建国準備
俺が国を作る。そう言った後、イビアは地面にあぐらをかき、髪をくしゃくしゃと掻きながら言った。
「んじゃあ意見するわ。国っつったって魔王さんよ。
国民もいねぇ力もねぇ、建物も土地もなにもないぜ」
「ああ。正直今俺は王として持ち合わせているのは魔王っていう称号だけだ。
必要なものは多いだろうな。
だが無理だとは思わないな。実際前魔王はあの街を作り上げているんだ。
でっかい魔王の城まで立ててな。
初めから何もかも持っていた、そういうわけじゃないだろ」
「まぁそれもそうだな。
後よ、魔族と人間ってのが……」
「分かってる。難しいよな。
人は魔族を恐れるし魔族も人を受け入れはしない。
だけど無理じゃない。
こうやって俺たちが一緒に入れることがなによりの証拠だ」
「少人数と社会じゃ結構違うんじゃないか?」
「やってみなきゃ分からないさ。
まぁ国を作って移り住もうっていう人間が出るかどうか、だな」
アイリスが顎に手を当てながら思考を巡らせる。
「んー……」
そして俺に言った。
「そうですね。例えば私の国は魔王だとしてもエノアに敵対という意思を持つものはいないでしょう。
その力で救われていることを説明すれば、いえエノアという人物がどういう人なのか、知っていますから。
ですがもし魔族の国があったとして、それをエノアが統治しているとしてもそこに家を構えようとは思わないでしょう。
さすがに私も行けと命令は出来ませんし……」
「そこだ。俺としては魔族と人間が一緒に。っていうのが大事なんだ。
魔族と人間は一緒に暮らせないような種族じゃないんだ。
お互いがお互いに尊重できる相手であることをわかってほしい。
相手も同じ用に思考しながら生きてるんだってな。
それを足がかりにイビア達やイナのような目に会うやつが減ってほしいと思ってる。
ちなみになんだが……土地と人手にはあてがある。
住むかは分からないが魔族と人の住人もな。
あいつらが了承してくれれば順調だとは思うんだけどな。
ただ土地としてはいい場所じゃないんだよな。
交易をしたとしても生産出来るものがない……」
「あてがあるのですか?」
「ああ。
俺を受け入れてくれるのかどうかはまだ分からないが……
そこがダメならなにかと厳しくなる」
「応援しています。
きっと出来ますよ。
私が出来ることはあまりありませんが友好関係を結べるよう努力は致します。
私の一存だけではどうにも……できませんので」
「助かるよ。
人間の国と友好関係が結べるという事実は大きい。
警戒心を薄めるためにもな。
魔族の国とも結びたいが知り合いがフラッドしかいないんだよな。
魔王会議で他にも声をかけるか……
ただまだ魔王としての示しはついてないからな」
先に夢の女性が言ったピースがなにかは分からないがそれを見つけるのが先だな。
そうすれば魔王会議で有利に働ける。
ここも出ないと……
ゲームのように勇者候補のパーティーだけが来るとは限らない。
戦争のように国と国との戦いになる可能性だってある。
後は……もう少し血の契約について知りたい。
ゼートの所に行ってもいいがエルフ達にぬか喜びはさせたくないしな。
魔界に行ってリドかシェフィを捕まえよう。
特に……シェフィ。血の原初。知れることは多いだろう。
それに歴代魔王を見てるだろうからな。頭下げてどうにか手助けをしてもらおう。
そしてもうひとつ。
「神の塔に行く。
出来得る限り英雄の遺産や神の代物を集めたい。
国造りと平行しながらだ。
今はまだ怪我のこともある。
まずは安静にしておいてくれ。
まだカラムスタに俺たちがいることは分かっていないだろう。
破龍にはずっと隠れてもらわないといけないから申し訳ないけどな」
それから数日、城から出ないようにしながら俺たちは休んでいた。
だが唯一外に出れる中庭で俺は風にあたっていた。
