちに騒がせて悪かったと謝った。
その時にゴルの言った村を見ていたところ、家がしっかりと建っている。
しっかりと、家になっているのだ。本当に初めて建てたのかと不思議に思う。
木材で作られた家だが漆は塗ってあるし地面の土もしっかりと整備されている。
道も考えられていて村と言って過言はない。
この短時間でここまで作れるとは思わなかった。
入り口に戻り、ゴルは説得したがそれ以外の魔族が納得するかは分からないとみんなに説明する。
ゴブリンなどの魔族らしい魔族となると初めての人は戸惑うらしい。
イナは一度会っているから住処にすんなりと入っていく。
イビアやアビスも当然中に入っていくがトアとリーシアは躊躇していた。
俺は二人に言った。
「気持ちは分かるよ。きっとカラムスタで預かってもらってるカンナも同じだと思う。
カンナはゴブリン殴り殺したって言ってたしな。
罪悪感が生まれるだろう。二人も罪悪感や、魔族っていう壁を感じると思う。
でも危険はない。それは俺が保証する。
だから少しずつその壁を取っ払ってくれないか? イビアとアビスもいいやつだったろ?」
恐る恐る二人は中に入る。
認識阻害を越えた先にある村を見た二人はこれを魔族が? と驚いていた。
「ああ。でも人間も手伝ってるぞ」
二人は人間? と首をかしげる。
俺はルーカス達の話をした。
その後、トアの前にスライムがちょこんと居座る。
スライムに目はないがトアを見つめているような気がする。
トアも恐る恐るスライムを見ていた。屈んでスライムにふれる。
スライムは動かずにされるがままトアに触られる。
スライムなりに気を使ったんだろうか? トアはかわいいと言いながら撫でまくっていた。
リーシアも軽いため息をついて警戒したのが馬鹿みたいと言って切り株の上に座る。
その時、リーシアとイビアの目が会う。
数秒なんともなかったがにらみ合いになりつかみ合いになり、最終的には取っ組み合いになった。
「なんでだ!!」
俺はそう叫んで二人を止めた。
ことの発端はこうだった。
リーシアがイビアにお礼は言わないわと言った。
するとイビアはお前の為じゃねぇ魔王さんの為だと言った。
それは罰でしょ? あなたそれだけのことをしたんだからとリーシアが言うとイビアはさあなー、弱すぎたのが悪いんじゃねー? と適当に流す。
いらっとしたのかリーシアはもう自分の方が強いと言い張った。
イビアは冗談じゃねぇ雑魚と言ってそこからはもう大変だった。
二人を落ち着かせた後、ゴル達に食事を用意してもらっていた。
手伝えるものは手伝いながら関係を深める。
するとルーカス達が帰ってきた。
ルーカスは俺を見るなり言った。
「あ、あ、あ、あんたはっ!
なんでここにっ!」
「いいだろ別にいたって。
そうだ。俺、ここに国を作ろうと思ってるんだ。
国民にならないか?」
「いやいやいや! 再会のあいさつの前に言うことじゃねぇですって!」
「そうか? 久しぶりだなルーカス」
「いやおせぇっ!」
俺はオリュヌスにも久しぶりだなと伝える。
当然ルーカスのパーティーメンバーのグレンテ、マリにもだ。
状況説明をしようとした途端風が吹き荒れる。
ゴルやルーカス含む全員が上を見上げた。
ルーカスは言った。
「うっそぉん」
当然だ。竜種なんて見たことないだろう。
俺はゴルに言った。
「忘れてたがこの龍と上に乗ってる二人も面倒見てくれないか?」
「ごはん……足りますかね」
「魔素が潤沢にあれば空腹は問題ないらしい。
リィファによれば食えればなおいいらしい」
「善処、します」
ティアナとリィファは破龍から降りる。
ティアナはみんなに久しぶりと手をふる。
リィファには事情を説明し、問題はないが不安なら俺から離れるなと伝えた。
リィファは頷いた後、破龍を撫で、俺たちと一緒に食事をとった。
俺は食事をしながら今日の出来事について考えていた。
”弱者”ね……
俺が肩に触れた途端、躊躇なく剣を振っていた。
もし俺の影の力を知っていたのなら、もう少し戦えていたのかもな。
それに、弱者と言っても……誰にとっての、弱者かな。
まぁ今はまだ戦闘要員にはできなさそうだが期待は出来るか。
本人の意思次第だが。
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