リーシアは隣に座ると俺の手の上に自分の手をのせた。
「エノアのお母さん。残念だったわ」
「そうだな。もう少し話したかった」
「私もあんなお母さんが欲しかったな。あはは、なんてね」
「いい母親だったよ」
「うん、私も……お母さんって感じだった。
……ねぇエノア。私は手伝うよ。
国を作ること。それぐらいしないといけないのも分かるもん。
だってそれだけの驚異が迫ってくるってことだから。
あっ、もし国王がカリムになったら友好関係結ぶの?」
「いや、どうだろうな。
カリムが納得するかはわからないからな」
「確かにっ。
あのバカいじっぱりだから」
「だろ?」
出会い方が違ければ俺たちは三人で遊んでいたのかも知れない。
それから他愛もない些細な会話が続く。
日が暮れて、イナがごはんが出来ましたと呼びに来る。
食卓でアビスに用意させていた移動術式で目星をつけていた場所に向かうと言った。
ごはんの後、椅子から動かず考え込んでいるトアに話しかける。
「悩んでるのか?」
「あっ……えっと、うん。
きっと悪いことじゃないと思うんだ。エノアがやろうとしてること。
魔族がどんな人達か分からないけど魔人の二人とは一緒に戦ったし、悪いやつってわけじゃなさそうだし。
まだ、自分自身どうしたいのか……
もうあたしには力があるから一人でも生きていけるけどそれはなんか嫌だ。
でもこのままエノア達と居ていいのかって」
「俺たちと離れるのは寂しいか? それとも、自分がいることが迷惑になるとか考えてるのか?」
トアは今まで人間関係がうまく行ってなかったからな。
それに性格上本当は寂しがり屋な気がする。
「ずっと、悩んでた。
多分、寂しい。でも」
「踏ん切りがつかないなら今聞いてやるよトア」
「なに、を」
俺は手を差し出して言った。
もう何度も言ったセリフだ。
「俺と一緒に来いよ。
勇者候補と魔王が一緒にいるなんておかしな話だがなにも禁止されたことじゃない。
いいじゃないか。
後押しがほしいなら、きっかけがほしいなら俺が言ってやる。
俺の仲間にトアを受け入れないやつはいない」
トアは手を置こうとしたが、躊躇した。
不安そうな顔をしながら俺の目を見る。
俺はまっすぐトアの目を見つめる。
トアは恐る恐るを乗せた。
俺はその手を強く握りしめて言った。
「よろしくな」
「あっ、え……よ、ろしく」
翌日俺はトアがパーティーに入ることを全員に伝え、アビスの移動術式であの場所へと向かった。
破龍は範囲に入れないのとアビスの器の問題でリィファとティアナが俺たちとは別行動で一緒に飛んでいくことになった。
道はカラスが教えてくれる。
移動した先にある荒れ果てた大地。その先に見えるは林。
少し進むと敵意を感じる。俺はみんなよりも前に出る。
仮面をちらつかせる。
敵意は消え一人のゴブリンが顔を出す。
俺はそのゴブリンに話しかけた。
「元気だったかゴル。
久しぶりだな」
「魔王様! お久しぶりです。
以前よりも魔力が濃くなりましたか?」
「まぁちょっとな。
オリュヌスもいるのか?」
「いえ、今はルーカス達と討伐に出かけています。
村として結構発展したんですよ。
見ていってください。
あの、後ろの方々は……」
「ああ。初めて見るものもいるよな。
俺の仲間だ。勇者候補もいるが例の如く俺が責任を取る。
信じてくれるな?」
「僕は大丈夫です。
みんなも大丈夫だとは思いますが少し待っててください」
「あー、そうだ。ちょっとまってくれ」
「はい?」
「先に言っておきたいんだが俺――ここの主になってもいいか?」
「え、そりゃまぁ……魔王様ですから」
「うん。ここに国を作りたいんだ。
ということで国民になってくれないか?」
「……はい?」
面白いな応援したいなと思っていただけましたらブックマークと評価の程、お願いします。
喜びます。